Persona3 Temperance   作:人ちゅら

18 / 23
#018 ようこそ、こちら側へ

 4月19日――日曜日・夜。

 

 巌戸台分寮のラウンジには、普段より少しだけ賑やかな空気が流れていた。

 テーブルの上にはスナック菓子や紙コップのジュース。

 特別課外活動部の定例ミーティング――という名目だが、実態は歓迎会である。

 

「いやー、マジで世話になりまーす!」

 

 伊織(いおり)順平(じゅんぺい)が大げさに頭を下げる。

 その背後には、先ほど運び込まれたばかりの段ボール箱が積まれていた。

 

「元気なのはいいが、近所迷惑にならない程度にな」

 

 真田(さなだ)が苦笑混じりに言う。

 

「わーってますって」

 

 そう答えながらも、順平は既にお菓子へ手を伸ばしていた。

 あなたは少し離れた場所から、その様子を眺める。

 

 結局、順平の入寮手続きは問題なく完了した。

 電話口の母親は驚くほどあっさり承諾し、むしろ歓迎するような口調ですらあった。

 本人にとっては複雑だろう。

 それでも居場所が確保できたことには、意味がある。

 

「でさ!」

 

 順平が身を乗り出した。

 

「俺、影時間のコンビニにいたんだぜ?」

「知ってるわよ」

 

 即座に返したのはゆかりだった。

 

()()に見つけてもらったんでしょ?」

「そうそう!」

 

 順平は得意げに頷く。

 

「つまり俺には素質があるってこと!」

 

 美鶴(みつる)が静かに補足した。

 

「影時間の中で活動できる人間は極めて少ない」

「だろ?」

「だからと言って、ここの人間が特別視することは無いがな」

 

 真田の言葉に、順平は一瞬きょとんとした。

 

 そして周囲を見回す。

 

 美鶴。

 真田。

 ゆかり。

 退院したばかりの湊。

 

 そして理事長。

 

「……あれ?」

「やっと気付いた?」

 

 ゆかりが肩を竦める。

 

「ここにいる人間、全員そうだから」

 

 数秒の沈黙。

 

「……マジ?」

「マジ」

 

 順平の顔から、わかりやすく得意げな表情が消えた。

 あなたは紙コップを傾けながら、その様子を見守る。

 

「なんだよー」

「残念だったな」

 

 真田が笑う。

 

「俺だけが選ばれし戦士かと思ったのに……」

「影時間に適応している以上、それも間違いではないがね」

 

 幾月(いくつき)が穏やかな口調で言った。

 だが視線だけは真剣だった。

 

「ああ、そうそう伊織君。特別課外活動部の活動内容については、外部に話さないように」

「え?」

「家族にも友人にも、だよ」

「そんな厳しいの?」

「正義のヒーローは人知れず戦うものなのさ」

 

 美鶴が続ける。

 

「我々が正義のヒーローかはともかく、影時間もシャドウも、一般には知られていない現象だ。世間に知られれば混乱の原因になる」

 

 順平は「へー」と頷く。

 そしてふと何かを思い出したように視線を泳がせた。

 

 あなたはその理由に心当たりがあった。

 

 数日前。

 学食で交わした会話。

 あの時、順平は「特別な力で戦うヒーロー」という認識を隠そうともしなかった。

 

「……なによ?」

 

 ゆかりが怪訝そうに尋ねる。

 

「いや? 別に?」

「絶対なんか思い出したでしょ」

「思い出してねーって!」

「怪しい」

「怪しくない!」

 

 ぎゃあぎゃあと言い合う二人を見て、真田が苦笑した。

 

「そろそろ切り上げるぞ」

 

 時計は既に遅い時間を指している。

 

「明日から本格的に活動を始める」

 

 その言葉で、場の空気が少しだけ引き締まった。

 

「伊織、荷解きは昼の間に済ませておけ。結城(ゆうき)明彦(あきひこ)は、手が空いてたら手伝ってやれ」

 

 美鶴が言う。

 

「今日はしっかり休め」

「了解っ!」

 

 順平は勢いよく返事をした。

 だが、その顔には不安より期待の方が強く見える。

 

 自分は特別ではなかった。

 それを知って少し落胆した。

 

 それでも。

 未知の世界へ踏み込む高揚感までは消えていない。

 

 歓迎会が終わり、それぞれが席を立つ。

 あなたは紙コップを片付けながら、ふと窓の外へ目を向けた。

 

 明日の夜。

 彼らは初めて、本当の意味で戦場へ足を踏み入れる。

 順平が抱く英雄願望が、はたして現実に耐えられるものなのか。

 

 それはまだ、誰にも分からなかった。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 序盤の順平については毀誉褒貶ありますが、人間関係の摩擦で沈みやすい特別課外活動部の中では、なんだかんだで大事なムードメーカーだったと思うんですよね。
 プレイ中は正直「うるさいやっちゃなあ」と思ってましたが(笑)

 次回、やっとこタルタルに侵入します。
 疲労システムも有りです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。