Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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#019 はじめてのおつかい

 4月20日――月曜日・影時間。

 

 影時間への変質を告げる鐘の音が鳴り響く。

 巨大な棺が街を埋め尽くし、月が不気味なケミカルイエローの光を放っている。

 巌戸台分寮のエントランスホールには、特別課外活動部の面々が集まっていた。

 

 今日の目的はただ一つ。

 タルタロスの探索である。

 

「それじゃあ行くぞ」

 

 真田(さなだ)が全員を見渡した。

 

「探索メンバーは結城(ゆうき)岳羽(たけば)伊織(いおり)の三人だ」

「了解」

 

 (みなと)が短く応じる。

 

「よっしゃ!」

 

 順平(じゅんぺい)は妙に気合が入っていた。

 

「ついにデビュー戦だぜ!」

「浮かれるな」

 

 真田が釘を刺す。

 

「遊びじゃないぞ」

「わーってますって」

 

 言葉ほど理解しているようには見えない。

 

 あなたは内心で苦笑した。

 昨日の歓迎会からずっとこんな調子だ。

 期待と高揚感で頭がいっぱいなのだろう。

 

 

 ほどなくして、一行はタルタロスへ到着した。

 

 巨大な塔。

 天井の見えない吹き抜け。

 現実感を欠いた異様な空間。

 

 何度見ても落ち着かない場所だった。

 

「今回、探索チームのリーダーは結城だ」

 

 真田が告げる。

 

「は?」

 

 順平が即座に反応した。

 

「なんで?」

「彼には戦闘経験があるからな」

「俺だって――」

「大型シャドウ倒したの、結城君だし」

 

 ゆかりの一言で反論が止まる。

 

「うっ」

「妥当じゃない?」

 

 その言葉に順平は不満そうな顔をしたものの、最終的には渋々頷いた。

 

「……了解」

 

 あなたは少し離れた場所からその様子を見る。

 

 同行はしない。

 エントランスに残り、美鶴と共に後方支援である。

 

「状況は?」

 

 美鶴が尋ねた。

 

「今のところ問題なし」

 

 あなたは【マッパー】で感知した情報を確認する。

 視界の端に広がる、色と濃淡だけで構成された認識世界。

 人間もシャドウも、そこではマガツヒの塊として映る。

 

「敵影複数。だが強い反応はない」

「了解した」

 

 三人の反応が上階へ移動していく。

 探索は順調に見えた。

 最初の接触までは。

 

『敵発見!』

 

 通信機越しに順平の声が響く。

 

『行くぜ!』

 

――あー……

 

 あなたは思わず嘆息した。

 順平の反応だけが急加速する。

 単独で前へ飛び出した。

 

『ちょっと!』

 

 ゆかりの怒鳴り声。

 順平の反応が急停止する。

 

『ぐえっ!』

『待ちなさいよ!』

(いって)ぇ……こういうのは先手必勝だろ!?』

『そういう問題じゃないって!』

 

 通信の向こうで騒がしい声が続く。

 どうやら無理やり引き止められたらしい。

 少しして。

 

『結城君、お願い!』

『ああ』

 

 湊の短い返答。

 

 直後。

 シャドウ反応が一つ消失した。

 

「冷静だな」

 

 あなたが呟く。

 真田が腕を組む。

 

「あいつは最初からあんな感じだ」

 

 言われてみればそうだった。

 ペルソナ覚醒の瞬間ですら取り乱していない。

 むしろ静かすぎる。

 

 その後も探索は続く。

 しばらくして再び敵影と接触。

 

『今度こそ俺がやる!』

 

 順平が叫ぶ。

 強いマガツヒ反応。

 ペルソナ発動。

 

 そして――

 

――気負いすぎだ。

 

 あなたは額を押さえた。

 明らかに出力過多だった。

 

 敵は倒した。

 だが代償も大きい。

 

 順平の反応が急激に弱まる。

 

『うぇ……』

『大丈夫!?』

『だ、だいじょぶ……』

 

 全然大丈夫ではない。

 ゆかりの声にも焦りが混じっていた。

 

 だが、そのゆかり自身も余裕があるわけではない。

 次の敵との接触。

 

 緊張。

 恐怖。

 躊躇。

 

 マガツヒの揺らぎとしてはっきり伝わってくる。

 

『大丈夫』

 

 ゆかりが自分に言い聞かせるように呟く。

 

『私にだって……』

 

 ペルソナ顕現。

 攻撃。

 シャドウ消滅。

 

 戦闘は勝利だった。

 だが彼女の精神的疲労も決して軽くない。

 

 探索開始からそれほど時間は経っていない。

 それでも初心者三人が疲弊するには十分だった。

 

「今日はここまでだな」

 

 真田が判断を下す。

 美鶴も異論はなかった。

 

 ほどなくして三人は帰還する。

 ワープ装置から現れた順平はふらふらだった。

 

「つ、疲れた……」

「だから言っただろ」

 

 真田が呆れる。

 ゆかりも壁に寄りかかり、大きく息を吐いた。

 そして最後に現れた湊だけが、いつもと変わらない表情をしていた。

 

 彼らに飲み物を渡しながら、あなたはわずかに眉をひそめる。

 

 順平は気負いすぎている。

 ゆかりは恐怖を押し殺している。

 

 それは分かる。

 これが初めての戦闘なのだ。

 むしろ自然な反応だろう。

 

 だが。

 

 結城湊だけが、違っていた。

 

 大型シャドウと戦った経験があるとはいえ、たったの一度。

 それもあんなイレギュラーな戦いだけだ。

 

 それなのに彼は、自然すぎるほど自然だった。

 それが頼もしくもあり、どこか不気味でもあった。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 この回では人修羅さんの【マッパー】の機能が、『魔法科転生NOCTURNE』のものと比べて著しく低下していますが、これはタルタロスが夜の女神ニュクスによって直接支配された神話級の【異界】であるためです。
 ギリシア神話において原初の神カオスの娘であり、原始神の一柱であるニュクスの権能は、創世主である人修羅さんをして無視できない力があります。とはいえ単純な力関係では人修羅さんの方が上位なので、干渉は受けながらも無効化はされない……とか、そんな感じ。
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