Persona3 Temperance 作:人ちゅら
4月21日――火曜日・昼休み。
保健室のテーブルを囲み、あなた、
ノートパソコンから再生されるのは、探索中の音声データ。
戦闘訓練も兼ねて録音されていたものだ。
『行くぜぇぇっ!』
直後。
鈍い打撃音。
『うわっ!?』
『だから前に出すぎだって!』
ゆかりの怒声。
そこで再生を止める。
数秒の沈黙。
「元気だな」
真田が腕を組んだ。
――元気なのは結構だがな。
あなたは苦笑する。
――気負い過ぎだ。
「同感だ」
美鶴が頷いた。
「戦闘そのものより、自分が活躍することを優先しているように見える」
昨日の様子を思い返す。
順平は終始、自分を証明しようとしていた。
失敗を恐れるより、目立てないことを恐れている。
そんな印象だった。
「デビューしたてのボクサーなら、やる気があっていいと褒めるところなんだが」
真田が肩を竦める。
「放置すると怪我をするだろ」
――その前に疲労で倒れるな、あれは。
あなたが言う。
精神力の消耗は想像以上だった。
戦闘技術以前の問題である。
次に別の音声を再生する。
『大丈夫……』
ゆかりの声。
『私にだって……』
自分へ言い聞かせるような響きだった。
戦闘音。
シャドウの断末魔。
そして荒い呼吸。
――
あなたが尋ねる。
「戦闘能力そのものは問題ない」
美鶴が答えた。
「ただし――」
「怖がっている」
真田が言葉を継いだ。
美鶴は少し意外そうな顔をした。
「そうか?」
「気付かなかったのか」
「……いや、気付いてはいたが」
美鶴は視線を落とした。
彼女にとっては、既に慣れた世界なのだろう。
しかし、ゆかりは違う。
まだ戦いを受け入れ切れていない。
あなたも真田の意見に賛成だった。
――だいぶ、無理している。
「……そうかもしれない」
美鶴は静かに認めた。
最後に湊の記録を再生する。
『ああ』
短い返答。
『分かった』
また短い返答。
そして戦闘。
終了。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
三人とも何とも言えない表情になる。
「頼りになる」
美鶴が言った。
――確かに、な。
あなたも同意した。
実際、探索は彼が支えていた。
だが。
「冷静すぎる」
真田が呟いた。
保健室が静かになる。
「喧嘩慣れしてるやつでも、もう少し怖がる」
それは非難ではなかった。
純粋な違和感だった。
美鶴も否定はしない。
あなたも同じ感想を抱いている。
だが結論は出ない。
「今は保留だな」
そう言って話題を切り替える。
現状、最大の問題は別にあった。
――ペルソナ能力への依存が大きすぎる。
あなたは昨日のデータを指差した。
タルタロスは、いつ、どこから襲われるかも分からない環境だ。
美鶴のバックアップがあるとはいえ、そちらにも意識を割かなければならないとなれば、それだけで脳は疲弊する。
――精神的な消耗は、看過できない。
「私もそう思う」
美鶴が頷く。
「武器を使った通常戦闘も必要だろう」
「慣れれば気合で――」
真田が口を開く。
「その結果、肋骨を折った人間が何か言ったか?」
美鶴の冷たい視線。
真田は咳払いした。
「……すまん」
「分かれば良い」
二人の掛け合いは時折、長年連れ添ったパートナーを思わせる。
あなたは小さく笑う。
「笑われたではないか」
「俺のせいか?!」
もういいって。
その後、消耗を抑える方法について少しの議論を交わし、あっさり決着した。
武器が必要になる。
その結論に。
「なら
真田が言った。
――黒沢?
「協力者だ」
美鶴が補足する。
「
どんな人物かと尋ねると、真田が微妙な顔をした。
「面倒見はいい人だ」
「私は面識はないんだが」
「まあその、美鶴は会わないほうが良い」
その評価に少し嫌な予感がした。
* * *
放課後。
ポロニアンモールの交番。
真田に案内され、中へ入る。
カウンターの向こうにいた警察官は、あなたを見るなり笑った。
「ほう」
鋭い視線。
値踏みするような目。
「アンタが例の養護教諭か」
――月光館学園の、
「黒沢だ」
握手を交わす。
手は硬かった。
現場の人間の手だ。
「聞いてるぜ」
黒沢が笑う。
「子供らを心配してるそうじゃねえか」
――当然だろう。
「武器を持たせるのが不安か?」
――不安だな。
あなたは即答した。
――子供だ。
「だが死ぬよりはマシだ」
黒沢も即答する。
間髪入れず。
迷いなく。
あなたは少しだけ目を細めた。
この男は警察官だ。
だが綺麗事だけで仕事をしている人間ではない。
――なるほど。
「納得したか?」
――いや。
あなたは首を振った。
――あんた、昔は補導される側だったクチか?
一瞬の沈黙。
そして黒沢は豪快に笑い出した。
「はっはっは!」
その笑い声を聞きながら、あなたは思う。
面倒な相手だ。
だが、悪い人間ではなさそうだ。
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