Persona3 Temperance 作:人ちゅら
武器を調達して以降、S.E.E.S.の一年生三人組は何度かタルタロスへ足を運ぶようになっていた。
探索を重ねる中で、
「少しは組織らしくなっただろう?」
そう言って微笑む美鶴に、
「おお、なんか秘密組織っぽくね?」
「……似合ってるじゃない」
ゆかりが呆れ半分で答える。
装備は見た目だけではない。
厚手の生地はシャドウの攻撃を完全に防げるものではないが、擦過傷や打撲は確実に減った。被弾による消耗が減ったことで、探索後の疲労も幾分軽くなっている。
初陣の後は精神的な後遺症も覚悟していたが、今のところ問題は見られない。
ゆかりは睡眠不足気味なので、就寝時間を早めるよう助言をする程度。
順平は突出して負傷するたびに保健室で治療を受け、小言を言われる程度。
──だから無茶をするなと言っただろう。
「いやー、分かってるんだけどさぁ……」
頭を掻く順平へ包帯を巻きながら、小さく溜め息を吐く。
大きな心的外傷を抱える者はいない。それだけでも十分に幸運だった。
とはいえ、探索は順調とは言い難い。
シャドウへの警戒を優先して慎重に進むため、一晩で踏破できる距離はわずかだった。
緊張しながらフロアを隅々まで確認して歩くのは、意外と難しいものだ。
シャドウにばかり気を取られていると、客観的には見落としようのないものまで見落としてしまう。
ある夜などは、美鶴のアシストが無ければ、壁際にうずくまる人影を見落としたまま通り過ぎていたほどである。
「……待って。あそこ」
ライトに照らされた先で、一人の青年がうずくまっていた。
「えっ!?」
順平が駆け寄る。
意識は朦朧としていたが、生きている。
ゆかりが安堵の息を漏らした。
「よかった……」
救助した遭難者はたった一人。
それでも、自分たちが誰かを助けられたという事実は、三人にとって大きかった。
「ちゃんと意味、あったんだな」
帰り道、順平がぽつりと漏らす。
タルタロスへ潜る理由。
命を危険に晒す理由。
その答えを、一人救っただけで少し理解できたのだろう。
もっとも、その日以降は探索のたびに周囲を注意深く見回るようになり、結果として疲労は以前より増したのだが。
* * *
それから十日ほどが過ぎ。
4月30日・木曜日──放課後。
真田明彦の検査入院の日である。
あなたは病院で入院手続きを済ませ、担当医へ必要事項を引き継ぐと、一人で病院を後にした。
「……あんた」
玄関を出たところで、不意に声を掛けられる。
振り返ると、ニット帽を目深に被った少年が立っていた。
月光館学園では札付きの不良として知られ、同時に桐条グループがS.E.E.S.候補として把握している人物でもある。
「
──ただの検査入院だ。すぐ退院する。
荒垣は小さく息を吐いた。
表情は険しいままだが、肩の力がわずかに抜ける。
「そうか」
それだけ言って立ち去ろうとする背中へ、あなたは一枚のメモを差し出した。
──何かあれば連絡しろ。
「……何だ、これ」
──連絡先だ。
荒垣は眉をひそめる。
「別に、いらねぇ」
──使わなければ、それでいい。
半ば押し付けるようにメモを持たせると、あなたは踵を返した。
必要になるかもしれない。
だから渡しておく。
それだけの話だった。
* * *
翌日。
一年組が見舞いに来るというので、昼休みに合わせて再び病院へ向かう。
担当医からリハビリの日程を確認し、退院手続きを済ませる。
受付で待っている間、見覚えのある帽子が目に入った。
──また会ったな。
荒垣だった。
「ああ」
短いやり取りの後、彼は受付へ診察券を差し出す。
──薬か?
「……ああ」
──どこか悪いのか。
問い掛ける。
しかし返事より先に受付から名前を呼ばれた。
「荒垣さん」
「……悪ぃ」
それだけ言い残し、彼は薬局の奥へ消えていく。
何の薬だったのか。
聞く機会は、その日は訪れなかった。
入れ替わるように診察室から真田と一年組が姿を現す。
「待たせたな」
「それじゃ、帰りましょうか」
あなたはそのまま彼らと病院を後にした。
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数多のプレイヤーの心に大きな傷を残した荒垣センパイ登場。
本作は旧作準拠ではありますが、未確定要素のひとつが彼です。
どの顛末を選んでも、絶対に不満は出るんですよねえ。
なんとも悩ましい。