Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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#022 ありふれた日常

 五月に入ると、S.E.E.S.ニ年組の探索はほぼ週二回のペースで落ち着いた。

 

 戦い方は、少しずつ変わり始めている。

 相変わらず順平は敵を見ると真っ先に飛び出していく。

 

「うおおっ!」

 

 叫びながら大剣を振り下ろす姿は以前と変わらない。

 しかし、無茶をして負傷した順平の元へは、以前より早く回復魔法が飛ぶようになっていた。

 

「順平、下がって!」

 

 ゆかりのディアが淡い光を放つ。

 

「悪ぃ!」

 

 口では軽く返しながらも、以前ほど深追いはしない。

 一方、湊は相変わらず寡黙だった。

 誰より前へ出るわけでもない。

 だが、順平へ向かうシャドウを優先して処理していることに、あなたは気付いていた。

 

 突出する順平。

 それを支えるゆかり。

 危険な敵から順平を切り離す湊。

 

 三人とも自覚はないだろうが、少しずつ役割が形になり始めている。

 

 

*   *   *

 

 

 翌朝。

 探索帰りの疲労は、まだ完全には抜けない。

 昼休みになると、保健室の扉が勢いよく開いた。

 

「先生ぇ……」

 

 順平だった。

 椅子へ座るなり机へ突っ伏す。

 

「だりぃ……」

 

──だから昨日は早く寝ろと言った。

 

「寝たって!」

 

 言い返したかと思えば、大きな欠伸。

 

「俺だけじゃねぇんだぜ。ゆかりっちなんか授業中寝て、先生に注意されてたし。」

 

──……そうか。

 

 シャドウとの戦闘は、体力だけではなく精神も削る。

 無理を重ねれば、いずれ集中力が切れる。

 

 夕方。

 あなたは巌戸台寮を訪れ、美鶴へ状況を伝えた。

 

──今日は探索を休ませた方がいい。

 

「疲労ですか」

 

──ああ。戦闘能力より判断力が落ち始める方が危険だ。

 

 美鶴は少し考え、

 

「分かりました。今日は休養日にしましょう」

 

と頷いた。

 

 

*   *   *

 

 

 5月8日──朝。

 

 保健室へ提出される書類を整理していて、一枚足りないことに気付く。

 2年F組の保健委員の書類である。

 

 職員室へ向かうと、鳥海先生は「あっ」という顔をした。

 

「ごめん、完全に忘れてた!」

 

 こちらも今日まで確認していなかったのだし、今日中に出してくれれば構わないということで話を収めた。

 

 放課後。

 慌てて届けを持ってきた鳥海先生は、書類だけ置いて逃げるように職員室へ戻っていく。

 

>保健委員:結城湊。

 

 紙を見て首を傾げた。

 委員会の決定は、結城が入院していた時期だったはずなのだが。

 

 ……後で本人に聞くか。

 

 

*   *   *

 

 

 仕事を終え、今日は夕食を外で済ませることにした。

 

 駅前の牛丼チェーン『海牛』。

 混み合う店内にいくつかある空席に、自分が座るまで空いてますようにと願いながら、食券機の前に並ぶ。

 

「あ」

 

 先に気付いたのは(みなと)だった。

 前に並んでいた彼が、あなたの分も食券を買う。

 お陰で空き席に座ることが出来た。

 

──助かった。

 

 あなたが礼も含めて千円札を差し出すと、彼は無言で頷き、受け取った。

 

 二人並んで牛丼を食べ始める。

 しばらくしてから、

 

──保健委員になったそうだな。

 

 そう切り出した。

 

「……先生に」

 

──断れなかったか。

 

 湊は少しだけ考え、

 

「どっちでも」

 

と答えた。

 

「選べと言われた」

 

 なるほど。

 鳥海先生らしい。

 

──嫌なら俺から断ってやってもいいが。

 

 湊は首を横に振った。

 

「別にいい」

 

──そうか。

 

 それで話は終わった。

 それ以上踏み込む必要はない。

 

*   *   *

 

 

 店を出る。

 

 金属製の外階段を降りようとした、その時だった。

 不意に誰かに呼ばれたような気がして、空を見上げる。

 

 夕暮れ。

 東の空。

 満ちかけた月が昇っていた。

 

 瞬間。

 世界が切り替わる。

 

 静寂。

 青い月。

 そして。

 

 マダム・ニュクス。

 

『──鉄の川に、渡し守が訪う』

 

 ただの一言。

 それだけ告げると、託宣は終わる。

 

 景色が戻る。

 駅前の喧騒。

 行き交う人々。

 何事もなかったかのような日常。

 

──……神というものは。

 

 小さく息を吐く。

 

──どうしてこう、回りくどい。

 

 意味は分かる。

 だが、場所も時刻も理由も語らない。

 いつも肝心なことが足りない。

 

 隣を見る。

 湊は変わらず無表情だった。

 

──今日は早めに休め。

 

「……?」

 

──いや、何でもない。

 

 そうして二人、無言で帰路についた。

 

 明日の夜、何かが起こる。

 それだけは間違いなかった。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

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(20260820)誤字訂正
 ねねと様、誤字報告ありがとうございました。
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