Persona3 Temperance 作:人ちゅら
五月に入ると、S.E.E.S.一年組の探索はほぼ週二回のペースで落ち着いた。
戦い方は、少しずつ変わり始めている。
相変わらず順平は敵を見ると真っ先に飛び出していく。
「うおおっ!」
叫びながら大剣を振り下ろす姿は以前と変わらない。
しかし、無茶をして負傷した順平の元へは、以前より早く回復魔法が飛ぶようになっていた。
「順平、下がって!」
ゆかりのディアが淡い光を放つ。
「悪ぃ!」
口では軽く返しながらも、以前ほど深追いはしない。
一方、湊は相変わらず寡黙だった。
誰より前へ出るわけでもない。
だが、順平へ向かうシャドウを優先して処理していることに、あなたは気付いていた。
突出する順平。
それを支えるゆかり。
危険な敵から順平を切り離す湊。
三人とも自覚はないだろうが、少しずつ役割が形になり始めている。
* * *
翌朝。
探索帰りの疲労は、まだ完全には抜けない。
昼休みになると、保健室の扉が勢いよく開いた。
「先生ぇ……」
順平だった。
椅子へ座るなり机へ突っ伏す。
「だりぃ……」
──だから昨日は早く寝ろと言った。
「寝たって!」
言い返したかと思えば、大きな欠伸。
「俺だけじゃねぇんだぜ。ゆかりっちなんか授業中寝て、先生に注意されてたし。」
──……そうか。
シャドウとの戦闘は、体力だけではなく精神も削る。
無理を重ねれば、いずれ集中力が切れる。
夕方。
あなたは巌戸台寮を訪れ、美鶴へ状況を伝えた。
──今日は探索を休ませた方がいい。
「疲労ですか」
──ああ。戦闘能力より判断力が落ち始める方が危険だ。
美鶴は少し考え、
「分かりました。今日は休養日にしましょう」
と頷いた。
* * *
5月8日──朝。
保健室へ提出される書類を整理していて、一枚足りないことに気付く。
2年F組の保健委員の書類である。
職員室へ向かうと、鳥海先生は「あっ」という顔をした。
「ごめん、完全に忘れてた!」
こちらも今日まで確認していなかったのだし、今日中に出してくれれば構わないということで話を収めた。
放課後。
慌てて届けを持ってきた鳥海先生は、書類だけ置いて逃げるように職員室へ戻っていく。
>保健委員:結城湊。
紙を見て首を傾げた。
委員会の決定は、結城が入院していた時期だったはずなのだが。
……後で本人に聞くか。
* * *
仕事を終え、今日は夕食を外で済ませることにした。
駅前の牛丼チェーン『海牛』。
混み合う店内にいくつかある空席に、自分が座るまで空いてますようにと願いながら、食券機の前に並ぶ。
「あ」
先に気付いたのは
前に並んでいた彼が、あなたの分も食券を買う。
お陰で空き席に座ることが出来た。
──助かった。
あなたが礼も含めて千円札を差し出すと、彼は無言で頷き、受け取った。
二人並んで牛丼を食べ始める。
しばらくしてから、
──保健委員になったそうだな。
そう切り出した。
「……先生に」
──断れなかったか。
湊は少しだけ考え、
「どっちでも」
と答えた。
「選べと言われた」
なるほど。
鳥海先生らしい。
──嫌なら俺から断ってやってもいいが。
湊は首を横に振った。
「別にいい」
──そうか。
それで話は終わった。
それ以上踏み込む必要はない。
* * *
店を出る。
金属製の外階段を降りようとした、その時だった。
不意に誰かに呼ばれたような気がして、空を見上げる。
夕暮れ。
東の空。
満ちかけた月が昇っていた。
瞬間。
世界が切り替わる。
静寂。
青い月。
そして。
マダム・ニュクス。
『──鉄の川に、渡し守が訪う』
ただの一言。
それだけ告げると、託宣は終わる。
景色が戻る。
駅前の喧騒。
行き交う人々。
何事もなかったかのような日常。
──……神というものは。
小さく息を吐く。
──どうしてこう、回りくどい。
意味は分かる。
だが、場所も時刻も理由も語らない。
いつも肝心なことが足りない。
隣を見る。
湊は変わらず無表情だった。
──今日は早めに休め。
「……?」
──いや、何でもない。
そうして二人、無言で帰路についた。
明日の夜、何かが起こる。
それだけは間違いなかった。
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