Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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 すみません、一話とばしてしまっていました。
 こちらが抜けていた第24話になります。



#024 止まった時間の中で

 ──影時間。

 音の消えた巌戸台分寮で、桐条(きりじょう)美鶴(みつる)が端末を操作していた。

 

「……反応あり、か」

 

 いつもの落ち着いた声だった。

 だが、声音の奥に緊張が滲んでいる。

 

「巌戸台(いわとだい)駅周辺。比較的広範囲に渡ってシャドウ反応を検知した。タルタロス外での検知としては、初めての広さだ」

 

 美鶴が全員を見回す。

 

「全員、駅前に集合してくれ」

 

 短い指示。

 その直後、美鶴の視線があなたに向いた。

 

岳羽(たけば)ゆかりの顔が強張る。

 

「……また?」

 

 一方、伊織(いおり)順平(じゅんぺい)は拳を握った。

 

「よっしゃ。今度こそ──」

 

 その声を聞きながら、あなたはその場を離れた。

 向かう先は、分寮最上階の司令室。

 そこには幾月(いくつき)理事長がいるはずだった。

 

   *

 

──大型ですか?

 

 幾月は端末から顔を上げる。

 

「だろうね」

 

──なら、理事長も現場へ……

 

「いやいや。僕はここでモニタリングを続けるよ」

 

 幾月は、いつもの調子で笑った。

 

「現場は君に任せよう」

 

──俺に?

 

「そう。現場監督だ」

 

──俺(オレ)がそこまでする理由はあるんですか?

 

「あるとも」

 

 幾月は眼鏡を押し上げる。

 

「僕にはシャドウに対する自衛能力がない」

 

──それは分かります。が。

 

「それに、君は養護教員だろう?」

 

 あなたは黙った。

 

「夜歩きしている生徒を監督するのも、仕事のうちじゃないかな?」

 

──……。

 

「目の届かないところで怪我でもされたら、面倒だろう?」

 

 その言葉に、あなたはロビーに残した少年少女たちを思い出した。

 

 疲労の残っていたゆかり。

 妙に張り切っていた順平。

 

 そして、つい先ほどまで彼らを記録映像の中で見ていた。

 確かに、少し気になる。

 

──分かりました。

 

「うん。頼んだよ」

 

 こうして、また仕事が増えた。

 あなたは小さく溜息を吐いて、司令室を後にした。

 

 

*   *   *

 

 

 巌戸台駅前に到着すると、既に特別課外活動部(S.E.E.S.)の面々が集まっていた。

 ただならぬ雰囲気だった。

 

──何があった?

 

「モノレールの線路上に、かなり大きなシャドウ反応が出てる」

 

 美鶴が答える。

 

「先月確認したものに匹敵する規模だ。ただし、まだ情報が足りない」

「だから、まずは探索っす」

 

 順平が口を挟んだ。

 

「俺とゆかり、それから湊で線路を進んで、シャドウの位置を確認する」

 

 なるほど。

 大型シャドウとの戦闘ではなく、先遣探索というわけか。

 

「では、俺も出よう」

 

 真田(さなだ)明彦(あきひこ)が言った。

 

「先月の件もある。大型なら──」

 

──病み上がりは足手まといでしょう。

 

「なに?」

 

 明彦が眉をひそめる。

 

──まだ激しい運動は禁止、と言われていたでしょう?

 

「……それは」

 

 反論しようとした明彦が口を閉じる。

 確かに彼は、まだ本調子ではない。

 その時、美鶴があなたを見た。

 

「ところで、間薙(かんなぎ)先生はなぜここに?」

 

──理事長に現場監督役を押し付けられまして。

 

「……そうか」

 

 美鶴が微妙な顔をする。

 だが、すぐに状況を整理するように端末を見る。

 

「しかし君は戦闘員ではない」

 

──ええ。

 

「私もバイクから離れるわけにはいかない」

 

 美鶴が視線を落とした。

 バイクにはシャドウ検知用のセンサーが搭載されている。

 駅周辺の反応を監視するには、ここを離れるわけにはいかない。

 

「明彦も戦闘禁止。となれば、現場との中継役がいなくなる」

 

 美鶴があなたを見る。

 

「そこで頼みがある」

 

──嫌な予感しかしませんが。

 

「探索チームとの中継をお願いしたい」

 

──……。

 

「無理か?」

 

 あなたは駅の先へ視線を向けた。

 動かないモノレール。

 その先にいるという、大型シャドウ。

 そして、既に探索に行く気満々の順平。

 

──仕方ありませんね。

 

「助かります」

 

 美鶴が小さく頷いた。

 

 

*   *   *

 

 

 巌戸台駅のホームを経由し、あなたたちは線路へ降りた。

 

 モノレールの線路には、鉄道線路に付き物のバラストがない。

 そのため、歩きやすい。

 

 足元を確認しながら進んでいると、ふと昔の光景が脳裏に浮かんだ。

 間薙シン(あなた)が人修羅(あなた)になった転生の地・受胎トウキョウ。

 崩壊した東京の遺構。

 ユウラクチョウ坑道と地下鉄の線路跡。

 あの場所を歩いた時とは、ずいぶん違う。

 

「先生?」

 

 ゆかりがこちらを見る。

 

「どうしたんですか?」

 

──いや。

 

 あなたは線路を見下ろした。

 

──以前、地下鉄の線路跡を歩いたことを思い出していただけです。

 

「地下鉄?」

 

──ええ。こっちは歩きやすくていいですね。

 

 湊が小さく頷いた。

 

「確かに」

「私は歩きやすくて助かったけど」

 

 ゆかりも足元を見る。

 

「こういうところ、もっと歩きにくいと思ってた」

 

「そんなことより、早く行こうぜ」

 

 順平が先を急かす。

 

「大型シャドウがいるんだろ? のんびりしてる場合じゃないって」

 

 あなたは三人を見回した。

 湊は落ち着いている。

 ゆかりは不安そうだ。

 そして順平だけが、明らかに前のめりになっている。

 

──順平。

 

「何すか?」

 

──少し落ち着きなさい。

 

「落ち着いてますよ」

 

──そうは見えませんが。

 

「俺、行けますから」

 

 順平の声が強くなる。

 

「前にもタルタロスで要救助者を助けたじゃないですか」

 

──だから?

 

「だから、今回だって俺がやるんスよ」

 

 順平が前を向く。

 

「俺がやらなきゃ誰がやるってんスか?」

 

 ゆかりが眉を寄せた。

 

「ちょっと、それは違うでしょ」

「何がだよ」

「そこまでの責任、順平一人が負うことじゃないじゃん」

「じゃあ誰がやるんだよ」

「みんなでやればいいでしょ!」

「でも──」

「二人とも」

 

 湊が口を挟んだ。

 

「言い合っている時間があるなら、先に進もう」

 

 順平が振り返る。

 

「……湊(おまえ)はいいよな」

「何が?」

「そうやって冷静にしてれば、全部うまくいくみたいでさ」

 

 湊は答えなかった。

 しばらく睨み合った後、順平が舌打ちする。

 

「……行くぞ」

 

 そう吐き捨て、再び先頭へ出た。

 その背中を見送りながら、あなたは小さく息を吐いた。

 

 危うい。

 そんな言葉が頭をよぎる。

 だが、今は止めるより追いかける方が先だ。

 

 しばらく歩く。

 やがて、暗闇の向こうに何かが見えてきた。

 影時間の中で停止したモノレール。

 その車体が、夜の闇の中に浮かんでいた。

 

 

*   *   *

 

 

 向かって最後尾となる車両のハシゴを掴み、一飛びに車内に乗り込む。

 正直なところ、あなたは内部までついていくつもりはなかった。

 外から内部の三人に通信を繋げばよいだろうと思っていたのだが、生憎とあなたに渡された中継機は、小型なだけあって美鶴のものよりパワーが弱く、車両内に入った三人と通信できなかった。仕方がないので遅れてあなたも乗り込んだ、というわけだ。

 

 車内へ入ったところで、通信機から美鶴の声が響いた。

 

『聞こえるか?』

 

 あなたが三人を見回すと、「やっと通じた」とか「早くしようぜ」とか、それぞれ口にしている。

 ひとまず大丈夫そうだと判断し、改めて応答した。

 

──はい。

 

『先頭車両付近に、大型シャドウの反応を確認した』

 

 美鶴の声が少し硬くなる。

 

『湊。引き続き君をリーダーとする。慎重に行動してくれ』

 

「……は?」

 

 順平が振り返った。

 

「湊がリーダー?」

 

『そうだ』

 

「なんで?」

 

『現状、最も冷静に状況を判断できるからだ』

 

「俺だって戦闘経験は十分ありますよ」

 

 順平の声が荒くなる。

 

「俺と湊で、そんなに違います?」

 

『順平――』

 

「いや、俺だって――」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

 ゆかりが割って入った。

 

「今はシャドウを探すのが先でしょ!」

「ゆかりまで湊の肩持つのかよ!」

「そういう話じゃないって!」

 

 順平は聞く耳を持たなかった。

 

「……もういい」

 

 そう言うと、順平は一人で車内を走り出した。

 

「順平!」

 

 ゆかりが叫ぶ。

 だが、順平の姿は車両の奥へ消えていく。

 

『……何をしているんだ、彼は?』

 

 通信機越しに、美鶴の戸惑った声が聞こえた。

 ゆかりも困惑した表情で通信機を見る。

 

「……美鶴先輩って、こういうところ本当に分かんなさそうですよね」

 

『何がだ?』

 

「なんでもないです!」

 

 ゆかりは頭を抱えた。

 どうするべきか分からない。

 

 あなたも一瞬だけ考えた。

 順平を追うか。

 それとも湊に任せるか。

 

 今は、後者だろう。

 

──湊。

 

「はい」

 

──追ってくれ。

 

 湊が頷く。

 

「分かりました」

 

 あなたたちは順平の後を追った。

 その直後だった。

 車内の暗がりから、何かが飛び出してくる。

 

「来る!」

 

 ゆかりが弓を構える。

 湊も素早く剣を構えた。

 あなたは背後に出来かけた不穏な気配──シャドウの核を密かに踏み潰す。

 

 影時間のモノレール車内に、シャドウの咆哮が響き渡った。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

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(20260905)話順修正
 齋藤様、ご報告ありがとうございました。
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