Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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 すみません。前話(#024)を抜かして投稿していました。
 26/09/05 19:36 に取り急ぎ投稿しましたので、それ以前にご覧になられた方は、1話戻ってください。


#025 一人では進めない

 モノレールの車内に足を踏み入れた直後だった。

 伊織(いおり)順平(じゅんぺい)が、先を急ぐように最初のドアへ向かった。

 

「順平!」

 

 岳羽(たけば)ゆかりが呼び止めるより早く、順平はドアを開ける。

 その向こうは、一つ前の車両だった。

 

「待てって!」

 

 結城(ゆうき)湊(みなと)も後を追おうとする。

 その瞬間――

 車体が、ゆっくりと揺れた。

 

 ガタン。

 

「……え?」

 

 ゆかりが目を見開く。

 もう一度、車体が揺れる。

 そして、モノレールが動き始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 ゆかりが慌てて手すりを掴む。

 あなたも足元の感覚から状況を把握する。

 

 止まっていたはずの車両が、線路の上を進んでいる。

 影時間の中で。

 

『聞こえるか?』

 

 通信機から美鶴(みつる)の声が響いた。

 湊がヘッドセットに手を当て、応じる。

 

「はい」

『車両が動き始めた。おそらくシャドウが乗っ取ったんだろうが──』

 

 美鶴の声にも緊張が混じっている。

 

『このまま進めば、ポートアイランド駅まで到達する可能性がある』

「それが?」

『先ほど確認した別の車両が、その先を走っていた』

 

 あなたは窓の外を見る。

 おかしな月明かりの中、線路が続いている。

 

『このまま進めば、衝突する可能性がある』

「嘘でしょ……」

 

 ゆかりの顔が引きつった。

 

『おそらく先頭車両のシャドウ反応が原因だ。確認してくれ』

「分かりました」

 

 湊が了解し、通信を切る。

 あなたは湊とゆかりを見る。

 

──順平も追わないと。

 

「あの馬鹿!」

「そうだね」

 

 湊が頷いた。

 三人は前へ進み始めた。

 

 

*   *   *

 

 

 昨晩調べた資料によれば、“新都市交通あねはづる”は十一両編成だったはずだ。

 一両は約十五メートルだから、およそ百六十五メートルだ。

 何もなければ大した長さではない。

 

 ドアを開け、一つ前の車両へ進む。

 湊が先頭、ゆかりが中央、あなたが最後尾だ。

 狭い連結部を抜けて次の車両に出ると、シャドウが襲いかかってくる。

 

「来る!」

 

 ゆかりが弓を構えながら半歩横へ移動、射線を確保する。

 そのうちに湊が前へ出て、右手の剣を振るった。

 

 シャドウが吹き飛ぶ。

 

 その横を、別の影がすり抜けようとするも、ゆかりの矢が刺さって勢いを止める。

 思ったより冷静に対処できている。

 これなら──

 

 前方のシャドウを彼らに任せると、あなたは前を向いたままもう一つの気配に警戒する。

 背後に生まれた、微かな違和感。

 視界の端に浮かぶ、黒い淀み。

 

──……。

 

 肩越しに、指を弾く。

 

 パチン

 

 小さな音とともに、淀みが散った。

 すぐ近くに、また別の淀みが生じる。

 

 パチン。

 

 それも散らす。

 

 前では湊とゆかりが戦っている。

 後ろでは、シャドウになる前の気配が次々に生じている。

 思ったよりも忙しい。

 

 だが、二人には前方に集中させたほうが良いだろう。

 ひとたび敵に包囲されると、あっという間に精神をすり減らす。

 今は温存させるべきだ。

 

「先生!」

 

 ゆかりの声。

 前を見る。

 湊がシャドウを斬り伏せていた。

 

──大丈夫ですよ。そっちは?

 

 周囲のシャドウがあらかた片付いたことで、あなたのことを思い出したようだ。

 あなたはヒラヒラと手を振り、にこやかに応じる。

 

「大丈夫です!」

 

 ゆかりが大きな声で応え、それから少しだけ気まずげに顔を背ける。

 意識が戦闘中の連携(コールアウト)のまま、切り替えられなかったのだろう。

 あなたは小さく笑って「分かるよ」と言うように頷いておいた。

 

──では進みましょう。

 

 あなたは通信機を耳元に当てる。

 

──桐条君。車両の数は現実のまま?

 

『ああ。十一両編成のままだ。順平は二両先まで進んでいる』

 

──了解。

 

 ゆかりが息を整える。

 

「……あいつ、ほんと何してんのよ!」

『順平は私の待機指示を無視している』

「でしょうね!」

 

 ゆかりが苛立たしげに叫ぶ。

 

「何であいつ、あんなに突っ走るのよ!」

 

 湊がぽつりと言った。

 

「……死にたいのかな?」

「ちょっと!」

 

 ゆかりが湊を睨む。

 

「こんなときに冗談はやめてよね!」

「冗談じゃない」

 

 湊は淡々と答えた。

 

「本当に、そう見えるから」

「……もう!」

 

 ゆかりが頭を抱える。

 

 あなたは二人の間に入るように言った。

 

──今は合流を急ごう。

 

「そうですね」

 

 湊が頷く。

 ゆかりも渋々前を向いた。

 三人は、さらに先へ進んだ。

 

 

*   *   *

 

 

 しばらく進むが、相変わらずシャドウは車両を進む度に襲撃してくる。

 あなたが潰しているお陰で、背後からの奇襲(バックアタック)もなく安全に進めている。

 ただ、どうしても時間がかかり、先行する順平には追いつけていない。

 

 今も湊とゆかりが戦い、その間にあなたが美鶴からの通信を受ける。

 

『次の車両に入ったら、右側の座席に気をつけて──』

 

 美鶴の説明が続く。

 だが、湊もゆかりも戦闘中だ。

 返事をする余裕はない。

 

──右側ですね。

 

『そうだ。おそらく座席下に隠れている』

 

──了解。

 

 短く応えたところで、通信が切れた。

 通信状態も悪化しているようだ。

 ヘッドセットのノイズに気を取られたのか、ゆかりの動きが止まった。

 

「……え?」

 

 ほんの一瞬、集中が切れ視線が逸れる。

 その一瞬をシャドウは見逃さない。

 影がゆかりへ飛びかかる。

 

「岳羽さん!」

 

 湊が割って入った。

 刃がシャドウを弾き飛ばす。

 

「……っ!」

 

 ゆかりが我に返る。

 

「ご、ごめん!」

 

 慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。

 シャドウが消し飛んだ。

 

「大丈夫?」

「ほんと、ごめん」

 

 だが、負傷はなさそうだ。

 運は悪かったが、疲労もまだ問題ない範囲だろう。

 

 あなたは一度、目を閉じる。

 意識を切り替える。

 

 【マッパー】。

 

 先の車両の気配を探るが、やはりどの車両にもシャドウがいる。

 これまで湊とゆかりへ向かってきたものと同じだ。

 敵意も強い。

 

 だが――

 

 三両先、順平のいる車両はどうも雰囲気が違う。

 シャドウの数が少ない。

 力も弱そうだし、攻撃性自体も低い。

 順平が暴れればすぐに距離を取っている。

 それに何より、攻撃もバラバラで規則性も計画性もない。

 

 妙だった。

 同じモノレールの中にいるというのに、明らかに反応が違う。

 

──……。

 

 あなたはもう一度、順平の周囲を探る。

 やはり同じだ。

 何かがおかしい。

 

『──先生?』

 

 美鶴の声で意識を戻す。

 

──すみません。先を確認していました。

 

『順平の位置は分かりますか? こちらからは把握しづらくなっていて』

 

 あなたは前方を見る。

 先頭から三両目。先頭車両を一号車とすれば──

 

──三号車、ですかね。

 

『状況は?』

 

──無事ではあるようです。ただ……

 

『ただ、どうしました?』

 

──その先の車両を、大量のシャドウが塞いでいます。

 

『何?』

 

 美鶴の声に驚きが混じる。

 

──先頭車両へ続くドアの前に、かなりの数のシャドウが集まっています。流石に順平一人では突破できないでしょう。

 

『そうか……』

 

 美鶴が短く息を吐く。

 

『先生』

 

──はい。

 

『先ほどのことだが』

 

 通信機越しに、少し間があった。

 

『順平は、なぜあそこまで湊をリーダーにすることに反発したのだろう?』

 

 あなたは前を見た。

 暗い車内の向こう。

 その先に、順平がいる。

 

──それは、後にしましょう。

 

『……分かった』

 

 あなたたちは、さらに前へ進んだ。

 

 

*   *   *

 

 

 そうして先頭車両のひとつ手前──二号車──まで来た。

 ドアを開けると、そこに順平がいた。

 

「……おせえよ」

 

 息を切らしながら、順平が言う。

 額には汗が浮かんでいた。

 周囲には、シャドウ。

 そして、先頭車両へ続くドアの前にも、いくつもの影が集まっている。

 

──順平。

 

「……なんすか」

 

──無茶だったでしょう。

 

「……うるせえな」

 

 順平が顔を背ける。

 その時だった。

 

 先頭車両へのドアの前にいたシャドウが、一斉に動いた。

 

「来る!」

 

 湊が剣を構える。

 これまで順平を遠巻きに包囲していたシャドウが、湊に気付くと一気に距離を詰めてきた。

 

 湊が迎え撃つ。

 その横を抜けようとする影へ、ゆかりが矢を放つ。

 

「こっちは任せて!」

 

 ゆかりが順平の周囲へ弓を向ける。

 シャドウの注意が逸れた。

 

「……!」

 

 順平が顔を上げる。

 

「なんだよ!」

「早く! こっち!」

「おう!」

 

 順平も武器を構え、シャドウを牽制しながらこちらへ合流する。

 

 湊が前に出てジャックフロストを降ろす。

 冷気系の攻撃が多い中では、ジャックフロストの耐性が彼を盾役(タンク)に仕立て上げる。

 

 ゆかりが順平の周囲のシャドウを引き剥がす。

 弓矢でうまく注意を引きながら、【ディア(小治癒)】と【ガル(疾風撃)】で牽制する。

 

 順平がその隙を突いてペルソナ能力で攻撃する。

 彼の武器は大ぶりで、狭い電車内では思うように振るえないためだ。

 

 やがて、最後のシャドウが消えた。

 車内が静かになる。

 

「おう。その……助かった」

 

 順平が小さく言った。

 だが、その声音にはまだふて腐れたような響きがある。

 

「ありがとな」

「どういたしまして」

 

 ゆかりは少し驚いた顔をしてから、頬を緩めて応えた。

 

「別に」

 

 だが湊は、特段なんとも思っていないように淡々と応える。

 

「……は?」

 

 順平が湊を見る。

 

「何だよ、それ」

「別に」

「こっちは感謝してんだから、もうちょっと何かあるだろ!」

「……仲間だから」

「そういうところだよ!」

 

 順平が声を荒らげる。

 

「そういう、何でもないみたいな顔してるところが──」

 

 その時だった。

 先頭車両へ続くドアが、ひとりでに開いた。

 

 プシュッ、と空気の抜ける音。

 暗闇の向こうから――

 

「……ハハハ」

 

 笑い声が聞こえた。

 

「ハハハハハハハ!」

 

 それは、人間のものとは思えない高笑いだった。

 四人が同時に黙る。

 

 開いたドアの向こう。

 先頭車両には、白い冷気が漂っていた。

 

 

*   *   *

 

 

 招かれるように、四人は先頭車両へ入った。

 

 寒い。

 車内に入った瞬間、肌を刺すような冷気がまとわりつく。

 床も、壁も、窓も。

 至るところが凍りついていた。

 

 そして、その奥。

 運転室へ続くドアを背にして、一体の巨大なシャドウが座り込んでいた。

 

 三メートルほどもある、人型のシャドウ。

 

 左右で色が分かれていた。

 身体の中央を境に、片側が白。

 もう片側が黒。

 

 その顔には、赤黒い仮面。

 周囲には凍った大気中の水分が、おかしな月明かりと何故か点灯している非常灯に照らされ、まるで光を纏うように煌めいていた。

 ギリシア彫刻のように写実的でありながら、それは淫靡というより神聖さ、神々しさを漂わせている。

 本来であれば日常空間である電車内に現れたそれは、あまりにチグハグで、不気味だった。

 

 巨大な女体が、車内の中央に鎮座している。

 

「……何、あれ」

 

 順平が息を呑み、ゆかりが顔をしかめる。

 

 シャドウは笑った。

 その周囲に、いくつもの影が浮かび上がる。

 

 冷気がさらに強くなる。

 細長く、紙のような髪がゆっくりと揺れた。

 それは生き物の触手のように自在に動き、四人へ向かって伸びてくる。

 

「来る!」

 

 湊が前へ出て、触手のような髪を薙ぎ払う。

 一拍遅れてゆかりが弓を構え、順平も武器を握り直した。

 

 あなたは一歩後ろへ下がり、周囲のマガツヒを探る。

 巨大なシャドウ。

 その周囲に浮かぶ、無数の影。

 

 そして――

 

「【アギ(火炎撃)】!」

 

 順平のペルソナ・ヘルメスが放った炎がシャドウを焼く。

 その瞬間。

 巨大なシャドウの動きが、わずかに止まった。

 

「……?」

 

 湊がそれを見た。

 ほんの一瞬。

 だが、確かに反応した。

 

 湊は順平を見る。

 

「順平」

「ンだよ!?」

「もう一度、【アギ】であいつを」

「……俺が?」

「ああ」

 

 湊は巨大なシャドウから目を離さない。

 

「効いてる」

 

 そして、ゆかりを見る。

 

「ゆかり。順平を援護して」

「分かった!」

 

 順平が一瞬だけ目を見開いた。

 だが、すぐに口元を上げる。

 

「……任せろ!」

 

 止まった時間の中で。

 ほんの少しだけ、何かが動き始めていた。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 特に本作では書きながら考えていたところと全然違う箇所に[ここすき]が有ったりして、やっぱ何が刺さるか分からんもんだなーと韜晦したりしています(笑)

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(20260905)話順修正
 齋藤様、ご報告ありがとうございました。
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