Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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※Caution
 前話「#025 一人では進めない」の投稿時に、誤って「#024 止まった時間の中で」を抜かしてしまいました。
 09/05(土) 19:36 に #024 を投稿しましたが、それ以前にご覧になられた方は、お手数ですが #024 に戻って御覧ください。



#026 動き出した時間

 先頭車両に踏み込んで三人が前に出たところで、あなたは一歩後退。

 ドア付近に待機する。

 

──私は後ろに控えているので、気にせず目の前の相手に集中してください。

 

 湊(みなと)が一瞬だけこちらを見る。

 

「分かりました」

 

 ゆかりも頷く。

 

「先生、無理しないでくださいね」

 

──そちらこそ。

 

 あなたは車両後部まで下がると、戦場全体を視野に収めた。

 

 巨大なシャドウ──女教皇(プリーステス)は、ゆっくりと腕を広げる。

 周囲に浮かんでいた影が、さらに数を増やした。

 

 冷気が渦を巻く。

 新しいシャドウが生まれようとしている。

 だが。

 あなたの視界に黒い淀みが映った。

 

──それは無しだ。

 

 指を弾く。

 パチン。

 生まれかけた気配が散る。

 

 別の場所で淀みが生まれる。

 パチン。

 また散らす。

 

 プリーステスが僅かにこちらを見る。

 もう一度、何かを生み出そうとする。

 だが、そのたびにあなたが潰していく。

 

 やがてプリーステスは諦めたように、目の前の三人へ向き直った。

 

 敵は、四人。

 そのうち一人は戦闘に加わらない。

 ならば、残る三人を潰せばいい。

 そんな判断なのだろう。

 

 プリーステスの髪が、一斉に動いた。

 

「来る!」

 

 湊が剣を構える。

 白と黒に分かれた巨体から伸びた髪が、何本もの触手となって襲いかかった。

 

 湊が正面から受ける。

 剣を盾のように構え、攻撃を弾いた。

 続けざまに別の髪が襲いかかる。

 湊は身体を捻り、かわす。

 

 その直後、周囲のシャドウが一斉に湊へ殺到した。

 

「結城(ゆうき)くん!」

 

 ゆかりが叫んで矢を放ち、シャドウを一体吹き飛ばした。

 

 だが、別のシャドウが湊の背後へ回り込む。

 湊が振り返りざまに背後に一閃し、どうにかシャドウを迎撃。

 

「……多い!」

 

 ゆかりが息を吐いた。

 

 それでも、二人の視線は湊へ集中していた。

 プリーステスも。

 その周囲に浮かぶシャドウも。

 まるで、他の二人が目に入っていないかのようだった。

 

「結城くん、下がって!」

 

 ゆかりが弓を構えた。

 

「大丈夫」

 

 湊が答える。

 プリーステスの髪が迫る。

 湊は剣を振るった。

 触手のような髪が切り払われる。

 

 だが、次の瞬間。

 別のシャドウが湊へ飛びかかった。

 湊は受ける。

 鈍い衝撃。

 身体が僅かによろめく。

 

「結城くん!」

 

 ゆかりが【ディア】を唱えた。

 傷が癒えていく。

 

 その隙に、順平(じゅんぺい)が前へ出た。

 

「ペルソナ(【アギ】)!」

 

 炎が走る。

 プリーステスの巨体を焼いた。

 その動きが、僅かに止まる。

 

「……効いてる!」

 

 順平が叫ぶ。

 

「もう一発!」

 

 再び炎。

 プリーステスが身を捩った。

 

「やっぱりだ!」

 

 順平の顔に、笑みが浮かぶ。

 

「俺のペルソナなら──」

 

 だが、プリーステスの視線は依然として、湊へ向いている。

 

 髪が湊へ伸びる。

 湊が受ける。

 

 シャドウが襲う。

 湊が防ぐ。

 

 ゆかりが回復する。

 順平が炎を放つ。

 

 その繰り返しだった。

 

「おい……」

 

 順平の表情が変わる。

 

「なんで俺を無視すんだよ」

 

 プリーステスは答えない。

 

「おい!」

 

 順平が声を荒らげる。

 

「俺の攻撃、効いてんだろ!」

 

 炎を放つ。

 

「ペルソナ(【アギ】)!」

 

 また炎。

 

「ペルソナ(【アギ】)!」

 

 さらに炎。

 プリーステスの身体が僅かに揺れる。

 それでも、攻撃対象は湊のままだ。

 

「……ふざけんなよ」

 

 順平の声が低くなった。

 

 その瞬間。

 プリーステスの巨体が浮き上がった。

 

「え?」

 

 ゆかりが目を見開く。

 

 プリーステスはそのまま天井へ移動する。

 重力そのものが反転したかのように、巨大な女体が天井へ腰を下ろした。

 

「……マジかよ」

 

 順平が呟く。

 

 天井から、赤黒い仮面が四人を見下ろす。

 そして。

 髪が伸びた。

 

 今度は、先ほどまでのような冷気を纏った攻撃ではない。

 細長い髪が、触手のようにうねる。

 空気を切り裂く音。

 

「結城くん!」

 

 ゆかりが叫ぶ。

 だが、攻撃は湊を素通りした。

 

 その先にいた順平へ向かう。

 

「うおっ!」

 

 順平が飛び退く。

 髪が床を叩いた。

 

 バンッ!

 

「なんで俺!?」

 

 順平が叫ぶ。

 湊が前へ出る。

 

「順平、避けて!」

「言われなくても!」

 

 順平が横へ転がる。

 髪が追う。

 今度は明らかに、順平を狙っている。

 

「ちょっと待てって!」

 

 順平が叫ぶ。

 

「さっきまで湊(アイツ)だっただろ!」

 

 ゆかりが弓を放つ。

 

「順平、前見て!」

「見てるって!」

 

 矢が髪を弾く。

 だが、順平の動きが徐々に鈍くなっていく。

 炎を放とうとする。

 

「ペルソナ(【アギ】)──」

 

 炎が出ない。

 

「……あれ?」

 

 順平が目を見開く。

 

 もう一度。

 

「ヘルメス(【アギ】)!」

 

 何も起こらない。

 

「くそ……!」

 

 能力を使えるだけの精神力が残っていない。

 順平の呼吸が荒くなる。

 

「もう……駄目なのかよ……」

 

 プリーステスの髪が迫った。

 

「順平!」

 

 湊が割って入る。

 剣で受ける。

 

 衝撃。

 湊の身体が押し戻される。

 

「湊!」

「大丈夫」

 

 湊は立ち上がった。

 

「ゆかり、順平を頼む」

「分かった!」

 

 ゆかりが順平の隣へ移動する。

 

「順平、動ける?」

「……なんとか」

「じゃあ動いて!」

「無茶言うなよ!」

「戦えるんでしょ!」

 

 ゆかりが【ディア】を唱える。

 

「立って!」

 

 順平が歯を食いしばる。

 

「……分かってる!」

 

 湊が前へ出る。

 

 プリーステスの髪が襲う。

 湊は剣で受けた。

 

 一本。

 二本。

 三本。

 

 次々と襲いかかる。

 そのたびに、湊の身体が削られていく。

 

 ゆかりが回復する。

 順平が隙を見て武器を振るう。

 

 しかし、プリーステスの圧力は強い。

 

「くっ……!」

 

 順平が後退する。

 また髪が来る。

 避ける。

 さらに来る。

 足がもつれる。

 

「うわっ!」

 

 順平が膝をついた。

 

「順平!」

 

 ゆかりが叫ぶ。

 その瞬間。

 湊が前へ出た。

 

「湊!」

 

 髪が振り下ろされる。

 避けきれない。

 

 鈍い音がした。

 湊の肩が裂ける。

 

「……っ!」

 

 あたりに湊の血が飛び散り、床を汚す。

 

 プリーステスが止まった。

 赤黒い仮面が、湊の肩へ向く。

 

 次の瞬間。

 

「──ハハハハハハ!」

 

 歓喜の雄叫び。

 プリーステスが天井で身を震わせた。

 

 だが。

 その動きが、ぴたりと止まった。

 

「……?」

 

 ゆかりが息を呑む。

 湊も、順平も動きを止めた。

 

 何故だ?

 プリーステスは、ただ湊の血を見つめている。

 

 やがて、その身体の周囲から黒い粒子が溢れ始めた。

 湊の傷口からも、何かが吸い込まれていく。

 

 あなたには、それが見えた。

 プリーステスのマガツヒが、湊へ流れ込んでいる。

 

──……。

 

 あなたは目を細めた。

 何が起きている?

 

 だが、今は考えている場合ではない。

 湊が剣を握り直した。

 

「……今なら」

 

 順平が顔を上げる。

 

「まだやれる」

 

 ゆかりも弓を構えた。

 

「うん」

 

 三人が前を向く。

 プリーステスは動かない。

 ならば。

 

「行くぞ!」

 

 順平が叫んだ。

 

「ペルソナァァァァァ(【アギ】)!」

 

 残った精神力を絞り出す。

 最後の炎。

 それがプリーステスを直撃した。

 

 爆風が車内を駆け抜ける。

 天井に座っていた巨体が、大きく揺れた。

 

「今だ!」

 

 湊が踏み込んだ。

 負傷した肩を顧みない。

 剣を両手で構える。

 

「これでもくらえ(【パワースラッシュ】)!」

 

 全力の一撃。

 プリーステスの身体が傾いた。

 天井から、巨体が落ちる。

 

「今!」

 

 ゆかりが弓を引き絞った。

 落下する巨体。

 狙いを定める。

 

 放つ。

 

 矢が、赤黒い仮面を貫いた。

 

 プリーステスの身体が、ボロボロと瓦礫(がれき)のように割れ砕け、崩れ去る。

 周囲に浮かんでいたシャドウも、次々と消えていく。

 

 冷気が消えた。

 凍りついていた車内から、白い霧がゆっくりと晴れていく。

 

 静寂。

 

「……」

 

 三人とも、しばらく動かなかった。

 

「……終わった?」

 

 ゆかりが呟く。

 

「たぶん」

 

 湊が答える。

 

「たぶんって何よ」

「動かないから」

「そういうことじゃなくて……」

 

 そのやり取りを聞いていた順平が、突然吹き出した。

 

「……はは」

 

 肩を震わせる。

 

「ははははは!」

「ちょっと、何笑ってんのよ!」

「だってよ……!」

 

 順平は笑いながら、天井を見る。

 

「なんか、すげえ大騒ぎしたのに……最後、矢一本じゃん」

「……」

 

 ゆかりがプリーステスを見る。

 

「……確かに」

 

 湊も頷いた。

 

「そうだな」

「お前まで納得すんなよ!」

 

 順平がまた笑う。

 その時。

 

「……っ」

 

 湊が小さく呻いた。

 

「湊?」

 

 ゆかりが振り返る。

 湊の肩から、まだ血が滲んでいた。

 

「ちょっと! 怪我してるじゃん!」

「これくらいなら」

「よくない!」

 

 ゆかりが【ディア】を唱える。

 傷がゆっくり塞がっていく。

 

「……ありがとう」

「もう。無茶しすぎ」

 

 ゆかりが呆れたように言った。

 順平がそれを見て、また笑う。

 

「お前ら、ほんと真面目だよな」

「誰のせいでこうなったと思ってんのよ」

「俺?」

「そうよ!」

 

 そんなやり取りをしているうちに。

 

『聞こえるか?』

 

 通信機から、美鶴(みつる)の声が響いた。

 

「聞こえます」

 

 湊が答える。

 

『ようやく安定した。状況を報告してくれ』

 

──大型シャドウは撃破しました。

 

『そうか』

 

 美鶴の声に安堵が混じる。

 

『では、運転室へ向かってくれ。車両がまだ動いている』

「え?」

 

 三人が顔を見合わせる。

 

 そうだった。

 シャドウを倒したからといって、車両が止まったわけではない。

 モノレールは、今も前へ進んでいる。

 

「やばくない?」

 

 ゆかりが言った。

 

──行きましょう。

 

 三人とあなたは、運転室へ向かった。

 

 

*   *   *

 

 

 運転室のドアを開ける。

 そこには、見慣れない計器とレバーが並んでいた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三人が固まる。

 

「これ……どれ?」

 

 順平が言った。

 

「知らないよ」

 

 ゆかりが答える。

 

「湊は?」

「分からない」

「だよね!」

 

 あなたは三人を押し退けるように運転室へ入った。

 

──どいてください。

 

「先生?」

 

──代わります。

 

 昨晩。

 押し入れから引っ張り出した専用コントローラ。

 何度も繰り返した急ブレーキ。

 その感覚が蘇る。

 

 あなたはレバーを掴んだ。

 

──これですね。

 

 迷わず操作する。

 急ブレーキ。

 モーター音が変わった。

 

「うわっ!」

 

 順平の身体が前へ投げ出される。

 

「きゃっ!」

 

 ゆかりも足を取られた。

 

「……!」

 

 湊が壁に手をつく。

 あなた自身も、運転室の狭い壁へ肩をぶつけた。

 モノレールが激しく減速する。

 

 そして。

 

 ──止まった。

 

 静寂。

 

 あなたは荒い息を吐きながら、前方を見る。

 

 フロントガラスの向こう。

 ほんの数メートル。

 先行していた車両の最後尾があった。

 

──……危なかった。

 

 胸を撫で下ろす。

 

「先生……」

 

 順平が床に座り込んだまま、あなたを見る。

 

「もしかして先生、徹夜でゲームやってたって?」

 

──いや、まあ。

 

「マジかよ……」

 

 順平が呆れた顔をする。

 ゆかりも笑った。

 

「もしかしてこ(・)う(・)な(・)る(・)のも分かってた、とか?」

 

──養護教員(せんせい)ですから。

 

「関係ないでしょ、それ」

 

 ゆかりのぼやきに、湊が小さく笑った。

 

 

*   *   *

 

 

 車両を降りる。

 ホームへ上がったところで、あなたたちはようやく周囲の景色を確認した。

 

──ここは……。

 

「ポートアイランド駅?」

 

 ゆかりが駅名標を見る。

 美鶴へ通信を入れる。

 

──桐条(きりじょう)君。こちらはポートアイランド駅に到着しました。

 

『確認した』

 

 美鶴が答える。

 

『影時間も、もう間もなく終わる。こちらでタクシーを手配する。駅を出て待っていてくれ』

 

──分かりました。

 

 四人は急いで駅を出た。

 

 そして外へ出た、その瞬間。

 世界に音が戻った。

 

 車の音。

 風の音。

 遠くから聞こえる人の声。

 

 影時間が終わったのだ。

 

「……終わった」

 

 ゆかりが呟く。

 駅前には、人影が少ない。

 だが、すぐに騒ぎが起きた。

 

「何あれ?」

「電車が止まってる?」

「ぶつかるんじゃないのか?」

 

 先ほど衝突寸前で停止した車両を見て、人々が騒ぎ始めている。

 

──まずいですね。

 

「巻き込まれる前に離れましょう」

 

 湊が言った。

 

「そうしよ」

 

 順平も頷く。

 三人とあなたは駅から少し離れた場所へ移動した。

 

 

*   *   *

 

 

 しばらくすると、タクシーがやって来た。

 

「お待たせしました」

 

 運転手に礼を言い、四人で乗り込む。

 ようやく。

 本当にようやく、緊張が解けた。

 

「……疲れた」

 

 ゆかりが座席に身体を預ける。

 

「俺はまだいけるけどな」

 

 順平が言う。

 

「嘘つけ」

 

 湊が即答した。

 

「さっき膝ついてたじゃん」

「あれは……」

 

 順平が言葉に詰まる。

 

「……ちょっと足が滑っただけだよ」

「そう」

 

 湊が頷く。

 

「じゃあ、次は滑らないように」

「お前なぁ……!」

 

 順平が噛みつく。

 

「まあまあ」

 

 ゆかりが二人を宥める。

 

「今日はもう終わったんだから」

「そうだな」

 

 湊が窓の外を見る。

 

「終わった」

 

 その言葉に、順平も黙った。

 少しだけ。

 車内に静かな時間が流れる。

 やがて、巌戸台分寮へ到着した。

 

*   *   *

 

「ご苦労さま」

 

 玄関で出迎えた幾月(いくつき)が、へらへらと笑っていた。

 

「いやあ、大変だったね」

 

──残業代は期待しています。

 

「え?」

 

 幾月が固まる。

 

──現場監督。理事長の指示ですから。

 

「……善処しよう」

 

──期待していますよ。

 

 あなたはそう言って、三人を見る。

 

──今日はもう、ゆっくり休むように。

 

「はい」

 

 湊が答える。

 

「了解っす」

 

 順平も手を上げる。

 

「先生もね」

 

 ゆかりが言った。

 

──おつかれさま。

 

 三人がそれぞれの部屋へ戻っていく。

 あなたも寮を出た。

 

*   *   *

 

 帰宅したあなたは、窓の外を見た。

 

 夜空には、満月。

 

 今日の戦いを思い出す。

 プリーステス。

 その身体から溢れ出したマガツヒ。

 それが湊へ流れ込んだ光景。

 

 あれは何だったのか。

 なぜ、あのシャドウは湊を狙い続けたのか。

 

 そして。

 なぜ、湊の血に反応したのか。

 

 答えは、まだ分からない。

 あなたは月を見上げる。

 

──マダム・ニュクス。

 

 あの女は、何をしようとしている?

 

 満月は、何も答えなかった。

 ただ静かに、夜空に浮かんでいた。

 




 感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。

 大アルカナの女教皇と言えば「プリエステス」と覚えているので、「プリーステス」に違和感を感じずにはいられません。

 順平の中のわだかまりも、少しは改善されたかなーといったところ。
 人間、そう簡単に変わるもんでも有りませんが、転機があれば少しずつでも路線変更はできるだろうということで。
 この辺も思春期の少年らしくて好きなんですけどね順平。
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