Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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90年後(魔法科転生)の話でも触れましたが、本作では『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』の設定を一部取り入れています。



#004 ペルソナ使い

「それはペルソナ使いだろう。魔術師(マジシャン)の一派ではあるが、魔道士(ウィザード)ではない」

 

 現代の魔道士であるところの氷川(ひかわ)総司令――あなたは未だに彼の本名を知らない――に先日の桐条(きりじょう)美鶴(みつる)について尋ねたところ、実にあっさりと答えた。

 

――ペルソナ使いってなんだ?

 

「ペルソナ。もともとの意味は劇で使われる仮面(マスク)のことだ。別人になりきり、声を響かせる。そういった用途で使われた。ペルソナ使いとは、仮面の力を使う魔術師を指す言葉だ。その力の源は、人間の可能性であると言う」

 

――可能性……

 

「そう。ペルソナ使いのペルソナは、心理学者のカール・グスタフ・ユングが提唱した、無意識の中に潜む“抑圧された自分”のことだ。これは単なるコンプレックスではなく、人格から切り離され独立し、もはや個人では認識できない、普遍的で先天的なものだという。彼が提唱するところの、全人類が等しく有する集合的無意識においてそれは、時に神や悪魔のあり方とよく似た姿をしている……と、彼は喝破した」

 

――なる、ほど?

 

「ペルソナ使いは人間の中にある、神や悪魔に等しいものとなりうる可能性がある……という理屈(ロジック)で魔術を使っている。もっともこうした可能性は人格の未熟さ、個人が個人として確たる人格を得るまでの過程で生じ、成熟した人格を持つことで損なわれる。そうした弱点も持つことになった。だからペルソナ使いのほとんどは未成年者だし、世界に対して働きかけるわけでもないから、そのあり方は、魔術というより超能力に近いわけだ」

 

――だから魔道士ではない、あくまで魔術師だと。

 

「そうだ。しかしそうか、桐条は孫娘を検体にしたわけか」

 

――どういうことだ?

 

「なに。エルゴ研、エルゴノミクス研究所というのは、桐条グループ総帥の桐条鴻悦(こうえつ)が作った超常現象の研究機関だ。十年前に爆発事故を起こして先代の研究所は消失したが、以降も土地を移して研究は続けられている。たしか君、このあたりの出身じゃなかったか。覚えてないかね、一九九九年の大爆発――」

 

 覚えていないはずがない。

 あなたはその事故で■を失ったのだ。

 

「その爆発事故以前に発見されたのがシャドウという存在。そしてそれをベースにペルソナ使いが開発されたと聞いている。おそらくその、這いずり回る影というのがシャドウだろう。それがどういった性質のものなのかまでは、秘匿されていて調べることは出来なかったが……そうか、出現するようになったのか」

 

――で。検体ってのは?

 

「ペルソナは人間の持つ集合的無意識から発生する。ならばその実験には人間が必須となる。そしてそれは未成熟な人間、未成年でなければならない。まあ桐条なら孤児でもなんでも集められそうなものだが、手近なところで済ませたのか、何らかの理由があったのか。そこまでは分からない」

 

――エルゴ研由来でない可能性は?

 

「ペルソナ使い自体は一九九六年のセベクスキャンダルで既に存在が確認されていたんだが、彼らについては現在でも追跡調査が行われている。桐条の本家である南条の御曹司がその一人だが、彼もエルゴ研とはなんの関わりもない。そもそもセベクスキャンダルのペルソナ使いに比べると、エルゴ研のペルソナ使いは別物と言っていいほど能力に違いがある」

 

 つまりエルゴ研は、あくまで独自の手段でペルソナ使いを開発した、ということか。

 桐条()の娘がペルソナ使いだというのなら、エルゴ研で開発されたと考えるのが妥当。

 氷川(こいつ)はそう言いたいのだろう。

 

 自分の孫娘を検体にするのか。

 

 子供を持ったことのない、親になったこともないあなたにとって、血を分けた子や孫がどれほど大切なものかは分からない。

 だが一般論として、それは非道と誹られる行為ではないだろうか。

 

「魔術師とは、魔道とはそういうものなのだ人修羅(キミ)。私たちは皆、自分の欲に逆らえない社会不適合者(ロクデナシ)に過ぎない。だからこそ私は静寂(シジマ)なる世界を望んだのだが……」

 

 それを否定したのは他ならぬ()()()自身なのだ。

 センセイの祈りに応えたことを悔いる訳では無いが、時折、これで本当に良かったのかと考えてしまうことはある。

 

「誰も彼もが幸せに、とは為らぬものだな人修羅(ニンゲン)

 

 一度は神の座に手をかけ、あなたによって打ち砕かれた氷川総司令(はいぼくしゃ)にしてみれば、それはせめてもの意趣返しといったところなのだろう。

 それに言い返せるような経験を、今のあなたは持ち合わせてはいない。

 

 まったく嫌味な男だ。

 あなたはその苛立ちを舌打ちに変えた。

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