Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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このくらいの文量なら、一気に書けるようになってきました。


#005 BARマダム

 西暦2008年4月5日。

 

 明日までに出さなければならない備品の申請書類を学校に忘れたあなたは、仕方なく深夜の月光館学園高等部校舎へと向かった。

 都市交通線「あねはづる」で向かうと――終電が23時台なので――帰りの足が無くなってしまうため、遠回りにはなるがバイクでムーンライトブリッジを経由していくことにする。

 

 ところが不運が重なったのか、日頃の行いが悪かったのか、折り悪く渋滞にハマってしまい、ムーンライトブリッジを渡る最中に午前0時を迎えてしまった。

 

 瞬時に変わる空気。

 空の月がケミカルイエローに輝き、空は緑のモヤに包まれる。

 周囲の車は動きを止め、車内には乗員の代わりに大きな棺桶。

 バイクも同様だ。

 ドライバーが棺桶に変わり、バイクと一体化してしまっていた。

 

 異界化した領域に踏み込んでしまったようだ。

 

 とはいえ異界化そのものについては――あなたに危険があるでなし――知ったことではないのだが、バイクのエンジンが止まってしまったのでどうしようもない。

 歩いていくのも億劫だなあ、と思いながらもあなたは側道にバイクを止め、歩いて向かうことにした。

 

 

*   *   *

 

 

 なんだこれ。

 

 そうしてたどり着いたはずの月光館学園高等部校舎は、前衛芸術めいた建築物に成り果てていた。

 敷地内にあった建物を、大きさも重力も無視してデタラメに重ね、ところどころ見覚えのない塔のようなものや、歯車や謎の装飾でデコレーションされている。

 

 なんだあれ。

 

 見上げたそれは、まるで月を目指して聳えるあの(カグツチ)塔のようで、しかし圧倒的に高さが足りない。

 代わりに塔の頂点に何者かの、強いマガツヒの気配がある。

 

 神格の悪魔か。

 つまりこの異界の主であろう。

 

 どうしたものか……

 

 それが以前、どこかで遭遇したことのある気配なのだ。

 はっきり覚えていないということは、敵対したわけではないはずだ。

 それに敵意も感じられない。

 

 とりたてて害があるわけでもなく、ただ存在しない時間の隙間に住まうくらいなら、何の問題もない。

 ただ、顕現するためのマガツヒをどこから調達しているのか、それだけは気にならなくもないが……

 

「あら、()()()じゃない」

 

 あなたが思い悩んでいると、そんな声が聞こえた。

 

「もう忘れたのかしら」

 

 どこかで聞き覚えのある声だ。

 

居候(ロキ)の部屋から盗んでいったものは役に立ったの?」

 

――すいませんっした!

 

 ああ、はっきり思い出した。

 

 ギンザのBARのママ悪魔こと、夜の女神ニュクス。

 

 あの戦いの日々で、数少ない純粋な協力者だった悪魔である。

 

 貴重な情報ももらった。

 あなたの悪さに目こぼしもしてもらった。

 地獄の釜の蓋が開いたあの世界の中、太古の女神の権能は、最後まであの店を変わらぬ【夜】に留め置いた。

 

 その分身は、あなたの旅を支えてもくれた。

 調子に乗って悪魔合体を繰り返し、古き神話により近い権能を与えたりもした。

 

 だが、そういえば一度も謝罪したことがなかったなと、あなたは反射的に頭を下げながら思い出した。

 

 (だってちょっと顔が怖かったし)

 

 世の中には言っていいことと悪いことがあるのだ。

 特に女性には。

 そのことを、あなたは千晶(おさななじみ)から嫌というほど思い知らされたのだ。

 

 

*   *   *

 

 

 あなたの無言の百面相に、笑いを堪えた声は「良いのよ」と答えた。

 

「でも悪いと思うなら、ちょっと協力して欲しいことがあるのだけど」

 

 しまった。

 これは選択肢が無い(ことわれない)やつだ。

 

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