Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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原典に則って「鬼○郎」と書くべきかは迷ったんですが。


#006 キタロー

 彼は見事なキタローであった。

 

 前髪で顔を隠すというのはマンガ的表現であって、現実では殆どないと思っていた。

 だが現実に居た、ということにあなたは驚きを隠せなかった。

 

 

*   *   *

 

 

 西暦2008年4月6日。

 

 昨晩マダムと交わした約束のため、あなたは再び深夜の巌戸台(いわとだい)に来ていた。

 ()()()()()()()()()()により大幅に遅延した電車は、午後23時51分に巌戸台に到着し、乗り疲れた乗客たちを吐き出す。

 その中に、あなたの目当ての人物がいる。

 

 

「子供を一人、手助けして欲しいの」

 

 再創世の後、あなたはあの若ハゲ男に「せめて君の仲魔たちのことくらい、知っておきたまえ」と厭味たらしく指摘され、世界中の神話伝承の本を流し読みにした。

 そこまで言われて何故「流し読み」に留めたのかといえば、一重に心が理解を拒絶したからだ。

 

 再創世後の現在、多くの神話が人修羅(あなた)を基準に書き換えられてしまった。数多の神話にかつての戦いの断片が捻じ曲がった形で語り継がれ、数多の神話であなたは神々――あなたにとっては悪魔たち――の始祖と成り果てているのだ。

 当事者たる仲魔たちに詳しい事情を聞こうと呼び出し、一緒に神話を読もうとすれば、そうした記述が目に入る。

 その事実に驚いているところ、悪ふざけを好む仲魔たちに横合いから「お父さん」「パパ」「父上」「おじいちゃん」「じーじ」などと呼ばれるようになり。

 あなたは彼らを遠ざけるようになっていた。

 

 誰が二十歳(はたち)そこそこで強面(こわもて)のオッサンに「じじい」などと呼ばれたいと思うか。

 

 ギリシャ神話において、女神ニュクスはあなたの化身である原初の神・カオスの娘ということになっている。

 大神ゼウスですら(はばか)った夜の化身・ニュクス(NYX)は子沢山の女神だ。

 

 有名なところで冥府の渡し守カロンや、運命と死の神モロス、死の神タナトス、眠りの神ヒュプノス、あるいは運命の三女神であるクロト、ラキシス、アトロポスなど。それ以外にも様々なものを生み出したともされる。

 

――俺の知ってるやつか?

 

「知らないはずよ。あの地には居なかったし」

 

 嗚呼。

 面倒なことになった、とあなたは頭を抱える。

 

 あなたが知る悪魔であれば、あの戦いの日々で関係を持っている。であるなら、あなたと直接の因縁が優先される。友好的であれ敵対的であれ、それぞれの意思と行動の結果であるなら、あなたはそれを引き受けることもやぶさかではない。

 だがそうでない、関係を持っていない悪魔たちは、この世界の再構築された神話に縛られている。

 つまりあなたの責任の無いところで、神話時代の関係を持ち出されてあれやこれやと言われることになる。

 

――断っても良いか?

 

「断るの? ()()()

 

 う。

 このニュクス、神話上あなたを父に持ちながら、なおもかつての関係のままに話してくれる、得難い存在である。

 早くに■を失ったあなたにとって、■を感じる数少ない仲魔でもある。

 顔が怖いのが玉に瑕だが。

 

「気が向いたら日が変わる前にそこの駅に来て頂戴。その子は、()()()()()()()

 

 

*   *   *

 

 

 見れば分かる。

 なるほど確かに、一目瞭然だ。

 

 この地が異界に落ち、あたりが棺桶だらけになってなお、何事もなかったかのように変わらず歩いている。

 長い前髪で片目を隠し、ヘッドホンを付けた少年。

 彼がニュクスの言う「子供」なのだろう。

 

 ジャケットにスラックス。

 若干お仕着せ感のある服装は、彼の両親が用意したものだろうか。

 転がすキャリーバッグにも荷物が詰まっていそうだ。

 

 しかし彼がニュクスの子供なのだろうか。

 今ひとつ良く分からない。

 

 もしかしたら転生体とかいうやつだろうか?

 以前、若ハゲ(ひかわ)が「稀に悪魔の(マガツヒ)を持って生まれてくる人間が居る」とか。

 「大抵は魂の大きさに肉体が耐えきれず、死産になる」らしい。

 

 「魂を抱えて生まれ直したという意味では、君も転生体になるのかもしれない。私も、あの魔丞の娘もだが」

 「魔道士に見つかれば実験体(モルモット)にされかねん存在だ」

 「君はこれから子を作るのだろうし、一応気をつけておきたまえ」

 

 などと余計なことも言っていたが。

 

 何にせよ「助けてやってほしい」というのだ。

 そうするとしよう。

 ひとまずは群がる影――シャドウとか言っていたか――とやらが少年に近付かないよう、蹴散らしておく。

 関わり合いにはなりたくないので、少年に気付かれないよう距離を取って。

 

 とはいえシャドウたちも、彼に危害を加えるつもりはないようだ。

 遠間からは眺めるように仮面を振り、近付けばひれ伏すように地面にのっぺりと広がってしまう。

 代わりに彼の周囲では、「おうじよ」だの「われらがみこ」だのと、声にならない思念が飛び交っている。

 

 ヘッドホンをしたままの少年は、彼らに気付くこともなくスタスタと棺桶だらけの街中を歩き、やがてひとつの建物の中へと消えてゆく。

 

 今日はこれまで、かな。

 どういうわけかは知らないが、これまでシャドウたちが建物の中に入るところを見たことがない。

 たぶん無事だろう。

 たぶん。

 

 アフターケアまでする気のないあなたは、それを見届けると、さっさと家に帰ることにする。

 

 日付が変われば仕事である。

 

 明日の始業式では挨拶をしなければならないそうだし、徹夜明けは避けたい。

 人前で挨拶するのは嫌だなあ、と憂鬱な気持ちになりながら、あなたはベッドに潜り込んだ。

 

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