Persona3 Temperance   作:人ちゅら

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他の作品の再始動もあるので、来週は更新をお休みします。
(というか毎週更新と決まってるわけではないんですが)


#008 自称管理人

「やあ」

 

 ひどく気の抜けた声とともに始業後はじめて保健室の戸を開けたのは、幾月(いくつき)修司(しゅうじ)だった。

 

「いやあ、始業式の挨拶ご苦労さま。大変だっただろう」

 

 見た目ばかりは穏やかな笑顔を湛えたこの男が、この月光館学園高等部の理事長。旧エルゴ研の出身で、氷川と面識のある魔道士(ウィザード)だ。あなたの採用書類に最初に判を押した人間で、そういう意味では恩義もあるのだが、どうにも胡散臭さの漂うこの男のことを、あなたはまったく信用していない。

 

「あいも変わらず無口だねえ。校長は今日も絶好調だった、の、に……? ()()()調()!? ぶフフフ…ッ!」

 

 オヤジギャグともダジャレとも言えないような自分のセリフが気に入ったように、何度も繰り返しては肩を震わせている。だが、時折チラチラとあなたを見やるその様は、笑わせようとしている必死さが伝わってきて、寒々しさが増すばかりだ。

 一頻(ひとしき)り笑ったあと、「これは必殺ダジャレ二十番勝負の候補にしよう」などとメモをしている。もしかしなくても彼の手帳にはそんなことばかりが書き留められているのだろうか……

 

「ところで君。君は一日が二十四時間ではないと言ったら、信じるかね?」

 

 唐突にぶっ込んできたな。

 

 

*   *   *

 

 

「世の理とされるものに疑いの目を向けるのが魔道士(ウィザード)という生き物だ、とあの男(氷川)なら言うだろうね。だが僕らはただ()()をより深く知ろうとしているだけだ。そうして知り得たことが、この世界の一日は二十四時間ではない、ということだ」

 

 自転周期が23時間56分4秒とかって話ではないだろうな。

 

「この世界には隙間がある。神話や伝承、おとぎ話の中に伝えられる、神界、魔界、桃源郷、竜宮城。魔道士の間ではまとめて【異界(いかい)】と呼ばれているね。そうした場所は、物質世界とは時の流れが異なっている。しかしそんな場所が本当にあるのだろうか?」

 

 ある。

 だがそれは再創世を為した後、仲魔(アクマ)たちの案内によって彼らの故郷を()(めぐ)ったあなただから知り得たことだ。

 

 彼が例に出したもののほとんどは、悪魔たちの住まう【魔界】により近い。

 女神スカアハによると、人間の魔術師たちが【異界】と認識しているものは、人間たちの住まう物質(アッシャー)界と、悪魔たちの住まう【魔界】との間にある蜃気楼のようなものだそうだ。彼女の支配地である影の国や、ティターニアの住まう妖精の国、ハデスの統べる冥界など、悪魔の支配域である【魔界】となると、魔術師、魔道士と自称する者たちでも招かれなければ立ち入ることは出来はしない。

 

 そうした知識については口外しないよう、氷川からも()()からも注意されてる。

 知られれば間違いなく、面倒な有象無象が寄ってくるから。

 

「ある。あったのだ。私たちはそれを発見した。その在処(ありか)も、立ち入る(すべ)も。君も知っているだろう? 毎日二十四時を過ぎると、この一帯は【異界】に落ちる。立ち入ることを許された、選ばれた人間だけが動ける隠された時間。私たちはその【異界】の管理者(セカンドオーナー)となった」

 

 魔道士たちにとって【異界】とは極めて貴重な資源であり、同時に非常に危険なものでもある。なにしろ物質界に比べて、悪魔たちが非常に出現しやすい環境なのだ。

 もっとも、出現しやすいと言っても高位の、神話伝承において強大な力を持つ悪魔たちが容易く出られるわけではない。殆どの場合、そこに現れるのは低級の悪魔や、そのまた影――“分霊(アバター)”と呼ぶらしい――に過ぎない。

 

 とはいえそれでも人間にとっては脅威であるし、異能に目覚めた魔道士、魔術師といった存在にとっても十分以上に脅威である。

 故に彼らの中には、それを管理する者がいるそうだ。

 まあ、仲魔たちは「人間たちが勝手に自称してるだけ」でしかないらしいが。

 

「まあ、十年前の事故で研究所が失われてしまってからは、生き残った私が管理者として、協力者を募って管理しているんだがね。なにしろ私には戦う力は無いから」

 

 ああ、だからか。

 魔道士と言いながら、その禍ツ霊(マガツヒ)は一般人と大差ない。

 それで良く【異界】を奪われずにいられたものだ。

 何か秘密があるのだろう。

 

「そこで本題だ。君にも協力して欲しい」

 

 なるほど、ここでその話になるわけか。

 この職を斡旋し(おしつけ)てくれたあの若ハゲ男も、そうなるだろうとは言っていた。

 

――なにをすれば良い?

 

 あなたはここに、人生の休息を取りに来たのだ。

 あまり面倒事には巻き込まないで欲しい。

 ただでさえ、先日あのマダム(NYX)から仕事を振られてしまったのだし。

 

「大したことじゃない。我々の活動のサポートをして欲しいだけだ。主に怪我の治療と、メンタルケアだね。彼らがやる気を削がれないよう、学業に支障が無いよう、上手くやってほしい」

 

 まあ、それくらいなら。

 そう言おうとして、ふとおかしな台詞に気がついた。

 

――()()

 

「そう。現在、【異界】の管理をしているのは月光館学園高等部の特殊課外活動部(S.E.E.S.)。ここの生徒たちなのさ」

 

 あーこれ面倒事確定だわ。

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