キヴォトス今日のご飯事情   作:羽化したミカゼミ

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 少しずつ感想や評価が伸びていて嬉しい作者です。
 もっといただけたら小躍りしながら喜びます。





第5話「ペロロ風肉まんと赤点少女たち」

 

 

「──重大発表があります」

 

 お洒落のためなら寒さも我慢する少女たちが耐え切れずに防寒具を身に着け始める、とある秋の昼下がり。

 トリニティ総合学園の校舎、その一室にて。

 いつになく真剣な表情を浮かべた少女、阿慈谷ヒフミの言葉に、彼女と同じ補習授業部に所属している生徒の下江コハルと浦和ハナコはごくりと唾を飲み込んだ。

 トリニティの現生徒会長、桐藤ナギサの策略による補習授業部退学の危機からエデン条約締結を巡る騒動、果てはキヴォトス存亡の危機にまで相対してきた彼女たちであるが、それらの出来事より遥かに突拍子も無く、そして()()なことを言いだすのが部長であるヒフミだと経験則から理解しているからだ。

 

「ああ、とても重要な案件だ」

 

 とはいえ、ヒフミも世間一般からしてみれば「普通」の域を脱しないただの女子生徒。

 そんな彼女の言葉にどうしてここまでの警戒を示すのかといえば……主にヒフミの隣で、したり顔で頷いている少女のせいだ。

 白洲アズサ。

 彼女もまたヒフミやコハルたちと同じ補習授業部の部員であり、あのエデン条約を巡る騒動では重要な立ち位置を担っていた転校生である。

 アズサはその特殊な生い立ちからキヴォトスに生きる一般生徒とは比べ物にならないほどの武力や特殊な技能(スキル)を身に着けており、それでいて世間知らずな彼女は親友であるヒフミのためにその力を振るっては騒動を大きくしてしまうところがあるのだ。

 もっとも、アズサの力を抜きに考えたとしても、ヒフミの特定分野に対する常軌を逸した行動力や謎に広い人脈が騒動の発端となることもままあり……今回のように2人が揃って真剣な表情をしている時はだいたいが「あのキャラクター」についてなのだとコハルたちは経験してきていた。

 

「これを見てください」

「なにこれ、チラシ?」

「キヴォトスラーメンエキスポ……ああ、復興の終わったD.U.シラトリ区で近々開催されるという、ラーメンがテーマのお祭りですね」

「復興が終わった記念にお祭りをやるのは理解できるけど……なんでラーメンなのよ」

 

 いつも肌身離さず背負っている鞄から一枚のチラシを取り出したヒフミは、それを4人の集まっていたテーブルの上へと広げる。

 そこに書かれていたのは『キヴォトスラーメンエキスポ』という題名と、開催される日時、そして会場となるシラトリ区の公園の名前だった。

 トリニティ自治区外とはいえ、それなりに宣伝のされている祭りなのだろう。SNSのトレンドなどで見た覚えのあったハナコは、自身の知るラーメンエキスポに対する知識を呟き、しかしあまり「あのキャラクター」と関係のなさそうな話題に、不思議そうな表情とともに首を傾げた。

 ハナコの知識が合っていたのだろう、何故か満足げに頷いてみせたアズサは「だが、それでは足りない」という言葉と共に、チラシの下半分に書いてあったやけに目を引く数行の文字列を指さした。

 復興の終わったシラトリ区のイメージ写真を背景に、SNS映えしそうなお洒落さのデザインが施された上半分とは対照的に、イラストソフトを初めて使った素人が数分で作成したような原色そのままの虹色フォント──俗に「クソダサフォント」と呼ばれる文字たちで構成された良く言えば手作りの温かみを感じるそれには、

 

『会場内の限定ラーメンショップにて、ここだけのオリジナル「ラーメンペロロ」ストラップを配布します!』

 

 という文言が書かれていた。

 ペロロ。

 そう、ペロロである。

 その3文字を見た瞬間にコハルとハナコは全てを察し、そして2人が逃れることの出来ない未来の騒動に想いを馳せて遠い目のまま何処かを見つめる。

 それは運命を受け入れた死刑囚のようであり、穏やかな諦観に満ちた瞳だった。

 

「私もまだ見たことがない、新しいペロロ様……! みすみすこれを逃すなんて、モモフレンズファンの端くれとして出来ません!」

「ああ。前回のペロロジラは残念な結果に終わったが……今回は違う。数量限定ではあるものの、ラーメンペロロストラップはこの店でラーメンを購入した全員に配られるらしい。確かな筋からの裏取りも済ませた、これは行くしかない」

「更にですね、このラーメンショップがエキスポで優勝した暁には、投票した人全員が対象のラーメンペロロ様の特製ぬいぐるみ抽選会も行われるそうなんです! だから私たちもこのお店の優勝に貢献して、ラーメンペロロ様のぬいぐるみをゲットしましょう!」

「ああ、うん。もう私たちがここに行くのは決定してるんだ……」

「ふふふ、コハルちゃん。時には諦めも肝心ですよ?」

 

 乾いた笑みを浮かべながら呟くコハル。

 ヒフミとアズサが言う「ペロロ様」とは、彼女たちが愛好するキモカワ……いや、ブサカワ系マスコットシリーズ「モモフレンズ」という中の一体なのだが、コハルとハナコは別にその名状しがたい外見のマスコットたちの事が好きでも嫌いでもないのだ。

 どちらかというと、()()()というネーミングに不健全な匂いを(勝手に)感じ取ったコハルは嫌いなまであるのだが、そんなこと2人のペロロ愛の前では塵も同然。

 補習授業部の4人で遊ぶことに関しては普段から乗り気なハナコがヒフミたちに反対するわけも無く、民主主義に則った多数決によって、補習授業部は今週末に開催されるというキヴォトスラーメンエキスポへ遊びに行くこととなったのだ。

 

 

 そして、週末。

 来たるラーメンエキスポ当日を迎え、ヒフミたち補習授業部の4人はトリニティ自治区を飛び出し、復興の終わったD.U.シラトリ区へとやって来た。

 キヴォトス存亡をかけた決戦の最中、突如出現した巨大怪獣ペロロジラと、同じく突如出現した巨大ロボットKAITEN FX Mk.(インフィニティ)との大激突によって崩壊したシラトリ区は、決戦後に行われた連邦生徒会主導による復興作業で元の平和な街並みを取り戻していた。

 あの赤く染まった空が幻だったかのように青く澄み渡る快晴の下、非売品かつ限定品であるラーメンペロロストラップを手に入れられる興奮で頬を赤く染めたヒフミとアズサは、2人仲良く並んで会場の公園へと向かい──。

 

「……こ、これは?」

「えっと……皆、エキスポに出店する方々なんじゃ……ないかな?」

 

 公園の敷地を大きく飛び出してずらりと並ぶ、大勢の客を目の当たりにした。

 時刻は午前7時。余裕をもってエキスポ開催の3時間前にやって来たヒフミたちだったが、エキスポの会場前にはそれすらも上回る熱量を持った人々の群れが出来上がっていた。

 休みの日に、ここまで早い時間に外出することなど無いのだろう。

 口をもごもごと動かし寝ぼけ眼のままフラフラと歩くコハルをそっと支えながら、ハナコは冷静に集まっている客層の分析を行う。

 

「いえ、彼らはエキスポに出店する方たちではなく……純粋に、このエキスポへラーメンを食べに来た方たちなのではないでしょうか?」

「純粋にラーメンを食べに来た人たち!?」

「ペロロストラップを貰いに来たのではなく!?」

「それメインで来ているのは多分私たちだけだと思いますけど……」

 

 まるで信じられないものを見た、とでも言うようにハナコの方へ振り返る2人。

 コハルがまだお眠なため、いつものように不健全な発言で場を賑やかすことも出来ず狂信者たちのツッコミ役へとなるしかないハナコを他所に、ヒフミとアズサは会場前にたむろする人々をじっと観察していた。

 だからだろうか、

 

「……待て、ハナコ。それは少し違うと思う」

 

 集まった人々の多くにあった「ある違和感」に気付いたアズサは、少し眉をひそめてその違和感を確信へと変えるべく更なる観察を行う。

 それに続き、同じく何かに気付いたヒフミも不思議そうな表情で首を傾げた。

 

「あのお客さんが持っているトートバッグ……日焼けでプリントが薄れてますが、確か数年前に廃刊になったモモフレンズクラブ増刊号の特別付録だったような……。あっ、あっちのお客さんが手首に着けているミサンガ、あれはファンの間で『幻のグッズ』として有名な正月限定ペロロ神社の!」

「ああ。ここに集まっている客の半数以上が、皆なにかしらのモモフレンズグッズを持っている。それも……今では入手の難しい付録や限定品ばかりだ」

「えっと、その……つまり?」

 

 ゲリラ戦の極意を叩きこまれ、相手の性格や癖を見抜くための観察眼を養ったアズサはまだしも、完全なるペロロへの愛でそれと同等の分析を行ったヒフミ。

 そんな彼女たちの言葉を受けて、ハナコの実は優秀な思考回路が一つの回答を導き出すものの……まさかそこまでモモフレンズが人気だとは夢にも思っていなかったハナコは、信じたくないような複雑な心境で2人へ問いかける。

 そんなハナコの問いかけに、これから補習授業部に待ち受けているだろう厳しい戦いに向けて闘志を燃やすヒフミとアズサは厳かな声音で告げる。

 

「ハナコ、これは厳しい戦いになるぞ」

「ラーメンペロロ様のストラップ、絶対にゲットしましょうね!」

 

 こうして、予想を遥かに超える高倍率の競争を戦い抜くこととなった補習授業部の4人だったが……現在午前7時を少し過ぎたところ。

 キヴォトスラーメンエキスポの開催は午前10時からのため、公園から仕込みを終えた各種ラーメンの良い匂いが漂う中、ヒフミたちは長い待ちぼうけを食らうのであった。

 

 

 それから3時間後。

 この日のために朝食を抜いてまで会場へとやって来たヒフミたちだったが、花も恥じらう女子高生といえど近隣まで漂ってくるラーメンの暴力的なまでに食欲をそそる匂いには抗うことが出来ず。

 午前10時を迎え会場である公園に入場する頃には、すっかり飢えた狼のように空きっ腹を抱えてしまっていた。

 本来であれば、ヒフミたちよりも前から開場待ちをしていた人々に負けぬよう、一目散にラーメンペロロストラップを確保しに行く予定だったのだが……ようやく入場できた会場は、あちらこちらから美味しそうなラーメンの香りが漂ってくる。

 ペロロへの愛が青天井なヒフミであるが、そんな彼女もヘイローをもつ普通の人間。三大欲求の一つである食欲から完璧に抗うことは出来ず、ちらちらと他の出店へと視線を散らせてしまっていた。

 それが命取りとなったのだろうか。

 

「すみません、ラーメンペロロストラップはもう無くなってしまってて……」

「そ、そんなぁ……」

「やはり、全ては虚しいものなのか……」

 

 お目当ての限定ラーメン店へとたどり着いたころには、既にラーメンペロロストラップの在庫が尽きているという残念な結果に終わってしまったのだ。

 見本として飾られていた、スープの入った丼に頭から突っ込み苦し気に藻掻くペロロのストラップを名残惜しそうに見つめるヒフミとアズサだったが、店員からは「そちらはあくまでも見本でして」とそれの配布を断られ、かつ1つだけストラップを確保出来たとしてもそこに意味は無く。

 結果、公園の隅で「どこまでいっても全ては虚しいものである」というかつての教えを呟くアズサと、絶望から膝をつくヒフミの姿があった。

 

「たかだかストラップくらいで、何を大袈裟な……」

「こーら、コハルちゃん。コハルちゃんも好きな官能小説を買い損ねたら悲しいでしょう?」

「べっ、別に悲しくないし! ていうか、私はそんなエッチなものなんて買わないんだから!」

 

 ようやく目を覚ましたコハルは呆れた表情でショックを受ける2人に声を掛けるが、その言い方を諫めるハナコの言葉に顔を真っ赤にして反論する。

 とはいえ、憎まれ口を叩きつつもコハルはしっかりとヒフミたちに朝から付き合っているのである。言葉とは裏腹に2人を心配していることは、この場にいる全員に伝わっていた。

 ハナコのからかいに反応してぎゃーぎゃーと喚くコハル。

 そんな少女たちのじゃれあいを背景に。

 

「……まだだ」

 

 絶望の淵に立たされていたアズサの瞳に、意志の炎が灯る。

 

「まだ挫折している場合じゃない。ヒフミ、まだ私たちにはぬいぐるみ抽選会がある……!」

「……!」

 

 アズサの言葉を聞いて、ヒフミもゆらりと立ち上がった。

 自分たちの油断から、愛は負けていないという慢心から、限定ストラップの確保には失敗した。

 けれど、そうだ。

 まだ自分たちには、優勝記念のラーメンペロロぬいぐるみ抽選会がある──! 

 ずり落ちていたペロロバッグを背負い直し、膝についた埃を払い落として。アズサとヒフミは失意の底から舞い戻った。

 全ては、あの限定ラーメン店を優勝させるために。

 全ては、限定ラーメンペロロぬいぐるみを手に入れるために。

 

「そうです。私たちにはまだ出来ることがあります……! アズサちゃん、ハナコちゃん、コハルちゃん。みんなで力を合わせて、この難局を乗り越えましょう!」

「ああ、もちろんだ!」

「ふふっ、面白くなってきましたね」

「私もうお腹ペコペコで帰りたいんだけど!?」

 

 コハルの抗議がヒフミたちの耳に届くはずも無く。

 民主主義に則った多数決によってぬいぐるみのために件のラーメン店の優勝を後押しすることとなった補習授業部は、売上への貢献も兼ねた腹ごしらえとして、先程の出店でラーメンを食べることにした。

 ……食べることにしたのだが。

 

「すみません、先程のお客様の分で本日の仕込みは売り切れてしまって……」

「ええっ!? も、もう売り切れちゃったんですか!?」

「……流石にそれは早すぎるんじゃないか?」

 

 先程のラーメン店へ赴いた補習授業部へ告げられたのは、つい先程ラーメンの在庫が切れてしまったという、無慈悲な宣告だった。

 優勝記念でラーメンペロロぬいぐるみの抽選会をやる、と宣言したわりには、あまりにもラーメンを売る気の無い店の様子に流石に違和感を覚えたのか、アズサは訝し気な表情で出店を切り盛りしているらしいロボットの店員へ問いかける。

 しかし店員の表情は変わらず、申し訳なさそうな声音のまま「とにかく、ラーメンの在庫はもう残っていませんでして……」と答えるばかり。

 その違和感は横から見ているだけのハナコにも伝わったのか、店員を不用意に刺激しないようそっと横から会話に入り込むと、断りをいれつつ問いかける。

 

「あの~、でしたら仕込みで出た食材の廃棄はもう済ませたのでしょうか?」

「はい? 食材の廃棄ですか? ……どうして貴方たちにそれを答えないといけないのですか?」

「いえいえ。少しだけ気になってしまったと言いますか~」

 

 腹を探られていると気付いたのだろう、少し険のある声になった店員を宥めるハナコ。

 態度の悪い店員に、曲がったことの許せない性格のコハルが一言物申そうとするが、後ろに立っていたハナコから口を塞がれ──ついでに、なぜか口内に指も突っ込まれたことによりもがもがと言葉にならない声を漏らすに留まった。

 

「ちょっと、流石に──もひゃもごっ!?」

「私たち、朝からここのラーメンを目当てに並んでいて……。出来れば、記念にラーメンでなくてもいいので何か食べ物を売ってもらえると嬉しいのですが」

「ああ、そうでしたか……。そんなに楽しみにしていただいていたのに、大変申し訳なかったです。ラーメン以外でよろしいなら、こちらの『ペロロまん』なんてどうでしょうか?」

 

 上手く話を逸らしたハナコの言葉に、再び申し訳なさそうな表情を作った店員。

 そんな彼は、なにか思いついた様子で背後に設置してあった業務用蒸し器──その中に陳列してあった『ペロロまん』なる食べ物を彼女たちの方へと差し出してきた。

 それを見たハナコは何かを悟った鋭い表情を浮かべたものの、すぐに笑顔の仮面を被り直す。

 そして、店員の言われるがままに人数分の『ペロロまん』を買うと、コハルの拘束を解き、どこか急いでいる様子で他の3人を連れて件の店を離れるのであった。

 

 

「ちょっと、口を塞ぐなら普通に口を塞ぎなさいよ! なんで指なんて入れてきたの、汚いでしょ! このヘンタイ! 淫乱ピンク!」

「あらあら、口を塞ぐ前にちゃんとアルコールのお手拭きで消毒していましたが……。それにコハルちゃんのお望み通りマウス・トゥ・マウスで塞いでしまうと、私が喋れなかったので……」

「だだだっ、誰がキスしろなんて言ったのよ!」

 

 数分後、エキスポのメイン会場から少し離れた芝生広場にて、補習授業部の4人は朝食とするには足りないペロロまんをもそもそと食べていた。

 さきほど口を塞がれた際に、ついでに指を突っ込まれ口内を探られたコハルがぎゃーぎゃーと騒ぐ中、ヒフミとアズサはどこか納得のいかない様子で、オーソドックスなペロロを象った肉まんを食べる。

 象った、といえどやはり製作過程で形は崩れるもので、膨らんだせいかいつものペロロから5割増しでグロテスクな見た目となったペロロまんの頭を貪りながら、ヒフミはぽつりと呟いた。

 

「……このペロロまん、少し前に期間限定で販売されていたものです」

「ああ。この味、この可愛い見た目。毎日食べていたあのペロロまんそのものだ」

「限定ショップということでリバイバルされた、というだけなら嬉しいで終わりますけど……流石にそれは」

 

 希望的観測が過ぎる。

 と、ヒフミは最後まで言うことが出来なかった。

 これまでの一連の流れ、そして長いブラックマーケット通いによって培われたヒフミのアウトローとしての勘が囁いている。──これは何かがおかしいぞ、と。

 けれど、ペロロまんを食べる手は止まらない。

 その見た目からSNS上では「極めてなにか食材に対する侮辱を感じます」だの「美食に対する宣戦布告と受け取ってもよろしいでしょうか」だの「絶対許さんぞ陸八魔アル」だの散々に言われたペロロまんだが、健気な企業努力の甲斐もあって味自体は通常の肉まんよりも上等な出来栄えに仕上がっている。

 使われている肉は利益の出るギリギリのコストを攻めた上等な牛肉で、ペロロのアホ毛や舌などの特徴的なカラーリングを再現するために着色料こそ使われているものの、ミレニアムサイエンススクールの新素材開発部謹製「美味しい着色料1680万色」を使用することによって使っている肉や生地の味を損なう事を回避していた。

 また、ペロロのディティールを再現するために肉まん自体のサイズも大きめで、少しお高めの値段に劣らないボリュームのある美味しさが味わえる、中々に良く出来た商品なのだ。

 割った時に断面から覗く()が、何故か臓物のように見えてしまうその見た目以外は。

 

「それにしても、意外に美味しいですね、このペロロまん。名前も素敵ですし……特に『ペロロ』と『まん』の所が♡」

「なんでそこを分けたのよ、このヘンタイ! エッチなのは駄目! 死刑!」

「あら? 私は単純にネーミングを褒めただけなんですけど……コハルちゃんは一体なにを想像しちゃったんですか~?」

「ぐっ……ああ言えばこう言ってぇ……!」

「あ、あはは……まあ、売り上げは悪くなかったはずなのに、何故か販売期間の途中でどこのお店でも売られなくなったんですけどね……」

 

 そんな意外に美味しいペロロまんに舌鼓を打った補習授業部は、食べ終わった後のゴミを捨てにエキスポの会場に設置してあるゴミ捨て場に向かった。

 腹ごしらえを終えたとはいえ、食べたのは肉まんひとつ。

 会場に漂うスープの香りが食べ盛りの少女たちの食欲をそそるが、それに従ってしまったが最後、翌日から体重計に乗ることが出来なくなるのは目に見えているため4人はかなり頑張って自らの胃袋を抑え込んでいた。

 それに、彼女たちにはエキスポで気になっていることがある。

 限定ストラップを配布すると言っていたラーメン店のことだ。

 ペロロまんのゴミを捨てた後、あの店について調べようと考えていた補習授業部が、会場を囲むようにいくつか設置してあるゴミ捨て場の1つに到着すると。

 

「……ん、ヒフミ? それと確か、補習授業部、だっけ」

「し……シロコさん……? いったい、そこで何を?」

 

 ヒフミの声が動揺した様子で震えるのも致し方ないだろう。

 そこには「2」と額に書かれた蒼い覆面を被り、何故かラーメンの容器をゴミ箱から出し入れしているシロコがいたのである。

 

 

「──なるほど、覆面水着団……いえ、アビドス対策委員会の皆さんもこのラーメンエキスポに参加されていたんですね」

「ん。ラーメンを売れば売るだけお金になるし、優勝したら賞金も出るらしいから」

「それとゴミ箱に容器を出し入れしていたのは、一体何の関係が……?」

 

 とりあえず、目的だったゴミ捨てを終えて。

 ヒフミたちは覆面を脱いだシロコに連れられて、アビドス対策委員会が出店しているラーメン店のバックヤードにやって来ていた。

 エデン条約を巡る騒動の中で知り合った、補習授業部とアビドス対策委員会。

 繋がりが出来たとはいえ、主にそれはヒフミを介してのもののため未だに距離感を測りかねているところがあるものの、騒動後もおおむね好意的な交流を彼女たちは行っていた。

 とはいえ、先程のシロコの奇行には彼女たちも理解しがたいものだったようで、何かしらの作戦行動か、と訝しむアズサからの問いかけに、追加のラーメンの仕込みを始めたシロコが何でもない様子で答えた。

 

「あれでラーメンの売り上げ数を嵩増し出来ないか試してた。ホシノ先輩は良い顔しないだろうけど、このままじゃちょっと雲行きが怪しかったから」

「えっ、いやゴミ箱に容器を出し入れするだけで魔法みたいに売り上げが増えるわけなくない……? なに言ってるの?」

「コハルちゃん!」

 

 バカを見るような目で正論を言ったコハルに慌ててヒフミが注意するものの、シロコはそれを気にした様子も無く首肯する。

 

「ん。確かにラーメンの利益自体は増えない。ただ、このエキスポで私たちが競っているのは『ラーメンを売った数』だから」

「……もしかして、容器に何かしらの細工がされていてゴミ箱と売り上げの集計システムが連動している、ということですか?」

「そういうこと」

 

 シロコの説明によれば、エキスポに参加している店で提供されるラーメンのカップの底には特殊な磁気塗料塗られたシールが貼られているらしく、特製のゴミ箱がカップを入れられた際にそのシールを読み取って、各店の売り上げを電子的に計測しているらしい。

 ということは、そのゴミ箱のセンサーの前で容器を出し入れすれば、その分だけラーメンの売り上げ数を伸ばすことが出来るのではないか──と考え、身バレ防止として覆面を被った状態であの奇行に及んだらしい。

 

「いや、思いっきり不正じゃない!!」

 

 元正義実現委員会所属として見過ごせないのだろう、怒りの声をあげたコハル。そんな彼女からの糾弾に、少しばつが悪そうな表情でシロコは視線を逸らした。

 

「ん、でも駄目だった。参加者は端末からリアルタイムで現在の集計結果を確認できるんだけど、同じ容器の磁気は記憶されるみたいで1回分しか嵩増し出来てなかった」

「むしろ1回は誤魔化せたんですね……」

 

 だとすれば、わざと空の容器を大量に廃棄すれば結果を操作できるのではないか、と考えたヒフミだったが、チンピラなどのテロ行為防止のため中身の見える透明なゴミ箱に新品の容器が大量に入っていればとても目立つ。

 かといって、各地のゴミ箱に分散して入れようにも監視の目となる客は多く、それこそ大勢の身内をサクラとして動員するでもしないと、そう大きく集計結果を嵩増しすることは出来ないだろう。

 考えればやりようはあるのだろうが、簡単には誤魔化せない。エキスポの集計システムは、大雑把ながらもそのような仕組みになっていた。

 

「ちょっと、シロコ先輩!? 話してる暇があるなら接客の方を手伝ってほしいんだけど! 先輩がトイレに行ってる間にも客は来てるんだからね!?」

「ん。ごめん、セリカに呼ばれたからちょっと接客の方に回るね」

「あ、はい。私たちも少し用事があるのでこれで──」

 

 と、その時。

 今はそれなりに繁盛しているらしいアビドスの出店、その接客からラーメンの販売まで八面六臂の活躍で働いていたセリカからの救援要請を受けて、シロコもそちらに回ることとなった。

 聞けばエキスポ開催からしばらくの間閑古鳥が鳴いていたため、作り置きのスープに麺と具材を入れて客に渡す接客担当としてセリカが、追加のスープの仕込みなど調理担当としてシロコが店に残り、他の委員会の面々は即席のチラシ配りや看板での宣伝に向かっているらしい。

 これ以上邪魔をするのもいけないと、シロコが接客に回るタイミングでアビドスの出店を後にしようとしたヒフミたちだったが。

 

「──うへえ、おじさんは別にサボってたわけじゃないんだけどなあ~」

「そんなこと言って、公園のベンチで船を漕いでたのは誰……って、あれ、補習授業部のみんな? ラーメンエキスポに来るなんて意外だね、どうしたの?」

『先生!?』

 

 脱走した猫でも捕まえたように脱力したホシノを抱えた先生がやって来て、その動きは中断されるのであった。

 

 

「先生こそ、このエキスポにどうして……って、ああ。ここはシャーレのオフィスからそう遠くなかったね」

「やあ、アズサ。うん、仕事の休憩と昼食も兼ねて、対策委員会のラーメンを食べにね。その途中で、ベンチでサボってたホシノを見かけたから拾ってきたんだ」

「あの後も散々ラーメンを食べて貢献したんだから、おじさんのささやかな休憩くらい見逃してほしいなあ!」

「アヤネやノノミ先輩が必死に宣伝してるのにサボらないでよ! ほら、ちゃっちゃと働く!」

「うへえ~!」

 

 ホシノのサボりを知ったセリカが般若の形相で彼女を接客へと連れだした後。

 アヤネとノノミの宣伝が功を成しているのだろう、忙しさの増した接客に悲鳴をあげるホシノの声を流しつつ、先生と補習授業部の4人はバックヤードで会話していた。

 シロコが連れてきたとはいえ、このまま何もせずに居座るのもばつが悪かったヒフミたちは、先生とおなじく対策委員会お手製のラーメンを食べて売り上げに貢献している。

 普段からよくラーメンを食べるわけではない彼女たちにとって、尖った味に仕上がった対策委員会のラーメンは手放しで褒めることの出来るものではなかったが、それでも美味しく食べることの出来る味だったため、とくに文句も無く全員ずるずると麺を啜っていた。

 

「うん。前に食べた時も美味しかったけど、そこからさらに美味しさに磨きがかかってる。みんな良く頑張ったね」

「ん。おかわりもあるからいっぱい食べていいよ、先生」

「せいぜい売り上げに貢献していってよね! 私たち、まだ順位で言ったら5番目くらいなんだから!」

「……うん? そんなに客が来ているのに5番目なのか?」

 

 セリカの言葉に反応したのは、アリウス時代に配給として食べたカップ麺以来のラーメンに舌鼓を打っていたアズサ。

 こういったイベントに参加したことが無かったためよく分かっていない彼女は、現在のアビドスの出店はエキスポで上から5番目の繁盛だとは思わなかったのだ。

 だが、それに関して違和感を覚えたのは先生も同じだったようで、対策委員会がエキスポに参加することを知っていたため他の店への客の入り具合を確認していた彼は、麺を啜る手を止めて自分の記憶を確かめるように宙へ視線を向けた。

 

「うーん、私が見た範囲だと、ここ以上に賑わっているのは玄武商会の店くらいだったはずだけど……」

「お疲れ様です、宣伝用のチラシを配り終わりました──あれ、先生と……補習授業部の皆さん? いらっしゃいませ、ラーメンを食べてくれてるんですね、ありがとうございます!」

「賑わってますね~! 私たちが頑張った甲斐がありました☆ これなら結構順位が上がったんじゃないですか? 狙い通りに優勝しちゃったりして!」

 

 と、そこで一通りの宣伝を終えたアヤネたちが戻ってきた。

 肌寒い冬とはいえ、昼下がりに会場を練り歩くのは中々に良い運動だ。すこし汗ばんだ額をタオルで拭いながら帰ってきた彼女たちの言葉に、在庫が少なくなってきたラーメンを仕込みに厨房へ戻ってきたシロコが首を横に振る。

 

「残念だけど、いまは5位。しかも結構な数で離されてる」

「え!? いろいろなお店を見てきましたけど……ここ以上に賑わっているのは、玄武商会の中華そば屋くらいでしたよ?」

「ああ、アヤネも見たんだ。凄いよね、あの繁盛具合」

「私も見ましたね~。なんというか、流石は本職の人たちって感じがしました!」

 

 だが、シロコの言葉にアヤネたちは驚いた様子で目を見開く。

 たしかに対策委員会の出店はエキスポが始まってすぐは閑古鳥が鳴いていたものの、宣伝を行ってしばらくしてからアヤネとセリカの狙い通り客足がかなり増えたのだ。

 現にアヤネたちが宣伝している間に確認した、自分たちの対抗馬である玄武商会の賑わいは今の対策委員会のそれを上回っていたものの、だからといって現在の対策委員会の順位がエキスポ内で5位というのは流石に低すぎる。それも、大差をつけられるほどでは絶対にないのだ。

 そういったアヤネとノノミの言葉に先生も同意し、少し眉を顰めたシロコ。

 彼女はスープを煮込む手を止め、端末を操作するとエキスポのランキング、その一番上に名前を刻む王者の名前を読み上げた。

 

「──っていう名前のお店らしい」

「……え、ええ!?」

「それは本当ですか、シロコさん?」

 

 それに強い反応を示したのは、他ならぬ補習授業部の面々だった。

 なぜならその名前は、彼女たちが朝早くから会場を訪れ、限定ストラップを貰おうとして品切れだと断られた、あのラーメン店だったのだ。

 驚くヒフミの向かい側で、すっと目を細めるハナコ。

 何かを確信した様子の彼女の問いかけに、シロコは肯定を示す。

 

「ん。だいたい私たちの今の売り上げの2倍……2位の玄武商会と比べても1.5倍くらい違う」

「それは……流石におかしいんじゃないか? だって、私たちがラーメンペロロを貰いに行ったときは売り切れだって……」

「ラーメンペロロ、ですか?」

「……はい。実は──」

 

 こういった物事には疎いアズサでも、流石におかしいと思ったのだろう。

 彼女が思わずといった様子で漏らした呟きに、アヤネは小首を傾げた。

 そんな彼女に、ヒフミは今日エキスポにやってきたあらましを説明する。エキスポ限定配布のラーメンペロロストラップを貰いに来たこと、朝一で会場入りしたのにラーメンが売り切れており、同じくストラップも品切れになってしまっていたこと。

 代わりにペロロまんを食べ、ゴミ捨てに行ったところ不審な行動をするシロコと出会ったということ……。

 

「……いや、待って。何か今、変な場面が混ざってなかった?」

「そんな事ない。先生の気のせいだと思う」

「……」

 

 真顔で言い切るシロコに、なんとも言えない表情を向ける先生だったが、しょうがないとでも言うように1つため息を吐くと、とにかく……と話を続けた。

 

「アヤネやノノミ、そして私の見てきた限りでは件の店が繁盛しているといった様子は見られないし、ヒフミたちの話からもその店が大量のラーメンを売り切ったとも思えない」

「朝から集まっていたという、大量のモモフレンズファンの方々がラーメンを買い切ったというのは~……」

「それは考えにくいと思います、ノノミさん。今のこのお店のように追加の仕込みで発生する廃棄の食材ゴミもなければ、お店の奥に空の寸胴鍋がたくさん置いてある、という事も無かったので」

「ということは……」

 

 恐る恐る、といった様子で最悪の予想をするアヤネの考えを、先生は残念だけどという言葉と共に肯定した。

 

「この1位のお店は、間違いなく不正をしているだろうね」

「あと、朝見かけた人たちはおそらくそのお店の雇ったサクラだと思います。ヒフミちゃんとアズサちゃんのいうことには、モモフレンズの限定品を身に着けていたようですが……。まさか、限定品を身に着けるほど愛が強いのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

「よく分かんないけど、それって……あの連中はあの店とグルだったってこと?」

 

 話の流れを掴めていないのか、どこか不安そうに口を開いたコハルの言葉にハナコは頷いてみせる。そして、それだけではなく──と最悪の想定を続ける。

 

「こちらの3位と4位の店。あとはこのような投票システムを用意したエキスポ運営の一部もこの件に噛んでいる可能性があります。先生方が揃って2つも賑わっている店を見逃すとは思えませんから」

「ですが、一体なんの目的で……。優勝賞金を狙ったとしても、わざわざ限定ストラップなんてものを売りにする必要なんてどこにも」

 

 ハナコの言葉を聞いて、しかし納得がいかない様子でアヤネが尋ねる。

 その疑問に答えたのはハナコではなく、どこか据わった眼をしたヒフミだった。

 

「限定グッズの転売……」

 

 その言葉を聞いて、思い当たる節のあったアズサはまさか、と言葉を漏らす。

 モモフレンズ教教祖であるヒフミの布教によって、モモフレンズの可愛さに目覚めたアズサ。

 そんな彼女は、日夜ヒフミと共にモモフレンズグッズのために東奔西走、時にはブラックマーケットにだって潜入し、貴重なペロログッズの情報や露店に流れ着いた限定品の確保に勤しんでいた。

 アリウス分校時代に学んだゲリラ戦を行う上で必要な「諜報能力」に、時として荒事となるのも厭わない「武力」を総動員していた彼女ですら、時として確保不可能な限定品が存在する。

 今は自分が世間知らずだと自覚しているアズサは、世の中にはそのようなグッズも存在するのだろうと自分を納得させて諦めていたが……。

 今思えばそういったグッズの大半が、ヒフミが「コンテンツの敵なので利用厳禁」と言っていたフリーマーケットアプリ──言い方を変えれば()()()()のアプリで高額の取引をされていたはず。

 

「限定品と謳い、しかし身内のみでその品を回すことで一般には流通させず、転売によってその価値を法外なレベルにまで釣り上げる……? それは、あまりにも」

「うん。褒められた手段じゃないね、かなり悪質な()()だ」

「まさか……優勝記念のラーメンペロロぬいぐるみも、最初から私たちに渡すつもりがない?」

「出来レースの抽選会、ですか……」

 

 トリニティで数々の泥沼を見てきたハナコでさえ眉根を寄せる「悪意」に、厳しい表情を浮かべる先生。彼の言葉にあった商売という単語に異議を唱えたのは、正義実現委員会のエリートとしてトリニティの悪意を前にしても素直な心根を見せたコハルだ。

 

「こんなのが商売なわけないじゃない! 別に私はモモフレンズが好きなわけじゃないけど……こんなの間違ってる!」

「でも、ここまで周到な計画で転売を行う相手に、どうやって立ち向かえば……」

 

 コハルの憤りは痛いほど分かる。

 しかし、ラーメンエキスポというモモフレンズとはほぼ無関係なお祭りを転売の踏み台にするという大規模な仕掛けを行うような相手に、そういった権力は一切持たない少女たちがどうやって立ち向かえばいいのか。

 この問題に対して、シンプルかつこの場において最も効果的な答えを出したのは。

 静かに話を聞いていたシロコだった。

 

「簡単だよ、みんな」

「まさか、シロコ先輩……!?」

「ああ、うん。まあ相手は正攻法で相手取るには時間のかかる相手だろうし……行ってらっしゃい。いざとなったら、私が責任を取るから」

 

 立ち上がり、その場にいる皆に見せつけるように差し出すその手に握られていたのは──青い覆面。

 それを見て、彼女が何を言いたいのか察したアヤネは頬を引き攣らせたが、モモフレンズファンの端くれであるノノミはニコニコと笑顔を深め、今回のやり方に()()()()()を感じた先生は苦笑いを浮かべつつも生徒たちを見送る態勢を取る。

 当然、生徒たちを無責任に送り出すのではなく、自身もシッテムの箱とシャーレの権限を使って出来る限りフォローするつもりで。

 そして、先生の承認も得たシロコはどこか誇らしげな表情を浮かべながら。

 

「──ん、他の店を襲うの」

「不正をしているお店は、ぜ~んぶお掃除しちゃいましょう☆」

「やっぱり!? というか、先生も止めてください!?」

 

 覆面水着団の出動を宣言した。

 予想通りの展開となったことに対して諦め混じりの叫びをあげたアヤネ。

 いつも通りのフラットな表情を浮かべるシロコはともかく、彼女の提案を待ってましたとばかりのイイ笑顔で肯定するノノミからは、底知れない怒りのオーラが漂っている。

 アビドス対策委員会唯一のモモフレンズファンである彼女にとって、ファンの愛に付け込んで限定グッズを転売する者の存在は到底看過できるものではないのだろう。

 ──となれば、モモフレンズグッズを求めてブラックマーケットに通い、学校の試験をサボってまでペロロのゲリラライブに参加するヒフミの怒りたるや。

 

「……モモフレンズの限定グッズを、お金稼ぎに、不当な手段で転売……?」

「ひっ」

 

 ゆらり。

 ヒフミの背後から、正体不明の陽炎の如き揺らぎが見える。

 それはモモフレンズのためなら西へ東へ、補習授業部の皆を巻き込むことすら厭わない狂信者(ヒフミ)が虎の尾を踏まれたことによる、かつてない怒りの発露であった。

 隣で怯えたように身を竦ませるコハルの様子に気付いた様子も無く、ヒフミは静かに呟いた。

 

「許せません」

 

 ヒフミは激怒した。

 ヒフミには相手の事情が分からぬ。

 ヒフミは、普通のトリニティの生徒である。

 モモフレンズを愛し、モモフレンズのために暮らしてきた。

 だからこそ、モモフレンズを穢す邪悪に対しては人一倍敏感であった。

 

「──あれえ、なになに? おじさんたちが働いている間に、なんだか物騒な雰囲気になってるねえ?」

「あーもう、つっかれたぁ……売り上げが伸びるのは嬉しいけど、忙しすぎるのも考えものね……って、え? みんなどうしたの?」

 

 客の流れに一区切りついたのだろう、くたびれた様子でバックヤードへと戻ってきたホシノとセリカが目を丸くする前で、ヒフミは高らかに鬨の声をあげる。

 同時に抱えていたペロロバッグの中から取り出して、やけに慣れた手つきで被ったのは「5」と額に書かれた「5」の文字が特徴的な穴の開いた紙袋(ふくめん)──阿慈谷ヒフミの裏の顔、覆面水着団リーダー「ファウスト」としての正装だ。

 

「あちらがその気なら、こっちにだって考えがあります! 覆面水着団──出動です!!」

 

 その後。

 キヴォトスラーメンエキスポの店舗一覧から、いくつかの店の名前が消えた。

 そして、ラーメンの代わりに例のペロロまんを提供……もとい在庫処分していたラーメン店は、襲い来る覆面少女たちからほうほうの体で逃げ出した先で、美食の鉄槌を受けたとか、受けていないとか。

 

 

『──えー、複数の参加店舗が爆発四散するなど、様々なアクシデントに襲われたキヴォトスラーメンエキスポでありましたが……それらを乗り越え、みごと優勝の栄光を掴んだのは玄武商会の「元祖山海経そば」です! おめでとうございます!』

「ま、そうなるよねえ。ただでさえ売り上げで負けてたのに、おじさんたち最後の方は暴れちゃったから」

「あうう、ごめんなさい、私たちの事情に巻き込んでしまって……!」

「ん、でも不正してた店は全部潰せたし、2位にはなれた。初めてラーメンを作ったにしては上出来」

 

 ちなみに、覆面水着団と補習授業部の活躍によって不正に売り上げを伸ばしていた店が全て消えた結果、エキスポで優勝を飾ったのは、やはりと言うべきか玄武商会の店だった。

 対策委員会も頑張ってはいたのだが本場の味には勝てず、最終的な売り上げは玄武商会と対策委員会で2倍ほどの差が生まれている。しかし対策委員会は売り上げ第2位を獲得し、優勝賞金こそ逃したものの、普段のアルバイトよりも潤沢な利益を得ることに成功していた。

 

「ま、優勝出来なかったのは残念だけどお金は稼げたし、結果オーライって感じね」

「今月の利子は余裕を持って返済出来そうですね、良かったです! 食堂を貸したり、応援に来てくれたりした先生にも感謝ですね」

 

 今回の発案者のセリカと参謀役だったアヤネは、優勝を逃した事よりも狙い通りにお金を稼げたことにホクホクとした笑顔を浮かべている。ちなみに、先生は覆面水着団たちの戦闘支援を終えた後、不正に一枚噛んでいた転売団体の調査のためシャーレへと帰還していた。

 この調子でセリカがちゃんとした金策をどんどんと提案してくれたら……とアヤネは密かに願っていたが、悲しいかな、それが儚い願いであることは他でもない彼女自身が良く分かっていた。

 そんな後輩たちの隣で、良い事を思いついたと朗らかな笑みを浮かべたノノミが手を合わせる。

 

「そうだ! 先生が帰ってしまっているのは残念ですけど……補習授業部の皆さんも一緒に、これから柴関ラーメンで打ち上げしませんか~? 私たちにラーメン作りを教えてくれた人の経営してる屋台で、セリカちゃんもそこでバイトしてるんです☆」

「ってちょっと、ノノミ先輩! 今日はバイトお休みだしもう充分働いたから、行っても私なにもしないからね!?」

「とか言っちゃって~、いつもの癖で接客しちゃうんでしょ? おじさんたち知ってるよ~?」

 

 和気藹々とした対策委員会からの誘いに、申し訳なさそうだったヒフミも笑顔になる。

 

「あはは、私は大丈夫ですけど……アズサちゃんたちはどうですか?」

「私は大丈夫。動き回ってお腹も空いて来たし、丁度良いと思う」

「たまにはラーメン尽くしの一日、というのもいいですよね♡」

「わ、私も別に大丈夫だけど……」

 

 3人の了承も得て、肩を並べて戦い、絆を深めた対策委員会と補習授業部の少女たちは、皆で連れ立って打ち上げへと向かう。

 こうして、キヴォトスでの平穏な一日が過ぎていくのであった。

 

 







 その後、再び覆面水着団とヒフミ──加えて今度は補習授業部全員との関係が噂され、カップを持つ手が震えるナギサの姿が見られたとか、見られていないとか。


6話以降のおしながき(アンケ投票順に書く予定)

  • セミナー×パウンドケーキ
  • 救護騎士団×うどん
  • 便利屋68×七草粥
  • 放課後スイーツ部×例の丸い饅頭
  • ヴェリタス×ピザトースト
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