まあ、過去の話ですがね。
それではどうぞ。
一之瀬side
やぁ、初サイドの一之瀬一哉だ。
今、あのイタズラっ子の事を聞いてるんだけど……。
「…………」
後ろに居る青木がさっきからずっと黙ってるんだよね。ブツブツ言いながら、何やらドス黒いオーラを放ってるような気がするんだ。間違いなく。
たい焼きを潰された事を根に持ってるんだろうけど、俺に殺気を当てるのはやめてほしいな、うん。
もう怖くてガクブルなんだよ。
あのイタズラっ子は
それで仕掛ける罠が何ともう悪どい。落とし穴を掘ったり靴底を床に接着剤で付けたりボールにペンキを仕組んだり……。かなり性格が歪んでる奴みたいだ。
「でもどうして、そんなに皆の事が信じられないのかしら?」
秋が疑問をぶつけると、返ってきた答えは驚愕のものだった。
「木暮は小さい頃、親に裏切られたようで」
「親に?」
「ええ、それ以来、人を信じることが出来なくなったようです」
だから、あんな歪んだ性格になってしまったのか……。
俺が1人納得していると、ふと後ろからの殺気が消えた。
振り返ってみると、青木は腕を後ろで組んで、じっと話を聞いていた。
が、くるっと回れ右して、どこかへ行こうとしていた。
「青木? ちょ、どこ行くんだよ」
俺が思わず声をかけると、青木はこちらを向かず、足を止めずに答えた。
「たい焼き買って来ます。すぐに戻りますので、御心配無く」
青木は校門の方へとさっさと歩いて行った。
青木side
たい焼きを買って、また漫遊寺中へ戻ってきた。
え? 戻ってくるのが早過ぎるって?
要らない時間は作者が美味しく頂いたから問題は無いわ。
で、戻ってくるなりこんな事を聞いた。
彼ら……つまり漫遊寺中は、戦う気は無いと。
はぁ……話し合いで何とかなる程、奴等は甘くないわ。出来たらもうやってるわよ。
だから、今私達に出来る事は無い。
それなら、と言わんばかりに円堂さんが声を上げる。
「相手はエイリア学園ファーストランクチーム。こっちももっと特訓して、強くならないとな!」
「特訓……ですか。なら、練習場所を……」
「練習場所ならあるよ」
探そう、と言ったその時に、吹雪さんが言った。
しかも、また両サイドに女の子を連れて。
「この向こうに川があって、その河川敷ならサッカー出来るって。ね?」
「「はい!」」
「また何かあったら、宜しくね」
「「はーい‼︎」」
そう言って、女の子達はぱたぱたと走って行った。
「……まあ、練習場所も見つかった事ですし、行きましょうか」
「ねぇ、君!」
見知らぬ男子から、声をかけられた。
制服からして、漫遊寺中かしら?
「あのさ、一緒にお茶しない?」
「は……? 一体何のタイミングを見計らって声かけてきてるんですか。私達今から特訓するって言ってたでしょう? 先程からじっと見てたなら、聞こえたはずですよね? アホなんですか?」
「え……? え、あ、その……」
「とにかく、私にはそんな暇は無いのです。さっさと戻って修行の続きでもしたらどうですか、鍛え直しなさい馬鹿が」
はぁ……スッキリした。
あの男子は「ママ〜〜〜〜‼︎」と泣きながら逃げて行った。
ハッ……情けなっ。本当に鍛えてるのかしら?
私は溜息をついて、皆と一緒に歩き始めた。
暗くなり、星の煌めく空の下、私は眠れず外に出て、空の見上げた。
近くの岩に腰を降ろし、俯く。私の頭の中では、昼間聞いた木暮さんの事だった。
親に捨てられ、人を信じられなくなった木暮さん。
私には、そんな彼の考えがよく分かるような気がする。
私も親に見放され、身を売られ、実験台にされ、挙句の果てにはストレス発散道具にさせられた。
こんな事されて、人間不信にならないワケがない。
実際、私がそうだった。
でも最近……こう思うようになった。
人間の中には、優しい人とそうでない人がいるという事。
私の親共は、そうでない人。
円堂さん達は、優しい人。
こうして分けられてるのが、醜く尊いこの世界の理なんだ。私はそう思う。
いや、そうとしか思えない。
そう思わないと、怖くて怖くて仕方ないんだ。
「…………ハッ。何て愚かな人間なんだろ、私」
過去にずっと縛られて、逃げられない。
過去と向き合って、前に進むことが出来ない。
ホント、愚かで惨めな人間だよ。
「…………バカみたい……」
そう呟いて、私はそろそろ戻ろうと、キャラバンへ向かおうとした時。
ガサッと何かが草むらで
「あ……」
「こんな夜中に何をしているのですか、木暮さん」
草叢に居たのは、木暮さんだった。
ヤバッとでも言いそうな表情を見せて、苦笑している。
「……私もう怒ってませんから。出て来て下さい」
「…………そう」
バツが悪そうに、木暮さんが草むらから出る。
私はまた岩に座り、溜息をついた。
「で、何をしていたのですか」
「え、えと……」
「ま、貴方の事ですから、どうせイタズラでも仕掛けていたのでしょうけど」
「ギクッ‼︎」
私の発言に、ビクッと肩を揺らす木暮さん。
図星ね、分かり易い。
私は木暮さんにずっと思ってた事を言い放った。
「いい加減やめたらどうですか? イタズラ」
「んなっ……お前には関係無いだろ⁉︎」
「ええ、関係ありませんね。ですが、貴方のやってる事は、心の底からくだらないと思いますよ」
「なっ、何だと‼︎」
「こんな姑息な手を使わないと、奴らには勝てない。仕返しが出来ない。情けなさ過ぎますよ。それに、貴方は漫遊寺中サッカー部の方々の気持ちを分かっていない。彼らは貴方のためを思って言っているのに、貴方は彼らの気持ちを分かろうとすらしていない」
「だ、だって……」
「まぁ……私が貴方に言いたい事は一つ。貴方は幸せ者ですね」
「…………えっ?」
ポカンとした表情で、私を見つめる木暮さん。
私は悲しげな視線を送り、キャラバンに戻った。
う〜ん、青木の過去……何処で出そうかな……? まだちょっと先かな……?
次回、イプシロン出まーす。