「…………?」
目が覚めて始めに見たのは、白い天井だった。
(あれ……? 私、何でここに……)
まだ少し重い体を起こすと、ズキっと鋭い痛みが頭に刺さった。思わず頭を押さえると、頭には包帯が巻かれていた。窓の外には、
確か……吹雪さんを止めようとして……追いついて、庇って、それからの記憶が……。ああ、その時にシュートが頭に当たったのね。
くしゃりと右手で前髪を握り締める。情けないわ。こんなことで病院なんかに運ばれるなんて……。左手を動かそうとするが、何かに押さえられて動かない。ふと左手を見てみると、私の手の上に誰かの手が重なっていた。
「……吹雪さん……?」
神秘的な月光に照らされた銀色の髪。ベッドに無造作に流された白いマフラー。私の左手の上に重ねられている白い肌。間違いない。吹雪さんだ。吹雪さんは私の膝の上に頭を乗せてスヤスヤと眠っていた。
まさか、ずっと私を心配して……?
「………………」
視線が、繋げられた手に行く。手を繋ぐことは別に初めてじゃない。でも、手を繋ぐといつも思う。とても温かい、と。この時だけは、誰かの温もりを感じていられる。この温もりを、いつでも感じていたかった。なのに。
「……運命とは、残酷ですね……」
眠っている吹雪さんに話しかけてみる。返答なんて望んでないが、少しは気が楽になる。
「ん……」
月をぼんやり眺めていると、吹雪さんが目を覚ました。私を一目見ると、目を大きく見開いて私に近付いてきた。
「穂乃緒ちゃん……?」
「はい」
私が短く答えると、吹雪さんは涙をいっぱいに溜めて私に抱きついた。私の胸に顔を埋め、少し痛いくらいの力で体を吹雪さんの腕の中に閉じ込められる。そんなに心配させてしまったのか。私は吹雪さんを安心させようと、背中を撫でた。吹雪さんは相変わらず顔を埋めていて表情は分からなかったが、何の意味か、背中にまわした腕にさらに力を込めて私を抱き締めた。
「……そうですか」
「うん。あの後、ジェネシスは去った。でも、風丸くんと栗松くんがメンバーを脱退して……キャプテンも……そのことで落ち込んじゃって……」
私が気を失った後、何があったか。あれからもう4日も経ったということ。風丸さんと栗松さんが脱退したということ。円堂さんが、円堂さんでなくなっているということ。
私はただ、吹雪さんの口から出る言葉を黙って聞くことしか出来なかった。だって、それについて私が何を言おうとも、過ぎたことは元には戻せないから。
吹雪さんはここまで話し終えると、私を見つめた。
「穂乃緒ちゃん……大丈夫? もう、怪我はいいの?」
「はい。大したことではありませんから。……ところで、吹雪さん」
「何?」
「貴方は何を隠していますか?」
吹雪side
抑揚のない、凛とした声が静かな病室に響く。それだけなのに、僕には時間が止まったような感覚に陥った。恐らく戸惑う表情をしているだろう僕に、穂乃緒ちゃんは何も言わない。ただ、何の感情もない冷たい赤い目に僕を映すだけ。
「貴方はジェネシスとの戦いの時、何を思ってあのシュートの前に飛び出しましたか? あの時、私の目には、貴方が苦しんでいるように見えました。貴方は何を抱えていますか? 吹雪さん」
「……っ‼︎」
何も答えられない。話すべきか、僕のことを。でも、どうすれば……。
「話せませんか?」
「えっ……あ、その……」
「無理には聞きませんが……私は、貴方のことが知りたい」
僕から目を逸らさず見つめてくる穂乃緒ちゃんは、月の光に照らされて、とても神秘的で美しかった。まるで、かぐや姫みたいに……。
「貴方は……いえ、貴方方雷門イレブンの皆さんは……こんな私に笑顔を向けてくれて……共に戦ってくれて……私は、こんなに優しくされるのは初めてで……なのに、私は皆さんから貰ってばかりで、何も返せていない。何か、返したいのです。一生をかけてでもいい。私は決めました。これからは、貴方方の為だけに、この力を振るうと」
ベッドの白いシーツを握り、僕を見つめる目には、決意の光が宿っていた。僕は、穂乃緒ちゃんの過去を何も知らない。でも、何も変わらず彼女と過ごした。彼女にいつの間にか惹かれて、好きになった。美人で毒舌で怒らせたらすごく怖くて、でも本当は優しく出来るのに誰かに愛されることに臆病な君。でも、君だから。そんな君だから、僕は君のことが好きになったんだ。
「……じゃあ、僕が話したら……君のことも教えてくれる?」
それと同じだ。僕も君のことを知りたい。君に何があったのか。それを知りたい。
穂乃緒ちゃんは少し戸惑ってみせたけど、少し黙って、答えを出してくれた。
「構いませんよ。ですが、私の過去を話す時は、雷門イレブンの皆さんの前で話します。話さなくてはならない時が来るなんて、思いもしませんでしたが……」
穂乃緒ちゃんはそう言うと、僕の手を握った。
「さあ、話して下さい」