青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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久々の更新です。


45話 涙と笑顔

青木side

翌朝。吹雪さんから全てを聞いた私は、陽花戸中の階段を上っていた。吹雪さんには本当に申し訳ないと思っている。自身の嫌な記憶を(えぐ)り返させてしまった。今の私には何も出来ない。みんなと一緒に練習することも、吹雪さんの心を今すぐ救うことも。改めて、私は無力なんだと感じた。

でも、これだけはやらなければならない。円堂さんの心を救うことだ。今彼があのままでは、エイリアに勝てない。エイリアと戦うには、彼という柱が必要なのだ。雷門のみんなの心の支え。私が、必ず救ってみせる。

既に、下で練習しているみんなとは打ち合わせは出来ている。円堂さんを立ち直らせるために。

古びた屋上のドアを開け、フェンスに寄りかかったまま俯いている彼の姿が目に入る。私は静かに円堂さんの前までゆっくり歩いた。

 

「……円堂さん。お久しぶりです」

「……」

 

ここまで反応を示さない彼を見たのは初めてだ。いつもなら、あの大きな声を上げて私を見て笑ってくれるのに。こういう時、どんな言葉をかければいいのか、よくわからない。でも、ここで引き下がってはいけない。私は円堂さんを見下ろして、言葉を続けた。

 

「……あの、円堂さん。アレを見て下さい」

 

私は指を指して、方向を促す。円堂さんはゆっくりと体を動かしながら、私が指差した方向ーー陽花戸中のグラウンドを見た。

 

「っ……はぁっ、はぁっ……お願いします!」

「「ツインブースト‼︎」」

「うぉおおおっ……! マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

そこには、立向居さんがマジン・ザ・ハンドを完成させようと、奮起している姿だった。これまで何回シュートを受け止めようとしてきたのか、傷だらけになっている。形は出来つつあるものの、なかなか必殺技としてのオーラは出てこない。立向居さんは立ち上がり、叫んだ。

 

「っ……もう一度、お願いします‼︎」

 

そうして、立向居さんは再び挑んでいく。必殺技を完成させるために。

私は、円堂さんに何も言わなかった。何かを言えるような立場ではなかったからだ。でも、行動は出来る。私はまだ、みんなの中では大した存在ではないと思う。でも、助けたかった。私の手で。何も出来ない、無力な私の手で。

円堂さんの指が、フェンスにかかる。じっと、立向居さんを見ていた。

 

「諦めない……! 絶対に、絶対に……諦めない! 諦めるもんかっ‼︎」

「……!」

「「ツインブースト‼︎」」

「マジン・ザ・ハンド‼︎ うぉおおおおおおおっ‼︎」

 

今までぼんやりとしていた魔神が、鮮やかな青色をして現れた。その大きな手でシュートを止める、いつか見た守護神。それが、新たに生まれ変わった。

 

「あっ……⁉︎」

「……止め、た……」

 

円堂さんと私が、小さく声を上げる。マジン・ザ・ハンドが完成したのだ。当の本人の立向居さんは、ポカンとして両手の中にあるボールを見た。

 

「出来、た……? う、わぁ……やったああああああ‼︎ 出来ましたよっ円堂さーん‼︎ 青木さーん‼︎」

 

屋上にいる私たちに大声で叫ぶ。とても嬉しいのか、ぴょんぴょんと跳ねて、全身で喜びを表現していた。円堂さんが両手でフェンスを掴んでいたのを、私は見逃さなかった。そして、譫言(うわごと)のようにボソボソと話す。

 

「世宇子戦の前……どんなに特訓しても出来なかった、マジン・ザ・ハンド……でも、今の立向居のように、諦めなかった……。だから、完成した……そうだ。大切なのは、諦めない心だ。……ありがとう。俺、諦めない。エイリア学園と戦って、大好きなサッカーを取り戻す……!」

 

円堂さんの目に、ようやく光が宿った。円堂さんは私を振り仰ぎ、立ち上がる。

 

「いつか、風丸や栗松たちが戻ってくるのを信じて!」

 

私は小さく頷き、ホッと息を吐く。それが疑問だったのか、円堂さんは私に問いかけた。

 

「? どうしたんだ? 青木」

「いえ……私なんかで貴方を救えるのか不安で……でも、良かった」

 

フッと表情が緩む。こんなに安堵するなんて、よほど緊張していたのね、私は……。

 

「さて、行きますか」

「え? 行くってどこに……」

「グラウンドですよ」

「あっ、そうだな! よし、行こう!」

 

そう言って、ドアへ駆け出す円堂さんの腕を私の手が掴んで、阻止する。

 

「どこへ行くつもりですか」

「え? だって階段降りなきゃ下に行けねーだろ」

「ここから降りればいいではありませんか」

「……えっ?」

 

ぼやぼやしている円堂さんの脇と膝裏に腕を差し込み、両手で抱きかかえる。少しフェンスから遠ざかった。

 

「え? え? ま、まさか……」

「しっかり掴まって下さい」

「うわああああああああああっ⁉︎」

 

助走をつけてフェンスの上に飛び乗り、そこからフェンスを蹴って飛び降りた。円堂さんは泣き叫びながらも私の首にちゃんと手をまわしている。防衛本能が働いて良かったですね。下からみんなの声が響いてるけど、そんなの問題ない。私は左足を伸ばし、右足を折って地面からの衝撃を殺しながら着地した。

ゆっくりと円堂さんを降ろし、私は数歩後ろに下がる。ここからは、彼がみんなに言うところだ。

 

「……みんな、迷惑かけてすまなかった。俺、もう迷わない!」

「……雷門のキャプテンは、お前しかいない」

 

鬼道さんが安堵した表情で言うと、みんなが嬉しそうに円堂さんの名前を呼ぶ。良かった。また、みんなが笑ってくれて……。

 

「すみませんでした、監督! これからもよろしくお願いします!」

「……これから先も、チームに必要ないと思ったら、容赦なくメンバーから外すわ」

「わかりました‼︎」

「俺も一緒に戦わせて下さい‼︎」

 

円堂さんの元に駆け寄ってきた立向居さんが、瞳子監督に言った。

 

「えっ……?」

「マジン・ザ・ハンドが出来るようになったら、言おうと思ってたんです!」

 

驚いてる円堂さんに、立向居さんは両手を拳にして言う。円堂さんは彼を見て、嬉しそうに両肩を掴んだ。

 

「立向居……! いいですよね、監督!」

「ええ」

「ありがとうございます! 皆さん! よろしくお願いします‼︎」

 

新たなメンバーが増えたところで、ふと、円堂さんが思い出したように私を振り返った。

 

「ありがとな、青木! お前が見せてくれたから、俺はまた立ち直れたんだ」

「……いえ、私は何も……」

 

フイ、と視線を逸らす。私は、円堂さんに感謝されるようなことは一度もしていない。それでも、円堂さんは話した。

 

「そんなことない! お前は俺たちを何度も救ってくれたじゃねーか! 俺たちに忠告してくれたり、励ましてくれたり! 少なくとも俺、お前にすっげー感謝してるんだぜ!」

「私に……?」

「お前はたまにそうやって自分を卑下してるけど、ホントはすっげー奴だって俺は知ってる。さっきまで落ち込んでた俺が言うことじゃないかもしれないけど……もっと自分に自信を持て! な?」

 

ニカっと私に笑いかける円堂さん。彼の後ろで、雷門のみんなが笑みを浮かべて私を見ていた。何かが私の中で込み上げてきて、胸の奥がジンと温かくなる。

 

「……ありがとうございます。私は、その……皆さんに何も打ち明けてもいないのに……皆さんは、こんなわけのわからない女と、一緒にいてくれて……。感謝するのは(むし)ろ私の方です……」

 

意を決して、私は俯かせていた顔を上げた。

 

「皆さんは、私が今まで生きてきた中でとても居心地のいい方々です。……私は、貴方方に何も出来ず……でも、それでも皆さんは、私の近くにいて下さって……。本当に感謝しております。そんな皆さんを……信じて……その……いつか、皆さんに私のことをお話ししていいですか? そして……これからも、ここにいさせて下さいませんか?」

「何言ってんだ、当たり前だろ?」

 

間髪入れずにそう言ったのは、やはり円堂さんだった。

 

「俺たちは、仲間じゃねーか!」

 

 

 

その一言を聞いた途端、私の中で何かが弾けた。

 

 

「えっ……あ、青木⁉︎ どうしたんだ⁉︎」

「あーっ! キャプテンが泣かしたー!」

「お、俺か⁉︎」

「何やってんだよ円堂〜‼︎」

 

思わず顔を両手で覆い、流れてくる涙をなんとか抑えようとするが、止まらない。こんなに嬉しいとは思わなかった。

 

「ありがとうございます……とても、嬉しいです……」

 

私はおそらく涙でぐしゃぐしゃであろう顔を上げ、頬を緩ませた。

 

「あっ……」

 

みんながポカンとした表情で私を見つめる。どうしたのかしら……?

 

「あの……どうなさいましたか……?」

「青木が……」

「私が……?」

「「「「笑ったーーーー‼︎」」」」

 

この時のみんなの顔が、とても明るかったのを、私は一生忘れることはないだろう。




青木さんの初笑顔、やっと出せました。
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