鬼道side
目金を助けて、青木が落ちてしまった。酸素を求めてすぐ浮かび上がるかと思ったが、青木は全く浮かんでこない。
「青木‼︎ 青木ーー‼︎」
船の上から呼んでも、青木は浮かび上がってこない。いや、もしかしたらこの声は届いてないのかもしれない。
助けなければ、と手すりに手をかけたその時、少し遠くから誰かが泳いできた。その人物は青木が落ちた辺りに着くと海に潜り、しばらくすると海面へ上がってきた。彼の腕の中には、溺れた青木がぐったりと目を
「青木!」
「よかった……」
青木の姿を見て安堵する仲間に、俺はすぐに言い放つ。
「何を言っている。まだ青木の意識があるかわからないんだぞ!」
早く船が着かないのか、俺はぐっと手すりを握りしめた。
船が港に着き、みんなと港の近くで彼女を診ている少年に駆け寄る。少年の傍らにはサーフボードが置いてあり、サーファーであることが分かった。海の中にいたからか、全身びしょ濡れになっている彼女は、いつもより艶やかに見えた。
「おい、しっかりしろ! おい!」
ペシペシと少年が青木の頬を叩いて意識を確認するが、彼女はこれという反応を示さない。少年は彼女の顔に耳を近づけ、呼吸を確認する。
「っ……おい、こいつ息してねえぞ‼︎」
「「「えっ⁉︎」」」
その言葉に、全員が驚愕する。ウソだろ……? 青木……このままじゃ……‼︎ ふと、視界が揺らいだ気がした。
「監督‼︎ 救急車を呼んで下さい‼︎」
「分かったわ」
瞳子監督も緊急事態だと判断し、携帯電話を取り出す。
するとその時、ピクッと青木の手が動いた。
「げほっ‼︎ ごほっ、ごほ……!」
青木は体の中に入っていた海水を吐き出そうと、咳込んでいた。俺はやっと、安堵の息を吐く。
「青木! よかった……」
「大丈夫か?」
少年に抱き起こされ、背中をさすられる青木に、少年はバスタオルを口元に押し付ける。しばらく青木はずっと咳込んでいて、目元には苦しかったのか、若干涙が溜まっていた。
「大丈夫か?」
「はい……けほっ、あの……助けて下さり、ありがとうございました……」
「よせよ、礼を言われるようなことはしてねえって。それよりお前……海で泳いだことあるか?」
「え………………。ありません……」
「なっ⁉︎ バカヤロウ‼︎」
突然青木を怒鳴りつけた彼に、青木はビクッと肩を揺らした。
「海を甘く見んな。海は命が生まれるところだ。命を落とされちゃたまんねーよ」
「…………すみませんでした……」
俯く青木に、彼は今度はニカっと笑って青木の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ま、とにかくさ! 無事で何よりだ」
彼は青木の頭から手を離すと、さっさと立ち去っていった。円堂が慌てて彼に手を伸ばしたが……。
「あっ……」
「じゃあな〜」
そう言うと、彼はこちらを振り向きもせず歩き去った。
青木は体にバスタオルを巻いたまま、呆然と彼を見ていた。それに気付いた浦部が青木に話しかける。
「なんやなんや? 青木……まさか一目惚れか?」
「は?」
「さっきからずーっと見て……脈アリか⁈」
「……あの、先ほどから一体何を
「も〜あんたも結構やるもんなぁ。なあなあ、誰にするん⁉︎」
「? 何のことですか?」
「運命の人や!」
「……?」
コテンと首を傾げる青木を見た浦部は、ハァッと溜息を吐き、何故か俺の元に近付いて肩を掴んだ。
「あんた、苦労してはるな」
「……………どういう意味だ」
「お? 今間があったで、間が‼︎」
今度は浦部がニヤニヤしてくる。からかわれるのは気に食わないが、俺の本心に嘘を吐いていることは確かだ。
またライバルが増えた気がする……。いや、本人にその気がないのは分かるが……。俺はまた行き場のない溜息を吐いた。