Side無し
ここは、エイリア学園本拠地。一切の音をも許さないシンとした空間に、赤と青、そして白の光が差し込んでいた。光はそれぞれ、少年を照らしている。赤はバーン、青はガゼル。そして。
「面白かったか? グラン」
「……何のことだい?」
グランだ。グランは2人の反応を楽しむように、首を傾げてみせた。それが面白くないのが、バーンとガゼルである。
「とぼけちゃってよ……」
「雷門とやり合ったみたいだね? ザ・ジェネシスの名の元に……」
「あれはただのお遊びさ」
「ほう……?」
ギッとグランを睨みつけるガゼル。どうやら、グランの言動はどれも彼らの怒りに触れてしまうらしい。しかし、グランは2人の反応を物ともしない。
「興味深いと思わないか? 雷門イレブンは……特に、円堂守。彼は面白い」
「軽く捻り潰した相手がか?」
「フッ……君も戦えば分かるさ」
「ほう……では、君が雷門を潰しても彼女を連れてこなかった理由も分かるのか?」
ガゼルの問いかけに、黙ったのはグランだ。
雷門を潰したあの時、彼女は1人の選手を庇ってグランのシュートを受けた。あんなに必死に仲間を庇う姿を見たのは初めてだった。
明らかに、彼女の心が雷門に寄っているということだ。グランも、無理矢理連れていくというやり方はしたくなかった。連れ去るならイプシロン戦後のあの時にすれば良かった、と改めて思う。
自分の心に揺れていたあの時の姿はなく、雷門イレブンを仲間と認め、彼らを支えたいという意志が見えた。おそらく彼女にとって、初めて見つけた自分の居場所。それを失いたくないのだろう。
「……あの娘は、雷門でやっと自分の居場所を見つけたんだ。俺は……もう、あの娘に近付けない」
「それほど、彼女を想っていたということか? まさか君がそこまで女に惚れ込むとは……」
クスクスと、今度はガゼルが楽しそうに笑う。まるで彼の弱点を見つけた、とでも言うように。もちろんバーンも口角を上げて歪んだ笑みを刻んでいた。
「確かに、今は……君たちガイアが、栄光あるジェネシスの地位についているが……油断しない方がいい」
「……忠告として聞いておこう」
……きっと彼らは、彼女に近付く。グランは極力本心を悟られないように答えた。彼女は俺が守らなければ。
「フン。すぐに俺たちプロミネンスがその座を奪ってやるぜ」
「それはどうかな。我々ダイヤモンドダストも引き下がるつもりはないよ」
……こちらだって。彼女も、ジェネシスの称号も奪われるつもりはない。
グランは椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。
「円堂守……青木穂乃緒……雷門イレブン……。へっ……だったら確かめてやるよ。この目でな」
バーンが目を細めながら呟いたのは、グランもガゼルも誰も気付かなかった。
ーー俺はいつから、彼女のそばにいたいと思い始めたのだろうか。
初めて彼女と出会ったのは、奈良だった。エージェントたちに追われているところを、興味本意で助けた。彼女の第一印象は、冷めた綺麗な女の子だった。名前も聞いて、父さんに聞いてみた。そしたら、彼女はもともと俺たちの家族になる予定の子だったことが分かった。しかし、父さんが引き取りに行く前日に、人身売買にかけられてしまったらしい。そこから彼女の行方は分からなくなってしまったため、父さんは彼女のことを諦めたと言っていた。
俺は運命だと思った。父さんが助けられなかった子だ。俺が、きっと助けてみせる。
そう決意した俺は、積極的に彼女に近付いた。人との関わりがほとんど無かった所為か、彼女は少しぎこちなさそうに俺に接してくれた。エイリア学園かと怪しまれて警戒されたこともあったなぁ。まあ、合ってるんだけど。
ぎこちない彼女の話し方、仕草が微笑ましくて、か弱くて。腕っぷしはとても強いのに、どこか弱くて脆くて、壊れそうな女の子。いつか、あの娘の笑顔が見たい。そう思うようになった。
「……今度、俺が会いに行く時は、笑ってくれる? 穂乃緒ちゃん……」
ボソ、と呟いてからゆっくりと目を閉じた。君のことを想いながら。