翌日の早朝。沖縄を正にこれから出ようというところで。
「ちょっと、行ってくるわ!」
そう。綱海さんのキャラバン参加が決まったのだ。見送りに来てくれた大海原中イレブンに、軽いノリで。まるでどこか遊びに行ってくる! みたいなノリで。私は半ば呆れていたが、まあ、これが綱海さんか、と思い直した。
「戻ってきたぞー!」
円堂さんの大声で、ハッと目が覚める。どうやら、ずっと眠っていたらしい。窓の外を見てみると、みんなが河川敷に出ていた。私も彼らの後を追い、キャラバンの外へ足を踏み出す。
「ここは……稲妻町か」
また、戻ってきた。でも、今度はあの時みたいにはならない。あの後、鬼瓦さんたちに私のことを話したから、きっと奴らは捕まってる。あの家には、もう誰も住んでないはず……。
そんなことを考えていると、私の警戒網に何かが入り込んだ。その意識が、飛来してきたボールに向けられた。
あれは、まさか……!
私が目覚めたと同時に私の異変に気が付いたのか、円堂さんが私の視線の先を追う。全員がそれの正体を理解したのかは知らないが、ドンッという大きな音と、青い光が炸裂した。
光が収まり、私は一目散に落ちてきたものを確認した。
「これは……⁉︎」
そう。エイリア学園の所持する、黒いボールだ。円堂さんたちも、それを見て身構える。そのボールから、聞き慣れない声が聞こえてきた。
『雷門イレブンの諸君。我々ダイヤモンドダストは、フットボールフロンティアスタジアムで待っている。来なければ……黒いボールを、無作為にこの東京に打ち込む』
「なんだって⁉︎」
「無作為だと……⁉︎」
どうやら、エイリア学園からの挑戦状らしい。しかし、来なかった時の代償が大きすぎる。首都壊滅となれば……これこそ、日本は終わりだろう。
ボールは、音声が消えると、その形を崩してしまった。
「……仕方がないわ。直ちにスタジアムに向かいます」
「「「「はいっ‼︎」」」」
瞳子監督の指示が飛ぶと、雷門イレブンは間も開けずにすぐに返事を返した。そして、キャラバンに乗り込む。私は、疑問に思っていたことを、みんなにぶつけた。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが……先程の声は、一体……」
「あ……そっか。あの時青木は気を失ってたもんな……」
円堂さんが、知らなくて当然か、とひとりごちる。そして、円堂さんと鬼道さんが私に説明してくれた。
「さっきの声は、マスターランクチームのキャプテン、ガゼルの声だ」
「マスターランクチーム……? ジェネシスやプロミネンスの他にもあったのですか?」
「ああ。気を付けろ、青木。奴は何故だか、お前を狙っていた」
「私を……?」
ガゼルが私を狙ってる? なんて迷惑な話だ。私は確かに基山さんと面識があるけど、それだけで連れて行かれるとかめちゃくちゃ迷惑だ。バーンもそうだったが、だいたい、何故私に執着するのか……。もはや呆れるレベルだ。まあ、何かあるのなら私が力尽くで潰すけど。
「……」
で、そのスタジアムに来たのはいいものの、誰もいない。ふざけるな。お前たちが呼んだんだから、先にスタジアムに着いてなさいよ‼︎ 思わずツッコミが漏れそうになる。それをグッと堪えて、私は円堂さんたちと同様、瞳子監督を見た。
「相手はどんな連中か、まったく謎よ。どのような攻撃をしてくるのか分からない……。豪炎寺くん、早速だけどFWを任せるわ」
「はい」
「青木さん、貴女も今回はFWについて」
「!」
私が……? 口で問う代わりに、視線を向ける私に、瞳子監督が頷いて答えた。
「貴女のその俊足で、豪炎寺くんの手助けをしてほしいの。もちろん、チャンスがあれば、積極的にゴールを狙って」
「……はい」
私は、力強く瞳子監督を見つめ返した。豪炎寺さんのサポート……必ず、その役目を果たします。私の決意を見た瞳子監督は、さらに全員に指示を出した。
「豪炎寺くんは、間違いなくマークされる。彼にボールをまわすのも大事だけど、チャンスがあれば、ゴールを狙いなさい」
「「「「はいっ‼︎」」」」
みんなの士気も高まり、私たちはこれから来るダイヤモンドダストを迎え撃とうと決意していた。
……と、ここまではいいものの、やはりまだ奴らが来ない。
「来いって言っておきながら、奴らが来てないじゃないッスか……」
「この僕に恐れをなしたんでしょうよ」
「安心して下さい。それは絶対にありません」
目金さんの勘違いを、一応訂正しておく。しかし、壁山さんの言う通り、ダイヤモンドダストが来る気配かしない。私の警戒網にも、何らかが入ってきた様子もない。
だが、突然相手ベンチ側に、目も眩むような青い光がその場を支配した。毎度毎度、大層なご登場だ。光が収まると、そこには青いユニフォームを
「……エイリア学園マスターランクチーム。ダイヤモンドダストだ」
「マスターランク……?」
「円堂。そして、青木穂乃緒。君たちに、凍てつく闇の冷たさを教えてあげるよ」
不敵な笑みを浮かべ、雷門イレブン……いや、私に向けて右手をかざすように伸ばす。その手に腹が立ち、チッと舌打ちをする。円堂さんは拳を握りしめ、睨みつける。
「冷たいとか熱いとかなんて、どうでもいい! サッカーで街や学校を壊そうなんて奴らは、俺は絶対許さない!」
円堂さんと同じように、私も彼を睨みつける。その視線に、彼は不敵な笑みを崩さず、見つめ返してきた。久々に、めんどくさい奴に会ったみたいだ……。
「よし! 行くぞ、みんな‼︎」
「「「「おおっ‼︎」」」」
私はまたこの声に入らず、黙って目を閉じていた。
試合開始のホイッスルが鳴り、私はボールを豪炎寺さんに流す。と、その瞬間に、私はダイヤモンドダストの布陣がおかしいことに気付く。なんと、ゴール前まで、相手選手が誰もいないのだ。つまり、ゴール前まで、無人。これは打ってこいとのことなのだろうか。
私は相手の考えを探りながらも、豪炎寺さんにシュートを促す。豪炎寺さんは私の視線に頷き、ノーマルシュートを放った。ボールは綺麗な弧を描き、ゴールポストギリギリを狙った。しかし、シュートは相手GKに止められ、更にはボールをこちらへ投げ返し、円堂さんの構えるゴール前まで飛んで行った。
「円堂さん‼︎」
振り返った私は円堂さんを案じて叫ぶ。円堂さんは、驚きつつも、しっかりとボールをキャッチした。
「ゴールからゴールへ投げてくるなんて……! 何て奴だ……! よし‼︎」
円堂さんはボールを投げようと大きく振りかぶり、近くにいた土門さんにボールを渡す。そこから一之瀬さんにパスを出そう……としたが、相手選手にカットされ、ガゼルにボールが渡る。シュートをまた円堂さんがキャッチする。
今度は一之瀬さんから鬼道さん、そしてまた一之瀬さん、浦部さんへと繋がった。ゴール前付近に上がり、シュートかと思われたが、相手DFが走り込んできたのが見えた。
「フローズンスティール‼︎」
「きゃあっ‼︎」
「浦部さん‼︎」
必殺技をモロに喰らい、浦部さんはピッチに倒れ込んだ。浦部さんの元に駆け寄り、彼女を起こす。そんな私を見下ろして、ガゼルが嗤う。
「……それが、闇の冷たさ」
「……っ?」
言葉を反芻する間もなく、試合は続行される。相手DFはボールを高く上げ、その落下地点にはガゼルが。それを見た浦部さんは、私に噛み付くように叫んだ。
「何しとんねん、青木! 早よお行かんか!」
「は、はいっ!」
浦部さんの叱咤を受けて、スピードを上げて走り出す。渡すわけにはいかない。必ずボールを奪わなければ。しかし、時は既に遅かった。ガゼルはボールをキープすると中盤を突破し、さらに再びシュートを放つ。
「ザ・タワー‼︎」
「ザ・ウォール‼︎」
財前さんと、壁山さんのダブルブロック。財前さんは吹っ飛ばされてしまったが、壁山さんが何とか弾き、ボールは観客席へ出て行った。
まさか、これほど強いとは思っていなかった。以前、同じマスターランクのグランとやった時は、手も足も出なかった。しかし、今回のガゼルは、グランと比べればもしかしたら大したことないとは思うが、それでもやはり強い。どうすれば……?
……トンッ
ふと、ボールが地面に叩かれる音が聞こえた。その音に振り向くと、先程飛んで行ったボールが。一体何が……? 私の思考が停止し、ただ目の前の状況を見る他なかった。
ボールを追いかけるように、誰かが1人ピッチに降り立った。金色の髪をふわりと
「貴方は……?」
「あっ……‼︎ アフロディ……‼︎」
アフロディ、と呼ばれた人は、ボールを人差し指でクルクルと回転させたまま、私たちを見渡した。
「……また会えたね、円堂くん」
アフロディさんは、ニコリと微笑んで円堂さんに語りかけた。円堂さんはゴールからこちらへ駆け寄ってきており、アフロディさんと視線を交えたままだ。
私は傍らに歩み寄ってきた鬼道さんに尋ねる。
「あの、あの方は……?」
「……世宇子中のキャプテンだ。今年のフットボールフロンティアで俺たちと戦ったんだ」
「はぁ……」
誰にでもフレンドリーなはずの円堂さんの表情が、何故か固い。何か、彼らとの間に確執があったのだろうか。私は黙って、円堂さんたちを見つめた。
「……何しに来たんだ?」
「戦うために来たのさ。君たちと」
「っ……‼︎」
円堂さんの表情が、歪む。宣戦布告、ということか? でも……わざわざこんなところに来るなんて、何か別の用件なんじゃないのかしら? しかし、次のアフロディさんの発言で、私たちは再び驚くことになる。
「……君たちと共に……奴らを倒す‼︎」
「何っ……⁉︎」
「僕は、君たちの力になるためにここに来た」
そう言い切ったアフロディさんの表情は、正に決意という言葉が似合った。アフロディさんは、更に続ける。
「雷門とエイリア学園の戦いは見ているよ。そして……激戦を続ける君たちの姿に、湧き上がる闘志を抑えられなくなったんだ。僕を……雷門の一員に入れてほしい」