「ちょっと待ってくれ!」
「いきなり何言ってんだ……⁉︎ わけわかんねえよ!」
「あの、世宇子中の選手が仲間になるなんて……」
一之瀬さん、土門さん、壁山さんが納得いかない、と言うように叫んだ。一体、雷門とアフロディさんの間に何があったのだろうか。私の知らない話。これをできるみんなが、少し羨ましくなった気がした。私は、この人たちのことを、何も知らなかったんだと改めて実感する。
「……疑うのも無理はない。でも、信じてほしい。僕は、神のアクアに頼るようなことは、もう二度としない。僕は君たちに敗れて学んだんだ。再び立ち上がることの大切さを」
「!」
この人には……迷いがない。私はアフロディさんの目を見て、そう実感した。私は、円堂さんたちとこの人の関係は知らない。でも、彼らの話を聞いている感じでは、おそらく関係は良好だったとは言えないだろう。円堂さん……貴方は、どうしますか?
円堂さんは、アフロディさんを真っ直ぐ見つめて問いかけた。
「……本気なんだな」
「ああ」
「……わかった。その目に嘘はない!」
円堂さんはアフロディさんに手を差し出し、アフロディさんは微笑んで彼の手を握り返した。
「……ありがとう、円堂くん」
アフロディさんは、雷門のユニフォームを着てピッチに立った。私はその姿を前線から見つめ、前を振り返った。そんな私が気になったのか、豪炎寺さんは私に声をかけた。
「気になるのか? あいつが」
「……まあ」
「あいつは、俺たちがフットボールフロンティアの決勝戦で戦ったチームのキャプテンだ。奴らは影山から神のアクアというドーピングで力を与えられ、俺たちと戦ったんだ……」
「……そんなことが」
私はその時、多分サッカーなんて興味がなかった。それどころか、そんな大会の存在すら知らなかった。
円堂さんたちとアフロディさんの間にある確執はこれだったのか。と、1人で理解する。
「……ですが、円堂さんが認めたのです。きっと、大丈夫です」
「青木……」
豪炎寺さんとの対話を断ち切り、同じFWの位置に立つガゼルを睨みつける。ガゼルは相変わらず不敵な笑みを浮かべながら、私たちの様子を見ていた。
「世宇子中の敗北者か……。人間に敗れた神に、何ができる」
「…………」
そう言われた本人は、特に気にしてない様子。私は集中しようと一つ深呼吸をしようとしたが、ふと視界に記憶がある二つの赤が見えた。私の視線に気が付いたのか、その赤たちは私に目を向ける。
(グラン……バーン……)
グランは私の視線にニコリと微笑み、バーンは挑発的に口角を上げた。彼らの相変わらずな態度に少し腹が立ち、チッと一つ舌打ちをする。何故あいつらがここにいる? ガゼルの試合を見に来ただけなのか……? その証拠に、彼らはあのエイリア学園のユニフォームを着ていない。
(あいつら、何が目的なのかしら……?)
いや、そんなことを考えるより前に、試合に集中しなければ。私は先程しかけていた深呼吸を、もう一度ちゃんとした。
「頼むぞー! アフロディー!」
円堂さんから、エールが贈られる。アフロディさんはその声に応えるように、しっかりと頷き返した。
ダイヤモンドダストのスローインから試合が再開される。そこからパスが繋がるが、土門さんが止めに入る。
「ボルケイノカット‼︎」
見事ボールの奪取に成功した土門さんは、誰かにパスを出そうと、周囲を見渡す。しかし、私も豪炎寺さんも、相手にマークされて動けない。
「こっちだ!」
アフロディさんが、土門さんを見ながら駆け出して言った。だが土門さんは、すぐにはパスを出さず、何か迷っているように見えた。その隙を突かれ、ボールを奪われてしまった。
私や豪炎寺さんはどうしたのか、と眉を寄せる。やっぱり、まだアフロディさんを信用できてないのだろう。今は、そんなことしてる場合じゃないというのに……!
相手からボールを奪い返し、壁山さんがボールをキープする。しかし、他の選手は再びマークされ、パスが出せない。オロオロと戸惑う壁山さんに焦れたのか、鬼道さんが叫んだ。
「壁山! アフロディがフリーだ‼︎」
「えっ、でも……」
「パスするんだ‼︎」
「は、はいッス‼︎」
鬼道さんに急かされ、壁山さんはアフロディさんにパスを出す。しかし、ボールはアフロディさんの前を通り過ぎてしまい、サイドラインを出て、転がっていった。
その後も、チームの連携はバラついている。ダメだ。このままでは、勝ち目はない……! 私はFWの前線から走って下がりに行った。こうなったら……私が動く!
私は進撃を続けるガゼルの前に立ちはだかる。対するガゼルは、ニヤリと笑ってみせた。
「君に私が止められるとでも? さあ、私に敗北してその顔を歪めろ‼︎」
「悪いが……そのつもりはさらさらない!」
私は足を高々と振り上げ、地面に叩きつけた。
「デッドスパイク‼︎」
「⁉︎ くっ‼︎」
必殺技に阻まれたガゼルは、私のことを悔しそうな顔で見つめる。それを無視しながら、私はある人を探していた。周囲を見渡し、その人にボールを蹴る。
「お願いします、アフロディさん!」
「!」
私のパスは誰にも阻まれることなくアフロディさんの足元に吸い付いた。アフロディさんは驚いた顔で私を見ていたが、頷いて走り出した。アフロディさんが走り出したのを警戒し、ダイヤモンドダストDFがチェックに行く。アフロディさんは彼らを見て、右腕を上げた。
「ヘブンズタイム‼︎」
アフロディさんが指鳴らしをした途端、相手チームの選手が、まるで時が止まったかのように停止した。アフロディさんがその中を悠々と通り過ぎ、それが解除されると突風がDFを襲う。すごい必殺技だわ、これなら……。いける、と思った次の瞬間、アフロディさんの前に、ガゼルが立ちはだかった。アフロディさんはボールをキープしたまま、ガゼルと対峙した。
「……フン。堕落したものだ。君を神の座から引きずり下ろした、、雷門に味方するとは……」
「……引きずり下ろした? ……違うよ。彼らが……円堂くんの強さが、僕を悪夢から目覚めさせてくれた。新たな力をくれたんだ」
「君は、神のアクアが無ければ……何も出来ない‼︎」
「そんなもの、必要ない……!」
ボールを奪わんと走り出したガゼルをかわし、アフロディさんはゴールを見据えた。
「見せよう……。生まれ変わった、僕の力を‼︎」
アフロディさんはボールを上げると、必殺技の体勢に入った。
「ゴッドノウズ‼︎」
眩い光を放ちながら、シュートはGKに止める隙を与えずに、ゴールネットに突き刺さった。
先制点。私たち雷門が、マスターランクチームから、先制点を奪ったのだ。
私の意識は、ずっとアフロディさんに向けられていた。この人は、強い人だ。一度打ちのめされても立ち上がり、さらなる力を得た。とても、強い人だ。
この得点に喜んだのは私だけでなく、みんなも同じ気持ちだったようだ。ベンチやピッチ内で、歓喜の声が飛び交う。円堂さんも、嬉しそうに声を上げた。
「いいぞ、みんな! このユニフォームを着れば、気持ちは一つ! みんなで、同じゴールを目指すんだ‼︎」
「「「「おおっ‼︎」」」」
険悪だった雰囲気が、アフロディさんの得点によって、明るくなる。一方のガゼルは、前髪を指に通しながら、ボソボソと呟く。
「……やるじゃないか……。これが雷門と……円堂と戦って得た力だと言うのか…………潰してやるよ……!」