青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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72話 崩壊

私はみんなと合流するために、雷門に戻ってきた。だが、何やらキャラバンの前で雷門イレブンが集まっていた。

 

(? 一体、何をしているのかしら……)

 

怪訝に思った私は一瞬足を止めるが、確かめる必要があるとすぐに再び足を動かした。

だが、私の耳が拾った彼らの会話により、再び私の足は止まることになる。

 

「そんなん、信用出来ひん……!」

 

浦部さんの声だった。どこか怒気を含んだ声。それに続いて、今度は彼女の隣にいた一之瀬さんが呟くように言う。

 

「結局、監督は……俺たちの質問には何も答えなかった」

「ダーリン……」

「俺だって……今度の戦いには疑問がいっぱいあった。それでもついてきたのは、エイリア学園の攻撃で傷付いた、みんなの思いに応えたかったからだ……」

 

一之瀬さんの表情が、険しい。怒りを込めるように、拳を強く握りしめた。

 

「今日のカオス戦だって、アフロディが倒れている……」

「一之瀬くん……」

「だけど監督には、みんなの思いは何にも届いてない……! 俺はこんな気持ちじゃ、富士山になんか行けない!」

「俺も一之瀬と同じだぜ……もう我慢の限界だ」

 

一之瀬さんの言葉に、土門さんも賛同する。と、ここで土門さんは鬼道さんにも意見を求める。

 

「鬼道はどうよ?」

「……どちらに転ぶにしても、判断材料が少なすぎる」

「……らしい答えだよ」

 

みんなが口々に不安を漏らす。いつも、あんなに強く見える彼らが、今日ばかりは何故か弱々しく見えた。その理由はすぐに分かった。

チームの士気が下がっているから。

……やはり、所詮こんなものか。

どんなに強く硬いものでも、必ず破壊できる場所……(コア)がある。(コア)を集中して攻撃することで、たとえどんなに完璧に見えるものでも簡単に崩すことができる。

彼らの(コア)は、仲間。仲間のために、雷門イレブンは彼らの思いを背負って、今日この日まで戦い続けていた。

今、その(コア)を突かれ、まさに雷門が崩れている。

やはり、こんなものだったか。人間など、所詮一枚岩になれるはずがない。雷門崩壊は、こんなに呆気ないものだったのか。

私は呆れて、その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、私は雷門に何を求めていたのか。

何を感じて、何に惹かれて雷門に居続けたのか。

分からない。私は……一体何故、雷門に居続けたのかしら……? これから、私は一体何をすればいいの?

 

「っ……エターナル、ブリザードッ‼︎」

 

河川敷を歩いていた足を止め、声の聞こえた方に目を向ける。

吹雪さんが、ユニフォーム姿でボールを蹴っていた。必殺シュートは途中で勢いを失い、ゴールポストに跳ね返ってしまった。そのボールは私の方に飛んで来た。

 

「!」

「‼︎ ……穂乃緒ちゃん」

 

そのボールを受け止め、吹雪さんと視線を交差させる。私は階段を降り、吹雪さんにボールを手渡した。

 

「穂乃緒ちゃん……アフロディくんのところに行ってたの?」

「はい」

「……雷門のみんなに、会った?」

「いえ」

「瞳子監督のことは?」

「何かあったのですか」

 

私の淡々とした物言いに彼は戸惑いつつも、何があったのか詳しく説明してくれた。

瞳子監督が、グランに姉さんと呼ばれ、もしかしたらエイリア学園のスパイかもしれないこと。そして、明日の朝、瞳子監督と一緒に富士山麓に行けば、エイリア学園の真実が分かるということ。

 

「……そんなことが」

「穂乃緒ちゃんは行く? 富士山麓へ……」

「…………私は……」

 

もう、ここにいない方がいいのかもしれない。ふと、そう考えてしまう自分がいた。言い淀んでいると、ポツリと雨が頭に当たった。

それに空を振り仰ぐと、黒い雲が空を覆い、雨がポツリポツリと降ってきていた。

 

「雨……」

「……ホントだ」

 

空を見上げていたが、遠くで雷が落ちたのだろう、大きな音が響いた。

 

ーーゴロゴロゴロッ‼︎

 

「……?」

「ううっ……!」

「吹雪さん……⁉︎」

 

隣を見てみると、吹雪さんがその場で蹲っていた。

 

「吹雪さん……? どうなさったのですか?」

「ぅ……ぁ、あぁ……」

「っ……」

 

完全に怯えきっている。このまま外にいれば、風邪を引いてしまう。そう判断した私は、彼を抱き抱えて橋の下に避難することにした。

吹雪さんを地面に下ろし、膝を抱えてガタガタ震える彼の隣に座る。

未だ怯えている彼に、なるべく優しい声音を作る。

 

「大丈夫ですか?」

「あ……あの音が……」

「音?」

 

音……? 音って……まさか、さっきの雷が? 首を傾げていると、今度は雷の音がさらに轟然と聞こえてきた。

 

「うわぁあぁああっ‼︎」

「⁉︎」

 

雷が鳴り終わらない内に、悲鳴を上げた吹雪さん。やっぱり……この人は、大きな音が苦手なんだ。北海道での、あの時みたいに……雪崩の音が、家族を奪ったから、トラウマになってるんだ……!

とにかく、今は彼を落ち着けさせなければ。私は彼の震える肩に手を置いた。

 

「吹雪さん、落ち着いて下さい。あれは雪崩ではありません」

「イヤだッ……みんないなくなっちゃうんだ‼︎」

「っ……私はここにいます! いなくなりません! だから、落ち着いて……」

 

彼の震える肩を強く掴み、こちらに向けさせる。吹雪さんの瞳は揺れていて、恐怖の色に染まっていた。私が強く訴えかけると、吹雪さんはだんだん落ち着きを取り戻していった。

吹雪さんは縋るように私の手を掴み、俯いたままボソボソと話し出した。

 

「……僕には、アツヤが必要だった……」

「吹雪さん……?」

「ひとりぼっちが……怖かったんだ。僕は、寂しくて寂しくて……どうにかなりそうだった。それで……強くならなきゃって思った」

 

雪崩は、一瞬で彼の家族を奪った。その事実は、幼い彼にとって、到底受け入れられるものではなかったはずだ。

それでも、生きていかなければならない。だから、彼は強くなることを志した。でも……それは、一人では出来なかった。彼には、どうしても自分は支えてくれる……アツヤが必要だった。

 

「その時……あの声が聞こえたんだよ……」

「声?」

 

 

 

それは、小学生の頃。サッカーチームでプレーしていた時のことだった。プレーも上手くいかず、足を止めたその時。

 

『兄ちゃん、全然ダメだよ‼︎』

 

その声は、弟の遺品であるマフラーから聞こえてきたような気がした。そのマフラーに手を触れたその瞬間、アツヤの人格が生まれたのだ。

 

 

 

「アツヤに委ねると……心の底から力で満たされるようで、気持ち良かった。……いつの間にか頼ってしまうようになって……」

 

吹雪さんは目を閉じて、再び目を開けてから、さらに続けた。

 

「でも、それがだんだん怖くなってきた……。アツヤでいればいるほど、本当の僕が……吹雪士郎がどこかに行ってしまいそうになる」

 

吹雪さんの声は、微かに震えていた。彼の元気のない姿に、私は固まる他なかった。こんな時に、何か声をかけてあげるべきなのだろう。だが、私には何も言えなかった。

 

(やはり、私は弱い……)

 

私は彼の隣に座り、雨の止まない空を見た。黒い雲に覆われ、太陽を見せる隙がない。

彼の心も、きっとそうだろう。悩んでいるのに、みんなに心配をかけたくなくて、抱え込んでしまっている。人格の問題は、吹雪さんにしか解決出来ない。

私なんかが、助けられるはずがない。

でも……それでも、私に出来ることは……吹雪さんの隣に居てあげて、彼の心を支えること。

 

「……! 穂乃緒、ちゃん……?」

 

私は吹雪さんの震えを止めるように抱きしめ、頭を撫でた。

 

「吹雪さん……貴方が怖いというのなら、私が貴方をこうして抱きしめます。貴方を、決して独りになんかさせません。絶対にです。貴方を必要とします。貴方を守ります。貴方を……離しません」

「穂乃緒ちゃん…………」

 

吹雪さんは驚いたように私を見ていたが、それからまた私の背中に手をまわして、強く私の背中を掴んだ。

少し痛かったが、これくらいどうってことない。私より痛いのは、きっと吹雪さんだから。

 

「穂乃緒ちゃん……独りは……独りはやだよっっ‼︎」

 

痛烈な叫び。ずっと、吐き出したかったのだろう。私は彼を宥めるように、黙って吹雪さんを抱きしめ続けた。

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