私の背後には、牢屋を破壊しようとしているバーンとガゼルがいる。彼らに被害が及ばぬよう、私は足を振り抜き続けた。
私の腕は、足は、何物にも負けない武器だ。これを最大限に使い、敵ロボットを砕き、四肢を引き千切り、破壊する。
踵でロボットの頭を蹴り落としたり、膝を入れて穴を開けたり、数体まとめて蹴り伏せる。
「っ……はぁっ、はぁっ」
こんなに暴れたのは久しぶりだ。少し、息が上がる。
1体、私の横をすり抜けてバーンたちの元へ向かうロボットが、私の視界の隅に映った。
「っ……行かせるかッ‼︎」
右腕を力強く旋回させ、ロボットにラリアットを喰らわせる。ロボットは吹っ飛び、後ろにいるロボットたちを巻き込んで倒れた。
「青木! 全員出したぞ‼︎」
背後で、バーンの声が聞こえた。それと同時に、最後の1体を地面に殴り倒した。
一つ、深呼吸してから、バーンたちを振り返る。お互い支え合い立つ、ジェミニストームやイプシロンの面々を率いるように、バーンとガゼルが立つ。
ガラクタと化したロボットたちの残骸を踏み付ける私に、ガゼルが声をかける。
「……終わったか」
「はい。ここに来たロボットは殲滅しました」
「随分とめちゃくちゃな潰し方だな、お前」
「うるさいですね」
バーンの言葉を一蹴して、入り口から出ようと足を向けた。
「行きましょう。走れない人は、言って下さい。私が担ぎますから」
「は? ムリだろ。てめえのそんなほっそい腕で男担げるわけねーだろ」
バーンの人を小馬鹿にするような発言に苛立ち、壁に拳で穴を開けてやった。
「何か言ったか?」
「言ってません」
これで黙るんだから、こいつはからかいやすい。よし、これから脅迫はこの手でいこう。
私は足を引きずって立つ選手たちを抱え上げる。数えても5人くらいかしら。
あっさりと5人を抱え上げる私に、バーンは引き気味に言った。
「お前ホントに化け物かよ……」
「ほら、早く行きますよ」
私たちは部屋から脱出し、前方を走るバーンとガゼルについていった。それにしても、この部屋は施設の奥に作られていたらしい。窓すらも無かった。こんな暗闇の中で、子供を監禁するなんて……こいつら、本当に何なの?
そんな疑問を頭の片隅に残しながらも、出口を探して走り続ける。
前方に、私たちを遮るようにロボットが現れた。
「!」
「チッ! こんな時に……」
「ハイジョ、ハイジョ」
片言のロボットは、足元にサッカーボールを置いていた。足を振り上げ、ボールを蹴ろうとする。
仕掛けてくるなら、その前にカタをつける。私は怪我人を抱えたままバーンとガゼルの前に躍り出て、ロボットを蹴り飛ばした。
突破口を切り開いた私は、そのまま直線に走り抜ける。その後に、バーンたちが続いた。
「青木‼︎ このまま真っ直ぐ進めば、出られる‼︎」
「はいっ‼︎」
バーンの言葉に後押しされ、さらにスピードを上げる。だが、そこには光が見えなかった。いや、光どころか、その先には扉も何もない。ただの壁が広がっていた。
これにはバーンも予想外だったらしく、驚愕する。
「何⁉︎」
「隔壁が降ろされている……私たちの動きを予め予想していたというのか!」
脇道も何もない。行き止まりだ。私は一度担いだ選手たちを下ろし、壁を叩く。鈍い音がするだけで、かなり分厚い構造であることが伺われた。これほど厚くては、私の拳も蹴りも届かない。このままでは、逃げられない!
「青木、壊せそうか?」
「……ダメです。こんなに厚くては、破壊出来ません」
「チッ……どーすりゃいーんだよッ!」
焦る私たちの背後には、ロボットたちが迫ってきているはずだ。何とかここから脱出しなければ、私たちはおしまいだ。冷静に考えようとすると、黒いボールを中心に、バーンとガゼルが並んでいた。
「どいてろ、青木」
「ここは、私たちが道を切り開く!」
「待ってくれ」
突然の第三者の声に、バーンとガゼル、そして私も振り返る。そこには、ボロボロのレーゼとデザームが立っていた。
「私たちも、この扉の破壊に協力しよう」
「そして、みんなでここから逃げ出すんだ!」
「貴方たち……でも、傷は……」
私が彼らを案じて制止しようとする。しかし、レーゼは笑って返した。
「これくらい、何ともないよ。それに、出来れば一発で破壊したいからね。俺の力は2人に比べたら微々たるものだけど、出来ることは何でもやりたいんだ」
「…………」
「青木穂乃緒。お前はあのロボットたちから我々を守ってくれないか」
デザームからの要求に、私は迷うことなく頷いた。それを見たデザームは、ジェミニストームやイプシロンの面々を振り返る。
「皆も聞け! 我々には時間がない。このままでは、間違いなく全員が捕捉されるだろう。何としてでもこれを破壊しなければならない! 動ける者は、我々と共に扉の破壊に努めろ!」
ジェミニストームやイプシロンの面々は、互いに頷き合って、立ち上がった。
ボールは2つ。まず最初に蹴り込んだのは、バーンとガゼルだった。
「「ファイアブリザード‼︎」」
カオス戦で雷門を苦しめた、宇宙最強の必殺シュート。渾身の力を持って蹴り放たれたボールは、壁に強かに打ち据えられた。
次に、レーゼが右足を振り上げる。
「アストロブレイク‼︎」
かつて何度も雷門ゴールを強襲し、円堂さんを地に伏せさせたシュート技。紫のオーラを纏ったボールが、床を抉りながら隔壁にぶつけられる。
しかし、まだ足りない。今度はデザームが前に出た。
「グングニル‼︎」
あの正義の鉄拳さえ打ち負かした、デザームの必殺技。
3本のシュートを持ってしても、隔壁は少し凹むだけで破壊には至らない。
「まだだ‼︎もう一度行くぞ‼︎」
「今度は私たちが‼︎」
「マキュアもやる‼︎」
「俺たちもやるぞ‼︎」
ジェミニストーム、イプシロン、そしてバーンとガゼル。多くの力が一体となって、隔壁を壊そうと奮闘する。
私はそんな彼らを横目で見ながら、ロボットたちを倒しに向かった。
必死に走り抜けた道を戻っても、ロボットの姿は見当たらない。一体、どういうことなのかしら……?
足を止めて、キョロキョロと辺りを見回す。誰かの気配があるというわけでもない。それでも、彼らを害する者を排そうと、意識を張り詰めて敵の姿を探した。
……本当に、何もない…………?
「見つけたよ」
「‼︎‼︎」
聞き慣れた声が、背後から聞こえた。振り返ると同時に、バックステップで距離を取る。
そこには、白いユニフォームを纏った少年がいた。
まさか。まさか。動揺に、私の瞳が揺れる。
そこには……
エイリア学園最強チーム、ザ・ジェネシスのキャプテン……
グランが、いた。
「……やあ。また会ったね……穂乃緒ちゃん」
彼の翡翠色の目に、私の姿が映る。その中の私は、驚きと恐怖の感情に縛られていた。