一方、フィールド。私に代わり、久々にピッチに立った吹雪さんの姿に、一之瀬さんは少し心配そうな表情を浮かべた。
「……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫さ、アイツなら。吹雪は自分で決めて、グラウンドに戻ってきた。俺達に出来ることは、アイツにボールを繋げることだ!」
きっぱりと言い切ったのは、もちろん円堂さんで。戸惑う様子は一切なく、仲間を信じるその目が輝いて見えた。きっと、嬉しいのだろう。少なくとも私も嬉しかった。また、立ち直ろうとしてくれて。私は貴方には何も出来なかったけれど、少しでも……貴方を、吹雪士郎を必要としていた一人として、認識してくれただろうか。
頑張れ、吹雪さん。私の小さなエールと共に、試合再開のホイッスルが鳴る。
あの青髪の少女のスローインから、再び両者が動き出す。しかしボールを奪い返し、見事前線に走り込んでいる吹雪さんにパスが通った。
「吹雪さんっ!」
思わず、声を上げる。彼は"士郎"から、"アツヤ"へと人格が入れ替わっていた。
「吹き荒れろ、エターナルブリザード‼︎」
久しぶりに見た、"アツヤ"の必殺技。しかし、それは最も容易くプロキオンネットで止められてしまう。そしてすぐさま、カウンターを仕掛けられる。今度は"士郎"の必殺技が発動された。
「アイスグランド‼︎」
しかし、それもボールを持っていたグランには、全く効かず。吹雪さんの表情に、焦りが生まれる。
ダメだ。完璧にならないといけないのに。きっとそう思っているのだろう。絶望、とも取れるその横顔が痛々しくて、私は目を逸らしそうになった。
お願い、気づいて。貴方は……貴方は……!
グランの姿が視界から消えて、ハッと視線をゴール前へ移す。グランはもう既に、ゴールに立つ立向居さんに迫っていた。彼も、ムゲン・ザ・ハンドが効かなくて、焦っている一人。そんな彼に、檄が飛ぶ。
「情けねえ顔すんな、立向居! 俯いてるだけじゃ、何も解決しねえんだよ!」
その声の主は、綱海さん。立向居さんの前に、綱海さん、財前さん、木暮さんが並び立った。何? 一体何を……?
グランが、無駄だとばかりに、流星ブレードを叩き込む。しかし三人はそれに怯まず、強い決意の目で迫り来るシュートを見据えた。
「ここはあたし達で止める!」
財前さんが中心となって、三人は今まで見たことのない動きをする。もしかして、新しい必殺技を……⁉︎
「「「パーフェクトタワー‼︎」」」
財前さんの作り出した塔から、綱海さんと木暮さんが落雷の如く飛び降り、ボールを蹴り付ける。そして見事、シュートを弾き飛ばした!
「やった!」
「……!」
ピッチに立つ雷門イレブンだけでなく、ベンチに座る私達の表情も綻ぶ。テンションの上がった浦部さんに首を絞めかけられたが、まあそれはいいとする。
やった。少しだけ、希望が見えてきた。たかがシュートを弾いただけでここまで喜ぶなんて、私もだいぶ円堂さん達に感化された証だろう。でも、それでも。
「……悪い気はしないわね」
「ん? 何か言うたか、青木?」
「いいえ、何も」
こんなにも胸が熱く、心踊るのは何故だろう。
財前さん達の活躍で、みんなの動きもよくなってくる。四人がかりで奪ったボールを、鬼道さんが吹雪さんへとパスを出した。
「吹雪っ!」
「えっ……あっ!」
何か思い詰めた様子で俯いていた彼は、鬼道さんの呼びかけで我に返る。気付いた時にはもう遅くて、片足を上げたものの、足がボールを弾いてしまい、サイドラインを転がり出た。いわゆるーートラップミス。
「……吹雪さん」
これがさらに、吹雪さんを落ち込ませる。どう声をかけたらいいかわからず、口を開けたら閉じたり。情けない。こんな時に、普段あまり働かない口がさらに役に立たなくなる。
その時、不意に、威力を持ったシュートが、吹雪さんに飛来した。
「え……うわっ‼︎」
避けることも叶わず、吹き飛ばされる吹雪さん。私は思わず目を見開いた。だって、ボールを蹴った人物は。
「豪炎寺……さん……」
豪炎寺さんは、苦痛に顔を歪めながらも、体を起こして見上げてくる吹雪さんと視線を交える。
「……本気のプレイで失敗するならいい。だが、やる気がないプレイは絶対に許さない‼︎」
困惑した表情のまま、吹雪さんは立ち上がる。
「やる気がないなんて……僕は本気で」
「お前には聞こえないのか? あの声が……」
「え……?」
豪炎寺さんはそう言うと、背を向けてポジションへと戻っていく。
一人取り残される吹雪さんは、私の視線に気がついたのか、私を見てきた。私は何も語らず、目を伏せる。……私からは、もう何も言えない。これからは、貴方が自分で気付かないといけない。大丈夫。私は貴方を……信じています。
再び、激しい試合展開が繰り広げられる。吹雪さんは前線で、仲間から送られてくるボールをただ待っている。
「流星ブレード‼︎」
「「「パーフェクトタワー‼︎」」」
先程シュートを止めてみせたパーフェクトタワーも、今度は破られてしまう。構える立向居さんの表情も険しい。しかしその時。
「たぁぁあああっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」
かわされたはずの円堂さんが、流星ブレードの前に立ちはだかる。三人のブロックを意にも介さない強烈なシュートに、円堂さんは顔を歪めて耐える。
「ぐっ……負けるかッ……いっけぇええぇえええ‼︎」
「「「「吹雪ッ‼︎」」」」
みんなの願いを込めたボールが、吹雪さんに一直線に飛んでいく。それを胸でトラップした吹雪さんは、目を見開いてそれを見下ろしていた。
「……聞こえる……ボールから、みんなの声が……‼︎ みんなの思いが込められたボール……みんなの……!」
「吹雪さんッ‼︎」
ブツブツと何か呟いている吹雪さんに、私は周りを見ろと注意を促す。敵が吹雪さんを囲んで、スライディングを仕掛けてきた。吹雪さんは顔を上げると、相手の足がボールに届く前に、高く跳躍した。
「‼︎」
私は驚いて、吹雪さんを仰ぐ。まさか……吹雪さん……!
私の衝撃をよそに、吹雪さんの表情は、初めて会った時みたいな爽やかな笑顔。そして空中でいつも巻いている白いマフラーを取った。
着地した吹雪さんは、先程とは打って変わって、見違えるような身のこなし。素早い動きで敵DFをかわし、ゴールへ迫った。
「これが完璧になることの答えだ!」
そうして、必殺技の構えを取る。これは、新しい必殺技……!
「ウルフレジェンド‼︎ うぉぉおぉおぉおお‼︎」
「プロキオンネット‼︎」
GKが、何ら変わらない表情で、必殺技を放つ。しかし。
「……っ、何ッ⁉︎」
吹雪さんの必殺技は、ついに鉄壁の防御を崩した。ついに、雷門が1点を返したのだ。こうして同点となり、試合は振り出しに。
ベンチでも、歓喜の声が上がる。私も浦部さんに捕まって立ち上がらせられたが、その頬が緩んでいる自信がある。吹雪さんが私に手を振ったのに、私も小さく手を振り返した。そんな彼に、円堂さん達が一斉に集まる。
ようやく、一歩追いついた。だがまだ前半。戦いはまだ、終わってないーー。