吹雪さんの得点がみんなの背中を押したのか、全員の動きがよくなる。立向居さんのムゲン・ザ・ハンドも進化して、グランの必殺技を止められるほどになった。グランも予想外だったらしく、眉を寄せる。ふっ、いい気味だわ。私も久々に性格の悪い所を見せつつ、雷門の流れが良くなっていることを実感した。
「立向居‼︎」
「いいぞ! ついに取ったな!」
「はいっ‼︎ 究極奥義は進化するんだ! 俺が諦めない限り、何度でも‼︎」
随分頼もしくなった雷門の新たな守護神に、私は目を細めた。本当、貴方方はすごい。その時、小さな地響きの音が私の耳に入った。
と、次の瞬間、大きな揺れが来て、みんなが驚く。まるで地震のようだったそれは、すぐに引いた。
何だったのかしら……? ていうか、さっき爆発音みたいな音も聞こえて……何なの……?
私の疑問に答えるように、機械を通して吉良星二郎の声が聞こえてきた。
『ご苦労様、鬼瓦警部』
「っ⁉︎」
鬼瓦さんが、ここに来ている……? 私は驚いて、天井を仰ぐ。
『しかし貴方方の苦労も、残念ながら無駄だったようです』
「何……?」
『貴方達の考える通り、エイリア石の出るエナジーには人間を強化する効果があり、エナジーの供給が途切れると元に戻ってしまう』
……もしかして鬼瓦さんは、あの大きなエイリア石を破壊しようと? ここに来る前に見た、聳え立つ巨大な紫の石を思い出す。あれのおかげで、グラン達は並外れたパワーを持っている、と……。それでさっきの地響きは、それを爆発した時の衝撃が……。なるほどね、そういうことか……。
でも……何だかおかしいわ。エナジー供給が切れたのならば、彼らはもっと焦っているはず。なのに何故、そんなに落ち着き払っているの……?
私の訝しげな視線に気付いたグランが、微笑みかける。
『では、そのエイリア石で強くなったジェミニやイプシロンを相手に、人間自身の能力を鍛えたら……』
「…………? …………っ、まさかッ‼︎」
『ほう、察しが早いですね。その通り……ジェネシスの力は、真の人間の力……。弱点などない。最高、最強の人間たちなのです』
「そんな……それじゃあ、レーゼたちはそんなことのために……あんなにボロボロになるまで、特訓させていたというのか⁉︎」
私の脳裏に、レーゼやデザームたちの姿がよぎる。あの見るに耐えない痛々しい姿は、私の胸を締め付けた。
『ジェネシスこそ、新たなる人の形。ジェネシス計画そのものなのです』
「貴様ッ……‼︎」
ギリ、と奥歯を噛み締める。許せない。あの男は、堂々と彼らを捨て駒だと言い切りやがった。
ーー俺たち、あんなことやってたけど……ホントは家族みたいなもんなんだ。
昨夜、バーンが呟いていた言葉を思い出す。エイリア学園は、家族同然だと。それなのに、こいつは……‼︎ こいつは、ただの外道だ! あいつらのことを……何にも考えちゃいない!
私の怒りを代弁するように、円堂さんが吠える。
「お前の勝手でっ‼︎ みんなが大好きなサッカーを、悪い事に使うなッ‼︎」
「君たちに……崇高な父さんの考えを理解できるわけがない‼︎」
両者、相容れずと言ったところだろう。グランが流星ブレードを放つが、パーフェクトタワーに弾かれ、こぼれ球を円堂さんが拾う。
「吹雪!」
再び吹雪さんが、ゴールを狙う。ボールを貰ってすぐに振り返った吹雪さんは、必殺技を放った。
「ウルフレジェンド‼︎」
しかし、今度は先程のように上手くはいかない。敵GKが、今まで見たこともない動きをした。
「時空の壁‼︎」
ゴールをこじ開けたウルフレジェンドが、効かない。衝撃に固まったみんなは、弾き返されたボールに即座に反応出来ず、ボールは再びグランの元へ。彼の傍らに、また二人選手がやってきた。
「「「スーパーノヴァ‼︎」」」
「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」
フィールド中央からのロングシュートにも関わらず、ジェネシスの必殺技は雷門ゴールのネットをいとも容易く揺らした。追加点が入る。私たちの表情が、翳った。
「そんな……! 進化したムゲン・ザ・ハンドを破ってしまうなんて……⁉︎」
動揺で、木野さんの声が震える。私も唇を噛んで、この試合状況を見守っていた。どうすればいい……? 何か、突破口は……!
『ジェネシスこそ、世界を支配する真の力を持つ者たちなのです』
「っ……、大好きなサッカーを汚すな‼︎」
『どういう意味ですか?』
空中に、吉良の映像が映し出される。私も円堂さんたちと共に、苦々しく彼を見上げる。
「力とは……みんなが努力して付けるものなんだ!」
『忘れたのですか? 貴方たちも、エイリア石でパワーアップしたジェミニやイプシロンと戦うことで、強くなってきたということを』
「ッ!」
『そう……。エイリア石を利用したという意味では、ジェネシスと雷門も同じなのです』
思いもよらぬ図星を突かれて、ハッと目を見開く。そうだ。それじゃあ、私たちとジェネシスのやってきたことは、完全にと言っていいほど同じ。流石の私も反論出来ず、ギリッと吉良を睨みつける。
『雷門もすっかりメンバーが代わり、強くなりましたね。ですが、道具を入れ替えたからこそ、ここまで強くなれたのです』
「……ッッ‼︎」
『我がエイリア学園と同じく、弱いモノを切り捨て、より強いモノへ入れ替えることで……』
うるさい、黙れ。お前なんかに何がわかる。本当はまだまだ戦いたいのに、怪我で戦えなくなったみんなの気持ちが。限界を感じて、チームを抜ける他なかったみんなの気持ちが。お前なんかにわかってたまるか‼︎ 何も知らないくせに、知った風な口をきくな‼︎
私の口が開きかけた瞬間、先に声帯を震わせて叫んだのは、円堂さんだった。
「ふざけるな‼︎ 弱いからなんかじゃない‼︎」
『いいえ、弱いのですよ。だから怪我をする。だからチームを去る。実力がないから、脱落していったのです』
「違うッ‼︎」
『彼らは貴方たちにとって、無用の存在……』
「違う……違う、違う‼︎ あいつらは弱くない‼︎ 絶対に違う‼︎」
「……円堂さん……?」
何だか、彼の雰囲気が変わった。そう、喩えるなら炎獄。罪人を許さない、火の海地獄。それくらいの、激しい怒り。
「俺が証明してやる……‼︎」
円堂さんの目に、怒りの炎が宿っていた。
それからというものの、試合展開はほぼ止まっていた。理由は簡単。円堂さんが、ボールをキープしているグランから、ボールを奪還せんと右往左往に走っているから。
「円堂くんが、あんなプレイを……」
「まるで、怒りをぶつけているだけ……」
隣で試合を見守る雷門さんと木野さんも、信じられない、とでも言うような声音だ。私は黙って、彼のプレイをジッと見つめていた。
やがて、円堂さんの息が切れかけ、動きが鈍くなってきたその時。グランが、円堂さんに声をかけた。
「円堂くん、キーパーに戻りなよ」
「……⁉︎」
「君がキーパーじゃないと、倒し甲斐がないよ」
「黙れぇっ‼︎」
円堂さんが再びグランに迫ったが……当然かわされ。またあの三人が、シュート体勢に入る。
「「「スーパーノヴァ‼︎」」」
「っ……どうすれば……‼︎」
ムゲン・ザ・ハンドを破られた立向居さんは、迫り来るシュートに固まってしまう。土門さん、財前さん、綱海さん、木暮さんが一つの壁となってシュートを阻止しようとするが、敢え無く吹き飛ばされる。立向居さんがムゲン・ザ・ハンドで挑むが……それも破られ、ついにボールがネットを揺らそうとしたその時。
「っ! 豪炎寺さん、吹雪さん……」
FWの二人がフォローに来て、同時に足を旋回させて蹴り飛ばそうとする。しかし、シュートは二人を弾き返すには充分な力をまだ蓄えていた。
「「うわっ‼︎」」
その時、交差するように出していた足に何かオーラのようなものを感じ、そのせいか、ボールはクロスバーに当たって、何とか追加点を阻止出来た。
「……全員でカバーしなければならないキーパーは……君たちの弱点であり、敗因となる……」
相手方の余裕綽々な様子に、私は舌を打った。確かに、あのシュートを立向居さん一人で止められないのならば、フィールドにいるみんなでゴールを守らねばならない。しかし、それでは一方的にやられるだけで、勝機など永遠に見えてこない。何より……チームの精神的支柱である円堂さんがあの様子では……。
「……………………」
私が溜息を吐いたのと同時に、前半が終了した。
「…………円堂さん」
ハーフタイム。私はタオルを肩にかけ、ドリンクを飲んで座り込んでいた彼の前に立った。肩で息をする彼はすぐには気付いてくれなかったが、まぁそんなことは気にしない。私はいつものように腕を後ろに組んで、円堂さんを見下ろし、呟いた。
「……情けない」
「……は?」
「聞こえませんでしたか? 情けない、と言ったのです」
「なっ……⁉︎」
吉良への怒りも相まって、円堂さんは私を睨み上げた。私は黙って彼の胸倉を掴み、無理矢理立たせる。
「あっ、青木さん⁉︎」
「青木っ!」
周りの動揺した声が聞こえてくるが、そんなの気にも留めない。私は円堂さんの驚いたような顔を見つめて、極力冷静を装った。
「あの程度の挑発にまんまと乗せられ、怒りに任せて一人突っ走り、結局何も出来ず……。貴方は一体何をしていたのですか? そもそも、貴方は何をしにこの富士山へやってきたのですか?」
「そんなの、決まってるだろ! エイリア学園からサッカーを、みんなを守るために……!」
「あら、ご存じではないですか。ならば、先程のあの不甲斐ない展開は何だったのですか? 情けなさすぎて逆に笑えるような、あの試合は」
「なっ……‼︎」
ついに円堂さんもカチンときたらしく、私のユニフォームを掴み返す。
「円堂‼︎」
鬼道さんが止めに入ろうとしたのを視界に入れつつ、私は右手を振り上げーー
パァン!
彼の左の頬を、平手で打った。
円堂さんは人工芝の地面に倒れ、尻餅をつく。私は頬を押さえる彼を見下ろした。
「っ、何すんだよ!」
「いい加減にして下さい。貴方はその程度のお人だったというのですか。私の知る円堂守は、あんな力で相手に理解を強要させるような方じゃない」
「でもっ……‼︎ あいつらは弱くなんかない! 俺が証明する! しなきゃならないんだ……‼︎」
「いい加減にしろと言ったのが聞こえなかったか‼︎」
冷静でいようとすればするほど、感情が猛り狂う。ついに抑えていたものが爆発して、まるで八つ当たりのように喚き散らしてしまう。それでも、私の愚かな口は止まらない。
「わかっているだろうが‼︎ 何のためにお前がここに立っているのか‼︎ お前はそれを、たった一時の怒りで全て無にしたんだ‼︎ 馬鹿かお前は⁉︎ お前が今すべき事はこんなことではないだろう‼︎ ここに立っているなら、やるべき事を見失うな、周りをよく見ろ‼︎ お前は一人じゃないって私に教えてくれたのは、他でもないお前だったじゃないか‼︎」
「……‼︎」
「怒ってるのはお前だけじゃない。私だって、人生最高に腹が立った。何も出来ない手前に腹が立った! 共に戦って私を受け入れようとしてくれた優しい彼らを馬鹿にされたことにも腹が立った! だが何より気に食わないのは、フィールドに立つ仲間のことを考えずに、自分勝手に動くお前という阿呆だ‼︎ だから殴った。……少し頭を冷やせ。お前には仲間がいる。お前は……チームを率いる、キャプテンだろうが」
「っ‼︎ 青木……」
最後まで言いたかった事を全て言い切り、私も肩を弾ませた。私たちの間を、沈黙が流れる。それを破ったのは、吹雪さんだった。
「……そうだよ、キャプテン。僕を間違った考えから解き放ってくれたのも……雷門のみんなだ!」
円堂さんが吹雪さんにつられるように、仲間たちの顔を一人一人見る。みんな、円堂さんを真っ直ぐ見つめ返した。
「……みんな……」
円堂さんは泣きそうに顔を歪めると、視線を地面に落とす。そして不意に、自分を叱咤するようにパチンと頬を叩いた。みんなが突然の行動に驚く中、円堂さんは立ち上がって深く頭を下げる。
「……ゴメン‼︎」
それに答えたのは、彼の行動に動揺しなかった豪炎寺さんと鬼道さん、そして私。
「青木の言う通りだ、円堂……怒っているのは、お前だけじゃない」
「俺たち全員、ここに来れなかった奴らの気持ちを引き継いでいるつもりだ」
「だから今度は、彼らが弱くないということをあの知能の低い馬鹿どもに証明してやって下さい。……みんなで、一緒に」
「豪炎寺……鬼道……青木……」
みんなを見渡して、ようやく円堂さんの表情も明るくなる。それでいい。それが、貴方なのだから。
小さく息を吐くと、円堂さんがまた私を振り返った。
「こんな言い方変だけど……殴ってくれてありがとな、青木。おかげで目が覚めたよ」
「……いえ。私の方こそ、申し訳ありません。いくら目を覚まさせるためとはいえ、貴方に手を上げてしまうなど……」
「いや、いいんだ。お前が怒ってくれたから、気付けたんだ! ありがとう!」
「……はい」
少し気恥ずかしい気持ちになって、私は頬を緩めて頷いた。
私にも出来たんだ、誰かを助けるってことが。それがただ嬉しくて、私は微笑んだ。