「……このままでは……」
今まで散々余裕そうだったジェネシスの空気が変わってくる。あら、いい顔してるわね。ニタリと、心の中でほくそ笑む。
その時、電子音が混ざった吉良星二郎の声が響く。
『グラン、リミッター解除を』
「…………! リミッター解除……⁉︎ 父さん、そんなことをしたら、みんなが……!」
ハッと我に返ったグランの様子が、明らかに何かおかしい。父に口ごたえした、とグランはすぐに口を噤んだが、私には正直そんなことどうでもよかった。
どういうこと? リミッター解除とは、あのグランが父と崇めるあの男に意見するほどのものなのかしら? 何か危険なものなのか、それとも……とにかく、嫌な予感がする……。言葉の持つ意味が読み取れなくて、それでも体が訴えている。ヤバいのが来る、と。
試合再開のホイッスルが鳴って、円堂さんがボールと共にジェネシス陣営に上がる。
「リミッター解除……!」
ジェネシスが、胸元にあるスイッチらしきものに手を当てる。するとスイッチが光と共に一回転して、そのまま元に戻った。
何なのかしら……? 一見何もないように見えた私の目。しかし、背筋に冷たい何かが素早く駆け上った。
間違いない。私の直感が叫んでる。これはおかしいって!
「円堂さんッ‼︎」
私が喉を震わせた刹那、円堂さんがキープしていたボールを、背番号10の女ーー確か名をウルビダといったかーーが目にも留まらぬスピードで奪い去っていった。
速い。さしもの私も、動きが何とか見える程度。瞬く間に中盤が突破される。驚愕に支配された中、吉良が再び口を開く。
『人間は体を守るために限界を超える力を出さないよう、無意識に力を制御する。では、その全てを出し切れるとしたら?』
「‼︎」
単純な計算だ。体を顧みずに、本当の全力を出したなら。
「ふざけるなッ‼︎ 貴様は彼らを破滅に導くつもりか⁉︎ そんなことをすれば……筋肉は悲鳴を上げ、体はボロボロになってしまう!」
こういう時、無駄に働く自分の脳が恨めしい。私の絶叫を聞いて、瞳子監督も父に訴えた。
「父さんッ! 今すぐやめさせて‼︎」
『そうさせたのは瞳子、お前なんだよ』
「貴様ッ……自分の子供達に、なんてことを‼︎」
「お父様の望みは私達の望み……! これが、ジェネシス最強の必殺技だ‼︎」
なんて連中だ。私は怒りでどうにかなりそうだった。
ゴール前まで、スーパーノヴァを打った三人が駆け寄る。そして今度はウルビダを中心にシュート体勢に入った。
「「「スペースペンギン‼︎」」」
ジェネシス最強を自負するだけあって、進化に進化を重ねた立向居さんのムゲン・ザ・ハンドもぶち破ってしまった。
こうして追加点を許してしまった私達。せっかく追いついたのに。また、追い越せない……! 歯痒さが、私の中に燻る。
「っぐ……⁉︎ うぅっ……!」
「‼︎ 基山さんッ?」
呻き声を上げ、グランが膝をつく。彼だけじゃない。シュートを打った三人が、体を抱えて倒れ込んでいた。
こんなの……こんなのって……!
「やめなさい、貴方達は馬鹿なのですか⁉︎ 何でこんなっ……」
「ふんッ……お父様の子供になり損なった、お前などにはわかるまい……! これくらい……お父様のためなら……!」
「そう……父さんのため……!」
傷つく体を引きずって、それでも立ち上がろうとする二人に、私は愕然とした。そして、彼らを道具のように扱う吉良に、再び心の端に怒りの炎が灯った。
ホイッスルが鳴り、今度は雷門ボールから。ウルビダがボールを奪おうと阻んでくる。
しかし、それを察していたかのように、円堂さんは飛んでかわす。
グランが出てきても、円堂さんは鬼道さんにボールをまわし、ワンツーパスでグランを抜き去る。
「リミッターを解除した私達をもかわすだと……⁉︎ 何が起こっている⁉︎」
「……まさか、これも……⁉︎」
基山さんが呟く。まさかこれも、仲間を想う力か。そういうことだろう。貴方は何もわかっていない。わかろうとしていない。そして……吉良も。私も、かつてはそうだった。
人の心に怯え、わかるはずなどないのに、全てわかったように彼らーー雷門イレブンのことを見ていた。彼らは、私が今まで見てきた人間とは違った。私はかつて、人とは口で嘘を吐き続けるものだと思っていた。現に、今の私がそうであるように。
でも……彼らは、違う。サッカーという一つのスポーツに真摯に向き合い、受け止め、こんなに真っ直ぐになれる……。彼らを通じて、私は人を信じる強さを学んだ。
だから、負けるはずがないのだ。お前達ごときに、彼らが。
「「うおおおおおおおおッ‼︎」」
フィールドでは、豪炎寺さんと吹雪さんが並んでゴール前へ迫っていた。豪炎寺さんが炎のオーラを、吹雪さんが氷のオーラをまとう。二人がすれ違ったかと思えば、体を反転して二人同時にボールを蹴った。
二つの相反するエネルギーを纏ったシュートは、相手GKに必殺技を出させる間も無く、ゴールを貫いた(ゴールネットは破れていないが)。スコアボードに、3−3という嬉しい数字が表示される。この新たな必殺技は、目金さんによって「クロスファイア」と名付けられた。
いける。これから勝てる。再び、私は確信した。
こちらが突き放すほど成長するからか。ジェネシスに焦りが見え始める。そういう時に限って、意志の強さか全力を出したりするのだ。現に、グランとウルビダがそうで、ボールをキープしながら雷門ゴールへ駆け寄ってくる。
「「「スペースペンギン‼︎」」」
「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」
対する立向居さんは、怯むことなくボールを掴みにいった。豪炎寺さんと吹雪さんのシュートに触発され、彼の目には諦めの二文字はない。
思いが形となり、究極奥義はこの状況でも進化を遂げた。そして見事、ジェネシス最強の必殺技を止めてみせたのだ。
「ジェネシス最強のシュートが……⁉︎」
ボールは立向居さんからDF陣へ、そして中盤へ運ばれていく。みんなの想いを繋ぐように、紡ぐように。
その想いが込められたボールを円堂さんが受け、そこに豪炎寺さんと吹雪さんが続く。
そして……地上最強の、究極奥義が生み出された。
「「「ジ・アース‼︎」」」
11人の力が集約されたシュートは、ジェネシスのゴールを強襲する。DF陣もGKも物ともせず、ゴールへまっしぐら。
しかし……そこへグランとウルビダが駆け込んで、シュートを蹴り返そうと足を掲げた。
「お父様のために……‼︎」
「負けるわけにはいかない‼︎」
『止めるのです! 何としてでも……!』
吉良の切羽詰まった声も重なり、光がフィールドを満たしていく。この光は、何者も止めることはできない。サッカーを愛し、仲間を思いやる……
そして……。
ーーピーッ‼︎ ピーッ、ピーッ、ピィイイイーーッ‼︎
耳に入るのは、けたたましい追加点と試合終了を告げるホイッスルの音。
「〜〜〜〜っっ、やっったぁぁああぁぁあぁあああ‼︎」
試合は、雷門の勝利。私達はついに、エイリア学園に勝ったのだ。
青木さん、超喋るようになったな……。いい変化なのかな、コレ。
ようやく苦境(試合シーン)を乗り越えました。早く世界編いきたい。
これからもボチボチ頑張っていきます。