青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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89話 青木穂乃緒が笑った日

稲妻町に帰る道中。

 

「なぁ、みんなはこれからどうするんだ?」

 

ふと、財前さんがそう問いかける。私はハッとした。

そうだ。エイリア学園との戦いは終わった。元々この中には、東京に住んでいない選手達がいる。これが終われば、もう離れ離れ……? そう思うと、少し寂しくなった。

みんなはワイワイと、これからの事を話している。

 

浦部さんは、一之瀬さんと一緒にお好み焼きを焼きながら幸せな家庭を築くとか(本人は勘弁してくれと言いたげだったが)、

 

立向居さんは陽花戸中に帰り、さらに技を磨くとか、

 

綱海さんも沖縄の海が恋しく感じ、帰ることを決意し、

 

財前さんは、浦部さんのお隣で円堂さんとたこ焼き屋をやろうとか(冗談)。

 

そしてそんな中、吹雪さんは。

 

「そうだなぁ。僕も穂乃緒ちゃんと一緒に、北海道で暮らそうかなぁ」

「「「「ええっ⁉︎」」」」

「は?」

 

思わず、私も隣に座る吹雪さんに聞き返す。吹雪さんはみんなの反応を見て、くすくすと笑っていた。

 

「冗談だよ。一緒に暮らしたいっていうのは本音だけど」

「私の方からお断りさせていただきます」

「えっ……ちょっと傷つく……」

「だって、私などと暮らせば、貴方に迷惑をかけてしまうではありませんか。私は最悪、野宿でも構いませんので……」

「えっ、そういう意味?」

 

なら良かった、とホッとした様子の吹雪さん。それ以外に何の意味と捉えたのだろうか。人の考えとは千差万別で、不思議なものね……。

私達の会話を聞いて、財前さんが「あっ、」と零す。

 

「でも青木、これから本当にどうするんだ?」

「どう……とは?」

「だって……仮にも親が逮捕されたんだろ? そしたら、青木は……」

 

……ああ、そのことか。私は小さく溜息を吐いて、話す。

 

「滝野さんによれば、私の身は警察の元で保護されるそうです。まぁ、私は一応被害者ということになっているらしいですから……そんな悪い待遇ではないと思います。それから先は……まだわかりませんね」

「そうか……」

「あっ! それならさ、ウチに来いよ!」

 

ふと明るい声を上げて提案したのは、円堂さん。私もみんなも、驚いて彼を見た。

 

「行く宛ないんだろ? だったらウチに来いよ! 母ちゃんもきっと喜んでくれるし!」

「で、ですが……」

「ちょ、ちょい待ちちょい待ち!」

 

私が返答に困っていると、浦部さんが何やら興奮した様子で割って入る。

 

「そそそそ、それってつまり……同棲ってことやろ⁉︎」

「「「ど、同棲ぃぃ⁉︎」」」

「え?」

「は?」

 

みんなの驚きの声を受けつつ、私と円堂さんはキョトンとした表情で互いの顔を見る。

 

「いやー、まさか円堂がそんな積極的な男やなんて思わんかったわ〜‼︎ 大好きな青木と一緒に暮らして、イチャイチャライフを満喫するつもりなんやろ?」

「「いっ……‼︎」」

 

浦部さんの至極楽しげな様子に、木野さんと雷門さんが反応する。いつも冷静なはずの鬼道さんが、珍しく声を上ずらせて円堂さんに話しかけた。

 

「え、円堂、お前……」

 

恐らく、鬼道さんとしては、あのサッカーバカの円堂さんに限って、そんな事を考えて提案したわけじゃないと信じたいのだろう。しかし、それは人の心。見抜けるわけじゃないし、完全にわかるわけでもない。だから、万が一の可能性も捨てきれなくて、名前を呼ぶことしかできなかった。……といったところかしら。

しかし、当の円堂さんは、キョトンとしたまま答えた。

 

「どーせー? 何だそれ?」

 

……そこからか。キャラバン内の、みんながズッコケた。あの豪炎寺さんまでもが、ズルッと椅子から滑っている。安定の彼に安心しつつ、みんなが苦笑する中、円堂さんだけが「え? え?」と私達をキョロキョロと見回している。

 

「……だよな、そうだよな。円堂ならこうなるよな」

「あー、びっくりしたー……いや、ちょっと残念だったかも」

「それどういう意味ですか、土門さん」

 

あはは、と乾いた笑い声の一之瀬さんと、少し期待の目を向けていた土門さん。彼には私のツッコミが入った。

 

「前に青木の事を母ちゃんに話したんだけどさ、そしたら一回会ってみたいって。だから、青木さえ良ければウチに来ないか? 歓迎するぜ!」

「……円堂さんがそう仰るなら、私は貴方に従います」

「じゃ、決まりだな!」

 

私が答えると、にかっと円堂さんは笑った。何やら複雑そうな鬼道さんと、呆れて溜息を吐く豪炎寺さんを視界の隅に捉える。こうして一連の騒動(?)が一応幕を閉じたその時。

 

バフンッ‼︎

 

「うわっ⁉︎」

「な、何だ⁉︎」

 

突然、大きな音と共にキャラバンが揺れ、停止する。音の位置からして、ボンネットの辺りだろうか。しかもこの音ーー。

ふと、古株さんが運転席から降りて、外に出る。それを追って、私達もキャラバンから降りた。

 

「……もしかして、ショートしたのですか?」

「ははは……どうやらそうらしいわい」

 

古株さんがこちらを振り返って苦笑すると、さらにバン‼︎と先程より大きい音がボンネットの中から聞こえてきた。

 

「こりゃ直すのにしばらくかかりそうだ」

 

古株さんの言葉に、一同が笑いに包まれる。キャラバンが直るまでの間、円堂さんがサッカーをしよう、と提案した。みんながそれに乗り、近くの草地へ降りていく。

みんなの背中を見届けてから、私はイナズマキャラバンを振り返った。私達がここまで強くなれたのも、ここまで戦ってこれたのも、全てこのイナズマキャラバンがあってこそだ。キャラバンが無ければ、私達は日本中を転々とできなかったし、何よりキャラバンがあったから、私達はエイリア学園の本拠地から無事生還できた。イナズマキャラバンは、私達を支えてくれた立派な立役者だ。

少し汚くなった鉄の上に、そっと手を乗せる。

 

「……お疲れ様。貴方もよく、頑張ってくれたわね。…………ありがとう」

 

ポツリと零すと、「おーい‼︎」という元気な声が耳に届く。

 

「青木ー‼︎ 早くこっち来いよー‼︎ 一緒に、サッカーやろうぜ‼︎」

「ーー…………はい! 今行きます!」

 

それに私も大声で応えて、坂を駆け下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつから、忘れていたのだろうか。こんな、心が踊るような感覚を。ただ、ボールを蹴っているだけなのに、何故こんなに、胸が熱くなって仕方ないのだろう。みんなと笑い合っているだけで、それを見るだけで、どうしてこんなに心が安らぐんだろう。

 

ああ、これが「楽しい」か。

 

心の赴くまま、ボールを蹴り上げる。心と体がリンクしているかのように、私の蹴ったボールは空高く飛び上がった。

 

「あーっ‼︎ 飛ばしすぎだよ、青木さん‼︎」

 

木暮さんが、空に上がったボールを見ながら、後ろに退がる。しかし、退がったそこには壁山さんと目金さんがいて。木暮さんは二人にぶつかって、三人仲良くもつれて転び、そこに落ちてきたボールが三人の頭の上をてんてんてん、と跳ねていった。

そのザマが滑稽すぎて。みんなから、どっと笑い声が上がる。

 

「いったー⁉︎」

「何するんですか、木暮くん‼︎ ちゃんと前を見てくださいよ‼︎」

「そうッスよ、危ないッス!」

「だ、だって! 青木さんがあんなに高くボールを飛ばすか……ら……」

 

木暮さんの声が途切れたのにも気付かず、私はーー。

 

 

 

 

 

 

「ーーあはははははははっ‼︎ ははっ……ふっ、くく、ひひっ……ふははっ、はは……!」

 

 

内から込み上げてくる、笑い(・・)が止まらない。くくく、と何とか抑え込もうとするほど、余計ひどくなるような気がする。堪えてたものも吹き出して、私はまた声を上げて笑った(・・・・・・・・)

 

「は、はは、はぁー……」

 

ようやく収まってきた頃、みんなが固まっていたことに気付く。皆一様に、私の事を見つめてくるのだ。どうしたのか、と首を傾げる。

 

「? あの……何か……?」

「あ……青木……お前…………」

「?」

「うわあああああ‼︎ やったーー‼︎ 青木が、青木がまた笑ったぁぁぁ‼︎」

 

円堂さんの大声と共に、みんながワッと私に詰め寄る。私は呆然としたまま、その場を動けないでいた。

笑った……? 私が……また……? 胸の奥でポツリと零してみると、嬉しい気持ちがじわじわと込み上げてきて、また頬が緩む。

 

「……はい。私……また、笑いました」

 

にこ、と目を細めて笑ってみる。するとみんなも笑顔になって、草地に笑い声が響く。

早く稲妻町に帰りたい。そして、彼らに会いたい。

あそこに帰れば、日常が取り戻せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、思っていた。




今年もうあと1ヶ月もありませんね。
紆余曲折しながら走ってきたこの小説ですが、もう終わりに近づいてきました。もちろん、FFI編に入ったら、また突っ走ることは目に見えてますが……。

ここまで来れたのも、この小説を読んで下さる皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
これからも皆さんの小さな暇潰しになれるような作品作りを目指します。

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