それぞれが重い足取りのまま、ベンチへ集合した。まだ足が完治していない私はすぐにそこに座って、みんなを見守る。
ショックなのだろう。私だってそうだ。ようやく全てが終わって、みんなで笑い合ってサッカーができると思った矢先にこれだ。しかも戦うのは、エイリア石を受け入れる仲間達。機嫌が悪いとか、そういう問題じゃない。でも、心が重いのだ。
「壁山、それは……」
ふと、円堂さんが壁山さんに話しかける。その手には、雷門中サッカー部の看板が。
「……みんな、忘れちゃったんスかね……?」
「……………………」
ゆっくり立ち上がって、壁山さんの元に歩み寄る。そっと木製の看板に手を添えた。
「……忘れてなんか、いません」
「青木さん……?」
「忘れてなんかいません。忘れるワケありません。きっと……」
グッと込み上げてくる何かを堪え、拳を握りしめた。
「たとえ部室が無くなっても、貴方達はサッカーを捨てなかった……。その魂は、エイリア石なんかで奪われるほど、柔じゃありません……だから……だから!」
「そう、だな……あんなに頑張って……俺達はサッカーを続けてきたんだ……。だから、エイリア石に潰されるはずがない!!」
自分を落ち着かせるための譫言が、円堂さんに聞かれていたらしい。私は顔を上げた。
「仲間は、いつまでも仲間なんだ!!」
「!」
力強く断言した彼に、私の心はまた震えた。ああ、貴方はどうしてそんなに強いの。そして、その言葉に励まされている自分がいることに気がつく。私だけじゃない。前を向いたのは、他のみんなも同じだ。
「取り戻そう、本当のみんなを!」
「……あいつらは、俺がサッカーを諦めかけた時、側にいてくれた仲間だ! 今度は、俺達が……!」
一之瀬さん、豪炎寺さんをはじめとした初期メンバー、更にはこの旅で新たに仲間に加わったみんなも、気持ちを一つにする。
試合を指揮する響木監督が、私達を見渡す。
「お前達、準備はいいか」
「響木監督……!」
「あいつらに見せてやれ! お前達のサッカーを!」
「「「「はい!!」」」」
声を揃えて答えた私達は、今度は円陣を組んだ。中心で手を重ね合わせる。
「さあ、いくぞ! みんな!」
「「「「おおっ!!」」」」
この戦い、必ず勝つ。そして、みんなでまたサッカーをするんだ。強い決意が束ねられ、一つの大きな塊になった。
足を負傷している私は、今回もベンチで見守る。キックオフは
すると、すぐさま風丸さんが駆けつけた。円堂さんもボールを奪われまい、と気を引き締める……が。
「!」
私は思わず、自分の目を疑った。すれ違いざまに、風丸さんがボールを掠め取ったのだ。あのスピード……人間じゃない……!
土門さん、鬼道さんがフォローに入る。それを認めた風丸さんがニヤリと笑うと、胸元が紫色の光を放った。
「疾風ダッシュ‼︎」
「なにっ……!?」
「なんだあの速さは!」
かつて見たスピードを遥かに超えている。これも全て、エイリア石の力だというの……? せっかく……富士山まで行って、その根本を破壊できたと思ったのに……! 忌々しさが込み上げてきて、膝の上に作った拳を強く握りしめる。
中盤は風丸さんが一人で突破し、残るは壁山さんと立向居さん。普通のシュートだけでザ・ウォールを突破し、ムゲン・ザ・ハンドで阻止する。しかし、その威力はかなりのものらしい。
「……まだ、ほんの小手調べさ」
風丸さん達は強い。必殺技無しで、ここまでだなんて。きっとみんな、エイリア石の力無しでのレベルも上がっているのだろう。
「爆熱ストーム!!」
豪炎寺さんが必殺技を放つ。GKの杉森さんは、影野さんとの連携技・デュアルスマッシュで軽々とシュートを止めてみせた。雷門ベンチの横……つまりダークエンペラーズ側のベンチでは、研崎が嬉々とした声で言う。
「ダークエンペラーズの強さは圧倒的……! 勝敗は火を見るより明らかだ!」
みんなも、私も悔しさのあまり歯噛みする。パッと視線をピッチに向けると、杉森さんがボールを前線に投げ、染岡さんに渡った。ゴール前には、円堂さんと壁山さんが立ちはだかる。
「通すわけにはいかないッス……!」
二人のマークの動きに注目しつつ、染岡さんは高らかに笑った。
「ッはッはッはッは!! 今の俺はどんなディフェンスだって突破することができるんだぜ?」
「それは本当の力じゃない!!」
「だったら俺を止めてみろ!!」
「染岡……ッ!」
染岡さんの胸元に光る、紫色の鉱石。
「エイリア石を否定するなら……それ以上の力を……俺に見せてみろ!!」
意を決して二人が前に出ると、染岡さんはこれを強引に突破。しかし……そこに、吹雪さんが。
「染岡くんっ……! アイスグランド!!」
上手く隙をついた守備だった。ボールはサイドラインを出て、一瞬試合が止まる。舌打ちをして戻ろうとした彼の背に、吹雪さんが声をかけた。
「染岡くんっ!! ……僕は忘れてないよ……! 君がどんな悔しい思いで、チームを離れたか……どんな思いで、僕に後を託したのか!!」
「…………フン。そんなこと覚えてねぇな……」
「な…………、染岡くん……」
そう吐き捨てられ、吹雪さんも愕然とする。……どうやら、今の彼らには何を言っても無駄らしい。
……私が口を挟むか? 私からすれば、架空の力に縋り、それに頼りたい気持ちがわからない。エイリア石を使って、それで力を手に入れて、その力を何に使うのか。
……そもそも研崎は、エイリア石を軍事利用しようとしているわけだ。エイリア石でパワーアップした人間を、兵器として使うために。まるで私のように。少なくとも、私と同じ存在を作るのだけは、絶対に許せない。実験の駒として用いられ、モルモットとしてただただあらゆる薬を投与される日々。脳裏に苦い思い出が蘇り、唇を噛んだ。
形は違えど……私のような思いをする人間は、もう要らない。私だけが知っていれば、それでいい。
だから円堂さん、どうか彼らを救ってください。私個人の願いを、貴方達の戦いに重なるのはとても身勝手だとは思うけど…………でも、これ以上、力に翻弄される人を見るのは嫌なの。だから、どうか……。
ーー私の切なる願いを嘲笑うように、その後も圧倒的な力の差を感じられた。一之瀬さん達のザ・フェニックスは西垣さんのスピニングカットで止められ。闇野さんのダークトルネードは、ついに雷門ゴールをこじ開けた。
ベンチでただプレイを見ることは、私の目にハイソルジャーの身体能力を、まざまざと見せつける結果となった。ザワザワと心が波立つ。
嫌だ。やめろ。やめろ。こんなの……私はもう、見たくない……ッ!
「今度は俺が決めるぜ!」
これまでの試合の中、チームメイトとしての彼が言ったであろう台詞。それが、敵として聞くとここまで苦しいのか。
攻め込む染岡さんを追いかけ、吹雪さんが走る。
「染岡くんは、僕が止める……! 止めなきゃいけないんだ!!」
「やれるもんならやってみろ!!」
染岡さんへの思いが強い吹雪さんが、必死になって食らいつく。
「ワイバーンッ……!」
「っぐぅぅっ……!!」
足が振り抜かれようとした瞬間、吹雪さんが真正面から蹴り防ごうとする。しかし威力は並々ならぬものなのか、吹雪さんの表情が歪んだ。
「テメェッ……さっきから俺の邪魔ばっかしやがって!!」
「染岡くん、僕と風になろうって約束したじゃないか!! ……忘れちゃったの!?」
「だから……覚えてねえって、言ってんだろオオ!!」
染岡さんの怒号と共に、エイリア石が輝きを増す。そしてーー吹雪さんごと、ボールを蹴り飛ばした。
「うわあああっ!!」
「吹雪さんっ!!」
宙を舞う彼に、思わず叫んだ。ゴールを強襲するシュートに一歩も引かず究極奥義を放った立向居さんだが……これも破られ、ボールはネットを揺らした。
「見たか……! 最強のストライカーは俺だ!」
奥歯を噛み締めて、ピッチを見る。今私の表情は、きっと険しいだろう。険しくならない方がおかしい。
……それから攻めてもすぐに止められ、攻められてなんとか防いでという状態が続いた。そして、0対2で前半は終了した。