さて、突然ですが皆様方に質問なのです。
ええ、いきなりの事でこちらも大変恐縮なのですが、質問タイムの始まりです。
ああ、いえいえ。巫山戯てる訳ではないですよ。私としましても、申し訳ない気持ちでいっぱいなのです。
しかしながら、少しだけお時間いただければ幸いなのです。皆様方に私達のことも知ってほしいのです。
それで、お時間よろしいでしょうか?
……ええ、ありがとうございます。
そうですね。それでは早速、質問と洒落込みましょうか。
皆様方の時間は有限なのですから。
質問は一つなのです。
皆様方にとって悪魔とは一体どのような存在なのでしょうか?
おや、問いが些か抽象的過ぎましたかね、失敬、失敬。
失敗、失敗。
どうにもこうにもフンワリとした的を射ていない疑問でした。端的に、と言葉足らず、は得てして表裏一体なものです。
私としたことがあまりに浅慮なものでした。
いやしかし、今この時、私の問いが目に入り、反射的に皆様方の脳裏に映しだされたであろう悪魔。
皆様方の中に根付く、純粋な悪魔像。
彼らは皆すべからく、どうにも底意地が悪そうな顔をしていませんでしょうか?
皆様方の中に、『悪魔』に対して正の、プラスのイメージを持ってる方はそういらっしゃらないのではないでしょうか?
共通認識としての悪魔とは、狡猾で、貪欲で、邪悪。どこを切り取っても、負、負、負。
負の情報のバーゲンといったところ。
ですがここで可笑しいことが一つ。悪魔の方達は貴方を知らないそうです。見たことも聞いたこともないと。そしてこれまた不思議なことに、皆様方も悪魔をホントの意味では知らないのです。見たことはないのです。
あなたの前に悪魔が現れたことはありましたでしょうか。
あるのでしたらば、是非ともご連絡を。真贋判定は得手でありますので。
悪魔を知らずに、悪魔を語る。皆様方の中に悪魔を見た者、悪魔と会った者、居るはずもないのに何故かイメージは一つ。邪悪。
これは非常に愉快なことなのです。
いや? 別に他意はございません。私が愉快なのも事実なのです。
ええ、皆様方の想像、大いに結構でございます。
別にその想像もあながち間違ってはございません。
私達は、私達悪魔は、邪悪で、貪欲で、狡猾。ああっと、いけない、いけない。捻くれてもいます。
捻くれは忘れちゃいけない悪魔のチャームポイントなのですから。
そうです、私は悪魔なのです。
別にコウモリの翼は無いですよ。
山羊のような巻き角はありますけどね。
触ります? 触らせませんけど。
話を戻します。話が逸れるのは何処かの天使の悪癖が移ったのか……。
忌々しい事この上ないのです。
そうです、天使なのです。
皆様方は天使についてどう思っているのですか?
え? 質問は一つって言ってた?
別に言ってないと思うのですが。
……? 適当なことを言うのは止めたほうがよろしいと思いますよ。
悪魔からの貴重な金言です。響きますね。
それで、質問の答えはどうなのでしょうか?
私、気になります。
なんか綺麗で慈愛に満ちている。
清廉で純潔。慈悲深く、温和。
優しく忍耐強く、思慮深い。
美しく抱擁力のある、etc.
長い、長いですよ。
もういいです、お腹いっぱいなのです。
……揃いも揃ってよくもまあ、こうも賛辞の言葉をずらずらと……。
少し腹が立ちますね。
悪魔の私からではなんですが、あの種族、そう対して私達と変わらないと思うんですがね。
本質、というか、割と外面ですら悪魔と同じ気配があるのですが。
何故、天使は私達と違い神聖視されているのでしょうか……。
私の長年の疑問の1つなのです。
ちなみに疑問は後4つあるのです。
気になるのですか? 気になっちゃうのですか?
……別に興味ない、……むう、そうですか。まあ別に構いませんけど。
いやしかし、疑問とは言ったものの実は答えは知っているのです。
ええ、そうです。知らないフリをしてました。勿体ぶりました。
それがどうしたのですか? 悪魔の本能です。
別に拗ねてはないですが……。憶測で物事を語るのは止めた方がいいと思いますよ。
悪魔からの忠告です。デビルアドバイスです。
そうですね、なぜ天使のみが優遇されているのか、ですか。
どうしましょうか、答えを言うのか言うまいか悩みますね。
そうですね。貴方が無様に這いつくばって頼むのなら教えてあげないこともないのですが。
まあ、貴方がそんなに恥をかき捨てられるのかは謎ですがね。教えてほしければ早く頭を地面に、
…………おい、なぜそんなに早く五体を投地するのですか。
先程の、私の持つ残りの長年の疑問に対してまるで興味のない貴方はどこにいったのですか。
地べたに頭を擦り付ける貴方の姿は惨めですが、そんな惨めな貴方に興味を持たれていないことが、今非常に腹立たしいですね。
どうしょうもなく不愉快なのですが、どうしてくれましょうか。
……ああいや、そうでした。答えですね。
別にそんなに面白みのあるものじゃないですよ。
私としては苛立ちに任せて答えをひた隠しにしておきたいトコロなのですが……。
しかし、コレは面倒なことに約束なのです。
私の地べたに這えという要求に応え、貴方は地にひれ伏した。
ならば私は答えを教えなくてはならない。
悪魔というのは厄介なものです。
簡単な口約束でも破れない。破り難い。
故に、約束に殉じて回答をば此処に。
答えは単純なのです。
ひとえに向こうの上司、神様が思いつきで始めたことなのです。下等生物からのイメージアップ作戦を。
ではなぜイメージアップを図ったのか。
当然の疑問ですね。
ああ勿論、承認欲求を満たしたかったからなどではありませんよ。
虫に褒め称えられたい者はいないでしょう? 同じことです。
さて、皆様方は悪魔と天使が長い間争っているのは知っていますでしょうか?
知らなくても構いませんが、私達と天使は長年争っているのです。知らないのならば今知りましたね。
しかし戦いと言ってもその実態はきっと皆様方には理解の及ばぬもの。
天使と悪魔の戦いは、否、上位者と上位者の戦いは存在の削り合いなのです。
技と技の応酬なんかではないのです。
どちらが相手に自らの道理を押し付けられるか、これが肝なのです。
自らという概念で相手を食い潰すのです。
自分というインクで相手を塗り潰すのです。
いくら剣で斬り結んでいるように見えても、その実情はお互いの存在を貪りあっているのです。
話戻って、何故、神様がイメージアップを試みたか。
先程言った通り上位者においてその存在力は肝心なのです。
つまり存在感をあげれば、戦いにおいても強くなるのです。
HPと攻撃力が同時に上がるわけですからね。
基本的に存在の強さは自己研鑽の賜物です。
しかし存在を確かにするのは別に自己認識だけではないのです。
他者からの認識も自己を高めることに繋がります。
よって、神様は容易に思考を書き換えられる下等生物らに自らを信仰させることで存在を高めようとしたのです。
結果としては散々たるものでした。虫をいくら集めても虫だったというわけです。これは切ないですね。
悪魔としても別に影響のないならば放置でいいかな、とここまで来たのです。
……分かっていただけましたか? この回答にはご満足ですか。
いやしかし、最初の志からはずいぶん遠いところに来ましたね。
元々は私のことを知っていただこうというモノでしたのに。
いらぬことをダラダラと。
悪魔より天使について話してますね。
これでは本懐を遂げれたか心配で仕方ないのです。
道を逸れすぎました。
ふむ、さすれば原点回帰といきましょうか。
皆々様方、御機嫌よう。
悪虐で被虐、私は背反の悪魔と申すモノなのです。悠久の時を生きる悪魔界の屈指の老害。
私をみる全ての者へ、愛を込めて。
以後、よしなになのです。