リハビリがてらに
色とりどりのシャボンが揺蕩う不思議な空間で、二人の天使が向かい合っていた。
いや、向かい合うというのは語弊がある。
白と黒のツートンカラーの天使はゴロゴロと寝っ転がっており、その様子をもう一体の真っ白な天使がお茶を飲みながら見ているのだ。
神聖な天使と、そのだらけきった姿のギャップは凄まじい。
白黒天使が口を開く。
「あ゛あ〜。暇だー。…おい、後輩くん、面白いことしてくれよ。私の無卿を慰めてくれ」
「体育会系特有の嫌なノリ出してこないでくださいよー。……全く、モノボケと一発ギャグ、どっちがいいっすか?」
「おいおいこのノリについてこれるのかい、優秀だな君は。…んー、じゃあ一発ギャグで頼むよ」
「お?一発ギャグを選ぶとはなかなかに通ですね〜。ではでは、失礼しまして。いきますよ、一回だけっすからね。コホン……火炎ジェル!」
ボッ!
後輩天使は唐突に発火していきなり豪炎に包まれる。火の中で後輩天使はキラリとポーズを取っていた。見る先輩の瞳には炎のきらめきが跳ね返っている。
「ふむ。火炎とエンジェルで掛けてるのか、さらに君の種族のセラフィムは熾天使で、コレもまた火炎と掛かっている。なかなかに面白いな」
「ギャグ解説されるの一番エグいっすよ。マジで」
「安心しろ、総括して面白かったぞ。私が保証しよう。君はその一発ギャグに自信をもてばいい」
「めちゃくちゃ上からっすね。実際上なんすけども。……まあ、私は天界では面白い奴として通ってますからね〜、これしきの無茶振りも余裕っすよ!」
「ハハッ。すご〜い。よっ、笑い者」
「ちょっと先パイ〜!それ全然私のと意味違うんすけど!言い方に悪意ありまくりっすねー。今日めちゃくちゃ攻撃力というか、口撃力高いんすけど?なんか良いことでもあったんすか?」
「君の中では私、良いことあった日に他者への当たり強くなるようなやつなのか。いったいどんだけ捻くれ者なんだ…。
いや、特にこれといったことはないさ、暇だーって最初に言った通りだよ」
「特に何もなく今みたいな塩対応なんすか。冷たい天使っすね」
「何を言うんだい、私よりもハートの熱い天使はそういないぞ」
「え〜、ホントっすか〜?じゃああの極寒対応は一体何なんすか…?ん?もしかして私のこと嫌いになっちゃったとかっすか!?」
「何馬鹿なことを言ってるんだい、君は」
「あ〜!やっぱり嫌いになっちゃったんすね〜、悲しいっすー!」
「…大丈夫だよ、嫌いじゃない」
「おー!それは嬉しいっすね〜。私も好きっすー!愛してるっすよー!!」
「ええい、抱きつくな。好きとは言ってないだろ。暑苦しい。そしてドサクサに紛れて胸揉もうとしただろ、君。なんてやつだ」
「ちぇっ、いいじゃないっすか、胸の1つや2つ。減るもんじゃないっすよ。何なら揉まれると大きくなるって聞いたことがあるっす!」
「そんな子供だまし的な迷信を信じるのかい、天使ともあろうものが」
「天使だからこそ信じるんすよ、私達だって子供だましな迷信みたいなもんじゃないっすか」
「言い得て妙だな。………スマン、失礼するよ」
「へ?何を失礼?って、ちょっ何するんすか!」
先輩天使が後輩天使をゆるりと押し倒す。
覆いかぶさるように後輩天使に跨がる先輩天使、白黒の天使は真っ白な天使の首元に顔をうずめる。
急な珍行動に後輩天使は口をパクパクさせる。
真っ白な肌に赤みが差す。
「ホントに何してるんすか!先パイ!私、先パイのことは好きっすけど、シチュエーションを大事にするタイプで…。ん?なら別にこの展開は問題ないか…?いや、やっぱ初めてはもっとこうロマンチックな…」
「え?あー、いや、別にそういうコトじゃないぞ、ごめん。ちょっと気になることがあってさ」
「あれ?そうなんすか?気になること…?ふむ、私の匂いとかすか?」
「うーん、まあそうっちゃそうなんだけど…」
「え!?あってんすか!やっぱり発情してるじゃないっすか!淫乱天使っすよ!」
「誰が淫乱天使だ、誰が。どちらかといえば先刻、初体験を想起した君の方だろ。………いや、そうだな、たしかにアレは私のほうが悪いか。言っちゃ駄目なこともあるよな、すまん。…って違う違う、それはもういいんだよ。ズバリ君、何か私に話すことがあるんじゃないかい?」
「いやぁ〜?別にぃないっすけどねぇ〜。私には何のことかさっぱりわかんないっすけど〜」
「白を切るの下手くそだな。びっくりしたわ。っていうかその反応、君、確信犯だろ」
「あ〜!先パイー、確信犯って宗教的理念から正しいと確信して犯した犯罪のことっすよ〜」
「天使が言ってるんだぞ、バチバチに宗教的だろ。そして話を逸らすなよ、早く君から悪魔の匂いがする理由を教えてくれないかい?」
「…これもう粘れない奴っすか?」
「もう無理だな」
「そうっすかー…。私、結構頑張って消臭したんすけどね…。なんで気づけるんすか…」
「フフン、私は天界では名の知れたデビルハンターだからな、先の悪魔との決戦では星の数ほどの悪魔をパージしてやったんだぞ。それに、君の匂いは覚えてる、あれだけしっかり嗅いだら異臭には気づくぞ」
「エロいっすね」
「どこがだよ、っていうかホントになんで悪魔の匂いが君に付いてるんだ…?しかもあんなに濃いの。あれ、相当ヤバイ奴だろ」
「あー、まあかなり高位とは聞いてますケド…。友達なんすよ、実は」
「ほーん、まさか悪魔と?」
「そうっすよー、悪魔とっすね。友達契約したんすよ、マブダチっすよ〜」
「あー、そのパターンね、なるほどなるほど。悪魔と天使がマブダチか。ふむ、初めて聞いたな。ふーん…………え?それマジの奴?」
「マジマジ、アルマジロっす」
「えっヤバいな、それ。え〜、とりあえず、次、そのアルマジロとかいうの言ったら折檻だからな、覚悟しといてくれよ。
…いやしかし、契約には従順な悪魔とはいえ、天使と友達か〜。君もすごいが、相手も相当な変わり者だな」
「自分の事老害とか言ってたし、結構、悪魔界隈で嫌われてる人なんじゃないっすかね?」
「悪魔で老害とか終わりじゃないか、そいつ。そして後輩くんはやっぱり悪魔と気が合うのか。天使とは思えないくらい邪悪だからな、君は。長年の謎が解けたよ」
「なんでっすか〜。私は性格いいっすよー」
「いい性格の間違いだろ。あと性格いい奴は自分のことを性格いいとは言わないね。それに君、泡沫世界の終わりを見てゲラゲラ笑って悦に浸ってるじゃないか」
「アレは面白いのでしょうがないっす!」
「ほら、邪悪だな」
「邪悪ですね、悪魔の私からしても驚嘆します」
二人だけの空間に、異物が交じる。白黒天使が声の主に問う。
「おい、誰だよお前」
天使二人の空間であるはずのハザマの世界に、どうしようもない悪魔がふらり。
先パイ天使の手にはいつ生み出したかわからないが、光の剣が。
後輩天使は暢気にお茶菓子をパクついている。
新参者の悪魔はゆるりと立っている。
場はまさに混沌。
「誰だと聞かれましても、私は背反の悪魔なのです。お初にお目にかかります、どうぞよろしく」
悪魔はニコリと笑った。