空の青さより先に自らの青さを知ることになるとは。
「へえ〜、それで向こうの魔神ひっぱたいてきたのか。いいじゃん。なかなかパンクだね」
「まあ、元々アイツの顔ムカついてたんですよね。何ならよく耐えたほうだと思いますよ、私。っぱ忍耐力ですね。自分で自分を褒めたいものです」
周りに色とりどりのシャボンが浮かぶ不思議な空間。無限に続いているようで、すぐ目の前に壁が、限界があるかのようなふわふわとした世界。ここは、狭間の世界。
そんな上位世界界隈でも辺鄙なこの場所で、悪魔と天使が朗らかに談笑していた。
天使と悪魔を知れば知るほど到底、信じられない光景。
犬猿の仲なんて生ぬるいほどの種族的乖離を超えた奇跡。
ある種の偉業がなされているこの空間で、一番の権力を持つのは机の上のお茶菓子かどうか。
紅茶をちびちび飲んでいた真っ白な天使が口を開く。
「ってかその前からわりと反抗的だったんすよね〜? 私と会ったときも周りには半殺しの悪魔で死屍累々じゃないっすか〜」
「おいおい、同族すらもって……。とんだ狂犬、いや狂悪魔じゃないか」
「あ〜、いや、それはこちらも色々事情がありまして……。(まあ、もう事情なんてさらさら憶えてないですけど)……それと、別に暴力じゃないですよ。こう、先輩悪魔として優しく指導してあげただけです、確か。私ほどの高IQ悪魔はそうやすやすと暴力に訴えないと思うのです」
どことなく誇らしげな悪魔に呆れる白黒天使。
「いるんだよなあ、こういう指導と嘯いて力を振りかざすやつ……。どうせ事情も突発的で刹那的な理由だろうに……」
白黒天使はズズ……とお茶をすする。
突然の決めつけに流石の悪魔の目にも光るものが。
「えーん、えーん。知り合って間もない天使に侮辱されたあ〜。これは天使と悪魔の全面戦争不可避なのですね!」
「可哀想っすよ〜、先パイ〜。あーちゃん泣いちゃったっす。それに先パイのせいで戦争だ〜。多くの血が流れ、沢山の生命が失われる〜。滾るっす〜」
「やっぱり君ってどう考えても悪魔側だろ。血を渇望するなよ。……あとあーちゃんってこいつのことか?」
「こいつこと私です」
「こいつっすよ〜。悪魔のあーちゃんっすね。会心の名付けっすよ」
「うぇーい、あーちゃんなのです」
両手でピースしている悪魔を見ながら、白黒天使が紅茶をジト目で一飲み。
そんな天使に悪魔は嗤う。
「それにしてもまさか私の友達天使の先輩天使が貴方だったとは……」
「お? 私の事を知ってるんだ」
「そりゃそうですよ。あれだけ悪魔を飽くまで殺してたら有名なんて騒ぎではないのですよ」
「やだな、すっかり有名になっちゃったね」
白黒天使は照れくさそうに、へへへと頭をかく。
「先パイめっちゃ嬉しそうっすね。よっ承認欲求の怪物、自意識モンスター」
「よせやい、よせやい。怪物じゃなくて天使ちゃんだぞ」
「なんで満更でもないんでしょうかね、この人」
後輩から強めの毒を吐かれてるのにも関わらず、にへらと嬉しそうに笑う天使を見て悪魔は独りごちた。朗らかな空気だった。
ティーカップを机の上に置く。
ふいに笑顔の天使が口を開いた。
「ところでさ」
「どうして君は私の所に来たんだ? 友達の後輩くんから何か聞いたのかい? 魔神ぶん殴って地獄に居場所が無いったってねえ……」
「普通、天使の根城に来るかな。私達は怨敵で仇敵で宿敵なんだ。戦時中じゃないが、戦後ではあるし、戦前でもあるんだぜ、今は」
「後輩君は悪いやつだが、良いやつなんだ。友達って言うから抑えてるよ。悪魔殺しで有名なんだろ、私。大戦も終わってさ、今では見ての通り窓際みたいなもんさ。もう一ハネ欲しいところなんだよ」
白黒天使の周りに明滅する光球が浮かぶ。
「流石に今回は事情は言いません、じゃあ聞かないぜ」
天使の瞳が悪魔を射抜く。ランランと輝くその瞳は逃がしはしないと、雄弁に語っていた。
悪魔もその瞳を見つめ返す。
焦りも、恐怖もその能面のような無感情な顔からは読み取れない。
後輩であり、友達である真っ白な天使は固唾と紅茶と、それによく合うサクサクな菓子を飲み込んだ。
茶会は緊迫していた。