拝啓、こちら死神紀行   作:SimonRIO

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猫と祓い屋の話

 

この忙しなく人が死ぬ世界で、もし死神が存在するとしたなら"彼ら"は人間の魂だけを冥界へと連れていくのだろうか?

 

悪人や善人を等しく連れ去る"彼ら"も、恐らくは様々な生き物の魂達に四苦八苦しているのだろうか?

 

――相棒の死神"士門 透"が真顔のまま魂となった猫の喉を優しく撫でている姿を見て、そんな疑問が彼の眷属であるサナの頭で僅かに湧いて、そして「考えても下らない事だ」と思考を止めた。

 

「透さん、何してるの?」

 

「ふむ、サナか。猫を撫でている・・・魂の、だが」

 

「いや、それは見て分かるって。その猫、今回の仕事には含まれてないハズだよね?」

 

「ああ、分かっている。だから、さっき担当の奴に連絡を入れた。恐らく、そろそろ来る頃合だろう」

 

そう透が呟くように言った時、上から彼らのいる路地裏の隙間を縫うように大きな鎌を持った少女が飛び降りてくる。

 

「ごめんね、透くん!仕事の途中で忙しい時に、こんな手間を取らせるような事させちゃって〜!」

 

「いや、構わない。"絵梨花"、コイツを頼んだぞ」

 

白いパーカーとワンピースに身を包んで、一部が白い前髪になっている黒髪をポニーテールにした透と同い年に見える赤と黄色のオッドアイを持つ少女もまた、透と同じく死後に冥界と契約をして死神となった人物――かつての"田沢 絵梨花"であった。

 

とはいえ、契約で記憶を失い死神となった絵梨花に透との面識は無く、多くの魂を看取ってきた透も名前を覚えていない為、姿形を大きく変えた彼女には"人懐っこい後輩"以上の感情は抱いていなかった。

 

「はいは〜い!じゃあ今日1番の大仕事、頑張ってきてね〜!」

 

「大丈夫だ、心配するな」

 

「絵梨花さんも頑張って〜!」

 

絵梨花が猫の魂を抱えて路地裏を屋根伝いに飛び越えていった後、透は"これからの仕事"に疲れた息を大きく吐き出す。

 

「・・・で、透さん?今回の仕事、だいぶキツそうだけど?」

 

「ああ、上の連中が"魂の回収が可能なら"と前置きしたくらいだからな。ひとまず死の忠告はするつもりだが、勝てるかどうかは怪しいな」

 

そうして透がジャケットのポケットから取り出したスマホの画面には、1人の男性の顔写真と黄色や黒で彩られた『注意!祓い師の疑いアリ!』の大きな文字があった。

 

◇◇◇

 

まだ寒さが残りながらも暖かな日差しが人通りを照らす街中で、つば付きの帽子の上からパーカーのフードをも目深に被って周りから浮いて見える、1人の男が"何か"を探すように歩く。

 

「・・・次に怪しいのは、ここか」

 

そして、高い建物が並ぶ中にポツンと建っている人気が全く無い神社へ足を踏み入れると、男の周りで聞こえていたガヤガヤとした人混みの声や気配、それに人々の姿すらもパッタリと消え去る。

 

「急に誰も居なくなったか・・・が、この気配。俺が探している奴とは違うっぽいな」

 

いきなり後ろから刃物を刺されるかのような重い雰囲気に、男は怖気付く事も無く冷静に神社の敷地へ更に踏み込んだ。

 

その先にある賽銭箱の前には――彼に対しての死神である、透がスマホを弄りながら立っている。

 

「なるほど、お前が"死期の迫った奴"だけに視えるっていう死神か。こんな俺の魂を取る為だけに、人払いの結界までこしらえてくるとはな」

 

「・・・まぁ、こちらも仕事なもので。端的に言わせてもらうと、貴方の寿命は残り3日だ。それも"ロクでもない事"に首を突っ込んで死ぬと確定している」

 

そう言って静かに歩み寄ってくる透に向かって、男は吐き捨てるように強く睨みを飛ばした。

 

「はん・・・だったら、死ぬ前に良い思いでもしとけってか?」

 

「貴方に、その気があるのなら。しかし、もし予定された死が嫌というならば、俺の権限で寿命を早回しにしてやっても構わないが?」

 

「酷い死に方で魂が穢れる前に回収しようって魂胆か・・・悪いが、俺は祓わなきゃいけねぇ奴がいるんだ。たとえテメェら死神が何を言おうが、止まるつもりは無ぇぞ!」

 

すると、男は途端にズボンのポケットから数枚の札を素早く取り出し、そのまま透へと勢い良く投げ付けてくる。

 

透は左腕に鎖を巻いたまま鎌で切り裂こうとしたが、それが単なる封印の札などでは無い事を悟った瞬間、すぐさま身を守るべく右手でキャリーケースを引っ掴んで前に出した。

 

「しまった、これは――がはっ!!」

 

しかし、その札が爆発した事で透の身体はキャリーケースごと大きく吹っ飛ばされ、ガン!と神社の柱に叩きつけられてしまう。

 

「今の爆発で叩きつけられたってのに、まさか神社が傷1つ付かねぇとは・・・流石は死神、獲物の魂以外は壊せないようになってるのは本当みてぇだな」

 

「・・・それは、ひょっとして褒めているつもりか?」

 

「ああ、そうだよ!」

 

男は透や神社の様子に驚かされつつも、それでも手を休める事なく透へと草書体で書かれた紙の札を手裏剣の如く飛ばし続ける。

 

これには透も少し不味いと考え、空に向かって声を張り上げた。

 

「サナ!奴の動きを封じるんだ!」

 

「OK!透さん、そこから離れて!」

 

透が男の飛ばしてきた札を避けつつ神社の方から飛び退いた瞬間、男の立っていた所へサナが雨あられと大量の札を振らせる。

 

この札はサナの持つ"身体の動きを鈍くする力"を凝縮させた、いわばウラン鉱石のようなエネルギーの塊だ。そんな物が人体に1つでも当たれば、透が男から魂を抜き取る時間を確保出来るのは間違いない。

 

――その札が男に当たれさえすれば、の話だったが。

 

「この程度・・・ぬん!!」

 

「えっ、ちょっ・・・自分の周りに札をバラ撒いてバリアみたくするなんて!?」

 

サナは男が簡単に札の雨を防ぎきった所を見て驚愕するが、無論そんな無防備な姿を見逃す男ではない。

 

「見えた!そこか!!」

 

「あ、ヤバ――きゃん!!」

 

「サナ!くそっ・・・!」

 

ほんの一瞬にして投げられた札で空中のサナが爆破されたのを見た透は、いよいよ腕に巻いていた鎖を解いて男へ向かって螺旋状に投げ付ける。

 

鎖鎌の特徴でありながらも大きな弱点・・・鎖で相手を物理的に拘束出来る事だが、それは同時に鎖の拘束を相手から防がれたりしてしまった場合、長く伸びる重りを自ら吊り下げてしまう事であった。

 

それ故、透は基本的に鎖を使う事はせず鎌のみで"未練"や反抗的な相手と戦っていたのだ。

 

しかし――

 

「遅ぇな!こんな鎖くらい、今の札と比べりゃスローボール投げられたのと同じくらい簡単にキャッチ出来るぞ!」

 

「なっ・・・うぉわぁぁあ!!」

 

透が投げた鎖の先端はいとも容易く男に掴まれてしまい、それで逆に引っ張られながら今度は顔面へと、先程の爆発する札を押し付けられてしまった。

 

「・・・終わりだ。ちったぁ、コイツで地獄に行って頭冷やして来いやぁぁあ!!」

 

「――――っ!!!」

 

そのまま札は大きく爆発し、透の頭部は丸々無くなって膝から崩れ落ちつつ、身体も砂か灰のように火花を散らして消え去っていく。

 

「はぁ、はぁ・・・とりあえず、死神に魂を取られなくて良かったが・・・くそ。たった3日か・・・それまでに、アイツを見つけられなきゃ全部お終いだ」

 

だが、そんな透の身体が消え去る様子を確認するまでもなく、男は結界が解除されて人気の戻った街の雑踏へと戻っていくのであった。

 

◇◇◇

 

「――という訳で、今回は最低限の任務しか達成出来なかったんだ。俺の奢りだ、サナも絵梨花も今日は好きなだけ食べてくれ・・・」

 

「う〜わ、どれだけ落ち込んでるんだか・・・まぁ、私は別に良いけど」

 

「へぇ〜、そこまで強かったんですね〜・・・じゃあ、お言葉に甘えていただきま〜す☆」

 

・・・それから数時間後。

 

透は行きつけの居酒屋でカウンターに突っ伏しながら、ため息を吐くようにサナと絵梨花に仕事結果が表示されたスマホと料理のメニューを手渡した。

 

――死神や彼らの"眷属"は行動不能になる程の損傷を受ければ身体が崩壊してしまうものの、数時間が経てば自然と現世の塵や埃から再構築される。

 

しかし、今回の仕事で受けた損傷は非常に大きなものであったが為、透とサナは結界の効果時間に間に合わず神社から男を取り逃してしまったのだ。

 

「あ〜あ・・・これが成功してたら今頃、透さんも私も昇進して良いカフェとかで美味しい料理を食べられたのに〜」

 

「だから・・・それは悪かったと何度も謝っているだろう、サナ。こうして死神が非番でない時に実体化せず飲み食い出来る場所は、そう簡単には見つからないんだ。だからこそ、他の死神もこぞって成果を上げたがるのであって・・・」

 

「はいはい、分かっていますよ〜だ。ちょっとからかっただけなのに、透さんったら・・・」

 

説教を始めそうになった透へサナが苦笑いしながら謝っていると、今度は絵梨花がキョトンと首を傾げた。

 

「成果を上げると、何か良い事でもあるの?」

 

「まぁ、ささやかながらな。勤勉かつ向上心が見られる死神には支払われる報酬アップに加え、上層部が戸籍だけでも寝泊まり可能な物件や、わざわざ空席を作って飲食のスペースを空けてくれる店のグレードを上げてくれる褒美がある。とはいえ、食事や休息をしなくとも死神は活動可能だからな」

 

「つまり、めちゃくちゃ仕事を頑張れば・・・超有名なホテルのスイートルームにでも泊まれちゃう、って事!?」

 

「まぁ、理論的にはな。だが、ああいう物件はブランド自体が有名な上に競争率も――」

 

「はいはいはいはい!透さんも絵梨花さんも、難しい話はここまでにしよう!私と透さんの昇進失敗の残念会として、今日は目いっぱい食べるよ〜!!」

 

そうヤケを起こしたようにハイテンションで料理を頼み始めたサナを尻目に、透は微妙な笑顔になりながら誰にも聞こえない程に小さく呟いた。

 

「はぁ・・・俺の奢りなんだが」

 

――死神は"未練"や力を持つ人間に倒されこそはするものの、冥界と契約した魂は砕かれる事がなく時間が経てば身体も復活する為に"死ぬ事がない"。

 

故に死神達の間で"死神が死ぬ"のは、死神が"自らの意思のみで寿命を伸ばしてしまった時"と噂されている。

 

◇◇◇

 

そして・・・これは余談になるが、その3日後。

 

透とサナを倒した男は、彼らと戦った神社の境内にて頭部を欠損した腐乱死体として発見された。

無論、そこに群がっていた"未練"の数はおびただしく、男の魂は死神達が確認するまでもなく食らい尽くされてしまっていたという。

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