異能雀士はレズしかいないって本当ですか? 作:りーたー
麻雀3:レズ7くらいの比率で頑張ります。
“私”が転生した世界は、異様に麻雀が世界中で普及した世界だった。
野球、サッカー、麻雀が三大定番スポーツとして認知され、当たり前のように朝のニュースでは麻雀で活躍したプロのニュースや、高校生の全国大会のニュースが流れたりする世界。
というのも、この世界ではもうずっと昔から、麻雀で異能を発揮する雀士が複数存在していた。
牌の流れを操ったり、目に炎を浮かべたり、ツモったら手から稲妻が奔るのは当たり前。
中には異能を発動すると髪の色が変化したり、着ている衣服が変わったり、何か成長して胸がデカくなる雀士までいる始末。
そりゃあもう、世界中の人間が麻雀に夢中になりますわってくらい、歴史の土台から麻雀が世界に染み込んでいる。
神様は麻雀で世界を創ったし、織田信長や豊臣秀吉は麻雀で天下を統一した。
何か聞いてるだけで頭が痛くなりそうなそういう歴史の果てにこの世界の麻雀はある。
そんなわけだから、当然私もこの世界で麻雀を始めたし、転生者だからかそこそこチートな異能も手に入れた。
髪の色や服装が変わったりはしないけれど、その分使いやすいし、応用も効く。
前世からそれなりに麻雀を嗜んでいて、転生した今では国内でも割りと有名な雀士にすらなった。
今はまだ中学生だから、プロになったりはできないけれど。
同年代の中学生の中ではトップクラスの実力はあると自負している。
――のだけれど、現在私はある問題に直面していた。
というのも、今の私は女なのだけれど、前世は俺――男だった。
つまりTS転生だ。
いやはや気がつけば赤ん坊になっていて、しかも女の子と知った時にはそれはもうおったまげたものだけど。
今ではバリバリの女子中学生、JCだ。
やまぁ、女物の服とか着るのは未だに抵抗あるけどね。
で、そんなTS転生者の“私”。
そんな私に現在起きている問題とはすなわち――
{①}
季節は冬。
ついに中学校生活三回目――前世を含めると六回目の冬を迎えた私は、今下駄箱の前にいた。
今日の日付はずばり2月14日、言わずと知れたチョコを好きな人に送るアレ。
バレンタインデーである。
で、私の眼の前にある下駄箱は今、危機を迎えていた。
はち切れんばかりに中には“何か”が詰め込まれている。
これが何かと言われれば、まぁ要するにチョコだ。
すごい数のチョコ、下駄箱にいれるのはいいのだけど、入らないくらい入れないでほしい。
そしてこれは、氷山の一角でしかない。
おそらく教室に行けば、私の机にはこれバレンタインじゃなくて新手のイジメかなにかじゃないかという数のチョコが積み重なっているに違いない。
その数は去年の時点で200を優に超えている。
今年は正直、いくつになるかも想像がつかない。
ちなみに、私が通う中学の全校生徒の数がちょうど去年の数とイコールくらいだ。
――これである。
私が直面している問題。
モテすぎているのだ。
まぁ、多少チヤホヤされるくらいなら問題ない。
むしろ嬉しいくらいだし、仮にも全国で結果を出している中学生雀士として、応援されるのは大変光栄である。
が、しかしいくら何でもこれはやりすぎとしか言いようがない。
同じ中学に通う生徒全員から矢印を向けられているとか、ある種の恐怖体験じゃなかろうか。
まぁ、貰ってしまったものは仕方がない。
去年のチョコは必死に消費に消費を重ねて、ようやく秋頃に全ての処理が終わったわけだけど。
今年は果たして1年のうちに処理が終わるのか、甚だ疑問である。
世の中には賞味期限ってものがあるんだからね? 頼むから食べ切れる量を私の下駄箱や机に詰め込んでくれたまえよ、諸君?
「――
ふと、教師に声を駆けられる。
返篠というのは私の名字。
「おはようございます先生、なんというかまぁ……流石に三回目ともなれば諦めがつきますよ」
「クラスの奴らに言って、いい感じにまとめるように言っておくよ。あいつらも原因の一端だからな」
教師は私のクラスの担任で、如何にもできる女教師ですという雰囲気の人だ。
まぁ、実際こうして色々と人気者な私のフォローをしてくれるのはこの人なので、なんだかんだ頭が上がらない。
「それに、多分こういうのも今年が最後ですからね。ある意味いい思い出になります」
「来年からはセントレイナ女子に進学するわけだからな、笹霧は。こういう軽いノリも許されなくなるか」
セントレイナ女子というのは、私が進学する高校の名前で、地元で一番麻雀の強い学校だ。
私が今通っている学校は、単純に近いから通っているというだけで、麻雀に特別強いわけではない。
全国大会に出場する雀士は、歴代で私が初めてだったというくらいにはぶっちゃけ弱小校だ。
これが野球なら、中学の頃から野球の強い中学に通ったりもするのだろうけれど、麻雀は別に学校だけで学ばなくてもいいからね。
そんなわけで、既に推薦で入学を決めている私は、気兼ねなく残りの一ヶ月半を中学生活につぎ込める。
加えてセントレイナ女子は、いわゆるミッション系の格式高い学校なので、ゆるい雰囲気を今のうちに楽しんで置かなければ行けない。
スールなんてものが実在する学校に通うことになるんですわよ、私。
元男性だった身からしてみれば、信じられない人生だ。
「まぁ、羽目を外しすぎて推薦を取り消されたりしないようにな」
「もう今さらですよ先生。これでも私がそこそこ優等生で通ってるのは一番解ってるはずでしょう」
「そこそこ、ではないくらいには優等生だよお前は。何せ――」
「何せ?」
「……なんでもない」
先生は、まるで他の人には当たり前にそれを口に出すというノリで何かをいいかけて、口をつぐんだ。
時折この人は、こうやって何かを口ごもることがあるのだが、私にはそれが一体何なのかさっぱりわからない。
まぁ、そこまで大した話でもないだろうしスルーすることにしている。
「とにかく、授業前までにはチョコを片付けておくようにな」
「それは私の友人たちに言ってほしいなぁ」
「もう言ったよ」
そりゃそうだ。
とりあえず上履きは少しでもスペースを確保するためか、下駄箱の上に放り出されていたのでそれを履く。
外履きもしょうがないので下駄箱の上に放り出しておくけど、持ってかれないだろうなこれ……
あいつらならやりかねん。
「ああ、それと」
で、話を終えた教師はこの場を離れるのだけど。
不意に私の方へ近づいてくると――
「はいこれ、チョコ」
何気ない様子で、ハートマークのチョコを渡してきた。
何気ないとはいうが、どうかんがえても本命以外の何物でもないラッピングのチョコである。
「……流石にそれは卑怯っすよせんせぇ」
「ダメかぁ」
ちえ、と唇を尖らせて、教師はその場を去っていった。
…………
……
こ、こわかったぁ!
いや、何か本当にさっとお出ししたけど、怖いよどう考えてもガチなやつだよ!
三年間お世話になった教師から、卒業間近に爆弾を投げつけられた身にもなってほしいよ!
ふぅ、と一息。
気を取り直して去っていく女教師の背中を見る。
――繰り返すが、彼女は女教師である。
そして私は、TSしたとはいえこの世界では生まれた時から全うに女子をしている。
そして、
私が通う中学の名前は、稲葉原女子。
そして私にチョコをくれるこの学校の生徒達もみな、言うまでもなく女子生徒なのであった――
{②}
かつて、ある異能雀士は言いました。
女性異能雀士は女性異能雀士と、男性異能雀士は男性異能雀士と恋愛をすればいいと思う。
この世界の歴史は麻雀とともにある。
そんな麻雀の歴史において、異能雀士にはある一つの特徴があった。
それ出生率とか大丈夫なんかと思わなくもないが、IPS細胞があれば同性同士でも子供を作ることができるんですよ。
もとい、まぁなんとかなったので人類の歴史は今まで続いてきたわけで。
じゃあ、たとえばの話。
もしもそんな世界に、TS転生者が転生してきたら?
ありえないだろという話は、私という実例と、この世界がそもそも現実と比べれば大分狂った世界であるという事実が否定する。
事実として言えることは、私はかつて男だったという自覚があり、そして今は女性であるということ。
この場合、果たして人々は私にどう反応するか。
まず言えることとして、男性異能雀士は私に見向きもくれなかった。
元より異性の異能雀士にたいして極端に異能雀士は興味を向けない傾向にあるが、私もその例には漏れなかったわけだ。
だが、女性異能雀士は違う。
どころか、下手をすると異能を持たない女性すら、どうにも私をよくない目で見ているらしいのだ。
まるでそれは、世界のバグ。
TSというバグを背負って生まれた私が、この世界をバグらせているかのような。
そんな状態で、私は生きているのだ。
果たして、私は将来どうなってしまうのだ?
雀士として、プロになって実績を残したい。
それが今の私の夢である。
しかし、コレほどまでにモテてしまうと。
私は時にこう思うのだ。
もしかしたらどこかで、私は誰かに監禁されて一生をその誰かに束縛されて生きることになるのではないか?
そんな思いが、拭えない。
ああ、私は生まれ落ちたこの世界で、一体どうやって生きていけばいいのだろうか――