始まります。
+サイドアウト+
オーブの庁舎の一角にある豪勢な談話室、その中で二人の男が対峙していた。
「よもや、お前自らこの国にやって来るとは思わなかったぞ」
「よく言う、君の娘が勝手な事をしなければ私自ら出向くことも無かった」
最初に言葉を発した者、名をウズミ・ナラ・アスハというオーブ連合首長国の代表を務めている男だ。
次に声を発したのは危うく血の分けた実の息子によって血の海に沈むところだったサングラスだ。
「経緯はどうあれ、今はただ久方ぶりの再開を喜び合おうではないか」
ウズミがゲンドウのグラスに酒を注いだ。
「本来なら我々は再会を果たすべきではなかったが、こうなっては仕方が無い。君の言葉を借りるようでは悪いが、再開の喜びを」
二人のグラスが音を鳴らせば、彼らは一気に酒を飲み干した。
「例の彼女が拘束されて三日、既にお前のところの学生は帰国したらしいな」
「ああ、何事もなく日本についた」
「そう言えば、お前のところには例の使徒なるものがまた現れたらしいが、どうなった?」
ゲンドウは次がれた酒をあおり、不適に笑った。
「ふっ、流石はオーブの獅子といったところか。昨日撃破したようだ」
「トップが不在でもスタッフが良いと楽だな」
「まったくだ」
軽い応酬を楽しんで不適に笑いあう二人以外この場所にはいない。だからこそ両名は普段、他者に見せている仮面を外してこの場にいる。
不意にウズミは遠くを見るような目で談話室の壁に視線を向けた。
「あのレイという子を娘から紹介されて驚きと共にあの懐かしき日々を思い出したぞ」
「君が日本に留学していた時の事か」
「留学は言いすぎだ、あれは自分を取り巻くすべてからの逃避だよ」
「婚約者との逃避など君ぐらいだろう」
「あれは私に過ぎた妻だった。代表になることを受け入れられないでいる私を叱咤することもなく、ただ共にあることだけを望んだ最高の女性だ」
「ユイには負けるがな」
「ユイ君も君には過ぎた女性だということだ」
「違いない」
日本に逃避という名の留学を果たした時、ウズミは在学中のキャンパスでゲンドウと出会った。その後、時に同調し、時に反発することで何時しかゲンドウと友という関係になった。そして、すべての人間関係に不器用なゲンドウが唯一、友と呼ぶべき存在がウズミになった。その後、気持ちを固めてオーブに帰ったウズミと当時脳研と呼ばれた現ネルフに就職したゲンドウが再開したのはゲンドウの恋人としてユイを紹介された時だ。
「お前には勿体無いとユイ君に告げていたんだが、やはり結婚したのだな」
「そういうところは変わらんな。回りが反対する中、唯一君たち夫婦だけが私たちの結婚に祝いの手紙を認めて贈ってくれただろう、忘れてはいないぞ。ああ、言っておくが手紙は消去してある。そちらもそうしているだろう?」
ウズミは苦笑で返すと残った酒を煽り、表情を真面目なものに変えた。
「彼女は、レイと言う少女は君の娘ではない。君の子供は息子だけだ」
「君も娘などいないはずだ。君の妻は子を産めるほど体が強くは無かった」
ゲンドウもまた残った酒を煽ると核心を告げた。
「お互い因果な関係だな。あの頃我々はこの世界の暗部に足を突っ込むとは思いもしなかった。片割れの愛するものと共にあれば良かっただけだというのに」
この世界では表向きなる事も許されないタブー。
世界の裏側を支配してきた秘密結社との癒着。
「コーディネーターの反発は日に日に高まるか?」
「ゼーレの願いが叶う日も近いか?」
ただ友の心労を思い、口にした疑問は決して第三者に聞かせられる内容ではなかった。
二人の男はそれでも不適に笑って見せる。
「ふっ、二年はもつだろう。いや、もたせて見せよう」
「老人たちよりも先に私の望みを叶えるまで」
私欲の望みを述べるゲンドウにウズミは髭を撫でながら苦笑を浮かべ、ウズミの自己犠牲に眉を顰めるゲンドウ。
「代表としての立場ならお前の望みを許すわけにはいかないが、今ここにいるのは友としての私、お前が本当に望むものを知っているからこそ口にはだせんな。それに心の底では私も妻に再会したいと思っているようだ」
「友としての私なら君のその無駄な自己犠牲は許せないものがある。だが、所詮私は日本の機関に所属する一指令官に過ぎない。他国に口を挟めるほどの力は無い。それに未来は可能性の数だけ存在するとユイに教えてもらった」
何処となく似ている二人は、どこまでも違う立場にいながら互いを心配する。そのような関係の二人は今回の偶然が呼び込む再会を最後に今度こそ会うことはないだろう。それこそが互いに今の立場を維持するのに最良の選択だからだ。
「既に彼女の容疑は晴らし、今は客人として屋敷にいる。何時でも帰国できるぞ?」
立ち上がったゲンドウにウズミは問う。普段部下に見せるような表情ではなく人間らしい苦笑を浮かべてゲンドウはずれたサングラスを上げた。
「冗談だ、兼ねてより日本政府から依頼があったアカツキ島付近の海域に行く事を許可する。これは現オーブ代表としての私が日本政府に謝罪の意味を込めて許可させた」
「感謝する。この場のやり取りは決して表に出る事はない。君は日本のダミー海洋研究所に許可を出した、それだけだ。後の事は海洋研究所が勝手に調べて勝手に帰るだけだ」
「もちろん、その時は理由を聞く気は無いが秘密裏に運び込まれたあのエヴァも忘れずに持って帰ってくれ」
「さて。本体は持って帰るかもしれないが、資材については約束できかねる」
ゲンドウの言葉を聞いてウズミは目を見開かせた。
「これは友として私が出来る最後のことだ。どうか、このオーブで活用してくれたまえ。知っていると思うが日本という国はこのオーブよりも遥か昔から資材に乏しい国だった、故に技術だけで今の世まで渡り歩いてきたのだ。その技術力は他国から数多の資材を買い取れるほどの価値があるという事だな」
言い終えると、ゲンドウは談話室を後にした。後に残ったウズミは椅子に深く凭れ掛かると静かな笑い声を上げた。そして嬉しそうにゲンドウが出て行った扉に視線を合わせた。
「友よ、お前の本音聞かせてもらったぞ。昔からお前は本当に口下手だな。未来は可能性の数だけある、か。それはお前が未来を望んでいる証拠だぞ」
それは同時にウズミの娘やゲンドウの息子に未来を託すと言っているようなものだ。
「そうか、彼女が、レイという子が、未来を担う鍵の一つなのだな」
椅子から立ち上がり、窓辺に立てばオーブの空に暗雲が立ち込めていた。
「資材、確かに受け取った。願はくは、友から授かった資材がこのオーブを守る柱の糧になることを。そして友としてお前の存在を決して表に出さない事を誓おう」
談話室の扉が慌しく開き、褐色の男キサカが慌てた様子でウズミの元までやってきた。
「軍部より入電。アカツキ島にて正体不明の機影が現れたとの報告が」
「数は?」
「一つだという事です」
なるほどとウズミは考え深げに頷いた。オーブを包みこむ暗雲はこの事かと。
「すぐに軍部及びすべてのものに緘口令を敷け。アカツキ島の住民はオーブ本島に速やかに避難、理由は旧時代の不発弾が多数見つかったとでも述べておけ」
「住民だけでなく、議会にもですか?」
「そうだ、黙らせる材料は用意してある。あの大量の資材をチラつかせれば下手な詮索は自身の首を絞めると気づくだろう」
これからの行動を考えながらウズミは歩き出す。その後ろをキサカが追うような形で着いてきた。
「あの海域には海洋調査団が常駐していますが如何様に?」
「表向きは避難させたことにしておけ。決して邪魔をしてはならん。彼らは今回の機影に対するプロフェッショナルだ」
「了解しました。それからもう一つ」
「何だ?」
「お嬢様が例の少女を迎えに着た車に搭乗してしまいました」
その言葉を聞いてウズミの足が止まった。
「どこまであの子は馬鹿なんだ。猪突猛進もいい加減にしないか」
「言ったところで残念ながらここには居ません」
「分かっている!!」
頭を悩ませたウズミにキサカが同情の視線を遣した。同情するならあの子に縄を付けておいてくれ、と親として忙しく碌に構えていない自分は棚に上げて思ってしまう。
「仕方ない。彼らに保護を頼む。後の事は手筈通り無干渉で行く」
深いため息を吐いたウズミは、駄目だとは分かっていても娘の事を後回しにして議会での説明を果たす為議会室に向かうのだった。
この結果がとんでもない事態を引き起こす事になるのだがこの時のウズミはまだ知らない。
+サイド今はレイの元おじい+
三日間の楽しい尋問が終わり、迎えの車で後は帰るだけだと思っていたらこのおーぶに使徒が発生したという。エバも無くどうするべきかと考えていれば、なんと日本からわしのエバが運び込まれているというではないか。
これにピンと来たわしはこの為に修学旅行にいかされたのだと理解した。死海ナントかはホント万能だ。
車は一路、港の道まで進み、その後はねるふが用意した見た目は調査船の中身軍船に車ごと乗り込んでアカツキ島に向かう。目的地到着の時間までにすべての準備を終えなければならない。車から降りると全身タイツに着替えるため用意された部屋に向かった。予備を含めた何着かある全身タイツから一着を取り出し着替え終えると零戦が横たわるドッグまで足を運んだ。
そこにはゲンドウが立っていた。使徒は既にアカツキ島に上陸している、流石におふざけは許されないので死に物狂いで語る事にする。
「来たか。今回の使徒は第十二使徒と判明した」
「九から十一を飛ばしてか?」
「いや、第九使徒は今日本に帰ってきたロンドベルが撃破した」
「だが、飛んだ事には変わりは無いな。やはり欠番は出るか」
「貴様がどこまで知っているかは問わん。貴様は使徒を撃破すればいい」
「何時に無く使徒撃破に力を入れているように見えるな」
わしがそう問えば、ゲンドウは無表情のまま僅かに視線を逸らした。図星だが語る必要性は無いと言った所か。ならばこちらも問うまい。だが、もう一方の疑問には答えてもらうぞ。
「何故使徒はおーぶに現れた?」
そうだ、あのゲームでもこの時点では地名すら出てこなかったこの場所に使徒が何故現れたのか、その目的を知る必要がある。
「貴様は黙って使徒を倒せば――」
「零戦、船が沈まない程度に暴れてや―」
「分かった、話すから零号機を嗾けるな」
最初から素直にそう言えばいいものを。わしは改めて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるゲンドウに視線を合わせた。
「死海文書にはこう記されていた。太古の昔、この海域で黒き月の民と白き月の民が互いの生存を賭けて戦っていたという。その戦いでは白き月の民が優勢を誇っていたが、黒き月の民は打開策として祖に願い、ある神器を持ち出して対抗した」
ゲンドウの言葉を聞いてわしはあるものを思い浮かべた。アニメでは確か、南極から運び出されたもののはずだ。
「おかしい、あれは南極にあるはずだ」
いかに原作から外れようとも、ここがゲームの世界であろうとも、昔南極において第二の衝撃が発生したのは教科書にも載るほど有名だ。アニメとは違いそれほどの規模ではなかったが。それはつまり、あれが南極にあるという証拠になりえるはず。
「やはり、知っているか。それもリリスからの知識か? しかし、それならこの海域にあるものも知らされているはずだがな」
ゲンドウが不敵な笑みでわしに語る。イラッときたので零戦にお願いしたら適度に船が揺れた。作業している我が同志にはすまないことをしたと思っている。が、後悔はない。
「わしは子供には寛容だが、大人には容赦ないぞ?」
「もう、貴様は嫌だ……。分かった、分かったから二度目は止めてくれ、船がもたない」
時間が無いんだ、無駄に隠し立てしないで教えるところは教えた方が身のためだということを知って欲しい。
冷や汗を自身の手袋で拭いながらゲンドウは語り始めた。
「そもそも、ロンギヌスの槍は一本ではない。あれは、黒き月の民の祖リリスにも与えられていたのだ。そして太古の昔それは使われ、白き月の民を退け再び南極に封印させたという。それほどの力を秘めているのがロンギヌスだ。だが、白き月の民との戦いでリリスに与えられたロンギヌスは粉々に砕け散ったとされている。無理も無い、相手は白き月の民、力を選びし存在だ。逆にそれ故に白き月の民はロンギヌスを使うという思考に至らず、それが幸いして今の我々が存在するとも言えるがな」
ゲンドウが言うには砕け散ろうともロンギヌスはその力を失ってはおらず、数年前からこの海域でその所在を探そうとしていたらしい。だが、おーぶは他国からの干渉を極端に嫌う傾向があり今までそれが出来なかったという。しかし、わしが在らぬ疑いで不当に拘束されたことで事態は変わったらしい。つまり、わしはだしにされたというわけだ。その結果、この国に使徒を呼び込む羽目になった。今もあるかどうかも分からない槍のために。
「零戦」
「待て、あくまで今回は偶然が重なっただけに過ぎない。私がお前に行かせたのはこの国の内情を知るためだ。決してこの国を陥れようとは思っていなかった。妻に誓っても良い」
焦りを見せたゲンドウの言葉を聞いてわしは零戦を嗾けるのを止めた。ここで碇ユイの名を出したとなるとこの男は本気だという事。
「この国は決して表に出してはならない闇を抱えている、それが今どのような状況なのかを調べたかっただけだ。私自身リリスのロンギヌスには興味は無い」
「あだむの槍が手元にあるからか?」
「くっ、貴様……ああ、そうだ。ガブには既にアダムのロンギヌスが刺さっている。あれは一つあれば良い」
そうなると、考えられるのはもう一つの胡散臭い結社の存在がこの度の理由になるのか。
「では、今回は横槍が入ったと見て良いのだな?」
「まったく。リリスとは随分情勢に敏感とみえる。そう、今回は裏で日本政府に働きかけたゼーレの意向だ。老人たちは欠番の使徒が現れたことで酷く怯えている。言わば、藁にも縋る思いでロンギヌスを手に入れたいのだろう」
「人類補完計画とは案外脆いものだな?」
「…まったくだ」
「そこまで永遠を手に入れたい気持ちがわしには分からんよ。人間は死ぬものだ。だからこそ今日を精一杯生きるとういうに」
わしが感慨深けに呟けば、ゲンドウは僅かに苦笑を浮かべた。その苦笑はわしの中身が老人だとようやく理解したように見える。
「良いだろう、次の問いを最後に問答は終いとする」
ゲンドウが表情を戻してわしの問いに構えた。
「お前の妻とろぼだいんえーすに誓って真実を語ったか?」
「当然だ、同志よ」
「戦いに赴こう。同志よ」
例え主義主張は違えども、同志たる気持ちにだけは偽り無く、今は共闘の意志を伝えん。
ろぼだいえーすの話で敵のらいばる機だった少年と主人公が一度だけ共闘する時に言われた言葉をわしなりに改造して作った言葉だ。それをゲンドウに披露すれば、目の端に涙を浮かべて力強く頷いた。
戦いはこれからだ。
そろそろ、石を投げられるかもしれない話が近づいてくる。
次回 剥離した闇の中で
次回もサービス、サービス……どうなることやら