+サイドアウト+
軍船に響き渡る警報が敵の接近を告げた。ゲンドウ率いる作戦部隊は予想より早い接近に驚きながらも、船の停止を命じた。既にアカツキ島は目の前だ。これよりは零号機で島に上陸する。
今回も作戦指揮を行うのは同志参謀だ。
参謀はレイに零号機に搭乗を要請、レイは承諾してエントリープラグにダイブした。そして開閉口が閉められる直前、それは現れた。
レイの予備のプラグスーツを身に纏ったカガリがレイと同様エントリープラグに飛び込んだのだ。作戦本部の誰もがそれに気づいたのは開閉口が閉められ、零号機に装着された時だった。本来なら思考ノイズに異常が起こるはずだったが、零号機の中にはリリスがいる。たかだが、人が一人増えたところでリリスをもってすればどうとでも出来てしまう。それが仇になったようだ。余談だが、リリスにも気づかれなかったのは船を揺らして興奮状態だったことが要因になったようである。
思考に僅かな差異を感じたレイは後ろを振り向きカガリの存在に気づいた。これも余談だが、自分が述べたロボダイエースの言葉に酔っていて気づくのに遅れてしまったようだ。
すぐさまレイは作戦本部に通信を行うも、敵は既に射程の範囲内に近づこうとしていてこのままでは船ごと撃沈される可能性が出てきたため、このまま出撃するようゲンドウから命令された。同志の命を守らなければならないと判断したレイは仕方なく、前屈みになりカガリを自分の後ろに座らせた。カガリには自分の腹をしっかり掴むよう厳命して零号機を起動、開かれた鋼板から立ち上がり、海に飛び込んだ。
上半身まで漬かった状態で零号機は慎重に歩き出した。使徒は零号機の出現により進行を停止している。
一見してゼブラ柄の球体が本体のように見えるがレイはアニメの知識で知っている。あれはデコイであり、本体はその下にある影であると。極薄の影はディラックの海と呼ばれる虚数空間、別の宇宙、空間に繋がっているそれを内向きのATフィールドで支えて存在しているのだ。もちろん、レイとしては本体が影、球体は偽者とだけしか覚えていないが一応の補足である。
レイは陰の方を見据えながら浜辺で立ち止まった。これ以上行けば使徒が行う瞬間的な影の移動に対応できないと判断したからだ。
「おい、早くあいつを倒さないのか? あれがオーブに本島に着たら大変な事になるんだろ? それは困るぞ」
当然、何も知らないカガリはそう問うてしまうのも仕方が無い。
「黙って、あれは単純に倒せる代物じゃない」
レイは影を見据えながら短く告げた。それ対してカガリは不満を募らせる。
「なあ、何で下ばっかり見てるんだよ、あれが何かは分からないけどさ、敵から視線を逸らせたら駄目だろうが」
「………」
「おい、無視するのは止めろよ! 敵から目を晒すのは無謀だって誰でも分かることだぞ!!」
「僅かに鈍っている…か」
「おい! 何で話してくれないんだ!! あたしは泣くぞ!!」
先ほどからカガリが苛立ちを見せるたび思考ノイズにブレが生じ、僅かな差異を訴えるのだ。そのせいでもしかしたら思うように動かせないかもしれないと思ったレイは視線をそのままに、カガリの問いに答える形で、本体は影だという事を告げ、倒すには苦労する事を述べた。すると、カガリは急に黙り込み、考え込むように唸り出した。
「どうしたの?」
レイが問いかければカガリは顔を上げて指先を前方の映像に伸ばした。
「レイがいう偽者のさ、球体に変なものが刺さっているように見えるんだよな。よく見たら、このエバ零戦だっけ? それと同じような腕が刺さっているように見える」
そのようなことを言われてしまえばレイとて気になってしまう。もとより、本体が分かっていようとも撃破させる作戦を考えつけないでいるレイにとってそれは打開策に繋がるものになるかもしれない。そう思ったレイはカガリに影を見張らせて内蔵されえているスコープを用いて球体のほうに視線を向けた。
確かに球体に刺さった銀色の腕が見える。零号機のように装甲で覆われた腕だ。それはつまりあれもまたエヴァだと言う可能性がある。それとも、あれすらもこの使徒が作り出したデコイなのかもしれない。判断がつかないレイは映像を作戦本部に送った。すると返ってきたゲンドウの答えはレイをもってしても驚愕するものだった。
『あれは米国ネルフ第二支部で起動させるはずだった4号機だ。先ほど支部が謎の爆発によって4号機ごと消失したという知らせが来た』
その事件についてレイはアニメの知識であった。
「ナントカ機関の暴走だな」
『ふっ…その通りだ。これはあくまでMAGIによる予想だが、S2機関の暴走により生み出された莫大なエネルギーが一時的にディラックの海を発生させ4号機を飲み込んだ、本来ならそれで終わりだったが、あれが現れた』
「あの使徒が扉となったか」
『その通りだ、ディラックの海でさ迷っていた四号機はあの扉に吸い込まれるように現れたというわけだ。ただし極端に狭い扉だったのだろう僅かに出たのは腕だけだったようだがな』
「だが、何故本体ではなく、あの偽者の球体だったのだ?」
『貴様が何時それを知ったか気になるところだが今は問うまい。そういう事はもっと早くこちらに伝えてもらいたいものだ。それとこれもあくまで予想だが、あれもまた使徒の一部だからだろう。つまり、あの球体と影は何らかの理由が揃えば繋がる事もあるということだ』
「さ迷っていたエバのようにか?」
『ああ、無限とも言えるディラックの海と繋がるんだ。自分と繋がることのほうが異かに容易いことか、単純な話だがな』
「信用できる情報か?」
『4号機に関しては賛成が二、条件付での賛成が一だ』
「つまり…分からん」
『ほぼ間違いなく、あれは4号機だということだ』
「了解した、引き続き観測を続行――」
「レイ!! 影が!!」
カガリの怒声で瞬時に意識を戦闘モードに切り替えたレイは零号機で空中に跳んだ。直後、零号機がいた場所には影が現れていた。そして考える、このまま地面に着地したところで、同じように影が迫ってくるだけだ。ならば、このまま球体のほうに移動してあの4号機の腕を掴み、支えとして陰から逃れるしかない。そう考えたレイは肩のウェポンラックに搭載されたミサイルの目標を地面に想定して強制射出する。地面で爆発した全段ミサイルの爆風は巨体の零号機を浮かせた。ずれそうな角度は機体を水平に保つ事で維持し、球体に向けて飛翔する。
「熱い!! 熱いぞ!! レイ、背中が凄い熱くて痛いぞ!!」
「我慢して。オーブを守るのでしょう」
「分かっているがこれはキツイぞ!! レイは何時もこんな想いをしているのか!?」
「今を生きる人のためなら痛くもかゆくも無い」
球体に刺さった腕は目の前だ、威力をなくしてすぐにでも落ちそうな機体の腕を強引に伸ばしてあと僅かな距離にある腕を掴みたい。しかし、無常にも機体は重力に従い落ちていく。右腕なのが更に痛かった、左ならば盾に内蔵されているワイヤーを作動する事も出来たのに今の体勢ではそれもままならない。
その時だった。
「クソッ かっこいいな、だったら私も我慢してやる!! 痛くないぞ、馬鹿やろう!!」
カガリの叫び声に呼応するかのように刺さっていたシルバーの腕が僅かに動いて零号機の腕を掴み引き上げたのだ。
「どうして…」
レイが呟くままに腕はそのままの勢いで零号機を引き込み、すぐに全身が球体の中に飲み込まれていった。
シルバーの腕が動いた時、アカツキ島の海域で赤い発光が確認されたことに気づけた者は残念ながら誰もいなかった。
カガリと共に虚数空間に飲み込まれた元おじい、そこで出会ったもう一人の自分
では、カガリは?
次回 ディラックダイバー前編
次回もサービス、サービス……ストックが尽きる!