+サイド今はレイの元おじい+
静かな夕焼けと優しい波が繰り返される海、そして波に任せて佇む漁船、どうやらここは起動実験のおり、元妻と再開した精神世界という場所に再び来てしまったようだ。
取り敢えず、来てしまったものはしょうがない。折角漁船に乗っているのだ、釣りでもするかと、何故か常備されていた釣竿を構え、釣り糸を垂らせばすぐに当りが来た。
「まさかな」
あの時と同じような登場をするのかと思いながら釣竿を引き上げれば、そこには前世のまだ幼い少年だった頃のわしがずぶ濡れで現れた。
思わずわしはどっぺる何とかの話を思い出して恐怖した。もう一人のわしに会ってしまうと死ぬんではなかったか。だが、これがもう一人のわしではなく、少し似ただけの少年かもしれない。そう思ったわしは尋ねた。お前は誰だと。
そうしたら彼は端的に言った、
「僕は君だよ」
終わった、わしはこの世で何も成せず死んでしまうらしい。すまないシンジ君たち。先立つ不幸を許しておくれ。
無表情で涙を流すわしに、もう一人のわしは困惑したような表情を浮かべていたが、彼は柔和な動作でわしの首を掴もうとしていた。どうやら絞殺らしい。内心の荒れ狂う気持ちに蓋をして表面上静かにお向かいを待とうと瞳を閉じれば何処からか水しぶきが上がった。
「白き月の民なんか、ドオォォォォォン!!」
聞きなれた声を耳に捕らえて閉じた瞳を開ければ幼いわしは元妻が放ったどろっぷきっくの衝突で遥か彼方に飛んでいってしまう。その光景を呆然と見て内心、よもや人が星のようにきらりと光る漫画のような情景を目の当たりにするとは、と思ってしまった。
「何やってるのよ!! ホント都市伝説とか怖い話には弱いわね、あなた。言っておくけど、あなたが乗っているエヴァだってある意味都市伝説並みに怖い代物なんだからね!」
いや、しかしだな、あれは伝説で現実に起こらないから恐怖を感じるのであってエバは現実に存在するから怖くは無くて。
「しかしも、かかしもないのよ! 私が来なかったら取り込まれてそれこそ使徒の一部になっていたわ!! それはつまり私も取り込むことを意味するわけで…嫌だ、想像しちゃったじゃない。何で私があの傲慢なクソアダムの子孫と一体化しなきゃならないのよ!!」
元妻はご立腹の様子だ。
「昔、私が生まれた時、あいつなんていったと思う!? 我が最初に生まれた、すなわち後に生まれてきたものはすべて我のもの。我のものは我のもの、そなたのものは我のもの、ですって!! どこぞのガキ大将かよって今の私なら叫んでたわね。まぁ、あの当時も全力で拒否ってやったけど!! そしたらアダム、拒否られるとは思っていなかったみたいでさ、ポカンとしてた、でもすぐに泣きそうな表情を浮かべたから迷わず思ったわね、ざまぁ!! って」
元妻は昔から変わらないな。アダムが不憫になってきたよ。
「まあ結局その事がきっかけで、アダムは自分の言う事を聞く白き月の民を生み出したのよね…で、対抗して私が黒き月の民を生み出したわけ」
元妻は罰の悪そうな顔で明後日の方向に視線を向けた。元妻がしたその動作はわしに知られたくない事を隠している証拠だ。前世、へそくりを隠していた時もこの動作をしていた。元妻は隠し事が苦手なのだ。
「怒らないから言ってごらん」
諭すように優しく告げれば、元妻は渋々といった表情で口を開いた。
「太古の昔や、今行われている黒き月の民と白き月の民との戦いは元を正せばあれの延長上の喧嘩みたいなものなのよ」
今聞かされる驚愕の真実! という奴か。なんとまあ、秘密結社やねるふには聞かせられない話だ。
「アダムの奴、私に拒絶された事が相当堪えたのね、この星に旅立つ時、私たちの創造主から与えられた選択でアダムは力を選び民に与えた。自分の民にはそんな想いはさせたくなかったのかもしれないわ。結局、何者にも犯されない心の壁はアダムのトラウマと私の拒絶が生み出した産物とも言えるのよ」
後悔という二文字を背負い、皮肉げに吐き捨てた元妻の表情が次の瞬間には清々しいほどの笑みに変わる。
「でも、きっかけはどうあれ、この星に到着した時の衝撃で動作不良を起こしたアダムたちが繁栄できなかったのに、わざわざ起こしちゃった黒き月の民が一番悪いと私は思うけど!! ホント駄目よね、下手に知識を与えちゃうとそれに生じて欲望も際限なく増えて力を求めちゃうんだから」
「それは責任転嫁というやつか」
「…ち、違うし!! 私も悪いかなって少しは思ってるわよ」
「少しなのか」
呆れてそう言えば、元妻が苦みばしった表情になり、やがて閃いたとばかりに不適な笑みを浮かべた。
「うっ……でも、でも、あの時私が拒絶しなきゃ、私はアダムのものになっていたんだから!! 夫婦という観念は無かったけど実質そのようなものよ!! それをあなたは許せるの?」
わしは表情を真面目なものに変えて元妻に視線を合わせた。
そんな事は決まっている。
「アダムが悪いな」
「でしょ!! あなたならそう言ってくれると思ったわ」
元とはいえ、人の妻を誑かすなんて不貞野朗だ。アダム許すまじ、である。嬉しそうに抱きついてくる元妻の背中を優しく摩りながら今後、アダムに会うようなことがあれば容赦はしないと心に誓った。
誓いも新たに今の自分の状況を元妻に聞けば零戦はすべてあの使徒に飲み込まれてしまったそうだ。そして先ほど危うく同化されそうになったのは言うまでもない。この使徒はそういう使徒なのだと元妻は述べた。
次にあの銀色が勝手に動いた理由はなんなのか、わしは妻に問いかけた。すると、妻は言いにくそうに視線を明後日の方に向けてしまった。またか、という気持ちを顔には出さず、優しく諭せば重そうな口が開かれた。驚愕の真実を沿えて。
「この海域に私が嘗て持っていたあれがあるかもって言われてるでしょ? それって本当なんだよね。まさか死海文書にそんな事まで書かれているとは思わなかったんだけど。でね、黒き月の末裔はあれを凄い武器だとか、デストルドー発生装置だと思っているようだけど、確かにそういった一面もあるわけだけど、それだけじゃないの」
妻曰く、人や使徒がもつATフィールドを消滅させるアンチATフィールドを発生させる力の源をデストルドーと呼ぶらしい。このデストルドーは始原回帰を促すもので人にとっては死を意味するその力が人や使徒が持つ心の壁を取り払う事が出来るのだという。それ即ち肉体という名の鎧を脱ぎ捨て原初の海に還る事を指すのだが、槍はその力を発生させる装置みたいなもの、も機能の一つとして付いているようだ。何を言っているのか良く分からなかったので妻の言葉をそのまま載せてみた。
「大まかに言うと、人を死に至らしめる力があるならその逆もあるわけで、一度肉体を失い原初の海に還って行った魂をもう一度こちらの、俗語で言うなら現世に連れて来る事も可能なわけよ。そしてどうやら、今回この海域でバラバラになった槍の欠片が私という存在に引かれ、力を取り戻したことで発動されてしまったの」
元妻の説明の途中だがふと、そう言えばこの場所にわしは来てしまったが、一緒に乗っていたカガリはどうなったのだろうか、と思考に過ぎったところ、元妻は言いにくそうに告げてきた。
「実のところカガリさんは零号機に入り込んだ使徒によってディラックの海に飛ばされてしまったのよ」
「何だって!?」
驚愕したわしに元妻は安心させるように笑みを浮かべた。
「安心して、ちゃんとカガリさんは無事だから。むしろ行くべきところに行ったというのが正しいわね」
元妻によってその後語られた真実はわしに更なる驚愕を抱かせることになるのだった。
区切りの関係で話を伸ばしてしまう、愚かな作者。どうか、石は投げないで。
次回 ディラックダイバー後編
次回もサービス、サービス……この場を借りて感想を下さった方々に感謝を。これを励みに更なる精進をしたいと思います。