始まります。
+サイドアウト+
委員会からのゴリ押しで予備という形ではあるが新たなチルドレンが迎えられた。ネルフは一応この少年を歓迎するも、殆どのものが必要かという疑問符を浮かべる事になった。まあ、エヴァも無いのだから尚更である。
ネルフ本部司令室にシクスチルドレン、渚カヲルが挨拶も兼ねてやって来た。
「始めまして、委員会より推奨されたシクスチルドレン、渚カヲルです。何も知らぬ若輩ではありますが、どうぞ良しなに」
女性が見たら惚れ惚れするような笑みで挨拶をすればゲンドウとコウゾウの視線が突き刺さる。
「チッ…ああ、こちらも歓迎しよう。これからこの場所で過ごすのだ。後で同じパイロットに案内させよう。年が近い方が何かと話し易いだろうからな」
表情を変えることなく刺すような視線は健在でゲンドウが告げた。
「……ありがとうございます」
「チッ…碇、彼も長旅で疲れているだろう、挨拶もこれくらいにしておいてやれ」
コウゾウが渋い表情で付け加えるとゲンドウはカヲルに視線を向けたまま頷いた。
「……あの、僕は気に障るようなことをしたでしょうか?」
表情を曇らせたカヲルがおずおずと質問すれば、ゲンドウとコウゾウは互いに視線を合わせ、首を傾げた。
「彼は何を言っているんだ?」
「私にも分からんよ、今日が初対面だ。気に障るも何もないだろう」
ゲンドウの問いにコウゾウは理解できんと答える様を見てカヲルは安堵の表情を浮かべた。コウゾウは視線をカヲルに向けて口を開く。
「チッ…とにかく、君は疲れているようだ。十分休むように」
ゲンドウも視線をカヲルに合わせた。
「チッ…ああ、疲れているなら案内は無理にされなくても構わないぞ」
「………はい」
酷く怯えた表情を浮かべたカヲルは肩を落として司令室を後にするのだった。
司令室の二人は先ほど出て行った少年について語り始めた。
「委員会から横槍が入ってきたな。今、MAGIが全力で彼の素性を調べているが、恐らく彼は…」
「ああ、老人たちが欠番の使徒が現れたことに対して酷く恐れている証だな。自ら時計の針を進めたようだ。あの少年が現れてから、例のあれが酷くざわついている」
「決まったな。よもや、委員会自ら最後の使徒を作り上げ、送り込んでくるとは。相当恐れていると見える」
言ってコウゾウが苦笑を浮かべると、先ほどのやり取り思い出して眉を潜めた。
「それよりも、あの使徒は中々に礼儀正しいじゃないか、白き月の民も最後は黒き月の民の末裔の姿になるとは、とんだ皮肉だが酷く私たちに怯えていたようだ。碇、お前何かしたのか?」
「知らん、使徒という以外興味ない」
「そうだな、お前はそういう男だ。私もそれ以外無いのだが…使徒が人間サイズになると、やはり長旅は酷なのだろうか」
「知らん、大半のユイ、少し息子以外は興味ない」
「それでこそ、お前だ。ようやく、元のお前に戻ってきたな。黒幕が消え、切り札が使用可能になって、安心したか?」
「知らん、もう自分がどういった状態なのか、私自身が知りたい」
「ああ、一週回って平常になったのか。私としても安心だ。しかし、あの少年はどうして」
こうして、司令室ではゲンドウが我慢できずトイレに立つまでエンドレスに続く会話が成されていくのだった。
ちなみに同じ男として無意識に劣等感を抱いた末の舌打ち。
ゲンドウとコウゾウ、彼らも年を取ろうと男なのである。
司令室を後にしたカヲルがスタッフ専用の通路を歩いていると見た目、ハンチングと作業服のツナギを着た整備班と思われるメンバーが白衣を着た開発班と思われるメンバーとなにやら、言い争いをしていた。人の営みに興味があったカヲルはそのやり取りが気になった。少し離れたところから聞き耳を立てる。
「おい、この武装は何なんだ、デュアル・ソーだと? 何時から内は林業になったんだ。森林伐採は別のところでやってもらおうか」
整備士の一人が言いながらデータと思われる書類を投げつけた。残りのメンバーも口々に批判を叫ぶ。すると今度は開発班の一人が反論する。
「うるせぇ、これは上から降りてきた案件だ、俺たち含め下っ端が口に出せる代物じゃないんだよ!!」
開発班の残りメンバーが憤りの声を上げる。一触即発の事態を眺めていたカヲルは自嘲的な笑みを浮かべる。
「やれやれ、悲しいね、人同士ですら分かり合おうとはしないなんて、僕は彼らに託す事が出来るだろうか」
これ以上、見ていても仕方が無いと思ったカヲルが踵を返して歩き出そうとすれば、その声は聞こえた。
「同志諸君!! 待ちたまえ、我らが争う事などないんだ!!」
第三者の登場で争いの音が静かになった。おや、と思ったカヲルが振り返ると、多分、互いの班の上司なのだろう、二人が一枚の紙を掲げて語っていた。
「かつて、旧ロボダインの設定資料、通称ブラックボックスにこんな文言が書かれていた。製作中、作者がどうしても武装に電動のこぎりを使いたいと製作者たちに力説したという」
「しかし、実際のアニメではその武装にお目にかかることは無かった。そして残念ながらリメイク版ロボダインエースにも出てこなかったことは、先の上映からも知ることとなった。ならば、作者の意を汲み取り」
「我々が作ってやろうではないか!!」
二人は声高々に宣下した。それを見ていた両班は、互いに目配せして拳を握り締め、声をそろえて天に吼えた。
「みぃなぁぎぃるぅぅぅぅぅぅぅ」
堅い友情で両班は握手を交わして作業に戻って行く。
そのやり取りを見終わったカヲルは一言
「なにこの茶番」
と呟いて先ほどスタッフに教えてもらった二人のチルドレンがいるというトレーニングルームに向かうことにした。カヲルは思う、まったくもって不思議な組織である。
歩いて十五分、トレーニングルームに着いたカヲルを出迎えたのは、それはもう暑苦しいほど青春をしている二人の少年少女だった。もっとも甘酸っぱい方ではなく、熱気が溢れる方である。
「バカシンジ!! 踏み込みが甘いわよ!!」
「さすが、アスカ。軍隊仕込みの冷静な判断だ、ねっ」
シンジと呼ばれた少年が中段蹴りを浴びせるもアスカと呼ばれた少女は最低限の動作で回避、その反動を利用して裏拳を繰り出した。が、シンジの方も右腕でガード、お互いは一端距離を取る。
「やるじゃない、バカシンジ。相手にとって不足なし、惣流の血が騒ぐわ」
「アスカこそ、名だけじゃないわけだ。僕もうかうかしていられないな」
一瞬、お互いが不適に笑うと相手を打ちのめさんという気迫の表情を浮かべて再び拳や足の応酬を繰り返す。
「それにしても、あたしたちはまだまだなのよ、ねっ!」
「そうだね、レイさんとカガリさんは僕らなんかよりも断然強い、よっ!!」
「バカシンジ、いえ、シンジ。あたしたちは強くなるわよ、くっ!!」
「ああ、何時までもおんぶに抱っこ状態じゃ情けないから、なっ!!」
下に恐ろしきは旗から見ても凄い運動量にも関わらず、普通に会話をしているところだろう。わき目も振らず、組み手をしている二人の姿に疎外感を感じたカヲルはそっとトレーニングルームを後にするのだった。
本部に来てから寂しさが募るカヲルは無性に海が見たくなってきた。
委員会により作り出されたカヲルはこのネルフ本部に向かう前、他のチルドレンの資料を見せてもらっている。
惣流・アスカ・ラングレー、彼女は傲慢な態度で人を見下し、エヴァに乗る事を何より誇りに思っている一方で他者に必要とされていなければという強迫観念に駆られている。母親の死がトラウマで自身を強く見せなければ禄にコミュニケーションも取れないという心の弱い少女。
碇シンジ、他者との接触を極端に嫌う傾向があり、己に自身を持つことの出来ない臆病な少年、父親との確執でその傾向は更に強くなっていく。総じて自分以外の人間を心に住まわす事、信用する事に絶対的な恐怖を抱いている。
アスカは別にして、カヲルはシンジという少年に深いシンパシーを感じていた。それは自身も同じだからだ。カヲルは使徒である。使徒とは単体で無限の時を生きれる存在、他者との疎通という概念は基本持ち合わせていない。第十三使徒は何故か、ある少女に怒りという感情で疎通、謝罪に感謝するという奇特な行為をしたが、あれは特例で、使徒らしくない。
矛盾するようだが、別の種族でありながら自分と同じく他者を心に住まわせないシンジに興味を抱いだいてしまったのだ。使徒の自分が何と滑稽かと呆れたりもしたが、何故か心は高揚したのを覚えている。それはまるでリリンが他者に恋をするかのような甘酸っぱい気持ちに似ていた。
だから彼になら殺されても良いと思った。委員会の悲願よりもシンジの心に深く残りたいと思ってしまったのだ。
なのに。
「君の心はBBQで定番のヤキソバを炒める鉄板のように分厚いね………ふふ、失恋ってことか」
儚い笑みを浮かべ、少年、カヲルは歩き出す。だからだろう無性に海が見たかった。
古来より、失恋には夕日の海を見るものだと人間を知る上で渡された資料の少女マンガに書かれていた。それを実行する機会がすぐに巡ってこようとはあの当時、ウキウキと読みふけっていた自分には想像できなかっただろう。
覚束ない足取りで廊下を歩く美少年の姿に女性スタッフは残念そうな表情を、男性スタッフはニヤリと笑みを浮かべて、ざまぁ、といった表情で眺めるのだった。
次回 恋の選択を
次回もサービス、サービス……申し訳ない。不定期更新、です。