EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


第八話

 深い、深い闇の底、バラバラとなった粒子が再び形をとる時、あの優しい子の望みを叶えようと動き出す。

 

 同じく眠るよう沈んでいた青白い炎が僅かに揺らめいてその存在に歓喜する。 

 

 ホラ、愛する子の声が聞こえるよ、あの子の選んだ子が死にそうだよ。

 

 さあ、いきましょう。わたくしのさいごのやくめをまっとうするために。

 

 

 

 

 

 命令に従い4号機の手がゆっくりと力を込め、タブリスは苦悶の表情を浮かべた。

 

 何時の間にか立ち上がった零号機がエントリープラグを出して、そこから飛び出したカガリが腕を伝って滑り落ち、零号機の手のひらで必死に声を張り上げた。

 

「止めろ!! カヲル! カヲル!! 使徒だから何だ、体が持たないからなんだ!! あたしに何も言わずに、あたしに謝りもしないで死ぬなんて許さないぞ!! このばかやろうぅぅぅぅ!!」

 

 ガブの部屋に響き渡るカガリの叫び声、呼応するかのように4号機の鼓動が跳ねた次の瞬間、込められた力がスッと抜けていく。次いでタブリスの意識に介入してくる声を聞いて目を見開いた。

 

『その通りね、このお馬鹿さん』

 

 悪戯が成功したかのように上気した声は確かに自分が壊した絆の一つだったはずだ。

 

『ふふ、臆病者に卑怯者、私が弱者たる魂だったのならあの攻撃で存在自体を消していたでしょう。でも、私はウズミの嫁です、そこいらの脆弱な魂とは訳が違いますのよ。槍を通して現世に舞い戻った私の魂は伊達じゃない、キリッと自分で言ってみる』

 

「そんな、馬鹿な」

 

『あら、スルーは駄目よ、すべての笑いに関する事象を拾うのがGEININですって、今は無理そうね』

 

「これは夢だ…僕の都合の良い夢」

 

 呆然としながら呟くタブリスに声はコロコロと笑い声を上げる。

 

『まったく、よくお聞きなさい。そもそもあのコアの場所において魂を砕かれたところで再び一つに戻れば言いだけの話、あなたは存在自体を消し去ったと思っていたでしょうが、人に落されたあなた程度の力で魂の消滅が出来るはずはない。始祖の魂を持つあなたがそれを一番理解していないと可笑しいのではないでしょうか?』

 

 純然たる事実のように言われ、ようやく思考が正常に戻り始めたタブリスは古い記憶の中で思い出す。

 

 始祖たるアダムとリリスは自らが生み出した魂の番人でもあるがゆえ、自らが生み出した末裔の魂自体を破壊することは可能だろう。しかし、その末裔に落された自分が肉体を破壊して原初の海に返すことは出来ても魂自体を消滅させられるはずがない。それこそ、自身たちへの反逆に等しい行為を末裔に与えるはずがないのだ。

 

 今度は絶句するタブリスに声は続けた。

 

『あなたの覚悟、しかと見届けました。あなたは確かに我が子を深く愛しています。ごめんなさいね、あなたの想いを侮辱したのはあなたの覚悟を知りたかっただけ、他意はないのですよ。もともと私は恋とは自由であるべきと思っていますから、コーディネーターだろうが、使徒だろうが、化け物だろうが、あの子を心から愛してあの子自身が心から愛していれば誰でもいいのです』

 

「でも、僕は……好かれてなど」

 

『本当にお馬鹿さん、あの子をよく見なさい。必死にあの子は叫んでいる。それが、どういう意味か分からないほど、使徒とは無粋なのですか?』

 

 今も必死に叫んで自分を死なすまいとするカガリの姿から目を放せない。確かに彼女はタブリスを、いや、渚カヲルを求めてくれている。

 

『後はあなたが自身の本当の望みをカガリに告げれば言いのです。あの子とあの方、そして我らが始祖はきっと応えてくれる』

 

 タブリスは一度きつく目を瞑ると泣きそうな表情を浮かべて叫び続けるカガリに視線を合わせた。

 

「言って…いいのかな」

 

 小さく呟かれ、それに返すよう大声でカガリが問う。

 

「カヲル!! 何か言ったのか!?」

「望んでも良いのかな」

「聞こえないぞ、もっと大声で喋れ、この馬鹿野朗!!」

「僕は…僕の本当の望みは……」

「言ってみろ!!」

「……にたくない」

「もっと大きく!!」

 

 一喝しながら手のひらでカガリは必死で手を差し伸べようと腕を伸ばす。それに応えるよう張り裂けんばかりに声を上げた。

 

「僕は死にたくない!!」

 

 握り込められた巨大な腕から左手を出して求めるようカガリに掲げて叫ぶ。

 

「もっとカガリと一緒に生きていたいんだ!!」

 

 タブリスの、渚カヲルの、アダムの望みがその口から発せられた直後、まるで示し合わせたかのように零号機と4号機の腕が伸ばされる。距離はやがてゼロになり、カガリの手のひらとタブリスの手ひらが重なり合わさった直後、二人の前に半透明の女性が姿を現した。

 

 その女性はタブリスを皮肉げに見つめて口を開いた。

 

『あの傲慢だったアダムが慎ましくも黒き月の末裔と共にありたいと願うなど酷くリリンらしくなったじゃないか』

 

 カガリや自分にとっては面識が無いはずの女性、けれどタブリスの脳裏には懐かしき記憶が沸きあがる。

 

「君は……リリスの魂」

 

 その記憶に従い口にすれば、リリスは不適に笑った。

 

『いかにも、アダム。我ら永遠なるものに時の概念はないが、共に人として生きてきた時間があるからこそ今は再開を喜ぼうではないか』

 

「けれどその姿……前とは違う」

 

『愚かにもお前はあの少女を我と勘違いしただけだ。我の魂はこの零号機の中に存在する。今は少しだけ、貴様の前に現れたに過ぎぬがな』

 

「じゃあ、僕は見も知らぬ彼女にべらべらと思い出を話していたと言うのかい?」

 

『失笑を通り越して哀れに思ったものだ』

 

「それは僕の事を中二病扱いにするわけだ」

 

 納得といった感じで頷いているとリリスは鼻で笑った。

 

『それは貴様のデフォだろうが、あれが私であっても中二病扱いをしていた』

 

「零号機の中にいたくせに随分と人間らしいじゃないか」

 

 ムッとした表情を浮かべながら皮肉を込めて言った。しかし、たかだが数日程度人間になったタブリスでは、何十年も人間をやって死んだリリスに勝てるはずもなく、一を言えば十返ってくるかのように悪口を言われ、仕舞には一目も憚らず泣き出した。遥か昔の再現である。

 

 流石にそこまでされればカガリも黙っているわけにもいかないと抗議を上げたが、末裔の言葉は耳に入らないとばかりに無視をする始末、そんなやりたい放題のリリスに一喝が入った。

 

「悪乗りも大概にしないか。お前はこんなことの為に出てきたわけじゃないだろう」

 

 エントリープラグの中から唯一暴走を止められる存在の登場にリリスの笑みが固まった。

 

「唯でさえ、この場所に剥き出しのお前がいれば肉体に引きずられてしまうだろう。それに彼の時間も残り少ないんだ、その辺にしときなさい」

 

『ご、ごめんなさい』

 

 素直に謝罪する姿とそれをさせた少女に軽い畏怖を抱いたタブリスがおずおずと問いを投げかけた。

 

「あの、じゃあ、結局彼女は何者なのかな…」

 

 すると、リリスは嬉しそうに、それ以上に誇らしげにレイの傍まで行くとその小さな肩に手を掛けて紹介する。

 

『私の夫よ、アダム。私、結婚して子供もいるの』

 

「え、でもリリンは同性で子供を作ることは…」

 

 何処となく白い頬を染めたタブリスが言いにくそうに口を濁す。思った以上に勉強しているようだ。逆にカガリは意味が分からないのか、文字通りポカンとしていた。要勉強と言った所であろう。

 

『ホント、馬鹿。あんた、リリンに落されてどこか螺子が抜けたんじゃないの。魂を見れば理解できるでしょうに』

 

 呆れながらもレイと呼ばれる少女が何者なのか、リリスは語ってみせるとタブリスは見る見る驚愕を浮かべていく。最後は驚きすぎて口を半開きにしたたま固まってしまう。その姿を見て折角のイケメンが台無しだな、ざまぁっとリリスは内心で思った。

 

『と言うわけで、あんたよりより人間らしさを手に入れたってわけよ』

 

「リリスを人間にしてしまう世界で生み出された魂」

 

『ようやく分かったみたいね、この世界の魂とは質が違うでしょう?』

 

「ああ、異質だね、これでは原初の海に還れない。きっと異物として弾かれてしまう」

 

 そう、だからリリスはレイの体に押し込めたのだ。そうでなければ今頃魂は消滅してリリスは嘆きながらサードインパクト起こしていただろう。

 

『ふん、私がそんな事をさせないわ。言いこと、アダム、よく聞きなさい。私は愛するものが望むなら妥協なんてしないわよ。太古の昔からの常識とだって戦ってみせる』

 

「!?」

 

『アダム、あんたはその小娘にそんな想いを抱けるかしら?』

 

「僕は……」

 

『生半可な気持ちなら止めなさい。所詮、あんたは白き月の民の始祖、黒き月の民の末裔を愛すると言う事はわたしが与えたトラウマから発生した本能とも戦っていかなければならない』

 

 実際タブリスの記憶には黒き月の民の末裔を排除しようとする記憶がこびりつき、それが本能に訴えかけてくる。それを理性とカガリを愛するという感情で蓋をしているだけだ。

 

 けれど、あの時叫んだ本心に偽りはなく、今でも心が渇望していた。

 

「僕はカガリと共にあれるなら、どんな困難でも打ち勝ってみせる」

 

 力強い声でそう宣言すると次いでカガリを見つめる。

 

「カガリ、もし可能なら僕と共にあってくれるかい」

「うん? 良いに決まっているだろう。あたしの気持ちがお前に死んで欲しくないと告げている、人類の敵でも、使徒でもない。渚カヲルに生きて欲しい!!」

 

 力強いカガリの宣言にタブリスは、いやもう、カヲルと呼ぶべき、一人のリリンは幸せそうに笑った。

 

 やれやれと言った様子でリリスが苦笑するとその指を鳴らした。

 

『いいでしょう、アダム。遥か昔のよしみで手伝ってあげるわ。ここにアダムの槍と私に与えられた槍がある。これを道しるべにしてあなたをリリンから別のものに再び落すわよ』

 

 鳴らされた指に共鳴して四号機のコアに搭載されていた槍と、先ほど水没した槍が宙を舞って4号機の両隣に鎮座した。

 

『幸いにも小娘が乗る機体はあんたの肉体ベースで作られているから拒絶反応も起こしにくい。でも、このまま遂行すればコアに三つの魂が混在する事になるから、コアの許容範囲を超えてしまう』

 

 厳かに告げたリリスの傍にふわり現れたもう一人の女性を見てカガリが目を輝かせ、カヲルは苦しげに視線を落した。

 

『ふふふ、構いませんよ。始祖殿、私の役目はどうやら終わりのようです。娘にも守られるべき相手が出来た。それがあなたと同じ始祖ならばウズミも文句はありますまい。そして、あの無限力からも守ってくださるはず、そうでしょう、渚カヲル殿?』

「っ……傷つけてごめんなさい、あなたの居場所を奪うような真似をしてごめんなさい」

 

 まさしく懺悔の言葉を繰り返すカヲルに母親はふわりと近づくとその頭を優しく撫でた。

 

『言いのです、先ほども言ったとおりあなたの覚悟を試しただけであり謝罪される言われはありません。それと…元々ね、私には役不足だったのよ。いくら機体を動かせるほどの絆が強くともカガリとは結局血の繋がりが無い。あのヴィアという子がいたから機体の機能を十分発揮できていたの……でも、これからはあなたがその役目を担って欲しい。あなたは白き月の民その始祖たるアダムなのだから、それも可能でしょう?』

 

 撫でられた頭が温かい、それと同じように心もポカポカと温かくなってきた。まるで母親に撫でられているような感じで、カヲルの心を愛しさと切なさで満たしていく。

 

「…お母さんみたい」

 

 ポツリと呟かれた言葉に母親はコロコロと笑い声を上げた。

 

『あら、そうね、カガリの旦那になるのなら私のとっても息子になるのよね』

 

「…それはカガリの夫と言う意味、夫、妻……リリンが生み出した恋人の極み」

 

『私の息子よ、どうか娘をお願いね』

 

「はい……母さん」

 

 はにかむ様にカヲルが笑えば母親はもう一度撫でて今度はカガリのほうに視線を合わした。言葉の端々から母親との別れを理解したのだろう、目を輝かせながらもカガリは涙を浮かべていた。ところが、母親は鋭い眼差しをカガリに向けて口を開く。

 

『カガリ、応えなさい。至高のGEININとは!?』

 

 その鋭い問いかけに涙を浮かべていたカガリの目が見張り、同じように鋭い睨みを母親に向けて応えた。

 

「大笑いの風よ!!」

 

 意味、どんな場所でも笑いの風を巻き起こせ的。

 

『前進!!』

 

 意味、常に新しい笑いを思考せよ的。

 

「系列!!」

 

 意味、コント、漫才、モノマネ、物ボケ、エトセトラ、すべての系列の笑いを認め、決して蔑ろにしてはならない的。

 

『天破笑乱!!』

 

 意味、天を張り裂けんばかりの笑いは相手の凝り固まった常識すら乱される的。

 

「見よ!! GEININの星が!?」

 

『笑いを生み出せと輝いているぅぅぅぅぅ!!』

 

 最後は二人、上空にあるのであろう架空の星に指をさして大笑い、その場にいた残りのメンバーが絶句するのにも構わず、二人は笑い続けた。

 

 やがて二人の笑いが収まると我が子を憂う優しい笑みを浮かべ、カガリに背を向けた。

 

『これからも精進なさい、カガリ。私はまた原初の海に還るけれど常にあなたを見守っていますよ』

 

 体が粒子のように分解されて足元から消えていく。

 

『ヴィアをよろしくね、あの子はあなたのもう一人の母親なのですから』

 

 その言葉を最後に母親の魂はすべて粒子となって4号機のコアの中からも、現世からも消えていった。

 

 もう会うことは出来ない、ようやくそれを全身に浸透させたカガリは人目も憚らず大粒の涙を何度も零していく。

 

「お母様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 母を二度も失ったカガリが張り裂けんばかりに泣き叫ぶ。4号機がゆっくりと手を広げ身動きが取れるようになったカヲルはそんなカガリを片方の腕だけで抱きしめた。縋るようにカヲルの背中に手を合わせるカガリ、その背を不器用ながら片手だけで撫で続けるカヲル。そんな光景をレイとリリスは静かに見守るのだった。

 




 次回、せめて、ラブコメらしく6






 次回もサービス、サービス……カヲル生存フラグ立ちました。アダムベース万歳!
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