EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


終章 終わる元おじいの世界

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 

 浮かび上がる初鰹はその標的をすぐさま、エバ零戦に定めると赤い飛沫を上げながら突貫してきた。零戦もまた、近くにいるわしらが邪魔にならぬよう、駆け出して両者は赤い海の中でぶつかった。

 

 何度も振り上げては降ろされる紫の拳は零戦の発現させた壁を容易く中和して装甲に減り込んだ。

 

「零戦の壁が容易く」

 

 わしの呟きを聞いたのか、リツコさんの足に踏まれていたゲンドウが立ち上がり、ずれたさんぐらすを上げる。

 

「いかにあれのコアにリリスがいようとも、今のプロトタイプ初号機には造作も無い。これが私の持つ切り札だ」

 

 ゲンドウから訳の分からない言葉が出て混乱するわしにリツコさんが悔しそうな表情で教えてくれた。

 

「あれは今ある初号機の前に作り出されたリリスを模した二体目のエヴァなのよ。つまりはシンジ君の乗るエヴァは三体目になるわ。でも、あれには魂が宿らなかった。ユイさんとのシンクロテストの折、その危険に気づいたあのお方、キョウコ氏が強制的に止めたのよ。そのせいで廃棄処分になったあれを、私が修理したの。幾ら、キョウコさんでも肉弾ではコアを完全につぶす事は出来なかったから」

 

 どうやらゲンドウの命令で修理させられたようだ。今はそれを悔やんでいるからこその表情なのだろう。リツコさんの足は的確にゲンドウの足を踏んでいるのが何よりの証拠だ。

 

 だが、そうなるとあれは動かせないのではないか、そう疑問に思ったわしの表情、まあ、御なじみの無表情だが、雰囲気を感じ取ったのかリツコさんが付け加える。

 

「そう、本来ならあれは動く事はない。今はあなたのおかげになるのか、ダミープラグも不完全、起動すら間々ならないはずなのに予備動作も無く動き出し、尚且つあの零号機を圧倒する力を持ち合わせている」

 

 リツコさんは鋭い瞳でゲンドウを睨みつけた。

 

「あれのコアにアダムを……アダムの肉体を植え付けましたね、碇司令」

 

 ゲンドウは肯定を意味するのか不適に笑って見せた。

 

「その通りだ、赤木博士。模した物とは言え、これもまたアダムとリリスの融合と言えよう。不完全ではあるが、リリスの魂を有した零号機を圧倒している」

 

 力押しで振り下ろされた拳は何度も零戦を強打する。酷く単純な動きではあるが、動かしているのが良子なのだから避けるのも難しい。あいつは良家のお嬢様だったのだ、肉弾戦などやった事があるわけが無い。何より良子は運動神経が悪いのである。

 

 大きく振り上げられた足が膝をつく零戦の後頭部目指して振り下ろされようとしている。

 

「良子!!」

 

 何も出来ないとわかっていても手を伸ばさずにいられなかった。零戦に向けて伸びたはずの右腕が地面に落ちると同時に勢い良く降ろされた足が後頭部を直撃、零戦が赤い海に倒れた。

 

「レイ、そんな!」

 

 リツコさんが驚愕しながら駆け寄ってくる。

 

 無常にも時が来てしまったようだ。興奮していて先ほどまで分からなかったが、わしの体は既に形を保てなくなっている。前の世界、死ぬ時に感じた魂が肉体から離れる感覚を今、ヒシヒシと感じている状態だ。まったく、情けない夫だ。妻が苦痛に苛まれているのを見ていることしか出来ないのだから。

 

「時間だ、貴様の体がATフィールドを保てない。後は肉体から魂が離れるのを待つだけ。呆気ないものだな」

 

 淡々と事実を述べるゲンドウ、それに対して怒りを再発させたのは以外にもリツコさんだった。

 

「碇ゲンドウゥゥ!!」

 

 靴を脱ぎ捨てて駆け出すとゲンドウに肉薄、腹に向けてキツイ一発を食らわすと体を回転させて見事な回し蹴りを顔にお見舞いした。さんぐらすを飛ばしながらゲンドウの体が地面に倒れこむ。

 

「こんな男に人生を掛けていたなんて腸が煮えくりかえそうよ。でも、一番許せないのは自分自身だわ」

 

 低い、苦悶に満ちた懺悔は彼女の心からのものだと理解させる。まるで今にも自殺しそうな勢いにわしは一時、妻の事を置いておいておくことにした。

 

「リツコさん、人間、その殆どがやり直せることなのだとわしは思う。あなたの行動はその全てがその範囲だ。だからどうか、短慮はせず、生きる事を諦めないで欲しい」

「レイ……私はあなたに対しても酷いことをしてきたのに」

 

 わしの体のことを言っているのだろう。それなど今更だ。

 

「何もかも過ぎた事だ。わしはこの体に産れてきて感謝しておるよ」

 

 彼女がこの体を管理してくれたからこそわしの魂が生き残れたのだから。

 

 ミサトさんや本部の皆、わしを取り巻く全ての人に感謝してもしたりない。妻ともう一度再会できた。短いとは言え、共にあれた。夢の中だが妻と海辺を散歩も出来た。そして、大好きだった、あにめやげーむを体感できた。もう、十分だ。

 

「リツコさん。この場所はもう持たない。上の本部もそうだ。君は急いで本部に向かい、退去命令を出してくれ」

「!?」

「わしはこれから命を掛けて子供たちの未来を、あなたたちの未来を守ろう」

「何をするつもり!?」

「何、簡単だよ。わしはこれからも妻と共にあるだけだ。それがきっと未来を守る事に繋がると信じている」

 

 碌な内容も言わないのにリツコさんは頷いてくれた。そしてチラッと倒れたゲンドウに視線を合わせたが、何も言わず駆け出して行った。さすが、リツコさん。ゲンドウを連れて行けば時間が掛かると即座に判断したようだ。

 

「そうだな、残り時間は少ない」

 

 わしの眼前で初鰹は倒れた零戦を無理やり起き上がらせ、雄叫びを上げながら首を絞め始めた。

 

「すまない、良子。苦しんでいるお前を助ける事が出来そうにない。だが、約束は守るぞ」

 

 既に言う事の殆ど聞かない体を引きずりながら歩き出す。目指すべきは赤き海に浮かぶゴムボートだ。

 

 ボキッという音が部屋に響き渡る。もがき苦しみ締め付ける紫の腕を外そうとしていた零戦の両腕がだらんと下がった。

 

 前を見据えていた視界が行き成り地面に変わる。どうやら倒れてしまったようだ。分かってはいるが、確認のために足元を見れば、あるはずの左足が無く、少し後方に置いてかれたように一本佇んでいた。

 

 初鰹が完全に動かなくなった零戦を引きずりながら赤い海を渡る。目的の場所など分かりきっていた。十字架に貼り付けにされた良子の肉体目指してゆっくりとした動作で移動している。

 

 さて、これで歩く事はもう無理だ。ならば、這ってでも行くまで。先ほどよりも速度は落ちるが根性で何とか、ゴムボートの場所まで辿り着いた。役目を終えたかのように右足が体から引き剥がされる。

 

 どうやら初鰹も目的の場所までついたようだ。引きずる反対の腕で良子の体に刺さる赤い槍に触れば勝手に槍は抜けて赤い海に落ちる。さすが持ち主と言ったところか。そして今回はあのカヲル少年とは違い拒絶の壁は現れなかった。仕方が無い、あだむを覆うのは妻の体から作られたものだ。本能ではそれを見抜けないだろうと納得する。

 

 急がなければならない。しかし、左腕だけでは不安定のゴムボートに乗るのは苦労する。何とかして乗り込もうと四苦八苦していれば背後に人の気配を感じた。

 

「貴様はそのような姿になってもまだ諦めないのか」

 

 まあ、ここにいる人間はわしかお前くらいか、ゲンドウ。

 

「何故そこまでしてガブの部屋の覚醒を止める?」

「わしがそれを望まず、妻がそれに応えてくれたからだ、ゲンドウ」

「妻?」

「お前には言ってなかったな。お前が言う、りりすはわしの妻だ」

「!?」

 

 驚きに声を無くすゲンドウに構わず、わしはゴムボートに乗り込もうと必死に動きながら口は妻との馴れ初めやこの世界に来た経緯を紡いでいた。きっと、この男も妻を愛すると言う意味ではわしと同じだから心情を語りたくなったのだろう。そういうことにしておいて欲しい。

 

「何より、妻が、良子が、あの肉体に還ってしまえば、また一人で長い時を過ごさなければならない。そんな寂しい想いを夫であるわしがさせたくないのだよ!」

 

 言葉と共に勢いを付けて飛び込めば体はゴムボートに到着した。左腕を置いて。

 

 芋虫のように這いずりどうにかしてエンジンまで辿り着くも腕が無く足も無ければ起動などさせられるわけが無い。絶望感がわしを襲う。その時、ゴムボートが大きく揺れ、水面を勢い良く走り出した。エンジンを動かして舵を取っているのはもう一人しかいない。

 

「ゲンドウ」

「私の目的は貴様たち夫婦の絆に潰えるのか」

「何故」

「貴様の愛する妻を求め、もがいた様が、私にそっくりだった。そう思った時点でエンジンを動かしていた……素直に失神していれば良かった」

「今からでも遅くは無いぞ?」

「私は良い父親でも良い夫でもなかった。それでも、私なりに妻や息子を愛していたつもりだ。顔向けなど当に出来ない身だが、これで止めてしまえば本当の意味で息子や妻と顔向けできないような気がするのだ」

「ようやく……それを理解したか」

 

 そうだ、お前が行ってきたことを自身が肯定しても人は心のどこかで罪悪感を持つ生き物なのだ。その罪悪感はきっと無意識に心を蝕み、再開すらも曇らせる。

 

「思えば再開のその先を考えてなど居なかった。私は本当に愚かだな…私はきっと息子は当然……妻の顔を……真っ直ぐ見ることが出来ないだろう……」

「自業自得だ」

「グスッ……まったくだ……グスッ」

「泣くが良い、わしは止めんよ。人は弱いものだ」

「グスッ……はじめで、言われだ……嬉じい…グスッ」

 

 武士の情けでゲンドウの泣き顔は見ないよう進む先に視線を合わせれば動き出した良子の肉体が零戦を取り込もうと手を伸ばし始めていた。それは結局、傍にいる初鰹も取り込むことを意味する。

 

「あれごと取り込まれたらどうなるのだ?」

「グスッ…このままではアダムの肉体が王となってしまう。しかし、魂の無い肉体を取り込んだところで王になれるはずもなく、結局はリリスの本能に従い、ガブの部屋が覚醒、後に待つのは人類の魂の補完だ」

「人の未来が強制的に閉ざされる、か」

「そうだ、そしてお前の妻は気の遠くなる時間を独りで過ごす事になる。一度人の一生を過ごしたリリスはそれに耐えることが出来るとは思えんな」

 

 これはゲンドウなりの心配なのだろう。この男、どうやら素直に口に出せたいらしい。

 

「心配してくれるその気持ち、感謝する」

「!?」

「ふふ、わしもまた人の一生を終えたのだ、その中にはお前のような人間も身近にいたよ。まあ、わし以外に見せる妻の態度がお前にそっくりだったから理解できたんだが」

「……そうか」

 

 この男、やはりとんでもなく不器用なのだ。それが他者に対して如実で出てしまうのだから、さぞかし誤解されてきたのだろう。そうして出来上がった人格は悲しみたくないという拒絶を最初から前面に押し出した、中身唯のへたれと言うやつだ。

 

「無駄話はそこまでだ、急ぐぞ」

 

 そうか、嬉しかったのか、ゲンドウ。だから張り切ってエンジンを上げたのだな、ゲンドウ。一度、この男の性格を理解したら酷く単純だと分かる。

 

 響き渡るエンジン音、赤い海を颯爽と渡るゴムボードは着実に目的の場所に近づいている。既に零戦のほとんどを白い体に取り込まれ、引き連れた初鰹も取りこもうとしていた。

 

 やがて零戦も初鰹も全てが取り込まれると良子の顔に付けられた仮面が役目を終えたとばかりに零れ落ちていく。上がる水飛沫、丁度その当りを移動経路にしていたわしらは危うくそれに激突するところだった。ゲンドウが機転を利かせ早くから大回りしていてくれなければ巻き込まれていただろう。

 

 お世辞にも健康体とはいえない太った体が、どんな原理なのか引き締まっていく。わしらは変形する良子の体の足元にボートを止めた。

 

「この先は死海文書に描かれていない。リリスの肉体がどのような変化を遂げるのか、ガブの部屋がどんな形で覚醒するのか」

 

 ゲンドウは四肢損失したわしを抱え変形する様を見上げながら告げてきた。わしも首を上げる。

 

 白い体は若い女性のような体型に変わり、頭の部分から長い白髪を腰まで伸ばしていく。その様を見てわしは声を上げた。

 

「あれは若き日の良子そのものだ」

 

 初鰹の中で会った時よりも幾分若くした、丁度、向こうの世界での戦争末期時代、始めて出会った良子の姿がそこにはあった。あの頃は腰まで伸ばした黒髪を振り乱してわしに会いに来てくれたものだ。

 

 良子が変形を終わらせると部屋自体が揺れ始める。

 

「これは……ガブの部屋が覚醒するのか」

 

 ゲンドウが恐怖に上ずった言葉を発しながら周囲に視線を動かし始めた。わしもまたそれに習い視線を動かせば、若き日の良子が部屋全体に現れ、引き締めあうようにして宙に浮かんでいた。どの良子も淡い微笑を浮かべていてそれがどうにも良子らしくないとわしは思う。まるでこれは――

 

「人形だ」

「あれはきっと、お前の妻の形をしたアンチATフィールド発生装置だ。今の姿はまだお前の妻だが、一度発動されれば、相手が心を許す際も効率の良い存在に変わるのだろう」

「なるほど、故に人形のような姿というわけだな」

「お前が何をするのか検討も付かないが、やるならば急いだ方が良いだろう。あれが動き出せば最早取り返しがつかないことになる」

 

 ゲンドウの上擦った声から察するに本当に時間が無いようだ。とは言っても、わしがこれから行うことなど特に特別なことではない。

 

 部屋がまた振動する。体感からこの部屋自体が地上に向けて浮上しているようだ。

 

「最終段階だ、ガブの部屋が地上に現れるぞ」

 

 ゲンドウが最後通達とも取れる言葉を告げてきた。わしはそれに頷き、今にも白い翼を生やしそうな良子の本体に視線を強く合わせる。両腕があれば大きく広げて迎えたいところだが仕方が無い。格好は悪いが良子には我慢してもらおう。

 

「良子、約束の時は来たぞ?」

 

 自分の想いを込めるように語り掛ける。

 

「良子は昔から待ち合わせに煩かったからな。ギリギリだから怒るかもしれんが、大目に見て欲しい。ほら見ろ、わしはもう四肢がない中で、それでも間に合ったんだ。怒るのは勘弁して欲しい」

 

 ゲンドウは黙ってわしの行動を見守ってくれていた。有難いものである。

 

 良子は未だに何の動きも見せない。それでもわしは語り続ける。

 

「初鰹の中で約束しただろう、良子、お前はわしを迎えに来てくれるのだろう? 忘れるにはその姿、若すぎると思うぞ?」

 

 巨大な良子の頭が僅かに下がり、その黒に覆われ瞳の無い目がわしを捉えた。

 

「そうだ、良子。わしだぞ、お前の夫、綾森波尾だ」

 

 良子の口が開く。

 

 

――ア、ナ、タ

 

 

「うむ、うむ、そうだ、お前の愛する夫だ、そしてお前はりりすという名前ではなく」

 

 

――ワ、タ、シ、はリョ、ウ、コ

 

 

「そう、向こうの世界でわしと共に人の一生を共にしてくれた伴侶、綾森良子だ」

 

 空洞のような瞳に赤い眼が産れて完全にわしを捉えると人形のようだった表情が生き生きとしたものに変わる。それはもう、ただ巨大な良子だった。

 

『危なかった、あなたが声を掛け続けてくれなかったら、このまま本能に従って行動していたところだったわ』

 

 わしにとって何時でも聞き続けていたいと思わせる鈴のような声がガブの部屋に響き渡った。

 

『もうホント嫌ね!! 全部クソアダムとマダチのせいだわ…って、そこにいるのはマダチではありませんか……ぶち殺す!!』

 巨大な白い腕がのそりと動き出せばゲンドウが声にならない悲鳴を上げてわしにしがみついてきた。それを見て良子は眉を吊り上げる。

 

『おいコラ! まさか貴様、私の夫が見た目美少女だからって欲情してんじゃないでしょうね!! ホント、捻りつぶすわよ!!』

 

「ひぃぃぃぃ、自分は妻一筋です!!」

 

『そのせいで私が取り込まれたんだろうが!! どっちにしろ、貴様は死刑じゃ、クソが』

 

「結局何を言っても無駄じゃないですかぁぁぁ!!」

 

 オッサンが涙を飛ばしながら首を横に振って、嫌々し始めた。それにしがみ付かれる、美少女……犯罪臭いな、これでは。

 

 わしの心情としてもオッサンにしがみ付かれるのは勘弁して欲しい。

 

「これ、良子。既にゲンドウは補完を行おうとは思っておらんよ、どうか静まっておくれ」

 

 部屋に響き渡る舌打ち、良子の腕がピタリと止まる。

 

「ゲンドウ、お前も落ち着け。良子はわしや家族以外には冷たい印象を与えるが、決して嫌いだからそうしているわけではないぞ。お前のように不器用なだけだ」

 

 諭すように言えば、ゲンドウも落ち着きを見せ始め、しがみ付くのを止めてくれた。

 

「さて、良子。時間は残っていない。早速始めるぞ」

 

『初号機のコアの中で話し合ったあれを本当にするのね?』

 

「もしもの時のために考えていた作戦が役に立つのだ。あれが行えれば一石二鳥だろう」

 

『そうだけど……』

 

「今更この身を惜しむ事はない。残念ながら時間が無いことでゲンドウを地上に返すのは無理だが、まあ、実から出た錆だと思って諦めて欲しい」

 

 こればかりは仕方が無い。ゲンドウを人のまま地上に返すにはこの部屋が覚醒しすぎた。最早、この部屋に肉体のまま地上に返す出口は無いのだ。あるのはもう魂を迎える入り口のみ。

 

「私は既に覚悟を決めているが、お前たちは何をするつもりだ?」

 

 ゲンドウの問いにわしは答える意味も込めて初鰹の中で良子と話し合った作戦を伝えた。それを聞いて、ゲンドウは驚きを見せ、次いで苦笑を浮かべる。

 

「なるほど、お前だからこそ行える作戦だな。それならばここまで遂行された補完を止める事が出来るかも知れん。しかし、如何にお前が特別だからと言って所詮は私たちと同じ人間だ。何時かは終わりを迎えるぞ?」

 

 流石と言うべきか、すぐにこの作戦の穴を指摘してきた。わしもそれは理解しているつもりだ。わしはわしをそこまで信用していない。

 

「その時は外にいる相棒に全てを任せるさ。あの子には心強い仲間と、不本意だが、愛するわしの妻と同じ存在が共にあるからな」

 

 相棒と言う言葉と、妻の同じ存在という言葉でゲンドウは理解したのか苦笑を深めた。

 

「お前はまた、私に偽りの報告を残したというわけか……落されたアダムの魂はまだ存在して尚且つ親友の娘と共にいる。お前たちにとってこれほど心強いものは無いな」

「あの子の父親には悪いと思っている」

「構わないだろう、私と違ってウズミは娘の選択を妨げるほど理解無い父親ではないからな。何より、そんな事をすれば亡くなったあいつの妻が夢枕に立って恨み言を述べるというもの……しかし、そうなると逆に止めるかもしれないが」

「カガリの父親は妻を愛しているのだな」

「私とは違う形で、私と同じくらい、だ」

 

 あいつの妻への想いは全て娘に向かっている。そう、ゲンドウは呆れた表情で告げてきた。おーぶの代表であり続けるのは国民と半分はカガリを次の地位次がせるためらしい。まったく持って親馬鹿である。

 

 と、脱線はこのくらいにして早速始めようと思う。良子の白い巨大な両手がわしとゲンドウを優しく掴み上げる。

 

『もう良いのね、仕方が無いからマダチも共にする事を許可するわ。ここに放置で死なれるのも寝覚めが悪いから』

 

「か、感謝する」

 

 掴み取られた事でゲンドウはまた体を震わせ、声も上擦らせる。

 

『さあ、始めるわ。古の儀式、そこに新たなる供物を捧げん。反発する魂を糧に覚醒したガブの入り口を封鎖する』

 

 わしとゲンドウは白い手のひらに飲み込まれていく。このまま、飲み込まれればゲンドウは儀式通りそのままガブに封印されるだろう。しかし、わしの魂はそれに含まれない。何故ならあのあだむにして、異質だと言わしめた魂だからだ。つまり、その性質を逆手にとって取り込もうとする魂の入り口をわしの魂で封鎖すると言うのがこの作戦の要である。

 

 肉体からわしの魂が這いで出てゆく。幽体離脱のように空中に浮かび上がり、ゲンドウが取り込まれていく様を見つめる。

 

『勿体無いけどあの男は魂の揺り篭に取り込んで置いたわ。さあ、次はあなたの番』

 

 良子の白い手が宙に浮くわしに伸びる。わしもそれに習い透き通る腕を伸ばす。

 

「わしは所詮人間、どの程度の時間を稼げるか見当もつかんが、あの子等の為、気張って行こう。着いて来てくれか、良子?」

 

『ふふ、当然ですよ。私はあなたの妻ですから。あなたも、私を独りにしないでね?』

 

「それこそ、当然だ。わしはお前の愛する夫だからな」

 

 互いの手が触れるとわしの意識がスウッと遠のいていくのが分かった。

 

 

 

 

 

 わしは自身の終わりを、二度目の生の終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

 ジオフロントに剥きだしとなった巨大な球体はその動きを止めて以降再び動きを見せる事はなかった。これによりロンドベルは第一警戒態勢を解かれることになる。それでも監視の意味を込めてその場に滞在する事数時間、連邦及び日本政府によりネルフ組織の解体が可決された。そして旧ネルフがある第二新東京市は特別警戒地区に指定され、その後半径二十キロ圏内は立ち入り禁止となった。

 

 旧ネルフスタッフ及びパイロットに関しては暫定措置としてそのままロンドベル所属とることが決定される。未だ外敵の存在が居る事による先送りであった。

 

 ロンドベルにその通達が成されるとそのまま最後の戦いに赴くため、エヴァパイロットと一部のスタッフを乗せて宇宙に旅立った。

 

 数日後、数々の異性人との戦いに勝利、その後地球圏に迫り来るSTMC、宇宙怪獣を第四世代航宙艦エクセリヲンに搭載された縮退炉の暴走で作り出したブラックホールで、数億ともいえる宇宙怪獣を飲み込む。その際、艦長と副長が犠牲になったが、一先ず宇宙怪獣の脅威は無くなったといえよう。蛇足だが、これによりタシロ艦長の女性不人気は一気に好転することとなった。

 

 その後、すぐに異性人の親玉とも言えるエアロゲイターの戦いが開始されたが、数多の試練を乗り越えてきたロンドベルの絆に死角は無く、総力を持って戦いこれに勝利した。これにより後にバルマー戦役と呼ばれる戦いは終わりを告げたのだ。

 

 人類は束の間の平穏を手に入れることになる。

 

 ロンドベル所属扱いだったパイロット及びスタッフ各メンバーが帰るべき場所、所属するべき場所に戻る最中、先送りにしていた旧ネルフメンバーの進退だけが不透明だった。

 

 日本政府はネルフの中枢に関わっていた職員の殆どを監視と旧ネルフ本部の調査団という名目で囲う旨を決定していたが、パイロットとその機体については頭を悩ませていた。

 

 世界政府からはエヴァ本体を廃棄処分、パイロットを保護観察処分するよう進言してきたが、日本の裏を司る二つの組織はそれに否を唱え、表の日本政府に拒否するよう打診していた。どちらも取れない日本人特有の優柔不断さが遺憾なく発揮された案件である。ズルズルと時間だけが過ぎる中、当然情報とは漏れてしまうもので、この時は当事者のパイロットにも耳に入ってしまう。だが、これにより事態は一気に加速する事になる。

 

 その話を耳にした4号機パイロット綾波カガリは決断した。

 

 その決断を耳にした弐号機パイロット惣流アスカ・ラングレーは賛同する。

 

 その二人の盛り上がりを耳にした初号機パイロット碇シンジは苦笑を浮かべながら従う。

 

 三人のパイロット、三機のエヴァンゲリオンの進退はその後トントン拍子に決まり、それは遂行される事と相成った。

 

 

 

 

 

 こうしてエヴァパイロットにも平和が訪れようとしていた。

 

 

 

 そう、悲しいかな束の間という名を付けなければならない平和が。

 

 

 

                                 αの章 終わり。




 これにてスパロボαが終わりを迎えます。元々、元おじいの行く末を一応の終わりに見据えていたので、最後の話は『まごころを君に』に決めていました。中途半端な形ではありますが、ご容赦ください。

 さて、αの章と設定させて頂いたことから、次章があります。

 主人公も変わります。ですが、既存のキャラ、元おじいの想いを最後に託した存在に代わるだけですので新たなオリ主は出ません…たぶん。

 と言うわけで、もう少しお付き合い下さい。


 

 次回は次章に続く幕章をお送りしたいと思います。


 それでは次回もサービス、サービス。
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