EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


第四話

 

 モビルスーツ搬入用エレベーターの起動に失敗したあたしは落胆する気持ちを隠させず、顔に出してしまったようで、警戒しながらもこちらを窺っていたザフト軍兵士―――ラスティー・マッケンジーも肩を落として落胆の意を示していた。

 そうなってしまえば、お互いの立場など今は関係なく、それ以上に諦めムードが漂い始め、警戒など意味をなさなくなるのも仕方がない。

 

 あたしと彼は先ほどまで敵対関係だったことなど微塵も感じさせず、落ちた瓦礫に座り込み世間話を繰り広げていた。

 中々どうしてこの男はノリもよく、話術も上手い、何より旧世代のお笑いにも詳しいところがあたしの好感に際も触れてくる。

 

「そっか、お前は変なおいちゃんを代表とするケン・シムーラが大好きなのか」

「ああ、あのお方は旧世代コントの神と言われた方だからな」

「俺はどちらかと言うとトークの神と言われるサン・マ・アカシャを尊敬する」

「流石だな、王道を外さない。そこに痺れる」

「憧れるってか? 俺もお前に感じる思いは一緒だ。プラントじゃ殆ど理解してくれる仲間がいなくてな、寮生活では一人寂しく映像を見るだけだった」

「ちなみにあたしは仲間たちとトリオを組んで初舞台も経験済みだ」

「マジかよ!? すげぇなおい、何が凄いかよくわからねぇけど、とにかく凄いな!!」

「褒めておいて結局よく分からないのかよ!!」

 

 あたしの手を添えた突っ込みにラスティーは同志を得た喜びを噛み締めていた。涙まで流して喜んでいる姿については流石にあたしもドン引きしたという感想は心の中で閉まっておく。

 

「全部口に出てるから!! そして何気に酷いな、オイ!!」

 

 涙声でもツッコミを入れるラスティーにあたしは感嘆のため息を吐きだす。この男の笑いに貪欲なところは賞賛に値する。

 

「ああ、これであんたがコーディネーターだったら完璧なのになぁ」

 

 この男、何を言うかと思えば笑いの根本的なところが理解できていないようだ。内心で呟いていたはずの独白を口にしていたようでそれを聞き取ったラスティーが理由を求めてくる。流石にここまで来てお互い不快な想いはしたくないので言葉を濁していればその都度要求してきた。根負けしたあたしは不快感を与える覚悟で口を開いた。

 

「笑いに人種も国境も関係ない。笑いの前では全てが平等だとあたしの大好きな母は言っていた。それと、それこそが真のGEININに通ずる道だとも言っていたな。あたしはこの話を聞いたとき、笑いの根本を見たと同時に目から鱗が落ちる思いだったんだが……」

 

 少し前の嬉し泣きなど比べるべくも無い滝のような涙を流す目の前の男に驚いて言葉を止めてしまった。

 

「おい、どうした!?」

「……涙が止まらねぇ」

「何ゆえ!?」

「俺は……この瞬間まで笑いを語るだけでなく楽しむ資格さえ持ってなかったんだって気づいちまった」

「お前、まさか」

「はは、やっぱ分かるか? お前の話を聞いて俺がザフトとして戦う理由を見失っちまったんだよ。あれだけナチュラルを恨んでいたのに今はその遺恨も薄れちまって、情けなさやら仲間に申し訳が立たないやらで、涙が止まらない」

「お前の心にそこまでお笑いが深く根付いていたのか」

「元々離婚して笑わなくなった母親を笑わせようとして幼少の頃始めたことだったんだけどよ、俺の拙いギャグで母親が笑ってくれた時はビームライフルにでも打たれたような衝撃だった。それからはもう転がるような感じでのめり込み、時に貪るかのように旧世代の映像を求め続けた成れの果てが今の俺なんだ」

 

 同じだ、母親を笑わせるという共通点から今の自分に至るまでの通過点までも一緒、それはもう鏡を見ているような感覚を抱いてしまうほどで、だから複雑な心境を持ちながらもラスティーの想いが本物だと理解できてしまう。だが、このままでは彼自身中途半端な状態で死を待つことになる。それは余りにも悲しい。

 

「どうして笑い合える人類同士で血を流さなければならないのか、この先に待つ終焉はそんな人類に等しく降り注ぐと言うのに」

 

 恋人を中心に一部の者達が知っている未来の真実の一欠けらをあたしは彼に語った。連邦やプラントも知りえないこの先の末路、それに立ち向かう為にも人類が一丸となって望まなければならない事をあたしは淡々と語り続ける。

 

「……」

「だからあたしの恋人は人ではないんだ。そしてそんな彼からすればナチュラルもコーディネーターも同じく人類でしかない。争うは種の生存という大義名分に隠された人の欲望を具現化した愚かな行動に過ぎないなんて辛らつに語っていたな」

 

 それでも最後は白き月の祖として人は他者との絆を深められる生き物で在れるはずだと願いにも似た言葉で締めくくっていた。太古の昔、種を賭けた生存戦争を繰り返してきたアダムだからこその言葉はあたしを初めシンジやアスカも深く心に刻まれたのを覚えている。

 

 突っ込みどころ満載の語りに沈黙を貫いていたラスティーがチクショウっと吐き捨てた。

 

「死ぬ間際で裏切りか、ホント俺は最低だな……けど、そんな最低な俺自身が嫌いじゃねぇんだ、これが」

 

 何時の間にか涙は止まりどこか晴れ晴れとした表情で笑っていた。

 

「連邦の中で蓑隠れした一部の奴らは許せねぇ、けど、ナチュラルだからって罪も無い一般人に手を掛けた俺らも同じようなもんだ。そう感じちまった俺はもうザフト軍に籍を置けない」

 

 そう言って座っていた瓦礫から立ち上がるとラスティーは大きく伸びをする。

 

「まあ、先に待つのは建物による圧死か、窒息死か、どちらにしろ、死ぬんだから関係ないよな。よし、俺ザフト軍やぁぁめたぁ!」

 

 投げやりとも違うどこか清々しい宣言にあたしは苦笑を浮かべるしかない。

 

「けど、万が一生き残ったらどうするんだ?」

「ふ、このラスティー・マッケンジー、嘘は何度も吐いて来たが宣言した言葉を撤回したことは無いんだぜ!!」

「つまり宣言した言葉が実は嘘だったら撤回できるわけだな!!」

「ちょっ!! そりゃ無いぜ、折角カッコよく決めたのに!」

「いや、全然カッコよくないぞ」

「ガラッと変わって淡々とした口調で言われるとホントっぽいから止めて、心が抉れそうです!!」

 

 自虐的な突っ込みを吐き出すと不意に真面目な表情に変わる。

 

「冗談抜きで俺はもうザフト軍には居られないだろう。今も戦い続ける仲間に申し訳が立たないからな。仮に生き残ったとしても連邦に投降するのは心情的に無理だ」

「どうするつもりだ?」

「だから生き残ったらあんたに付いて行く」

「はあ?」

「死亡扱いなら名誉除隊できるし、国にいる母親に危害が加えられることもない上、結構な額の金が支払われるから心配も無い。情勢が落ち着けば何時か会いにいけるし」

「ちょっと待て!」

「あんたが一般人じゃないことはさっきの話や身のこなしで理解できる。けど、連邦に巣くう奴らのようなナチュラルでもない。どちらかと言えば、それを好と思わないだろう?」

「そりゃあ許せないが……いや、話の論点が変わっているぞ!?」

「かといってどこかの組織に縛られていたらこんな所にわざわざ単身で乗り込むことも無いはずだ。ほら、俺にとって都合が良いだろう?」

「まあ、どちらかと言えば小さな傭兵部隊のような組織を指揮している方だけど……」

「え、マジかよ。だったら尚更都合がいいじゃねぇか、あんたなら仲間を売るような命令は下さないだろうし」

 

 理解できるものの何故か腑に落ちない。まるであたしがこいつの面倒を見なければならない所が特に。

 

「いいじゃねぇか、俺結構働くよ、操縦から整備、雑用なんかもそつなくこなせるし」

「……もう一つ欲しいところだな」

「なら、最後に取って置きを出してやるぜ!」

 

 やけに自信満々な表情に取り敢えず耳を傾ける。

 

 

「俺のトーク技術で客席を暖める前座を担ってやろうじゃないか!!」

「よし採用、今日からお前もエバーズの一員だ」

 

 採用だ、ああ、採用だとも。こんなトークも出来る人材を見て見ぬ振り出来るほど目は曇っていないつもりだ。

 

「あざーす。よっしゃ、同じ旧世代のお笑いを分かってくれる上司なんて嬉しいぜ。となると、あの仮面かぶった胡散臭い上司ともオサラバ出来るわけで……うわ、最高の職場ゲットって感じだな。そう言えば、あんた名前はなんてんだ?」 

「綾波カガリだ。言っとくがあくまでこの場所から生き残れたらの話だからな?」

 

 余りの喜びように未だ危険な状態だと言う事を指摘すれば理解しているのかお座なりに返事を返してパイロットスーツを脱ぎ出した。流石に下はパンツだからか、上の部分を腰に巻きつけタンクトップ姿を披露する。そして身分を証明するものを全て投げ捨てた。

 

「服は後で何とかするとしてこれで何とか偽れるか。カガリも金髪だし、オレンジの髪くらいじゃ分からないよな」

 

 もう助かる気満々の行動に苦笑を通り越して呆気にとられているとラスティーの想いが通じたとしか思えないタイミングで二機の見慣れた機体が地下のこの場所に下りてきた。即座に警戒してあたしを守るよう前に出るラスティーに知り合いだと告げて近づけば死神を司るガンダムからおさげの少年が笑みを携えて降りてくる。もう一方、天使のような純白の羽を持つガンダムからは無表情の少年が降りてきた。

 

「新型に乗る坊ちゃんから救助を依頼されて来てみれば懐かしの姫さんがいるじゃねぇか」

「おい、今のあたしは綾波カガリだぞ、そのあだ名で呼ぶな、デュオ!!」

 

 睨みつけながら言えば、おどけた表情で肩を竦める姿を見て思わずあたしの心に懐かしさが広がる。

 

「お前の姿をモニターで見つけた時は正直驚いた、怪我はないか?」

「大丈夫だ、ヒイロ。救援感謝する」

 

 驚いたようには見えない無表情で淡々と語る姿も懐かしい。本当に心配していたのだと分かるから素直に感謝の言葉を述べられる。

 

「それで、そちらサンはどなたな訳? もしかして浮気か、お転婆お嬢様」

「お前と一緒にするな。こいつはあたしの護衛として連れて来たエバーズのメンバーだ。冗談でもカヲルの前で言うなよ、悲観に暮れて泣き続けられたら厄介だ」

 

 自然な嘘を心がけて言ったつもりだったが、どうやらプリベンターのエースには誤魔化しきれなかったようだ。無表情から鋭い目つきでラスティーを睨みつけている。

 

「その格好で誤魔化せると思ったか、貴様はザフト軍の兵士だろう?」

「さっきまではね、今はカガリの護衛で部下なんだよ。そんな殺気だたないでくれ、今にも手を出しそうだ」

 

 飄々とした態度を見せながらも隙を作らないラスティー、一触即発の雰囲気がその場に流れ始めた。

 

「ヒイロ」

 

 取り敢えず静止の声を上げて今まであった出来事を掻い摘んで伝える。それによって警戒は残るものの一応殺気は抑えてくれた。変わってデュオの方は呆れたようにため息を吐き出す。

 

「ホント、お嬢さんは厄介な奴に好かれるタイプだねぇ。でも、どうすんだ? 実際身分証明が無いと今の時代動きにくいぜ?」

「そこはあたしのもう一つの顔を使うから大丈夫だろう。今の問題はザフト軍をどう切り抜けるか、こんな状態でシャトルは運行していないだろうし、エバーズに連絡するにも時間的に難しい」

 

 高確率でヘリオポリスは戦場になって壊滅するだろう。父上のシナリオにはそれも考慮されているはずだ。

 

「そこは安心しろ、エバーズ艦長から不測の事態の折にはお前を保護するようプリベンターを通して依頼が着ている。それをうちは了承、任務扱いとしてお前を保護するつもりだが」

 

 そう言ってヒイロはラスティーに視線を合わせた。

 

「あくまで対象はカガリ、俺達を含めてレディから新造艦に乗るよう指示を受けている。ザフト軍の兵士を保護対象として迎えるのは難しい」

「どうせ、こんな場所で作業するような所詮末端の軍人が例の組織と通じているはずは無いと思うが?」

 

 エバーズが独自に調べ上げた連邦に巣くうある組織を仄めかして問えばヒイロは小さく頷きを見せる。つまり、プリベンターもその情報を持っているということ。うちの組織が依頼の報酬として情報を横流したのかもしれない。

 

「なら、組織のトップとして改めてプリベンターに依頼しよう。あたしと部下のラスティーを保護し、無事Lilinまで護衛して欲しい」

「お嬢様よぅ、無理が過ぎるぞ!?」

「そうだ、カガリ。捕虜ならまだしも保護扱いは出来かねる。いくら末端とは言え直属の部下に変わりは無い」

 

 二人が揃って否を唱え、捕虜として扱うよう説得してきた。けれど、こちらも折れるつもりはない。あたし自身も一度迎えると了承したならばそれを貫き通すつもりだ。

 

「もちろんタダでとは言わない。エバーズが所有する国際犯罪組織の情報を優先的にプリベンターに開示しよう。うちの情報網は他の追随を許さないほど優秀なのはお前達がここにいることからも十分理解しているだろう?」

 

 彼らがここの調査をするに至る情報はうちが厚意に彼らの組織に流したからだ。

 

「くそ、中々良い札を出してきやがったな。確かにここを調べる時の情報はお嬢さんの組織からの報酬を元に検討したからだけどよぅ」

 

 デュオが悔しそうに歯噛みする。こちらとしても目に余る犯罪組織は潰れた方がよいので情報開示は実質痛手ではない。

 

 もう一押しと言ったところか。少し考えて浮かんだ、取って置きを出すとしよう。

 

「それだけじゃないぞ、オーブの内情、その一部であるサハク家の情報を開示しよう。あたしが言うのも何だが、あそこは今キナ臭いぞ?」

「オーブの軍事を司る五大氏族の一つか。しかし、そんな事をすれば国が弱体化するぞ」

 

 確かに軍事は国の要とも言える第一級の情報であり、おいそれと開示できる代物ではない。けれど、今回開示する情報はあくまで一部、オーブ全体関わる事ではなくサハク家が独自に暗躍している部分だ。

 

 今の今までエバーズでも全容を把握出来なかったが五機の新型を見たことで推測が立った。そしてその推測が正しければオーブにとって要らぬ争いを増やす火種になる可能性がある。

 

 時間的に計画自体を潰す事は難しいが他組織、それも世界を又に掛ける巨大組織に情報を与える事で牽制の役割を担ってもらおうという打算的な意味合いも兼ねたものなのでこの際多少の漏洩は目を瞑るつもりだ。

 

 プリベンターとしては破格の報酬だと思うが、ダメ押しにもう一つ付け加える。

 

「最後に保護された場合、監視として常にあたしと共に行動してもらうつもりだ。寝食も当然一緒にする」

「いや、それこそ駄目だろ!」

 

 デュオがここ一番の叫びを上げて反対した。

 

「別に上司と部下なんだから構わないだろう」

「おい、ヒイロ。お前なみに鈍感だぞ、このお嬢様」

「俺は訓練で常に感覚を尖らせている」

「こいつも駄目だった!!」

 

 頭を抱えて唸るデュオの隣で黙って聞いていたラスティーがボソリと呟く。

 

「あれ、俺って異性として見られてない系?」

 

 それを聞いていたデュオが哀愁漂う表情を浮かべてラスティーの肩を叩いて慰め始めた。男はすぐに仲良くなれるというがどうやら本当らしい。

 

 

 その時、またしても建物が大きく揺れ始めた。流石にこのままでは全員が危険と判断、ゴリ押しで了承を勝ち取ると二機のガンダムに乗り込みその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あたしとラスティーはプリベンターの保護対象として紹介され新造艦に乗り込むことに成功する。その際、デュオから服一式を借りた事でラスティーが怪しまれる事はなかった。ところが、艦内でキラと再開した時は流石に冷や汗をかく事になる。

 

「あ、あなたは――」

「キラじゃないか!! 無事だったんだな!!」

 

 最後まで言わせず、カレッジの仲間と思わしき人物達に怪しまれながらも抱擁を無理やり行いながら耳元で黙っていて欲しい旨と後で説明する旨を懇願すれば一応頷いてくれた。

 

 キラ達と別れ、待たせた形となった黒髪の雰囲気がきつそうな女性軍人に自分たちの泊る部屋まで案内されるとようやく人心地がついた。同じように共に部屋で過ごすラスティーもまた安堵の息をはきだしている。

 結局、部屋数の関係上、ラスティーと寝食を共にすることになったが、そこまでに至る一悶着はあまり思い出したくない。

 

――デュオは煩く反対するのは分かっていたけど、ヒイロもムスッとした顔を作っていたのが印象的だったな。

 

 あたしは簡素なベッドに倒れこむと瞳を閉じる。

 

――やれやれ、これからの船旅がどうなる事やら……無事にあたしはあいつの元に帰れるのか?

 

 悲観的になったわけではないが、何だか無償にあいつの笑顔が見たくなった。

 

 

 

 




 エバーズに新たな仲間――ラスティーを加え、新造艦は動き出す。その旅路に待ち受けるのは果たして……。

 次回タイトル 再開への旅路



 次回の話も何だかんだ突っ走れ、カガリ!!
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