無数に飛び交う光の筋たち、荒れる戦場にガンダムタイプの白いモビルスーツ。
今の今まで戦場のせの字も知らない学生が乗り込んだ新型モビルスーツは性能こそ引けを取らなかったが、如何せんパイロットの知識は乏しい。巨大な砲撃機を持ちだした新型は敵の大将機に狙いを定め、躊躇することなくトリガーを引いた。
「止めろ、坊主!!」
その叫び声は誰の通信だったのかなど今更知る必要は無い、既に力の本流は解き放たれ撃ち出されてしまったのだから。
一つ目の角を持った敵モビルスーツは撃ち出された光の筋を意図も容易く尚且つ嘲笑うかのように避けて見せた。その背後に佇むのは今しがたパイロットが生活していたコロニーヘリオポリス。
新型から撃ち出された力は巨大なコロニーに穴を開けるほどの威力を持っていた。
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結局ヘリオポリスは一般人のキラが乗る新型モビルスーツ、ストライクのランチャー使用の武装『アグニ』によって崩壊した。もっともヘリオポリスには多額の保険が掛けられていてオーブの資金に喪失は無い。父上は結構ちゃっかりしている。
ヘリオポリスから脱出を果たした新造艦――アークエンジェルは当座の目的としてアラスカ基地を目指して航行していた。その間幾重にも渡ってザフト軍と衝突、戦闘中は部屋の中で待機しているものの、その都度複雑な表情を浮かべるのはラスティーだ。あたしが声を掛ければ必ずそれでも自分はもうザフト軍としては戦えないとぎこちない笑みで返すのが痛々しかった。
この頃、アークエンジェルのクルーが落ち着きを見せ始め、キラとラスティーを交えて話が出来た。銃を突きつけたことに対する謝罪をキラが受け入れ、ここにいる経緯を話せば驚きながらも理解を示し黙っていることを約束してくれた。
代わりにラスティーがアスランについての個人情報、私生活の部分を語ってみせれば、母親が亡くなった経緯を聞いてキラは悲しそうに目を伏せた。彼はアスランの母親を知っていたようだ。その後、沈痛な面持ちで別れたがキラの心情を考えるとあたし達は口を出せなかった。
キラとの会話の後に起きた戦いでどうにかザフト軍を退けた直後、エアロゲイターと思われる異星人が現われ場は混乱したようだ。援軍として駆けつけたブライト艦長率いるラーカイラムの部隊が先陣を切って戦い続けどうにか切り抜けられたらしい。しかし、アークエンジェルの面々は異星人との初戦闘に気後れして禄に動く事が出来なかった。不甲斐ない想いを抱き気持ちが沈んでいたアークエンジェルクルー、だが、歴戦の艦長ブライトの叱咤で気持ちを浮上させることに成功する。更に目的地をロンデニオンに変更、そこで補給した後、改めてアラスカ基地に向かう事になった。
ちなみにこの一連のやり取りはラスティーからの聞かされて知ったのだが、その時あたしは急な頭痛で意識を失っていたのだ。
次に意識が浮上するとそこは医務室でラスティー初め、歴戦の仲間達が見守っていてくれていた。診断の結果何事も無いことを軍医に告げられ医務室を後にする途中、ある機体の前で再び頭痛を引き起こして立ち止まった。
「この機体……」
心配するラスティーに肩を借りてふらつく体を支えてもらいながら見上げた機体はどこか禍々しさを持つ黒と茶色のコントラストを奏でたものだ。
その機体から発せられる何かをあたしの勘が最大限の危険として告げている。どうやらそれが頭痛の原因らしい。
「一般人が俺の機体に何のようだ?」
声を掛けてきたのは丹精な顔立ちと鋭い目つきの少年だった。
「これはお前の機体か?」
「そうだが、一般人がこのような場所にうろつくのは感心しない」
「本当にお前がこれを操縦しているのか?」
「くどいぞ、そうだと言っている」
少年はタダでさえ鋭い目つき更に釣り上げて吐き捨てた。
「お前、名前は?」
「……」
「名前は無いのか?」
「……クォヴレー・ゴードン」
渋々と言った形で告げてきた。名前を聞いたところで情報が現われるわけじゃなし、どうしてこのような危険な機体に乗っているなどと聞いて素直に答えるとも思えない。先ほどからの対応からそれをヒシヒシと感じる。
「そうか……クォヴレーというのか……」
「何だ、言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」
「いや、不快にさせたのならすまない。すぐにでも去ろう」
それだけ言ってあたしは痛む頭を抱えながら歩き出す。しかし、格納庫から出る扉の前であたしは再び止まると振り返った。
「その機体に乗るなら気をつけろ」
余計だとは思うが黙って見て見ぬ振りは出来なかった。混乱させると分かっていても、自身の勘に基づく私的な意見を述べる。
「何故そんな事を言う?」
当然そう返されることも分かっていたが言葉にするのは難しい。何せこの感覚は前対戦である戦いに赴いた時に感じたものに似ているだけで、後は全て勘から来る予想なのだ。
「その機体に意識を委ねすぎればお前自身の自我が飲み込まれてしまうかもしれない」
「!? おい、それは――」
扉は閉められ、声は途切れた。
あたしはそのまま与えられた自室に向けて歩き出した。途中、クォヴレーの相棒仮だと言う少女――ゼオラにも会い、それとなく気をつけるよう促した頃には既に頭痛は綺麗さっぱり消えていた。
自室に戻りベッドに入ると瞳を瞑り、機体の前で感じた懐かしさを思い出す。
――あの頃はまだ、あいつがいた頃だったな。ネルフのジオフロントに突如として現われた漆黒の機体――アストラナガン。
あれと戦闘していた時に感じた感覚を二年ほど経った今、あの機体の前で感じた。つまりそれはあの機体にアストラナガンのパイロットの意思が在ることになる。
「既にいないはずの存在を感じるなら……あいつが良かったな」
独り言のように小さく呟くと水色の髪の少女を思い浮かべながら瞳を閉じた。そしてそれは意外な形でこの先叶えられる事になる。しかし、それはとても歓迎されるものではなかった。
行き先をロンデニオンに変更してからザフトとの戦闘も無く順調な航海である。
暇を持て余したあたしはラスティーを連れて廊下を歩いていた。するとゼオラと思わしき怒鳴り声が聞こえ、横を凄い速さで通り過ぎていく。あたしはその元凶と思わしき相手に話しかけた。
「おい、あの子が酷く落ち込んだ表情で走って行ったぞ?」
元凶、もといデュオはあたしの姿を捉えここぞとばかりに意見を求めてきた。隣に立つカトルは呆れ顔だが黙っていることから彼も意見を欲しているのだろう。
曰く、あのクォヴレーというパイロットとその機体が怪しい、現われた場所がクロスゲート付近で尚且つ危険な機体に乗っているからスパイの可能性がある。お前の意見はどうなんだというものだった。
「そうだな、あの機体ベルグバウだっけ? あれに関してはあたしも危険だと思うが、パイロットに関しては分からん」
「分からんってお前……」
「なんて言えばいいか、勘が働かないんだよな。それってつまり今は危険が無いってことなんじゃないかと思う」
「カガリさんの勘は当たりますからね。ニュータイプや念動力者とは違う感じ方ですから分かると思ったのですが、なるほどそのような解釈もありますね」
そう言ってカトルは頷いた。
「けど、監視を付けるのは賛成だ。但し、あのパイロットを守る意味で」
「おいおい、何で俺が守らなきゃいけねぇんだよ!」
いきり立つデュオにあたしはこの前倒れた経緯を話した。聞いているうちデュオもカトルも真剣な表情を浮かべ始める。
「つまり、お前はクォヴレーの意思が乗っ取られる危険性が在るって言いたいんだな?」
「あくまで勘から来る予想だから確実じゃないけど、あの機体には確かに懐かしい気配を感じるんだ」
「そこでイングラム・プリスケンに繋がるわけですか」
カトルの言にあたしは頷いた。それだけは確かだからだ。
「たくっ、お前に意見を聞いたら余計混乱したじゃねぇか、どうしてくれんだ!?」
「あたしのせいか?」
「いえ、全面的にデュオのせいです」
「ひでぇぜ、カトル様」
がっくりと項垂れるデュオにあたし達は笑顔を浮かべる。先ほどまでのギスギスした雰囲気から抜けたようだ。
「だからさ、監視はするけどあくまでクォヴレーを守る為だってことをゼオラにも言ったらどうだ? それなら心情的にもお互い楽になるだろう」
「まあ……それならブライト艦長からの役目も全うできるか」
どうやらブライトから言われていたようだ。あの人も要らぬ苦労を背負い込むタイプと言えるだろう。
「では、僕は直接話して見ようと思います」
「おい!?」
「直接話して見えてくることもあるか、そうだな、あたしも賛成だ」
「カガリさんもご一緒にいかがですか?」
「無視すんなよ!?」
「悪い、あたしはこれでも一般人としての立場があるし、ラスティーもいるから遠慮するよ」
「そうですか、では、行ってきます」
「二人とも無視は良くないと思いマース!!」
カトルは宣言どおりスタスタと歩いて行った。あたしも手を振って見送る。
無視されたデュオはその後、ザフト軍による追撃が開始されるまでラスティーに慰められていた。
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既に機体を展開させたザフト軍に迎え撃つアークエンジェルも機体を展開させる。その中にはカガリが危険視したベルグバウもあり、そのすぐ近くに展開したのはデスサイズだった。
デュオはコックピットの中からベルグバウに通信を行った。
「よう、調子はどうだい」
『問題ない』
「俺が監視していることは分かっているな?」
『ああ、不躾でない程度の範囲だから気にはならなかった。上手いな』
「そりゃあ、お褒めに預かり光栄だな。じゃあ、監視される理由は分かるか?」
『当然だ、記憶喪失の得体の知れない俺にスパイ容疑が掛かっているんだろう?』
「……」
『俺としては本当に記憶喪失なので、その可能性もあるとだけ言っておく…が、何故笑う?』
笑い声を上げたデュオに不信を抱いたクォヴレーが問いかけてきた。
「いや、見事に騙されてくれたんでな、残念だが、監視はお前のスパイ容疑じゃねぇ。お前がその機体に飲まれないよう陰から守っているってのが、正解だ」
通信から息の詰まる音が聞こえ、デュオは更に笑い声を上げる。
『お前はお人好しのカトルと違うと思っていたんだが?』
「もしかしたら記憶を失う前のお前はそうだったかもしれねぇ、けど今は違うと言う在る意味お墨付きを貰ってるんでな、監視理由を変更した。俺だって好きで疑いたい訳じゃない」
『……出来れば変更した理由を聞きたい』
「そうだな、とあるお嬢様の良く当たる勘といったところだ」
『そんな不確かな事で……誰だ、そのお嬢様はと言う奴は』
「残念、時間切れだ。戦闘が始まる」
『おい!?』
「聞きたけりゃ、これからも良い子で居るんだな、そしたら何時か話してやるぜ」
言ってデュオは通信を切るとデスサイズを戦場に向かわせ、同じく少し遅れたベルグバウも続く。
カガリの旅は始まったばかりであった。
新造艦に連れてこられた三人目のコーディネーター、ピンクの髪を持つザフトの姫と我らが金髪の姫、二人が出会う時何かが起きるといいなぁ。
次回 前座だけでは収まらないラスティーさん
次回もゆっくりとだが進んで行け、カガリ!!