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アークエンジェルが到着した時には既にロンデニオンが戦場と化していた。
ロンデニオンまで追撃が無かったのは奇襲攻撃を仕掛けるためであった。しかし、ロンデニオンではジュドーのジャンク仲間が部隊を率いて応戦に当たっていた為、十分な時間稼ぎとなり奇襲に繋がることは無く、十分な警戒で持って戦場に臨むことが出来たようである。
光学迷彩を搭載したブリッツガンダムに多少の苦戦を強いられたが多くのニュータイプを戦力に持つジャンク屋などが見事場所を言い当て撃破。途中、イサムとガルムが搭乗するバルキリーがエアロゲイターの偵察機を引き連れ空間転移してきたことで再び対異星人との戦闘に突入したが、二度目ともありアークエンジェルクルーは冷静に対処して見せた。
中でもやはり機動力だけでなく出力の高い武器を内包するベルグバウは戦闘の要となって敵を撃破していく。時折撃ち漏らしもあるが、それをフォローするように小隊を組んだビルトファルケンとデスサイズがきっちり撃破していく姿は戦場に出る彼らにとって見慣れた光景だ。
全ての偵察機を撃破すると連邦所属の戦艦が一隻、戦場を移動しながらアークエンジェルに向けて航行してきた。
通信からフレイ・アルスター父親、連邦議員にしてコーディネーター排除を訴える組織ブルーコスモスの一員ジョージ・アルスターを乗せた護衛艦の役割を担っていることを告げられた。同時に娘とヘリオポリスからの救助者保護の任務も与えられているようで行動に移るも、時を同じくして先ほど退けたザフトの大艦隊が戦場に舞い戻り部隊を展開、30を超えるザフトのモビルスーツ及び五つの戦艦が一斉攻撃を開始する。
雨のように降り注ぐビームライフルの光りと戦艦が放つメガ粒子砲、大艦隊の威圧感は日の浅いアークエンジェルクルーを恐怖に飲み込み、古株もまた二度に渡る戦闘で疲弊しきったことで防戦一方を強いられていく。そんな中、戦艦の位置上戦場の真ん中に鎮座する連邦の戦艦はザフトにとって態の良い的と成り果て撃沈は時間の問題だった。
これにはブリッチで父親と通信を交わしていたフレイも恐怖を滲ませ、泣き叫びながら救助を艦長のマリュー・ラミアス大尉に懇願する。その時、ブリッチの扉が開き、監禁部屋からまたも抜け出してきたラクスが現われた。
「わたくしをお使い下さい、フレイ様」
「何を言って」
「わたくしはプラントの重要人物です。わたくしを盾にザフト軍を退けてください!」
「ラクス…あんた…」
「さあ、お早く!!」
うろたえるフレイから視線を外して艦長のマリューに向けて言い放つ。
誰もが言葉を止めてラクスを凝視する最中、いち早く我に返った副艦長のナタルが通信機器に向けて南極条約に基づき救助者としてラクス・クラインを保護している旨を伝えた。同時にこれ以上の攻撃を行えば相応の考えがあることも付け加える。国際チャンネルでの通信は瞬く間にザフト軍を駆け抜け、特に最後の脅しのような物言いが聞いたのか、これにより即座に戦闘は中止され、両者睨み合いという状態に陥った。
連邦の戦艦も撃沈一歩手前で踏み止まり、ジョージも負傷は負ったものの命に関わるものでは無いらしく、ラクスの機転でフレイはザフト軍によって父親を失わずに済んだ。
だが、一先ず安堵する彼らは気づいていなかった。この世界は人類同士だけの争いという単純な構造ではなく、そこには人智の超えたものが確かに存在することを。
そしてそれを人々は今後アカシックレコードに導かれた亡霊と称する。
時折閃光が迸る漆黒の宇宙にふわり浮かぶ異質な存在。
人の姿をしていながら全身が透けた水色の髪の少女は戦場に立つ誰にも感知されることなく佇んでいる。
彼女の表情に色は無く、精巧な人形の様に思えるが、その赤い瞳は爛々と輝きに満ちて真っ直ぐとある場所を見つめていた。
戦艦アークエンジェルに設けられた一室。彼女の瞳はそこにいるはずの少女を確かに捉えていた。
与えられた自室でラスティーと共に戦場の成り行きを見守っていたカガリは急に立ち上がると備え付けられた窓の方に駆け寄った。
突然の行動にラスティーが声を掛けるもそれには答えず、漆黒の宇宙を見つめ然も誰かと会話するかのように喋り出した。
「レイ、レイなのか!?」
人名と思われる言葉を吐き、カガリは酷く泣きそうな表情を浮かべていた。
「……無限力……アカシックレコード……まさか、そんな事も出来るのか、レイ」
ラスティーには理解できない言葉が続く。
「そんな……会えないのか……アダム……活発に……自我の芽生え……奴らは偽りを許さない……鎖となるあたしを……黒き月を……消し去る為に」
カガリは涙を流して何かに縋るよう窓枠に張り付いた。
「待ってくれ、行くな、レイ!! また、また再開の約束を!?」
その問いに答えが返って来たのか、ラスティーには分からない。しかし、己を抱きしめて嗚咽を漏らすカガリの姿を見る限り、良い答えは帰ってこなかったようだ。
普段活発な雇い主の憔悴しきった姿を見ているだけしか出来なかったラスティーは気を取り直し、取り敢えず先ほどの出来事は頭の隅に置いて慰めようと手を出したところで、その手は空振りに終わった。
憔悴していたはずのカガリは険しい表情を浮かべ走り出していたのだ。
「おい!? この手の行方は!? と言うか、どこに!?」
「ブリッチだ!!」
部屋を飛び出したカガリに驚きを見せていたラスティーも我に返り続く。
廊下の壁に何度かぶち当たりながらブリッチに転がり込むよう飛び込んだカガリは後に続いてやって来たラスティーの文句も無視して艦長のマリューにこの宙域から即座に撤退するよう進言する。
丁度攻撃が停止して今後の対応を考えていた時に現われた新たな登場人物、それもプリペンダーからの依頼で保護し、禄に人物説明もされていないカガリの言を素直に聞くはずもなく、逆に一般人の立ち入りに関して注意される始末、それでもカガリは声を大にして伝える。
「お願いだ、艦長。この宙域に敵が迫っている。ナチュラルもコーディネーターも関係ない。全ての部隊に通信して撤退を促してくれ」
「待ちなさい、カガリさん…でしたっけ、何故敵が来るのが分かったのかまずはそこを教えてちょうだい」
どこかミサトに似た声で諭すように言われ、カガリは僅かに冷静さを戻した。
「こんな事を言えば、正気かと疑われるかもしれない。けど、あたしは確かに元相棒の声を聞いたんだ。通信とかじゃない、あれはきっとディラックの海を通して危険を伝えたんだと思う」
「突っ込みたいところは沢山あるけれど、まずその相棒という人は今何処に?」
「地球にいるが会える状況じゃない。けど、お願いだ、艦長、あたしの言葉が信用できないなら、せめて通信でヒイロたちと会話させてくれ!!」
切羽詰ったどこか必死の懇願にマリューは溜息を吐くと通信を開くようナタルに伝える。艦長の無駄な優しさに眉を潜めたナタルがそれでも指示通り通信機に手を掛けたその時、艦に搭載された警報が鳴り響いた。
このご時勢ワープ技術もあって、どの艦にも重力の変動を探知するシステムが搭載されている。その探知システムに異常が見られたのだ。
「重力波反応を感知、重力の波形から何者かがワープアウトしてくるもよう!」
策敵担当のトノムラの報告を聞いた、カガリは絶望する。
「遅かった…か」
「おい、カガリ。何が来るんだ!?」
ラスティーの問いにカガリは答える。
「敵が一体だった場合、今の状況じゃ到底手の打ちようのない敵だ」
「その数、1……そんな、ワープアウト場所、連邦戦艦前方!」
トノムラの報告にフレイの表情が見る見る籠り始める。
カガリは目を伏せて己の非力を嘆きながらも、願望を口にせずにいられなかった。
「せめてカヲルがいれば……」
重力波から浮かび上がってきた巨体、バルマー戦役を戦い抜いたメンバーは驚愕し息を飲む光景であった。逆に今回初見の者達はイカのような形状の生き物に興味を抱き始める。
紫に輝く二本の触手の様なものがウネウネと生き物のように動く。そのイカのような物体は二本の触手で目の前の得物を容易く刈り取る。
あれにとって自分達以外の種は敵でしかなく、そこにナチュラルもコーディネーターも関係ない。
呆気なく沈められた連邦の戦艦、フレイの父は人類の敵によって無慈悲に命を奪われたのだった。
アークエンジェルのブッリチに響き渡る娘の悲鳴などお構いなしに巨体の中央に埋め込まれたコアが輝き、頭部にある仮面のような場所から光りの筋が放たれた。
それは雨のように降り注ぎ、多くのザフト軍モビルスーツ――ジンを撃墜していく。即座に反撃を開始するザフト軍の攻撃は幾重にも重ねられたバリア――拒絶の壁によって意図も容易く阻まれる。如何に新型のモビルスーツであろうとその壁を突き抜けるほどの火力は持ち合わせておらず、それは一種の通過儀礼のようなものであった。
再びコアから光りが放たれると30機もあったジンは二撃目の攻撃で壊滅、ザフト軍は撤退を余儀なくされた。
ザフトが攻撃されている最中、ヒイロはアークエンジェルのブリッチに通信を行っていた。
「そうだ、あの敵は第四使徒シャムシエル、バルマー戦役で現われた人類の敵で連邦のデータバンクにも僅かに記載されているはずだ」
『ええ、こちらでも詳細をカガリさんから伺ったわ。率直な意見を聞くわよ、あれは倒せるかしら?』
「可能性はゼロに等しい。こちらは三度の戦闘を行い疲弊、使徒の持つATフィールドは並みの攻撃をもろともしない防御性能を持つ。何より高い再生能力は戦術核如きでは消滅させられないほどだ」
『そう、では撤退を…』
「待て、その場にカガリがいるのなら変わってもらえるか?」
『貴方がそう言うのなら構わないわ、但し、私達も拝聴するわよ』
少しの沈黙の後、通信からカガリの弱弱しい声が響く。
『変わったぞ』
「カガリ、質問がある。あれは本当にシャムシエルなのか?」
『質問の意図が分からない。姿を見る限りはそうだとしか言えないが』
「バルマー戦役時代、俺はシンジと共にあれと対峙した経験がある。あれは触手だけの攻撃とあの当時のウイングで破れるほどのATフィールドだったが、その時と比べると強化されているように見える」
『直接戦ったお前が言うならそうなんだろう……なら、レイの忠告はこのためでもあったのかよ、くそっ』
カガリは自室での出来事をヒイロに語って見せた。
「つまり、あれは復活強化された使徒と言う訳か?」
『ああ、レイ曰く、アカシックレコードに触れたことで既に失われたはずの亡霊が終焉に導かれて復活を果たしたものらしい』
「目的はやはり人類の殲滅か?」
『そうだ、そして……』
「どうした、カガリ?」
『……白き月の祖と共にあるあたしを彼らは許さない。あれが現われたのはあたしを標的にしているから――』
『っ、止めなさい、フレイさん!!』
『あんたが、あんたのせいでパパが死んだ!! あんたがこの船にいるから!!』
「おい、ブリッチ、どうした!?」
通信が一方的に切られた直後、壊滅に追い込まれたザフト軍が撤退していく。
使徒はザフト軍を捨て置いてゆっくりとした仕草でアークエンジェルの方向に舵を取り始めた。
状況は限りなく不味い、しかし、ヒイロは残り少ない動力でゼロカスタムを飛ばしながらも絶望感は抱いていなかった。むしろ強制的に通信が切られた事に対して心配する余裕もある。この通信を聞いていた古参の連中は皆同じ心情だろうと予測を付ければ、デスサイズやサンドロックなどの古参がアークエンジェルに近づけさせまいと攻撃を開始、ATフィールドに阻まれながらも着実に速度を減速させていた。
「そうだ、レイがこの事を知らせたのなら必ず、活路を用意しているはずだ」
ヒイロの言葉にディォの同意が篭った通信が聞こえる。
『まったくだ、カガリの奴、相棒のくせしてあいつの用意周到さを忘れてやがるぜ』
『多分、カガリさんは自分を責めているのでしょう。自分の存在がこの悲劇を呼び込んだと思っている』
カトルのフォローが入れば、通信から明るい女の子の声でプルプルプルという何とも気の抜けた掛け声が聞こえた。
『カガリお姉ちゃん、元気なかったよ。この戦いが終わったら元気付けなきゃ』
バルマー戦役時代、小さな子供に人気だったカガリの例に漏れずプルも彼女が大好きだった。そんなカガリの為、起動ギリギリの状態で対峙しようとしていたプルに対して待ったを掛けたのがジャンク屋の中心的人物ジュドーである。
『こら、プル! お前は俺達より消耗が激しいんだから下がってなさい!!』
『ジュドーの馬鹿!! あたしまだやれるもん』
『駄目だ!! プルが無理したらカガリさんが悲しむぞ!!』
『うぅぅぅぅ、分かったよ、その代わり絶対近づけさせないでよね!!』
そうまで言われてしまえば心優しいプルは我侭を通せない。紫のキュベレイMkⅡが使徒から離れていく。これで最初からフルで戦っていたジャンク屋のメンバー全員がアークエンジェルの近くに待機することになった。
『ホント、あいつらも逞しくなったな』
騒がしい通信を終えて、デュオが呟けば同意の通信が各機から入ってくる。その中でこの場にはいない、しかし、古参の待ち望んだ通信が飛び込んできた。
『その通りだわ、子供の成長は早いと言うけれど……うちのトップはそれの範疇に入らないようね』
通信直後、一条の巨大な光りの筋がシャムシエルに向けて放たれ、三枚程のATフィールドを突き破る。
攻撃を放った空母艦Lilinが不在の主を迎えるため戦場宙域に現れた。
次回 お怒りフレイさんと始めての共同作業
次回も行け、カガリ。