第3話! 行きまーす!
+サイドアウト+
次の戦いで行われる大体の作戦が纏まり、パイロット二名にその旨を告げるため葛城ミサトは病室の前まで来ていた。
中から聞こえるシンジの笑い声にミサトは驚きを見せる。彼女の知る限り彼は自分たち大人の前でこんな無防備に笑った事はなかった。
「レイがやってくれたのね」
ミサトは賭けに勝ったのだ。しかし、ここでミサトが部屋に入れば、シンジの笑みは消えてしまうだろう。その理由を自分は持っているのだから。腕時計を見れば、まだ作戦までに余裕がある。ミサトは部屋の前で彼らの会話を聴くことにした。束の間の平穏を彼らに与えるためにそうしようと思った。
「そう、あなたが守り、私が攻め」
「レイさんがあの使徒と戦うの!?」
聞き耳を立てていたミサトは驚愕した。二人は既に戦う心構えを取ろうとしていたのだ。
「私はその為にエバに乗っているの」
「え? 今何て言ったの?」
「だから、エバ零戦に乗って」
「エバ零戦ってなに!?」
「あなたも操縦者…確か、エバ……初鰹?」
扉の前でミサトがコント張りにずっこける。
「違うから! 初鰹に乗ってたら今もこの病室は生臭さ全快だよ!! 僕が乗っているのはエヴァ初号機! レイさんが乗っているのも何号機は知らないけど、エヴァンゲリオンだから!!」
よく言った、そのまま間違いを正してやって! 立ち上がったミサトがシンジにエールを送る。
「エバンゲリオン」
「エヴァンゲリオン!」
「エバン……ゲリオン」
「エヴァ!!」
「エバ」
「エヴァ!!」
「エマニエル婦人」
「その人誰!?」
シンジ君が知るわけ無いわよね。というか、どうしてレイは知っているかしら、ミサトは呆れながらもレイが持つ知識の奥深さに若干の恐怖を抱いた。
「はぁ、もういいよ、レイさんが乗っているのはエバンゲリオン零戦だ」
あ、きっと慈愛に満ちた表情で言っているのだろうなと、ミサトは半ば確信を込めて予想する。
「それで、レイさんはあの第五使徒をどうやって倒すつもり?」
「あなたがあの機関銃で牽制」
「パレットライフルね、距離がありすぎて届かないよ」
「じゃあ、びーむ兵器で牽制」
「ポジトロンライフルね、これも無理距離的に無理かな」
「なら、狙撃びーむで牽制、これ以外は認めない」
ミサトはレイの言葉に驚きを見せる。自分が持ってきた作戦はまさにそれなのだ。
「あれ、そんな武装あったかな……まあいいや、仮にあったとしてその後は?」
「私が使徒めがけて突っ込む」
「使徒のビームに焼かれて終わりだよ」
「避ける」
「いやいや、無理があるよ。僕はあのビームを受けたから分かるけど一瞬だったから」
「根性」
「ここに来ての精神論!!」
「意外と大事」
彼らが考える作戦は纏まりそうもない。終わりそうも無い彼らの作戦会議に一筋の光を与えるため、自分の持って来た作戦内容を引き下げてミサトは病室に足を踏み入れるのだった。
事前にパイロット同士で成された作戦会議のおかげか、彼らのポテンシャルが良い様に上がっていた。懸念されたシンジの精神も落ち着きを見せ、トントン拍子で作戦が決行される事と相成った。
そして元おじいは知る事になる、元妻、現リリスが言っていた自分たちが懸念事項の一つだという理由を。
今回、ネルフ外部組織からの接触及び、共同作戦。その外部組織とは元おじいが知るアニメには決して出てこない、けれど、元おじいが生前やっていた、とあるゲームに登場した組織。
独立部隊ロンド=ベル
元おじいが大好きだったスーパーなロボットの大戦αである。
+今はレイで元おじい+
ミサトさんに案内された作戦本部で居並ぶ顔ぶれを見てわしは驚愕してしまう。さんぐらすに金髪、どう見てもうちの組織で踏ん反り返る奥さん大好き元祖ではないけれど、さんぐらすを外さない指令には真似できない存在感を全身から醸し出す男、ミサトさんからの紹介で出された名前にこれまたわしは驚愕する。
くわとろ・ばじーな、長い横文字なので略して桑さんとする、はどう思い出してもあのアニメには出ていない。むしろ別のアニメでは主人公とは別に主役を食う勢いで出張っていた男前が違和感なく立っているではないか。そうなると、その横に立っているのが同じアニメで主人公のアムロレイ君で合っているだろう。彼の年齢は分からないが見た目二十代の前半に見えて雰囲気も幼い感じがするので君付けで呼んでしまった。心の中でだが。
ミサトさんからわしたちパイロットの紹介が成されて、ひとまず、作戦の全容が説明される。わしらは、先ほどミサトさんから直接受けているので確認作業を兼ねているのだろう。
今回、あの長距離びーむを打ち出す第五使徒に対してこちらも狙撃びーむで対抗するという極めて単純な作戦だ。ただ、あの使徒は強力なばりあーを持っている為、それを強引に打ち破る、えねるぎーが必要だった。それが可能となる、えねるぎーを桑さんたちが提供して下さるらしい。一つがげったーと呼ばれる莫大な力を持つ、えねるぎーを込めた動力で、もう一つが光の力が込められた動力だ。それをもう一つ別の動力で制御するらしい。わしは既にこの時点で頭が混乱していた。横文字が多すぎる。
この二つの動力を狙撃銃に送り、それをエバ初鰹が打ち出して使徒を殲滅する。わしは不本意ながら守り役になった。持たされる盾もスゴイものらしいがよく分からない。とにかくスゴイ盾だ。以上終わり。
説明が終わり、わしらは全身タイツに着替えるため移動する事になった。シンジ君とわしが歩き出せば後ろから声を掛けられる。
「シンジ君だったか、先ごろの戦いでの怪我はもう良くなったのかね?」
桑さんがサングラス越しにシンジ君を見据える。その視線の意味にわしは気づいた。あれは心配しながらシンジ君の心理状態は把握するつもりだろう。
「はい、あの使徒から受けた怪我は軽度の火傷だけですから、もう大丈夫です」
「それは重畳というものだ。今回も君はあの使徒と対峙する事になるが、どうかね?」
桑さんは核心部分を告げる。今のシンジ君が果たして使い物になるかどうかを見極めようとしているのだ。流石だよ、きゃすぱる坊や。
「そうですね、さっきまでだったら、嫌々ながら、それでも乗っていたと思います。でも今は、レイさんがいてくれるから」
その言葉に、桑さんはアムロのレイ君に視線を合わせた。
「ほう、君も隅に置けないな、彼とは何時知り合ったんだい?」
「え! アムロさんじゃないですよ!」
「彼の言うとおり俺じゃない。お前の目は節穴か」
怜君がジト目で突っ込みを入れる。桑さんは困ったような笑みを浮かべてシンジ君に謝罪した。彼はこうやって、おどけた表情を見せながら先ほどの質問の意図を曖昧にしたのだ。それは偏にシンジ君に余計な気負いを負わせないためだろうと当りを付けて、わしは自身に来る質問に身構えた。今度はわしの精神状態を把握しようと接触するはずだ。
案の定、桑さんはわしに視線を遣した。
「君が二人目のパイロットで良いのかね?」
「…そうです」
「名前は綾波レイ君だったか」
「…はい」
「レイ君は今回始めての出撃らしいが、どうかね?」
桑さんはサングラス越しにわしの一挙手を見逃すまいと見据える。こういう時、何を言えば彼の思惑よりも更に上をいけるだろうか。こう言った大人、内心のわしにとっては息子くらいの年齢の相手をからかうのが大好きなのだ。ふむ、ここは一つ死に物狂いで彼ら大人(笑)をからかってやろう。
「やってみるさ」
女の子が出すには低すぎる声にサングラス越しからでも分かるくらい桑さんは驚きを見せた。だが、そこは歴戦の戦士、すぐに表情を戻す。隣に立つアムロ君は驚いたままだが。
「随分、自信があるようだね。だが、敵が放つ加粒子方は君たちの機体が持つシールドを簡単に貫いたんだが、それについてはどうかね?」
「当たらなければどうという事はない」
「ほう、言ってくれるな。我々の機体でも反応するのがやっとだというのに君はあれを避けるというのかい」
「坊やの発想。一度と破られたからと言って二度目が同じとは限らない」
「くっ、この私が坊やだと言いたいのかね」
言葉通り、その場の空気が凍る。桑さんから物凄い威圧が発生してわしを包み込む。だが、わしは表情一つ変えずに話を続けた。
「あまり、子供を試すような真似をしない方がいい。本来はあなた方大人が率先して血を流す戦場にて子供が武器を持って戦うのだ。なれば、疑うような事は控え、逆に大人は子供たちの盾になろうという気概を持ち合わせてほしいものだ」
わしの言葉を聞いて二人の大人が目を見開いた。
「あなた方の主義主張大いに結構。されど、子供が戦場に出ている時点でそんなものは意味を成さない。仮に子供本人がそれを望んでいようとも、そのような状況を作り上げたのは紛れも無くあなた方大人であり、それが罪だという事を忘れてはならない」
全身の力を使って表情筋を動かし、笑みを形作れば、それはきっと彼らにとって皮肉的に見えるだろう。
「小娘の挑発如きで威圧するあなたは坊やがお似合いだよ」
言い終わるとわしは彼らに頭を下げて退出した。シンジ君もわしの後に着いてくる。
+サイドアウト+
二人のチルドレンが退室した部屋ではきまずい空気が流れていた。彼女、綾波レイが述べた言葉がその場に残る大人たち全員にいろいろな意味で響いたからだ。ある者は小娘の癖に生意気だと思っていた。また、ある者は自身が心の底に蓋をした想いを的確に指され、改めて考えさせられた。
だが、外部協力者の二人は身に詰まされる想いだった。彼らの部隊には子供が多く存在する。その殆どが本人の意思で戦場に立っている。しかし、ごく一部は数多の経緯が重なって半ば無理やり戦場に出ているのが現状だ。
「彼女の言葉は我々の痛いところを突いてきたな。坊や?」
アムロがそう言えば、クワトロは自嘲的な笑みを浮かべた。
「君まで私をそう呼ぶのかい」
「流石にあの少女に与えるプレッシャーはないぞ」
「だが、彼女は平然としていたよ」
「ああ、とても十四歳の子供が正常でいられるものじゃなかった」
「逆に私を子ども扱いだ。これではどちらが大人か分からないな」
会話する二人に葛城ミサトが歩み寄れば、深く頭を下げた。
「こちらのパイロットが失礼をはたらきまして申し訳ありませんでした。彼女にはこちらで対処いたしますので何卒、ご容赦願えないでしょうか」
それに対して、アムロは朗らかに笑ってみせる。
「別に彼女を罰して欲しいとは思っていないよ。むしろ、心強さを感じたぐらいさ」
「そうだとも、私を坊や扱いした彼女だ、次の作戦は成功するだろう」
「おいおい、その言葉含みを感じるぞ、まさかあなたほどの人が根に持っているのか?」
「君も言うようになった。それなら、彼女ら子供たちの盾役は君に任せよう」
「それはお互い様だ。俺たちは大人だからな」
「まったくだ」
二人の陽気ともいえる会話のやり取りにミサトは安どの表情を浮かべた。
「それにしても、彼女は一体、どんな子なのかね?」
クワトロが素朴な疑問を述べた。アムロも興味があるのか視線をミサトに固定する。
「それが、参謀の私が言うのもなんですが、私自身も先ほど彼女が言った言葉に驚いている状態でして。普段はあんなに話す子ではないんです。もしかしたら彼女なりに想う事があったのかもしれません」
「あなたも彼女の言葉に考えさせられるものがあった口かな?」
アムロがそう言えば、苦笑しながらミサトは頷いた。
「我々の組織の大人は彼女たちチルドレンに世界の命運を託している身ですから」
「では、お互い子供たちに誇れる大人でありたいものだな」
クワトロが最後にそう締めくくれば、ちょうど作戦開始時間が迫っていた。
取り敢えず、三人は目先の戦いに目を向けるのだった。
+サイド今はレイの元おじい+
全身タイツに着替えて、エバに乗り込めば沢山の機械が取り付けられた狙撃銃が初鰹の前に設置された。
自分たちの後方に空中戦艦が鎮座している。それを見てこの世界は本当にあのゲームの世界なのだと否応無く実感してしまう。
『ねえ、レイさん。さっきクワトロ大尉にあんなこと言って良かったの? なんだか、かなり怒っていたような気がしたんだけど』
通信装置からシンジ君の声が聞こえてきた。
(構わないさ、子供が語る冗談を受け流すのが出来る大人の嗜みと言うもの)
「坊やだからさ」
『うん、何故だろう、その言葉はクワトロさんが実際言っていたような気がする!』
先ほど必死でからかったせいなのか、今は全然口が思うように動かない。むしろ、自分が言った言葉なのかと疑うほどだ。これからの会話はあくまで流すような感じで行くとする。
『レイさんは僕たち子供が戦うのが嫌なんだね』
「戦争自体が嫌」
『そっか』
「あれはすべてを壊す嫌なもの」
『そうだね』
「あの使徒と一緒」
『!!』
「だから私はあれと戦う」
『レイさんも子供だよ!!』
「見た目は子供、心は大人その名も―」
『言わせないよ!』
「……冗談」
この世界で再び生を受け、妻と再会を果たした。それだけでもう、わしは十分満たされた。後の余生はただ、この世界に生きる子供たち、引いてはすべての生きるものたちのために、わしは戦おうと思っている。
そんな事を考えていたら、通信から嗚咽のようなものが聞こえてきた。
『レイさんのそれが……エヴァに乗る理由なんだ』
「聞いていたの?」
『口に出してたから…でも、それは何だか悲しいよ。レイさんだってこの世界に生きる人なのに』
「余生の部分は?」
『あれ、無視された。結構いいこと言ったつもりなのに……うん、聞いたけど』
「忘れなさい」
『え?』
「忘れなさい、それか口を噤みなさい」
『いや、それはまあ、いいけど』
「もし、約束を破ったら」
『………ゴクッ』
「あなたの人生にサヨウナラ」
『怖ッ!!』
「さようなら」
時刻は午前零時、作戦開始。
決して坊やだとは思っていません。
素晴らしい戦士だと思っています。
ほんとうですからね、キャスパル坊や。