EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

71 / 71
始まります。


第四話

 広大な銀河、その半分ほどを支柱に収める惑星バルマー。

 

 その惑星の中心都市に建つ巨大な神殿―――。

 厳かな雰囲気を醸し出すその神殿内の中央部に謁見の間と呼ばれている場所があった。

 

 バルマーの国民から霊帝と称され、畏怖の象徴として君利する金髪の少年が一段高い場所から部下を見下ろす形で佇んでいた。

 

 部下―――仮面の男とどこか高圧的な赤髪の女性が霊帝に一礼すると定例報告を行われる。

 

「既に辺境銀河方面監査軍総司令ハザル・ゴッツォは地球圏に現れたクロスゲートを占拠することに成功致しました。今後はゲートを守備しつつ部隊を展開、地球の勢力との戦闘を開始させます、尚、侵攻の任に当たるのはバルマーに深い忠誠心を持つエペソ・ジュッデカ・ゴッツォに当たらせるつもりでおります」

 

 仮面の男―――シヴァ・ゴッツォの後を引き継ぐように赤髪の女性―――エツィーラ・トーラが続ける。

 

「同時に地球の技術力及び資源の搾取にも着手するつもりです。偵察機の増強は既に終え各区域に飛ばし、工作員の地球組織内部に潜り込ませることにも成功。全てが終わった暁には再びバック・クランとの戦にも赴けましょう」

 

 報告を終えてシヴァ、エツィーラの両名が深々と頭を垂れれば今まで沈黙していた霊帝―――ルアフ・ガンエデンが口を開いた。

 

「報告、大義であった。これより僕は神霊の間にて瞑想を開始するつもりだ。後の事は帝国宰相シヴァに一任する。次に瞑想から覚めた時の報告を楽しみにしているよ。下がれ」

 

 表情を一切変えず何処か機械的な言動で告げられるも部下の二人は黙って玉座の間から辞した。

 

 一人残ったルアフは大きく息を吐き出すと先ほどの無表情から一転情けなさを前面にだしたような表情を浮かべた。

 

「まったく、あの仮面は謀反を隠すには打って付けだな。ハザルも哀れなものだ、己の出生も知らず実の父親と慕うもその父親は駒としてしか考えていない。いや、それは僕も一緒か……むしろこの玉座にしがみ付く僕は哀れみではなく滑稽がお似合いだ」

 

 血のつながりも無い人口サイコドライバーのハザル・ゴッツォとこのバルマーを真の意味で支配する始まりのサイコドライバーが作り出した人形ルアフ・ガンエデン。

 

 どちらも同じく作り出されたという意味では一緒だが、その役目は大きく異なる。

 

 片方のハザルはシヴァの悲願―――偽りを消し去り玉座奪還成就の礎に、もう片方のルアフは完全に道化でしかない。

 

 ルアフは玉座の隣、何も無い空間に視線を向けると誰にも見せたことの無い泣きそうな表情で口を開いた。

 

「僕は目覚めるのが遅すぎた、いや、本来目覚めるのは僕では無い僕だったはずだ」

 

 自嘲気味な言葉を吐きだしながら、未だ何も無い空間を見つめ淡い笑みを浮かべた。

 

「何もかも中途半端な存在でしかない僕に何の価値があるのかな………でも、安心してよ、絶対君には危険を及ぼさないから」

 

 そう告げた次の瞬間、何も無いその場所から淡い光りが放たれる。その光は人型に形作られ、やがて人間の少女と思わしき人物を作り出した。

 

 少女は淡い笑みをルアフに向けたていた。

 

「せめて君の肉体があれば僕もこの苦痛を和らげられるのに……」

 

 その言葉に少女は緩く横に首を振った。

 

「うん、分かっているよ、言ってみただけ。むしろこの場所では好都合だろう。その姿なら全ての元凶―――真の霊帝にも気づかれにくいし、下手に肉体を持てばシヴァ達に見つかって言い訳が立たない、僕の権威などこの頃には失墜しているようなものだからね。所詮張りぼての霊帝さ」

 

 少女は何事か話すように口を動かし、ふわりとルアフに近づくと金髪の頭を撫で始めた。

 ルアフはそれを甘んじて受け入れる様に瞳を閉じる。

 

「うん、僕は僕だったね。君のおかげで僕は人間だった頃を思い出した。僕はただのバルマー星人として生きていた過去を持ちながらも君と同じ魂を持つ地球人だよ」

 

 次いで懇願するかのようその透けた手に己の手を重ね言葉を紡ぐ。

 

「だからどうか、君はいなくならないで、卓巳」

 

 タクミと言う名前で呼ばれた少女は力強く頷き、何事かを喋るとその姿を空気のように溶かし消え去った。

 

 卓巳の言葉を聞き終えたルアフは本来の目的通り、瞑想の行われる間に向けて歩き出す。

 

「うん、忘れないさ、僕はルアフという過去を持つ卓巳の双子の兄―――綾森卓磨だ」

 

 小さく、それで居て己を力強く肯定するかのような口調で呟くと後の玉座には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><

 

 

 

 

 依頼料の確認及びGGGの好意で行われる補給終了までの時間をオービットベース内部の客室で過ごすあたし達は獅子王凱の恋人である卯都木命の淹れてくれた紅茶を飲みながら、同じく滞在中のブライト艦長と今後の話をしていた。

 

「やはり木星付近で観測された未知のエネルギーは今後の戦いに作用するものだと艦長は判断しているんだな?」

「そうだ、カガリ。だからこそ今宇宙での主力となる彼女らアークエンジェルを呼び寄せている。同時に木星付近での原種活性化は連邦としても見過ごせない。何よりあの宙域はその先に出現したクロスゲートのことも含めて必要な航路でもある」

 

 ブライト艦長は長年の勘と称してこの戦いにクロスゲートが深く関わっていることを匂わせる。艦長としてはエバーズの持つ情報を少しでも引きだしたいのだろう、それを無下にするほどあたしは鬼では無い。

 

 あたしはカヲルに目配せすると心得たように頷かれた。

 

「そうだね、あれは確かに今後重要になって来る代物だよ。あれはこちらの武器になると同時に地球圏に危機を運ぶ諸刃の武器でもある。太古の昔ガンエデンと同時期に作り上げた異なる星系を一瞬にして安全に渡れる航路のようなものだ」

「入口があれば出口がある。なるほど、正しく諸刃だな」

「それだけじゃない、あれの動力は当時でも画期的なものが使われたんだ。それ故にもしかしたら他の星系だけでなく、世界すらも跨ぐことが出来るかもしれないんだよ。ここでの世界とはあのシュウ・シラカワが生まれた異世界とも違うもの、極めて近く限りない遠い世界のことだよ」

 

 もしもあたしがエバに乗らない世界、もしもこの世界で生きたレイとは違うレイがいる世界、そんなifの世界のことをカヲルは言っているのだろう。

 

「その動力は何だったんだ?」

 

 その質問は最もで、当時聞かされたあたしも驚いたものだ。

 

「その当時は名も付けられていなかったけど、あれは正しくこの宇宙を作り出し、支える力―――無限力だよ」

「な!?」

「当時、その力の存在と運用の仕方は理解出来ても、その力の本質にまでは及ばなかった。故に古代リリンは扱うことを決定したんだ。もしもその本質―――宇宙創造の力だと理解できていれば今この世界でクロスゲートは現れていないはずだよ。そうだろう、無限力は僕らルーツですら扱いかねる力だ、その力を扱ったゲートなんて終焉を近づけさせる格好の入口でしかない。つまり己の首を絞める様なことを当時のリリンは遂行したんだ。ガンエデンという盾が無かったら今の世界はどうなっていたか……」

 

 繰り返される終焉は等しく世界に注がれるが、クロスゲートの完成運用によって少ないながらも存在した猶予を縮める結果になったとそれを見てきたカヲルは言う。

 

「ならば一刻も早く破壊すれば……」

「無駄だよ、あれの本体は僕でも容易に辿りつけない無限力の中に、今現れているものは所詮イミテーションだ。仮に破壊することが出来てもすぐに次のイミテーションが現れるだけだ」

「やはり我々人類は問題を一つ一つ解決していかなければならないのか」

「そしてそれを出来るのがリリンなのだと僕は思うよ。大丈夫、君たちは二度の対戦と何より重力波で壊滅した未来を変えた歴戦の戦士だ、今回も必ず終焉を変えられる」

「君に言われると何だか出来る様な気がしてくるな」

 

 あたしもそう思う。今回の戦いでは彼らαナンバーズ同様カヲルやレイ、良子さんの存在も現状を打破するカギになっているような気がするのだ。

 

「それで、ブライト艦長は私達エバーズにどう言った依頼を求めているんだ?」

 

 あたし達を補給で足止めしているのは最初から理解していた。情報を引き出す目的もあっただろうが、それだけでは無いだろうとあたしは踏んでいる。

 

 案の定ブライト艦長は僅かに驚きを見せ、苦笑を浮かべた。

 

「話が早くて助かる。依頼は二つ、一つはその他の組織に働きかけているが、今連邦に巣くう組織に圧力をかけて貰いたい」

 

 ブルーコスモスか、それならば家も必要としているので否はない。だが……。

 

「残念ながら家の母体―――まどろっこしいから言ってしまうが、ゼーレは当時の様な影響力を残していないことを理解してほしい」

「了解した。あくまで圧力だからな、それで止まるとはこちらも思ってはいない。あくまで動きを鈍らせれば御の字と言ったところだな」

「こちらも了解した。代表としてその依頼受諾しよう。それでもう一つの依頼は?」

 

 あたしが問いかけた直後警戒を促すサイレンが鳴り響く。次いで客室の扉が開き、珍しく焦り気味のアムロ大尉が入って来た。

 

「ブライト、不味いことになったぞ。アークエンジェルが到着した途端オービットベースが原種によって囲まれたようだ。同時に原種の一部が内部に侵入してここの動力室に向かったとの知らせが入った。今は大河長官の指揮の元、外の敵に対する展開と中の白兵戦を展開している」

「やはりここを狙ってきたか……大河長官の予想は正しかったようだな。もう一つの依頼は君達にオービットベースの護衛を依頼したかったんだが、敵の行動は思っていた以上に早かったようだ」

 

 ブライト艦長はそう言って立ちあがるとすぐにアムロ大尉と共に客室を後にする。

 

 それを見送る形となった私達は今後のことも含めて一度母艦に戻ることにした。

 

 

 カヲルに促され、椅子から立ち上がった瞬間、あたしの視界が暗転する。

 

 

 一面真黒な空間に私は立っていた。

 

「ここは……あのディラックの海に似ているな」

 

 あたしの言に答えるように煌びやかな粒子が突然出現して形を為していく。

 

 それは人の形を作り出して懐かしくも少し寂しさを滲ませる存在を生み出した。

 

「……良子さん」

 

 レイの中に存在した人の奥さんにしてカヲルと対を為すルーツ―――リリスが良子という人間の形で目の前に現れた。

 

「フン、あの人の望みで無ければ姿まで現れるつもりは無かったのよ。まあ、でも久しぶりね、別に私は会いたくなかったけど、それはあんたも同じでしょう?」

「そんなこと―」

「無いとは言わせないわよ、あんたが真に望んだのはあの人なのだから」

 

 どうやら完全にその身の内を見透かされていたらしい。確かにあたしはレイの出現を待っていた。前は声だけしか聞こえなかったのだから尚更だ。

 

「悪いけど、いえ、悪いと思っていないけど、あの人は来れないわ」

 

 その言葉に嫌な想像が脳裏に浮かび上がる。

 

「まさか!?」

「勘違いしないで、今のとこ封印は完璧よ、今はあのマダオと将棋でも打っているわ」

 

 力強い否定に安堵の表情を見せれば良子さんはフンっと鼻で笑った。

 

「人為的に結ばれた姉妹のくせにまだその絆を大事にするのね」

「それだけレイの奴が魅力的なんだよ。良子さんにとってもそうだから結婚したんだろう?」

「その割には未だ本名で呼ばないのね、後、当たり前の事を聞かないでちょうだい、時間の無駄よ」

「あたしにとってあの人の魂が込められた妹のレイこそが真実だからな。今後もあの人をレイと呼ばせて貰うよ。それに別の女があの人の名を呼びながら親しくすれば良子さんは嫌だろう?」

「それこそ愚問と言うものよ」

 

 バッサリとあたしの問いは切り捨てらると、時間が無いのか早速この場に現れた理由を語りだした。

 

「一度の襲撃で理解しているとは思うけどアカシックレコードによって復活した白き月がこれからもあんたの前に現れるわ。理由はあの人が言った通り、アダムを縛っている元凶だから」

 

 ここまでは夢に出たレイの言葉とあたしやカヲルの予測通りである。

 

「次にどうやら死海文書に記された欠番の使徒も現れる可能性が出てきたこと。それにも警戒しなさい。残っている欠番は三体で、どれも一筋縄ではいかない奴らだし、例によってアカシックレコードの恩恵から強化されているはずよ」

 

 言葉は悪いが一応心配をしてくれているらしい。それを指摘すれば見る見る顔を真っ赤に染め上げてあたしに対する罵倒が降り注ぐ。

 

 一通りの罵倒を甘んじて受け終えると本題は佳境に入った。

 

「良いこと、絶対にアダムを白き月に奪われては駄目よ。幾ら私やあの人でもアダムまでガブに連れてこられたら封印は破られてこの世界が補完されるわ。それも僅かとは言え知恵を付けた白き月の思い通りの補完が遂行されてしまう」

「それを阻止する為には使徒を全て破壊する必要があるわけだな」

「救いと言えば向こうからやって来ると言うことだけ、何時現れるかは流石の私でも直前まで分からないわ。最初に現れたあの時は運が良かったに過ぎないことを覚えておきなさい」

 

 言い終えると良子さんの体が少しずつ消えていく。

 

「最後に終焉はこれからあなた達の目に見える形で現れるわよ。現にもっとも厄介なSTMCが再びこの星を目指してやって来ている。今は気の遠くなるほど離れた宙域に集結している状態だけど時間は限られているわ。まあ、逆を言えば残されていると言ってもいい」

「宇宙怪獣が……」

「それに合わせてあの男も動き出しているけれど、微々たるもので今は何もしなくても構わないわ。ゲベルは全てを見極めた直後、あなた達の前に現れるはずよ。昔から慎重すぎる性格を……言ってしまえば弱虫なの。ホント負の無限力を手にしてもそれは変わらないなんてある意味情けないわ」

「……霊帝を弱虫発言」

「事実よ、あの頃のあいつを見せてやりたいわ。小さい頃は何時もナシムの後ろに隠れていたんだから」

 

 あの髭がナシム―――多分綺麗な女性だろう、の後ろに………シュール過ぎて笑えない。

 

「時間ね、先に言っておくけど今後こういった形であっても姿を現わせないわ。封印の近くならまだしも宇宙では遠すぎるのよ。距離が離れればそれだけ封印に綻びが生じやすくなる。だからあなた達人間はその時その時の選択を自分たちで決断して未来に進んで行きなさい。それこそが正しい世界の在り方よ」

 

 既に良子さんは殆どその姿を消滅させていたが、それでも最後、その瞳があたしを捉えると何とも形容しがたい感情が伴った視線を寄こしてきた。

 

「ああ、そうだ、これは私から小娘に送る忠告よ。あのアダムを――カヲルを信用し過ぎるのはよしなさい、でないと手痛い裏切りに合うわよ」

 

 そんな不穏な言葉を残して良子さんはその空間から消えた。時を同じくしてあたしもその空間から解放されるかのように意識を失った。

 

 

 

 




 ギャグが……ないです。

 次回 欠番の使徒


 次回も早めに投稿……出来るかな……カガリ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。