本日分の業務をあらかた終えて、私はソファに倒れ込むように腰をかける。
窓から差し込む光はまだ白く、スクリーンに映る擬似太陽がジリジリと網膜を直接焼いてくる。
「流石はCEO様だな、いくらなんでも毎日は来れねえってか…」
季節柄に富んだ騒動も落ち着いた時期となり、アリーナも特に荒れる事なく試合をこなした。
さらに
…今日は良い1日になりそうだ。
たまにはロイヤルロードあたりで美味いレストランかカフェを見つけに行きたいところだし、アークに出るならインフィニティレールに顔を出すついでに鉄道を使うとしようか。
いかん、カウンターズの3人も誘ってやらねば後で拗ねそうだ…
今にして思えば、呑気にそんな事を考えていられたのもある意味幸運だった。
アーク最強の装甲と速力を誇る自己浮遊列車『AZX』は、インフィニティレール・カウンターズの面々と指揮官を乗せて絶賛迷子中である。
「なぜ…なぜ位置情報が文字化けなど…!」
「大丈夫、ブリッドなら対処できますよ〜。
いまラピちゃんとソリンも通信の回復を試みてますから〜」
ディーゼルが慰めなのか何なのかよく分からない事を言ってはいるが、この状況で自信満々に運転する奴が居るならソイツを機関士にはしたくないだろう。
「ねぇ指揮官様…窓の外見える?」
「あぁ見えるぞアニス、この世の景色とは思えんがな。」
なんせ周囲は虹色の光に包まれており、走る先に何があるかも見えないのだ。
ちなみにブレーキはとっくに反応しなくなっている、光を抜けた先が線路や道路であることを祈るしかない。
「あぁもう、どこに向かって走ってるんですかこれは…!?」
ブリッドの切実な叫びと同時、車窓の風景が一変する。
地上特有の色合いで満ちた青空、足元を敷き詰める一面の芝。
そして地上でよく見かける大型の学校のような建物…が眼前に迫ってくる。
「えっ、ちょっ」
慌てたのも束の間『緊急停止』のポジションで放置されていたブレーキレバーが突如正常に作動し、AZXの巨躯にマイナスの加速度をかけはじめる。
もちろん内部に居た私たちは慣性の法則に従って激しくシェイクされた、生身の人間である私が無傷で済んだのはエリシオンの高い技術力と設計ノウハウの賜物だろうか。
「ぶ、無事…か?みんな…?」
「何とかね…」
「指揮官様も大丈夫ですか〜?」
「ええ、指揮官の無事が最優先です。」
私はとりあえずその場の全員が返事をしたのを聞きつつ、シェイクで乱れた制服を直しながら立ち上がる。
「俺も無事だ。ラピとソリンの様子を見に行くぞ、俺たちは無事でも向こうは」
「「無事よ。」です。」
良い具合にハモった返答に振り向けば、ラピとソリンが戻ってくる所だった。
パッと見は無傷に見える、本人たちの様子からしても重大な損傷は無さそうに見える。
「そいつは良かった…」
ともかく、周囲の確認だ。
地上でAZXのデカい車体を暴走させた以上、ラプチャーの気を引いてしまった可能性が高い。
私たちはドアから外を覗き見た。
「驚愕ッ!学園のグラウンドに列車が出現しただと!?」
そこに居たのはラプチャーではなく…
猫を頭に乗せ驚きの表情で固まる女の子と、その周囲でこれまた茫然と我々を見やる少女たちであった。
「…ラピ、あれなんだと思う?」
「…耳、でしょう、か?」
ただ一点、周囲の少女たちの姿に我々は困惑を禁じ得なかった。
彼女たちの頭部には、人のそれとは異なる器官がピコピコと存在を誇示するように震えていた。