異世界放浪記   作:isai

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魔力

薬草をカウンターへ持っていくと受付嬢は目を丸くしていた。

そりゃそうだ、何せ籠一杯の薬草なのだから。

薬草の束を数え終えた受付嬢はこちらを見て、おめでとうございます。と一言。

その後、依頼完了の報告を済ませた俺達はギルドから出て一息ついた。

 

「あ~、僕も君みたいに魔法が使えたらなぁ。」

と少し嫌味ったらしいような、憧れるような言葉を放つと

「魔法、使いたいの?」

と聞いてきた。当たり前だろ。折角異世界に来たんだから魔法の一つでも使えなきゃ楽しみが半減してしまう。

それにこのままだとルウと別れた後の事を考えると背筋がぞっとする。今日だってルウが居なければ今頃白い狼の腹の中に納まっていたことだろう。

でもなぁ…いくら頑張ってもあのプレートは反応しなかったしなぁ、もう魔力は異世界人が生まれた瞬間にデフォルトで持ってると言われても不思議ではない。

「使いたいけどプレートが反応しなかった以上はねぇ…」と遠い目をしながら呟く

「昨日言っていた知り合いの中に、魔法具を専門で扱っている人がいるのだけれど。」

まさに待ち望んでいた言葉だった。

「え!?その人の所に行ったら魔力が付くの!?」

とやや興奮気味に聞くと

「確証は出来ないけどね、でも行ってみたら何か分かると思う。」

つまりダメ元で行ってみるという事だろうが、俺からしたら地獄に垂らされた一本のクモの糸である。

これはもう飛びつくしかあるまい。他の人間を蹴落としてでも。

「じゃあ早速行こう!今すぐ!善は急げ!」

とテンションマックスな俺に若干引きながらも

「分かった。案内するからついてきて。」

と俺達は立ち上がり街外れへと向かった。

街を出てしばらく歩いたところに目的の場所があるらしく、ルウの後ろをついていった。

 

暫くすると不意にルウは、ここ、と言って立ち止まった。

まさかここ…?見るからに怪しいんだけど…

目に入ったのは店内が非常に暗く中が見えないガラス張りの扉、苔が所々生えている見るからに倒壊寸前の木造の店、見ないようにしているが壁に人間の頭蓋骨が飾ってある。

魔法ってか呪術?

中に入るのを躊躇しているとルウは俺の手を取り扉を開けた。「いらっしゃいっ」

えっ、明るい。

扉を開けるとそこにはぼろぼろのローブを着たいかにも呪術師といった風貌の老婆がいた。

 

「こんにちは、リュドさん。」

「あぁ、久しいね。ルウちゃん。元気にしてたかい?」

「はい」

「そうかい、それはよかった。」

と世間話をしている内に店内を見渡す。明らかに大丈夫ではない色をした液体や、先端に綺麗な石を嵌めた杖など

魔法っぽい商品が並んでいるのを確認した俺は液体の入った瓶を触ろうとする。

「お兄ちゃん、それは生物の脳を食い散らかす寄生虫が入った液体だよ」

と老婆が笑いながら告げてくる。

あっぶね、笑い事じゃねぇだろ。心臓が一瞬にしてバクバクとものすごい音を立てる。こいつ本当に何者なんだ……

俺の思考を読み取ったのか、

「冗談さ、安心おし。」

とまた笑う。

こいつは絶対人を揶揄うのが好きな性格だな、と心の中で思いつつもう一度瓶を手に取ると、

「まぁ触れた所から腐食していく呪いの液体なんだけどね。」

と面白おかしく告げてくる。

殺す気か!

もう二度と訳の分からん物は触らないように決めていると、ルウが話しかけてきた。

「この人はね、魔法具店の店主でリュド・アルクスっていうのよ。」

と紹介してくれた。

「よろしく頼むわね。」と不敵な笑みを浮かべる。

「それで、今日は何用だい?」

そうだ、と完全に液体に気を取られていて目的を話していなかったと気付きある程度の事情を話した。

 

「魔力がねぇ…プレートにも反応しなかったってことは才能ないんじゃないかえ?」

このババァあっさりと人の痛い所を突いてきやがる。

「まぁ、物は試しだ。」

といってババァは店の奥に消えていく。

「何しに行ったの?」ルウに聞くもさあ、という素っ気ない反応が返ってくる。

暫く店内の商品を眺めているとババァが店の奥から出てきた。

「お待たせしたね、こっちに来なさい。」

と促されるままババァの側に近寄ると、俺の胸に手を当ててきた。

「な、何……」

と戸惑っていると

「動くな。」

と強い口調で言われたため大人しくする。

どれくらい経っただろうか、体感で5秒が経っただろうか

「ふ~ん、確かに在るね体の奥底に物凄く小っちゃいけど」

飛び上がりたいほど嬉しい報告だったが、なにやらその口調が気になった。

「なんでちょっぴり残念そうに言うの?その言葉だけでもめっちゃ嬉しかったのに。」

と不満を口にすると

「当たり前だろう、魔力がない人間が魔法を使えるようになるなんて聞いたことがないからねぇ。」

とはっきり言い放つ。

「でもあるんですよね?」

「在るね。吹けば飛ぶようなちっさいものが。でも…」

老婆が逡巡したような素振りを見せ

「お前さん、あんまり長くないよ」とはっきり言いのけた。

 

「え?」

意味が分からない。だって今あるんだろ。

「そ、それじゃあ魔法は使えないって事!?」

「使えは出来る。それも年月が経てばそこらの冒険者とタメ張れるくらいにね。」

でもそうじゃない、と老婆は言った。

「長くは生きられないと言っているんだよ。」

えぇ…なにそのカミングアウト…魔法を使えはするけどすぐ死ぬって?また冗談とかじゃないよね?

「その話、本当?」

と今迄、傍観者に徹していたルウが口を挟む。老婆は目を細めゆったりとした動作で首肯した。

「あぁ、間違いないさ。この子の中を覗いたからね。」

と俺を指さす。

「どうもこうも、事実だよ。」

「じゃあ魔法を使わなければ寿命は伸ばせる的な話です?」

今度は俺が質問をする。

「いや、魔力の有無に関わらずお前さんは死ぬ。早い内にね。」

「運命って事ですか?」

「それに近いね、お前さんの中には強力な呪いが宿っている。それも人類の手に負えないような禍々しいものがね。」

誰が掛けたんだかは知らないけど、と付け足す。

「それをどうにかすればいいんですかね?」

「無理だね。呪いってのは呪いをかけた本人にしか解けないものだからね。」

「そう、ですか……」

「そう落ち込むな若者よ。」

と肩を叩かれる。

「お前さんの魂には死の刻印が刻まれている。だからこそ残された時間を有意義に使いなさい。落ち込んでいる間にも呪いは浸食してきてるんだからね。」

胸に手を当てる。まさかこの中で呪いが心臓を、今か今かと喰らいつこうとしているとは夢にも思っていなかった。

であればやることは一つ。残された時間を有意義に使う為、

 

「魔法を教え…「ちょっと待って!」

これから異世界戦記の名言に載るであろう名言を放とうとした時にまたもやルウが口を挟む。

「この人、私の友人なの。」

「知ってるよ。」

「魔法が使えるようになれば死んじゃうかもしれないのよ。」

「そうだね。」

「それでも教えるの?」

「あぁ、構わないよ。この子が求めるならね。」と老婆は言い切った。

「それにね、あたしゃ長生きなんかよりこの子のような若い者が未来に向かって羽ばたける手助けができる方がずっと良いのさ。」

とルウの目を見て語る。

「そんなこと言って、本当は自分が死にたくないだけなんでしょ。」

え?治療するにはこのばぁさんの寿命を縮めるって事?なんかよくわかんないけど自身の所為で険悪な雰囲気になってしまいそうなので止めておこう。

「ちょ、ちょっと待って、落ち着こ?ほら折角魔力がある~って教えてくれたんだしさ?ねぇ?」

と老婆に意見を促すもルウと老婆は依然として顔を突き合わせている状態だ。

「分かった。」

とルウが呟くと老婆は満足したのか、

「そうかい、良かったよ。」

と言った後に俺の方に向き直った。

「それじゃあ早速始めるとしようかね。」

「あ、終わった?なんかもうちょっと熱い感じになると思ってたけど案外あっさり終わるんだね。」

ルウの顔を覗こうとするも完全にそっぽ向いて目を合わせる気配を見せない。

言ってみたは良いもののあっさり引いた事に困惑しつつ老婆に体を向ける。

「目を閉じて、心の中を空っぽにしなさい。何も考えるんじゃないよ。」

言われた通り目を閉じ、視界に広がる黒に意識を委ねる。程無くして老婆が俺の胸に手を置く。ほんのり温かい。

すると急に体の奥底にあるナニカを引っ張られる感覚があった。それがどうにもむず痒く、体を捩じらせようとするもそれを見越したのか、

「動くんじゃないよ」

と老婆に釘を刺された。しばらくその状態でいると不意に全身に激痛が走った。

まるで全ての皮膚を限界まで引き延ばされているような感覚であった。2秒も経たない内に発狂しそうになった。だが体を動かすことができない。

口すらも動かす事が出来ずに5秒が経過しただろうか、痛みの所為で時間間隔が曖昧だったがこれまた不意に先程までの痛みが嘘だったかのように引いていった。

だが依然として体を動かす事は叶わない。眼前に広がる黒の中にふと色が出現した。

だんだんと鮮明になりつつある色の正体が気になりつつもソレが、自身にとってのトラウマである事を理解するのにもそう時間はかからなかった。

目を閉じている以上ソレから目を離すことが出来ない。そしてその色は口を開きこう言った。

 

「なんでたすけてくれなかったの?」

 

竜人の女の子はそう俺に問いかけるも口が動かない。

 

「なんでたすけてくれなかったの?」

 

竜人の女の子は再度同じ質問は投げかけた。

だが確信できる。今の俺には少女を納得させるだけの理由を持ち合わせていない。

 

「なんでたすけてくれなかったの?」

 

きっと口を動かすことができても俺は沈黙を守り続けるだろう。

だが不意に口が開き少女の質問にこう答えた。

 

「なんでだろうね。」

「殺してやる。」


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