瞬間。今まで開く事の叶わなかった瞼が重々しく上がっていく。
いつの間にか寝ていたようだった。ベッドから体を起こすと側にいたルウが声をかけてくれる。
「大丈夫?」
「ん?あぁ、平気だよ。」
そう言うとルウは少しだけ笑みを浮かべると、
「まだ夜だからもう少し休んでいなさい。」
とだけ残し部屋から出て行った。
辺りは暗く、窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源だった。暗いとどうも悪いことばかり思い出してしまう。
明日のことを考えよう。
そろそろ装備買いたいよなぁ…剣とか鎧とか、
今日の報酬で装備を購入できるかは考えもせず銀貨の使い道を考えていた。
そこで重要な事を思い出す。
「そうだ!魔法!」
意識が覚醒したことにより自身がなぜベッドで寝ているかの結論に達し、飛び出すようにベッドから降りる。
扉を勢い良く開け店内に滑り込むような体勢で入室するも、昼とは打って変わって静寂が支配し薄暗い空間が待っていた。
「さすがにばあさんも帰ってるか…」
当たり前の事実を口にしつつも魔法を習得したという実感が体をはやらせる。魔法使いてぇ…この一言が全身を巡っていた。
「やっと起きてきたかい」
そう横から声を掛けられた時は心臓から口が飛び出そうになった。もとい口から心臓が飛び出そうになった。
「あんまり驚かさないでくださいよ、心臓止まるところだったんですけど」
と軽口を叩くと、
「ほっほ、まだまだ若いねぇ」
と返され、ばぁさんの年齢が気になったが今はそんな事を気にしている場合ではないと思い直し本題に入る。
「ところで魔法は使えるようになったんですか?今すぐ使いたいんですけど。」
「まぁ慌てなさんな。」
といい椅子に座るように促される。
腰を掛けた後に老婆が話した内容はこうだ。
・人によって使える魔法の属性には限りがあり、一握りの数しかいない英雄と呼ばれる者は3属性も4属性も扱える奴がいる。基本的に1~2属性しか使う事が出来ないだとか。
・属性と言っても火、水、木などではなく人それぞれで違い、水属性だったり氷属性だったり、水分自体を操るといった属性もあるらしい。
・魔力自体に属性は無く、使用者が魔力を消費し魔法を唱える際に属性が付与される。
・あまりにも魔力の消耗が激しい場合は段階に応じて悪影響が出る。レベル1だと吐き気や頭痛、レベル2は意識が朦朧とし全身の脱力、記憶力低下など、最悪の場合全身がマヒし死に至る。
・魔力には痕跡があり人それぞれで細かく属性が違い、個人を特定するのも可能である。
・魔法発動のトリガーはその属性に対してのイメージを強く念じること。
正直、魔法を使いたさ過ぎて半分ほど話を聞いてなかったがしょうがないだろう。若者だもの。
それを察したのか老婆は諦めたように息を吐き、
「お前さんの属性は雷に近い物だよ。そんなに使いたければギルドに行っておいで。」
と窓を指さすといつの間にか日が昇っていた。
「あれ?ルウは?」
そう問いかけると老婆は、
「あの子なら、知り合いに会いに行くとか言ってお前さんが目を覚ましてから飛び出して行ったよ。」
なるほどね、つまり今日は保護者無しなのね。多分大丈夫だろ。
「それじゃあ行ってきます。」
「あぁ行ってらっしゃい。生きて帰ってきなよ。」
といって店の扉を開け意気揚々とギルドへ足を運んだ。
ギルドの扉を開ける。いつもの受付嬢さんの元へ行く。そしておもむろに口を開く。
「すみません!プレートって今ありますか!?」
受付嬢は驚いた顔を浮かべすぐさまプレートを持ってきた。
それでは、とプレートに手を置き集中する。
すると
どうだろう、石板に文字が浮かんできたではないか。
名前:主人公
種族:亜人
耐久力:15/15
魔力量:25/25
筋力:8
強靭力:11
敏捷性:9
精神力:50
知力:13
どこかで見たことのあるステータスのようなものが出現した。
「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
人生で経験してきたどの記憶の中でもトップクラスで嬉しかった。
横で受付嬢はわーと言ってぱちぱちと拍手している。
他の冒険者もなんだなんだと様子を見に来る。
感動という波に全身を打ち付けていると声がかかる。
「よう、兄ちゃん、新入りか?」
見てみると先程まで酒を飲んでいたであろう、いかにも酔っぱらいと言った風貌の男がいた。
「はい!やっと魔法を覚えることが出来て!」
と返すと男はにやにやしながら、
「そいつはよかったなぁ、だが死んじまったらそこで終わりなんだから分からねぇ事があれば遠慮なく聞いて来いよ!」
と忠告してくれた。
「はい!ありがとうございます!」
と素直に礼を言うと、
「おう!頑張れよぉ!」
と言い残し、カウンターの席へと戻っていった。
存外、見てくれよりまともな奴だったな。後ろに背負っている薙刀が剥き出しになっていること以外は。
さて、肝心の魔法について調べなければ。
「すみません、魔法について教えてほしいのですが。」
そう言うと受付嬢は、
「あ、ごめんなさい。私も魔法についてはあまり詳しくなくて……」
と申し訳なさそうに頭を下げられた。
「そうなんですね。いや、すみませんとりあえず手頃な依頼ってあります?」
「えっと……これなんてどうでしょう。」
出された紙を見るとこう書いてあった。
"洞窟でのゴブリン討伐、報酬銀貨15枚。"
洞窟か…狭い場所だったらどんなに下手糞でも数撃ちゃ当たるだろ。そんな軽率な考えのまま依頼を受けることにした。
「じゃあそれにします。」
「依頼を出した手前申し訳にくいのですが、お一人で受ける予定ですか?」
ん?どういうことだ?
「まぁそうですけど何か問題ありました?」
と聞くと、少し躊躇った後で口を開いた。
「いえ、そのですね……。基本的に討伐依頼はパーティーを組んで行うものなのですが…。以前一緒に来られたルウ・ルーミリア様は今回来られるのでしょうか?」
申し訳なさそうに聞いてくる受付嬢にありのままを答えた。
「王都にいる友人に会いに行ったみたいで今日は来ませんね。」
と告げると受付嬢は、そう…ですか…。と言ったきり顔を俯かせる。
「わかりました。ですが少しでも危険を感じたら直ちに戻ってきてくださいね。依頼の失敗は現段階だとデメリットありませんから」
それでは、と受付嬢は目的地に向かう馬車に対しての紹介状を書いて渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「ランタンは持っていますか?持っていなければ報酬からの天引きでレンタル出来ますよ。」
忘れていた。そういや洞窟って暗いよなぁと今更ながらに思いつく。
「お願いします」そう言ってレンタルしギルドから出る。
初めての討伐依頼だ。しかも一人。
期待に胸を弾ませて馬車のある場所へと足を運ぶ。
王都の外れにある門の入り口付近に馬車が止まっており、御者が立っている。
「ギルドの紹介で来たんですけれど。」
そう告げると、
「あぁあんたか。話は聞いてるぜ。早く乗ってくれ」
と言ってくれたので荷台に乗り込む。
「ところで、洞窟まではどれくらいかかります?」
「そうだなぁ、2時間ぐらいだな。」
2時間かぁ…2時間!?スマホもなくただただ揺られているだけで2時間はさすがに退屈だろ!?と思っていたが案外風景を眺めているだけでも楽しめるだろう。と納得した。
馬車で揺られている間に気付いたことがあった。
結局魔法ってどうやって使うんだ?
武器も防具もないのに行っても大丈夫か。
まぁ…多分大丈夫だろ。何とかなると無理やり納得させた。