異世界放浪記   作:isai

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師匠

「起きてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

腹部に強い衝撃を感じる。痛みにもがいているとやっと起きた、眩しいくらいの笑顔を張り付けた少年が立っていた。

「おはよう!!!!!」

「あぁ~おはよう…ございます…」

そう言ってベッドから体を起こす。

「お体はもう大丈夫なの!?」

そう言われ気が付く、

「あれ?君ってあの時助けてくれた子?」

そうだよー!と言って後に続ける。

「ガリルおじちゃんと一緒に行った!」

そうだったんだ、ありがとね。と告げ扉から出る。

起きましたか。と言ってケルバはテーブルに食事を並べている。

いただきます。そう言って食事に手を付け完食する。

「外でお前さんを指導するガリルという者がおる。今日は彼の元で仕事に励むといい。」

「分かりました。」

そう言って外に出る。

「おう、やっと出て来たか。」

そこには大剣を背負ったガタイの良い男が腕を組んで待っていた。

「俺はガリル・アメニクス。この村で…なんだ?用心棒?傭兵?…まぁいい。とりあえずこの村を襲撃から守ってる。」

「襲撃って魔物とか盗賊とかですか?」

「あぁ~そんなところだ。」と頭をボリボリと搔きながら適当に言い放つ。

なるほど、こいつは俺に匹敵する程のテキトーな人間だ。

だが鍛え抜かれ引き締まった体を防具の隙間から覗くを見るにただテキトーやっているわけじゃない。

そう、俺とは違ってやることはちゃんとやっている真人間だ。

着いて来い。ぶっきらぼうに言ったガリルは進み始めた。

「えと…とりあえず何するんですかね。」

「とりあえずお前の身体能力の把握、それからお前に見合った仕事の割り振りだ。まぁ割り振りに関しては別の奴に任せてる。」

そう言って歩みを進めていく。村の風景をなんとなく眺めていると不意に、ここだ。と言ってガリルが立ち止まる。

「ほら、とっとと武器構えろ。」

「え?」

「身体能力の把握するって言っただろ。いいからさっさと構えろ。」

そう言われても…王都から身一つで出てきた挙句、唯一持ってきたランタンも落としてきた。

俺には武器どころか魔法を一つしかつかない。そんな状況なのにステータスが見るからに高いおっさんと戦うなど自殺するに等しい。

「ちょっ…ちょっと待ってください!武器!持ってないです!」

「あぁ?じゃあお前、魔導士だってのか?じゃあ杖があんだろ杖が。落としてきたのか?」

いや…最初から持ってないです…それに魔法も一つしか使えないです…。そう言うとガリルは呆れた顔をした。

それに武器なんて言うのも烏滸がましい、ただの木の棍棒も持ってたはずだがいつの間にか落としてきたし。

「はぁ…じゃあ木剣貸してやっからさっさと始めんぞ。」

そう言って木製の剣を投げ渡された俺は、両手で木剣を握り切っ先をガリルに向ける。

「どっちかの手の甲が地面についたら負けな。先手はやるよ、お前弱そうだし。」

人を殴った事はあるものの狂気で殴るなんて人生で一回もしたことは無い。

だが相手は遥かに自分より格上だと雰囲気で分かる。遠慮はいらないだろう。

だがガリルが欠伸をしているのに中々足が踏み出せない。

「ちなみに、手の甲を地面に付けさせたら勝ちなんですよね?」

おぉ~とガリルが返事をする。勝てる気は1mmもしないがやれることはやってみよう。

そう思い、地面を踏みしめる。体に力を込め、

左手に木剣を持った。

『イカヅチ』

不意打ち。剣で戦うように見せておきながら魔法を放つ。

幸い、使用出来る魔法は雷属性に似た魔法だ。何度も使って分かったが、この魔法は唱えた瞬間にヒットする。その軌道は自身の目で追えないくらいに。

おっと。そう言ってガリルは身をほんの少し捩り魔法を躱す。え?見えてんの?それ。ガリルはにぃっと笑い、

「そういう人間の汚い戦い方、俺は割と好きだぜ。」

そう言って距離を詰めてくる。立ち止まっていたのに一瞬でトップスピードに至ったかと思われるほど速かった。

防衛本能か、一瞬で間合いを詰められるも自分の体を守ろうとしたのかガリルの正面に木剣を差し込む。

バキィィィィィィ!!!!!!

どうやったら木剣からそんな音が出るのか。凄まじい音と同時に俺の体は吹っ飛んだ。

文字通り吹っ飛んだ。

手の骨が砕かれたような衝撃を感じている。自身の意思では抑える事のできない震えが木剣を振動させていた。

「反射神経は中々のモンだな。だがそれ以外は点で駄目だ。」

それに、とガリルは続ける。

「まだ手は地面に付いていない。」

そう言ってガリルは再び向かってくる。

咄嵯に右手で握ったままの木剣を前に出す。

今度は横薙ぎの一閃だった。

ガァァァァァァァァァァンッ!と再び木剣から嫌な音がする。

「なんでわざわざ剣に当てるのさ!めっちゃ痛いんですけど!」

反抗してみるも、

「お前が剣でガードしてるからだろ。痛いのが嫌だったら避けてみろ。」

そう言って倒れた俺に木剣を叩きつけようとしてくる。容赦ねぇなオイ!

間一髪避けた俺はすぐさま立ち上がり、ガリルとの距離を確かめる。

この近さでは魔法を打てない。そう直感し両手で木剣を持つ。そしてバットをフルスイングするようにガリルに攻撃する。

降り下ろした木剣を何時の間に戻したのかガリルに防御される。

「痛っっっってぇぇ!」

まるで岩に打ち付けたような衝撃が手に響く。

「ぐぅ……」

「おい、そんなもんか?」

そう言ってガリルはぐいぐいと木剣を押してくる。

圧迫感から逃れようと木剣の角度をずらし滑らせる。

「それが受け流しだ。」

そう言って下に降ろされたガリルの木剣は再び両断をすべく切り上げてきた。

急いで木剣を下に降ろし来たるべく衝撃に備える。その際に先程と同様、木剣に角度をつけなんとか受け流す。

だが、少なくない衝撃は痛覚として脳まで信号が送られてくる。

悪くないが、と言い今度は乱雑に剣撃を見舞ってくる。

そのたびに手が軋む。衝撃を和らげるべく打ち付けられる毎に角度をつけ受け流そうとする。

「反射神経は良いんだからもっと有効活用しろ。腕に負荷を掛けさせるな。」

そう言って緩急をつけた斬撃が俺を襲う。

「……くそっ!」

痛みを堪えながら木剣の角度を変え、ガリルの攻撃を防ぐ。

「今っ!!」

そう言い放ち、俺はガリルに木剣を突き立てる。

「おぉ?」

急な行動に驚いたのか、声を出すも

「甘いんだよ。」

そう言って木剣の側面で軽くいなし、そのまま俺の顔面に向かって突き刺してきた。

「ヒャアアアアアアアアアアア!!!!!」

心からの悲鳴を上げ、寸での所で躱す。

「避けたら練習になんねぇだろ。」

避けなきゃ死んでたでしょ。今の。

嫌な汗を流しながら剣撃を受け流す。

「ほら、どんどん行くぞ。」

そう言うとガリルは先程より早く剣を振るう。

「ちょっ……ちょっとタンマ……」

「知るか。」

必死になって木剣を受け流す。

何度も何度も。

だがその度にガリルに木剣を打ち付けられ、次第に腕が上がらなくなる。

それでも打ち付けてくる木剣を防ぎ続ける。

「根性はあるな。」

唐突にガリルが口を開く。

「え?」

「開幕に魔法を打ってくるあたり性根は腐ってるけどな。」

そう言って木剣を降ろした。

「はい、終わり。」

そう言ってガリルは木剣を腰に納める。

終わったぁぁぁ…そう思ってると目の前に木剣が飛んできた。

「ピャオォゥ!」

ギリギリ木剣で防ぐ。

あぶねぇ……。

「まぁ、最初はこんなもんでいいか。」

そう言って徐に俺の腕を掴み、地面に叩き付ける。

「痛っっっっ!」

「俺の勝ち。」

いや、強すぎだろあのおっさん。

「終わった?」

女性の声が横から聞こえる。

「飯だ飯。今日はなんだ?」

「今日はね、森兎のお肉とミルキノコの炒め物!」

「んで…キノコなんか入ってるんだよ。肉だけでいいだろ。」

「あー!またそうやって好き嫌いしてるからパルムさんに怒られるんでしょー!」

和気あいあいとした雰囲気を壊すまいと背景に徹していたのだが敢え無く見つかる。

「キミ!お弁当持って来たからお昼ご飯にしよ!」

「あ、ありがとうございます…太郎と申します…」

「私はフェイナ、フェイナ・イツワっていいます!」

元気に返してくる彼女の名前に気になる点があった。

「イツワっていうとあのおじいちゃんの…」

「そう!村長であるおじいちゃんの孫娘です!」

「そんな事はどうでもいいから飯食うぞ。久しぶりに動いたから腹が減ってしょうがねぇ。」

そうガリルは話を切り上げて弁当を受け取る。

二人分作ってきたんだから感謝してよね~。と言い残し彼女は去っていった。

「えと…あの人は?」

「村長の孫だ。村では錬金術師の店手伝ってる。」

そう言って彼は弁当を食べ始める。

俺も彼に習って食べ始めた。

うん。キノコ不っっっっ味

顔をしかめていると、

「ははははは!お前もキノコ嫌いか!何が美味いんだろうなそのゲテモノ!」

珍しく気が合うなと思っていると、

「聞こえてるぞ~…」

彼女の声が聞こえてくる。

「実は、このキノコ栄養価が高いらしくてな…味も村の奴らには好評らしいが俺はどうにも好きになれん。」

分かる~と思いながら咀嚼し無理やり流し込む。

その後ガリルと色んな話をした。

転生の事、王都の事、ここまで至った経緯を。

「それにしてもお前随分と遠い所まで来たもんだな。王都からだと5日はかかるぞ。」

「そんなに遠いんですか!?」

「あぁ、王都ってエルミナスの事だろ?」

いや、知らないけど。

「そういやお前別の世界から来たって言ってたよな。土地勘が無いのもまぁ分かるな。」

「てか、何で転生の事とか当たり前のように信じてるんです?フミツキさんの親が日本人だったとか関係あります?」

ずっと気になってた事を聞いてみる。

「別に日本に限った話じゃ無ぇ。滅多に王都でも見ないがちらほら居るらしいぞ。大抵そういう奴らは特殊な能力を持ってるみたいだが?」

そう言って俺を見る。そんなこと言われても…

「まぁ、拗ねんな。生きてりゃそのうち良い事の一つや二つあるだろ。」

そう言ってガリルは立ち上がる。

「今日はここまでだな。後は村の手伝いでもやっとけ。」

「どこに行けばいいんですか?」

「村長んとこ行ったら教えてくれんだろ。あ~疲れた。」

周辺警戒でもしてくっかな。そう言ってポキポキと肩を鳴らしサボりの体勢に入る。

俺も空の弁当箱を持って朧げな記憶を辿り、村長の家へと向かう。

「鍛錬はもう終わったかの。じゃあ午後からは村の手伝いをすると良い。」

「手伝いっていうと例えば…」

「ちょうど弁当箱も持っとるし、フェイナに返すついでに手伝ってきなさい。」

そう言って錬金術師の店までの道のりを教えてくれた。

 


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