いつ失踪するかわからない以上、過度な期待を持つのはおやめください。
あの後、暫く狼たちの動向を探っていたがどうも俺を諦めたようでどこかに行ってしまった。
もしあれが群れであれば俺は確実に喰われていただろう。
そう考えるとゾッとする。
しかしこれから何をしようかと考える。ビビr…慎重派な俺はまず拠点作りをする事にした。
というのも日が落ちてきたからである。まだ明るいうちに移動すべきか悩んだが、結局は野宿することに決めた。
理由はいくつかあるが、一番は移動して疲れた状態で襲われたらひとたまりも無いからだ。
それに寝床が無いのも困るし風呂が無いのも困る。あと枕。拠点作りは諦めた。
しょうがないね
野宿の経験がない俺は途方に暮れとりあえず一晩は枝の上で過ごすことに脳内閣議決定した。
だが寝そべれる太さのない枝の上で惰眠を貪るのは寝相の悪い俺にとって自殺行為であることは避けようのない事実であることは間違いなかった。
「まずは降りるか…」
それから2時間程かけてようやく地面へと降り立つことが出来た。
辺りはすっかり暗くなっていたが、月明かりのおかげもあってかそれほど暗くはなかった。
スマホのライトがあればもっと楽に降りられたのにと思うも、ないものねだりはやめておこう。
取りあえずこの場で狼に見つからないようにカモフラージュになるものを探して、夜明けまで時間を潰すのが吉だと直感が囁いている。そうしてしばらく歩いていると、木々の間から光が漏れている場所があった。
何だろうと近寄ってみると、そこには焚き火をしていた跡があり、そこには一人の少女がいた。
少女はこちらに気付くと一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに落ち着きを取り戻し話しかけてきた。
「誰?」
「アッ、スミマセン」
コミュ症スキルが発動する。
そそくさとその場を立ち去ろうとするも、彼女は呼び止めてくる。
「待って」
「ハイ」
「何故逃げるの」
「スミマセン…」
カタコトで返すと彼女はため息をつくと、手に持っていた串焼きのようなものを差し出してきた。
「食べて。お腹が減っているんでしょ?」
そう言われて今まで忘れていた欲求が溢れ出してくる。
イタダキマス…そう断りを入れて差し出された串焼きを手に取り齧りつく。
「美味い」
肉汁が口の中に広がっていく。
噛み締めるとより一層味を感じられて夢中で頬張っているとあっという間に完食してしまった。
ありがとうございます!そう告げようとしたのだが主人である脳味噌を無視して
「すみません。水ってあります?」
図々しいにも程がある。口から勝手に言葉が出た瞬間、脳内では勝手に行動した口に対する罵倒会が行われていたが、少女は気にせず答えてくれた。
「ほら、これでいい?ついでにこれも。」
「え、何から何まで悪いですよ!」
「良いから黙って受け取って。私は貴方に何も返せない。せめてこれくらいさせて。」
そう言って彼女は再び串焼きと水を渡そうとする。
「分かりました!じゃあありがたく頂きます!」
うんうんと少女が首肯している横で再び胃に収めていく。
「ご馳走様でした!」
「どこから来たの?」
「森の方ですけど……」
「白い狼達に襲われたんでしょ。」
「そうなんですよー。もう死ぬかと思いまいたよ。」
軽口を叩きつつ少女の顔を覗くとそこにはアニメや漫画でしか見ることの出来ないような少女が居た。腰まであろうかという銀髪ロングに整った顔立ち、瞳の色は赤みを帯びた茶色。
美少女という言葉がよく似合う。しかし俺が最も注目したのは耳だった。
その形はまるでエルフのように長く尖っていた。
コミュ障の王であった俺はここで女性に対しての対応を間違えてしまう事を恐れ早々に話を切り上げようとした。「あの、そろそろ僕は行きますね。助けていただいて本当に感謝しています。それじゃまたどこかで……」
そして歩き出そうとした時、少女が腕を掴み引き留めてきた。
「ちょっと待って。行く当てはあるの?」
「いや…特に…」
「じゃあなんで立ち上がったの?」
「いや…」
地獄だった。確かに綺麗な少女と会話できるのは僥倖であったが長く話していると必ず呆れさせてしまう自信があった俺は一刻も早くその場から逃げ出したかった。しかし少女が俺の腕を掴んでいるためそれも叶わない。
そんな俺を見かねたのか彼女は提案をしてきた。
「良かったら私の家に来る?」
何を言ってるんだこいつは?一瞬脳味噌が宇宙に放り出されるもすぐさま振り払い断りの言葉を放つ。
「大丈夫です」
「何が?」
なるほど、日本式やんわり断る戦法は通じないのね…なるほどなるほど
「なるほど…」
「?」
「いえ、何でもありません。」
「なら来るわよね?」
「はい」
こうして俺は半ば強引に彼女の家に泊まることになってしまった。