異世界放浪記   作:isai

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帰り道

森に入って暫く経った。

何度かダイアウルフの襲撃があったが難なくこなしていく。

最初は躊躇があったものの今はエリーゼの剣を使用している。

持って来た剣と比べると刃に違いは無いように見えるが、驚く程あっさりと狼の体を両断することが出来た。

魔法道具の類なのだろうか? そんなことを考えていると前方の茂みが大きく揺れた。

瞬時に腰の剣に手をかける。

そこから出てきたのは人型の魔物だった。

身長は170cmくらいで、髪は生えておらず。肌は病的なまでに白い。目は濁った黄色で口元は常に笑みを浮かべていた。

上半身は裸で下半身は数えきれない程の足が生えており背中には小さな羽が生えている。

一目見て分かった、こいつはヤバい奴だと。

そいつは俺を見るなりニタニタとした表情のまま近づいてきた。

一歩ずつ距離を詰めてくるそいつに後ずさりしてしまう。

そいつは俺の目の前に来ると歩みを止め、両手を広げ笑い声を上げた。

それは歓喜の叫びなのか。それとも笑いを堪えきれずに出たものか。

いずれにせよ目の前のコイツが異常だということは分かる。

そして俺の目の前まで来るとその体からは想像できないような速度で飛び掛かってきた。

咄嵯の判断で後ろに飛び退くが少し掠ってしまったようだ。

左腕に痛みが走る。

だがそれも束の間、すぐに傷口から血が噴き出す。

「くうぅぅぅ…!」

今すぐ地面に倒れてのた打ち回りたい程強烈な痛みに顔を顰める。

痛みが残る左腕を前に出し魔法を唱える。

『イカヅチ』

命中するも、ダメージを与えた手応えが全く無い。

「ふむ、面白い」

人間の言葉を話しやがった。謝ったら許してくれ無ぇかな。

「貴様、名は何と言う」

「言ったら見逃してくれます?」

「まぁ考えてやろう。」

上出来だ。

「シロです。」

「そうか、シロか。死の路と書いて死路か。」

「普通にシロですよ。」

相手の機嫌を損ねるな。あくまでも下手に回って見逃してもらう。これが俺に出来る最善策だ。

こういう時は素直に思ったことを口に出す。

「そうか?もうじき呪いで死ぬというのにか。」

「…なんで知ってるんですか。」

「先程、貴様の左腕に呪いを掛けてやったというのに貴様自身の呪いで上書きしてるではないか。」

「そんなに強力なんですか?」

「少なくとも我の知る中では超越者しかその呪いを掛ける事は出来ん。」

瞳孔の無い目が俺を睨みつけた後、

「他者の唾が付いてるものを屠る趣味は無い。命拾いしたな。呪いの青年よ。」

そういうと男は踵を返し森の奥へと消えていった。

俺はその場に座り込み大きく息を吐く。

「死ぬかと思ったぁ…」

「忘れていた。」

弾かれたように振り向くと先程の男が立っていた。

「まだなにか…?」

「我の名はオルニアスだ。貴様が死ぬその時まで覚えておくがいい。」

「わかりました…」

瞬きをするといつの間にか姿が消えていた。

また絡まれると厄介だ。

立ち上がり村を目指す。

そう言えばフェイナから貰った弁当をまだ食べていないことに気付く。

襲われた場所から数十分歩いたところで岩に腰かけ弁当箱を開く。

中にはサンドイッチが入っていた。

「いただきます。」

一口頬張るとパンの香ばしさとレタスのシャキっという音が口の中に広がっていく。

「ぐっ…!」

口の中に食べ慣れた味が入っていた。キノコ入ってんじゃん…。

あの村は何でこんなにキノコ推しなんだ。俺は涙目になりながらも必死に咀噛する。

「ごちそうさまでした」

弁当を食べ終わり、再び歩き始める。すると余程遠い場所から発生した音なのか微かに耳に入る音が聞こえる。

「ん?」

音の発生場所に目を向けてみると木々に邪魔され全貌こそ見えないものの数匹のゴブリンが歩いているのが見えた。

どうやらこちらには気がついていないようだ。

気付かれる前にこの場を離れよう。無駄な争いは自身の消耗だけではなく時間も消費する。

こんな森の中で完全に日没を迎えると、待ち受けるのは死だ。

今まで会ったゴブリンやダイアウルフだけではなく大量のアンデッドにも囲まれる恐れがある。それだけは避けなければならない。

自分の行き先を確認しつつその場から離れる。

しばらく歩くと少し開けた場所に出た。

そこには小川が流れており、空を見上げると日は随分と傾いており2.3時間後には日没だろう。

村から来た時はこんな場所には辿り着いていない。

「もしかして迷った?」

そう言ってケルバから貰った地図を開くと川の位置を確認できた。どうやら先程ゴブリンとの戦闘避ける為、予定のルートから少しだけ離れたと思っていたのだが予想以上に逸れていた様だった。

大丈夫。現在位置を確認できた以上は村までの道のりは分かる。地図をしまい、そのまま歩みを進める。

暫く進むと前方にボロボロの祠のような物が見えた。地図を見てみるとどこにもそのようなものは書いていない。

だが日は半分以上隠れておりこれ以上進むのは危険だと判断する。今日はここで泊まろう。

「お邪魔しま~す。」

そう言って祠に入る。

中は意外に広く、奥には祭壇の様な物があり、その上には女神像が置かれていた。

とりあえず、寝床の確保をしようと部屋の探索を始める。

まず目に付いたのが壁に掛かっている絵だ。

そこには巨大なドラゴンが描かれている。

恐らくこの世界の神話に出てくるものなのだろうか?だが今はどうでもいい。

俺は荷物を置き、コートを脱ぎ捨てる。

汗が染みて気持ち悪い。

服のまま風呂に入りたいくらいだ。

水浴びをしたいところだが今外に出るのは危険だろう。少し考えてから上裸になる。

そして鞄に入れていた布で体を拭く。左腕には相変わらず生々しい傷が残っていた。

傷口に布が触れる度に痛みが走る。

だがこれで多少はスッキリした。

服を着直し床に寝そべると、いつの間にか眠りについていた。

 

夜中に目が覚める。

全身の筋肉痛で体が動かない。

なんとか体を起こし、立ち上がる。すると何かの気配を感じた。

気配がする方向に目を向けてみる。そこには無機質な女神像があるだけだった。

「気味悪ぃな…」

シー…ロ、シ、ロ、シロ、シロ、シロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロ

シロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロシロ

頭の中で反響する音は次第に大きくなってくる。俺を呼ぶ声が脳内で響き渡る。

頭が割れそうだ。

次第に意識が遠退いていく。

最後に見たのは女神像の瞳孔の無い真っ黒な目だった。

気がつくと俺は宇宙のど真ん中のような場所に居た。上も下も右も左も分からない空間に俺は立っていた。

すると女神像に酷似した人間が目の前にいた。

そいつは徐に口を開きこう言った。

「あなたを呼んだのは間違いだった。」

「あなたを呼んだのは手違いだった。」

「あなたはこの世界に存在してはいけない異物だ。」

急に知らない奴から罵倒される。

「だったらどうするんですか?」

思わず反論してしまう。

だがその女は表情一つ変えずに淡々と言葉を紡ぐ。

その姿はまるで機械のようだった。

彼女は続ける。

私はあなたの敵ではない。

私の願いを聞いて欲しい。

私の願いは、

「ただ異物であるあなたに死んでほしいだけ。」

 

「夢…?」

上体を上げ寝起きの体を伸ばす。

祠の外からは心地の良い鳥の囀りが聞こえる。どうやら既に日は登っているようだ。

女神像に目を向けると祠に入った時と何も変わっていなかった。

「うるせぇんだよ、馬鹿。」

そう言って女神像を蹴り上げると体に罅が入り大きい音を出して崩れた。

「好き放題言ってくれたなぁ。でも一晩の礼があるからこれで許しちゃう。」

荷物を持ち上げ祠を後にする。

暗い場所にずっと居たからだろうか、外に出ると眩しさに目が眩み、手で日の光を遮光する。

「行くか~。」

そう言って足を踏み出す。帰ろうイツワ村へ。

 

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