異世界放浪記   作:isai

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パーティーメンバー

一目見た瞬間でなんとなく気付いていたが、彼女の自己紹介で疑惑は確信に変わる。

貴族だ。

全て悟った。こいつはパーティーにも入れてもらえなかっただろうな。手入れがきっちりとしているサラサラの髪に、傷一つない防具。

どこぞの我儘お嬢様が冒険に興味を持ち、親に装備を整えてもらって観光気分で冒険者をやっているのだろう。端から遊び気分の奴がパーティーに入るなど邪魔以外の何物でもない。

自分の生活や命を掛けて依頼を受けている冒険者の横で、のうのうと過ごしてきた貴族が冒険者になる。今まで依頼で生計を立てていた冒険者からすると侮蔑以外の何物でもない。

冒険者の横にいる受付嬢さんに目を向けると、ニコニコと笑っていた。

俺の態度で分かったのだろう。こういうタイプは言われるがまま相手の言う事を聞くしかないと日頃、数多く来る冒険者で鍛えられた観察眼で悟ったのだ。

断るに決まってんだろ。固く決意し口を開く。

「シロです…まずお話をしましょう…。」

不愛想受付嬢だけでなく、ニコニコ受付嬢さんにも俺は負けてしまった。

俺の言葉に驚いた表情をした後、貴族さん(仮)は慌てて席に座る。

「それじゃあ、あとはお二人でご相談してくださいね。」

そう言って受付嬢さんはカウンターへ戻っていく。はずれを掴ませるだけ掴ませて逃げやがったぞこいつ。

「えっと……シロ様……で宜しかったでしょうか?」

「はい、そうですね。様は付けなくてもいいですよ。」

もう確定だろ。これ。

「その…わたくしとパーティーを組んで頂けるとお聞きしているのですが。」

「えっと…まぁ…そういう事になりますね…」

絶対に断ってやる。いつまでもコミュ症のままではいられない。

「でも…わざわざ来て頂いたたのはありがたいのですが…その…ちょっと」

歯切れを悪くして相手が悟るような文を詠唱する。

『頼空気読察欲』

この魔法は最強だ。自己嫌悪をこれでもかと感じるように見せかける。そうすると敵は、まぁしょうがないか。と思わせる魔法だ。

顔を俯かせながらチラリと彼女の顔色を伺う。

貴族さん(仮)は少し口を開いた後、口を横一文字に結び顔を俯かせる。

もしかして…泣いてる…?

顔を俯かせる直前に彼女の目からキラリと光る何かが見えたような気がした。

それもそうだろう。今まで彼女は同じ経験をして来た筈だ。中には俺と同じ最強の魔法を唱える奴だって一人や二人いただろう。

どれくらいの数のパーティーに入れてもらえなかったのだろうか。

「そう…ですか…」

そう言った彼女の声は震えているように聞こえた。

何を思ったのか彼女は満面の笑みを浮かべ席から立ち上がる。

「お時間を取らせ申し訳ございません。お気になさらないでくださいまし。シロ様は何も悪くはありませんのよ!」

先程の震える声は微塵もない。完璧に見える笑顔は満面の笑みという他なかった。

「それでは」

そう言って彼女は踵を返す。その後ろ姿は何故かとても凛々しかった。先程の笑みと同様、完璧すぎるくらいには。

「ちょっ、ちょっと待ってください!!!!!!」

椅子から勢いよく立ち上がりギルドに響き渡る大声を発した事実に顔面から火が出るような熱さを感じる。

それでも構わない。

「まだ…まだお話は終わっていません。」

勇気を出して放った言葉に彼女は唖然とした表情を見せる。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。彼女はハッとした表情で席に戻ってくる。

「な、なんでしょう。お話しというのは。」

ガチガチになった彼女が口を開く。

心臓が破裂するかもしれない。緊張で握った拳は何故かビリビリしている。

「ぼ、僕と…パーティーを組んでくりゃませんか。」

ご主人様の命令通りに動かない舌なんて切り落してしまおうか。心臓はさらに早くなり拳のビリビリは強さを増していく。

彼女は何も答えない。

何故彼女は答えない!待ちに待った誘い文句じゃないのか!俺が童貞だから悪いのか!あぁ!?それともなんだ9等級の冒険者なんぞと組みたくないってのか?

そりゃそうだよなぁ!なんたって貴族さん(仮)だもんなぁ!自分が黙ってても勝手に報酬を稼いでくるようには見えねぇもんなぁ!?

すると貴族さん(仮)は眉間に皺を寄せ無理矢理作ったような笑みを張り付け、震える声で答える。

「喜んでお受け致しますわ!」

「それじゃあ、早速依頼を受けに行きますわ!」

彼女は意気揚々と歩き出す。そんな彼女に申し訳ないと思いつつ口を開く。

「すみません…今日はちょっと疲れてて…さっきフェーデルに来たところなんです…」

疲れてるのは心の方ですが。

彼女はピタっと体を止めると顔を赤くしながら振り向く。

「そっそそ、そうですわよね!先程この国に来たばかりですものね!」

恥ずかしがりながらも俺に近付いて来る。

「わたくし、パーティーを組んだら何がしたいとか全く考えておりませんでしたわ。」

俺の目の前に立った彼女は真剣な表情で話し始める。

「ですので……その……まずは一緒にご飯を食べたり、お買い物をしたり、お茶をしながらお話をしたりなど……如何でしょうか?」

「その前に受付嬢さんに話してきましょうか…」

茶をしばくのはその後だ。

諸悪の根源の元へ出向く。

当の諸悪の根源はニコニコしながら両手を合わせる。

「パーティーを組まれたのですね!良かったですねフェー…フェイデルさん!」

「えぇ、本当にありがとうございます。」

ニコニコしながら諸悪の根源は続ける。

「パーティーを組まれましたのでこちらをお渡しさせて頂きます。」

手渡されたのは一枚の羊皮紙だった。所属する冒険者の名前。パーティー名などを記入してください。」

よし、全部フェイデルさんに任せよう。待望のパーティーだ。彼女なりに思う所があるだろう。

「フェイデルさんがパーティー名を決めてください。僕はちょっと何も思いつかないので…」

「わ、わたくしが決めていいのですのね……?」

彼女は目を輝かせながら考えている。

少し経つと彼女は何か閃いたような表情を見せ、ペンを走らせる。

書き終わったのか彼女はゆっくりと顔を上げる。

そこには達筆な字で書かれた文字が並んでいた。

ロンズデーライト

どこかで見たような名前だった。だが鮮明に思い出すことは出来ない。

「いい名前ですね…ちなみに由来とかあるんですか?」

彼女は少し照れながら答える。

「ロンズデーライトとは元々、鉱石の名前でした。ロンズデーライトは非常に強度があり簡単には砕くことが出来ません。それで…」

言葉を切らす彼女に続きを促す。

「それで……?」

「その……あの……」

もじもじと体を揺らす彼女はとても可愛かった。

「このお話は後にしましょう!マルデさん!パーティー名はこれでお願いしますわ!」

そう言って諸悪の根源に羊皮紙を渡す。

「かしこまりました。以上でパーティーの申請は受諾され、ここに新たな物語が始まります!」

その名もロンズデーライト!

急にテンションをぶち上げてきたマルデと呼ばれた諸悪の根源に若干引きつつも、目を輝かせるフェイデルを見てハズレを引き合わせた事を許した。

冒険者ギルドを出た後、今夜の宿を探すべく街に繰り出すことにした。

とりあえず、武器屋や防具屋を見てみたいなぁ…。あとポーションとか?宿屋も取んなきゃだし…

「歩いてりゃ何とかなるかぁ…」

「何がですの?」

「何がって…」

いや、何でいるんだよ。そうか、特に明日の予定も相談していないから付いて来るのは当然か。

「あぁ、明日の話ね。明日は依頼が張り出された後に集合しましょうか。」

それぞれの地方の冒険者ギルドによって多少は異なるものの大抵依頼が張り出される時間は同じだ。

冒険者たちは報酬の良い依頼を我先にと受ける為、依頼が張り出される時間の少し前に集合する。

エルミナスの受付嬢がそんな事を言っていた。多分。

だが俺達は駆け出しである前にたった今結成されたパーティーである。

お互いの戦い方を尊重しつつ、考え方を擦り合わせていく必要がある。

その為、運良く報酬の良い依頼を受諾したとしても失敗する可能性が高い。だから最初は争奪戦で残った難易度の低い依頼を受けるのが吉だ。

その旨をフェイデルに伝える。

「分かりましたわ。それでは明日の依頼が張り出された後に集合ですわね。」

ほう、復唱することによって覚えがよくなる事を知っているのか。いい心がけだ。仕事ではミスが減るぞ(白目)

「それじゃあ、そういう事で。」

そう言って歩き出す。でも何故だろう。俺と同じ速さで歩く足音が続いてくる。

振り返るとフェイデルが首を傾げてこっちを見てくる。

「えっと…まだ何か?」

「え?」

「え?」

え?

「シ、シロさんはわたくしとパーティーなのでしょう……?」

「……そうですけど…」

「な、なら一緒に行動してもよろしいでしょう?」

「あー……まぁ……そうですね……」

俺がそう言うと彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。

パーティーなら四六時中行動を共にすると思っているのだろうか?あまりにもパーティーからあぶられ続けて…うぅ…。

心の涙を流す。

「ところで……」

「はい?」

「さっき仰ってた『何とかなる』とはどういう意味なんですの?」

「……気にしなくて大丈夫です…」

「パーティーメンバーなら隠し事は不要ですわ!」

そこでふと思い至る。元々彼女がここに住んでいるのだとしたら迷わず行きたい所に行けるのではないか?時間の効率化を図れるし。

パーティー万歳!

「じゃあ、武器屋とか防具屋の場所って分かります?ついでに安い宿屋の場所も教えていただけるとありがたいのですが…」

「もちろん…もちろん!案内させていただきますわ!」

彼女は胸を張って答える。

「それでは、わたくしが武器を購入したお店に行きましょう!」

「お願いしまーす…」

彼女の後ろに着いて行く。

 


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